魔道戦屍リリカル・グレイヴ Brother Of Numbers 第三話「死人と姉妹」

ある次元の管理外世界においてレリックを回収した時空管理局のとある一部隊、その前に一人の男が両手に二丁銃を持ち棺を背負って現われた。

その男は一言の言葉も一切の警告も無く、手にした巨大な二丁銃を乱射して部隊の者を次々と撃ち倒していく。
まるで無慈悲な死神の如く。


「糞っ! 糞っ! 糞おおおおっ! 死体野郎が墓場に帰りやがれ!!!!!」
武装局員の一人が唾を撒き散らしながら殺傷設定の射撃魔法を二丁銃の死人に乱射するが、その貧弱な弾幕では強靭な死人兵士の身体を破壊するには至らない。
隻眼の死人兵士はその射撃魔法をまるで意に介さずに悠然と武装局員に近づき至近距離から手の巨銃を突き付けた
「や、や、やめ…」
武装局員の懇願が言い終わる前にその巨大な拳銃、ケルベロスが火を吹き武装局員の意識を闇に落とした。

「ちっ! 本部、こちら第15分隊。ウォーキング・デッドと交戦中! 早急に増援部隊の派遣をお願いします!!」
その様を遮蔽物越しに見ていた他の武装局員の一人が舌打ちしながら増援部隊の支援要請を送るがその通信は無駄に終わる。

武装局員の通信が終わるや否やグレイヴは肩に火器を満載した棺桶デス・ホーラーを担ぎ、この戦いを終局に導く準備を終えていた。

デス・ホーラーがその強固な装甲を開き大量の小型マイクロ・ミサイルの顔を覗かせる。
そして空中に発射されたそのマイクロ・ミサイルはデス・ホーラーの誘導制御を受けて遮蔽物に隠れていた武装局員達に正確に向かって行った。

これがデス・ホーラーの全方位型攻撃の一つ“Dooms Rain”である、無慈悲な裁きの雨は爆炎を巻き起こして武装局員の部隊の全てを戦闘不能に落とす。

そしてその場には背中に十字架を刻まれた最強の死人兵士だけが一人立っていた。



ここは地下深くの違法な地下施設、そこで今日もまた姦しい姉妹が無口な兄にワガママ攻撃を炸裂させていた。

「腹減った~メシ食~わせ~」
「減ったっす~死ぬっす~」
「グレイヴ~早くメシ~」
ナンバーズ3馬鹿姉妹であるセイン・ノーヴェ・ウェンディが手にナイフとフォークを持ってテーブルを叩いて騒ぐ。
「お前ら少しは落ち着け」
「ま~たっく。お食事の時くらい静かにできないんですか~?」
「ノーヴェ、静かに」
騒ぐ3馬鹿姉妹にナンバーズ年上組み、トーレ・クアットロ・チンクが口を開く。
ちなみにあまり口数の多くない姉妹(セッテ・オットー・ディエチ・ディード)はその様子を静かに眺めていた。

そこに大量の皿を乗せたお盆を持ったグレイヴがやって来る、お盆の上の皿にはサラダとグレイヴ特製マカロニグラタンが湯気を昇らせていた。
ちなみにグレイヴはエプロン(チンク姉のお手製、ウサギさんのアップリケ付き)を掛けているので随分と所帯染みている。

「うわ~いメシメシ~」
「メシっす~」
セインとウェンディが真っ先に食いつき、他のナンバーズもその二人に呆れながらも料理に手を付け始める。

その穏やかな食卓の中でふとセインが口を開いた。
「そういえば、ドクターとウーノ姉は?」
「ドクターとウーノは何やら研究室に篭っているぞ」
「ほほ~う…」
「なるほどっす…」

チンクの答えにセインとウェンディは何やら含みを込めた笑みを見せる、その様子にノーヴェが不思議そうな顔をする。
「何だよお前ら、何か心当たりでもあんのかよ」
「もちのろんろんっすよ~」
「ふふふ。ドクターとウーノ姉は今きっと…」
そのノーヴェの言葉にセインとウェンディは最高の爆弾的回答を投下した。

「「エッチしてるんだよ(っすよ)!!」」

凍った。その場の空気が完全に凍りつき、ナンバーズ全員の思考と動きを止めた。

「ふ、ふ、ふ、二人ともな、な、な、な、何を言ってるんだ!? そんな言葉をどこで覚えた!?」
セインとウェンディの言葉の威力にやっと正常な思考を取り戻したチンクが顔を真っ赤にして二人に問い詰めた。
「えっと~。この前クア姉が教えてくれた♪」
「そうっす~」

次の瞬間にはチンクは目にも止まらぬ速さでクアットロにナイフを突き付けていた。
「クアットロ…妹達に何を吹き込んだ? 正直に言えば楽に殺してやる…」
「ちょっ、チンクちゃん…殺すのは確定なの? 私はただ“ちょっとした性教育”をしただけで…」

一触即発のチンクに引きつった顔で怯えるクアットロ、そしてセインとウェンディの言葉の意味を知らないナンバーズは不思議そうな顔でグレイヴに質問を投げていた。
「グレイヴ、さっきの言葉の意味は何ですか?」
「なあグレイヴ、エッチって何だ?」
「何なの?」
「教えてください」
「教えて」
上からセッテ・ノーヴェ・ディエチにオットーとディードの双子コンビである。
この質問攻めにグレイヴは苦笑しながらその場で事の成り行きを見ていたトーレに助けを請うような視線を向ける、だがトーレは諦めろと言って苦笑いで返した。

今日もこのファミリー(家族)は騒がしく楽しい日々を送る。



レリック絡みの事件に出現する黒衣の生ける屍ウォーキング・デッドの噂は様々な管理世界に広まった。
ガジェットを従えAMF下において圧倒的な銃火器の制圧力を以って管理局の魔道師を蹂躙する様は多くの世界の人間に衝撃を与える。

レリック関係の事件という事もあり機動六課も独自に戦う死人に関する調査を各方面から進めるが、死者を兵器にする技術などはどこの世界にも残されていなかった。

そしてスカリエッティの下に彼の探していた聖王の器が発見されたという報告が届く。



「さて。では現場にはクアットロとディエチ、それにセインに行ってもらおうかな……」
スカリエッティはモニターの映像でガジェットの動きと現場にレリック確保に向かったルーテシアの動きを追いながらウーノと共に敵情報の収集を続ける。

そこに案の定、装備を整えたグレイヴが現われた。スカリエッティは少し不満に顔を歪める。
グレイヴの性格を考えれば聖王の器がどういうものか知れば確実に任務の障害になりかねないと判断したが故の苦渋の感情だった。

「やあグレイヴ。今日は彼女達だけで大丈夫だよ、君のデス・ホーラーも調整が必要だろう? 今は休みたまえ」
「………」
そのスカリエッティの言葉にグレイヴは即座に虚実の匂いを感じる。
かつて組織の殺し屋として様々な人間を見てきたグレイヴにとってはいかに巧妙に隠そうともスカリエッティの言葉の裏の意図を読むなど容易な事だった。

グレイヴはいつもどうり無言で転送装置の準備をして現場に飛んだ。
その様子をスカリエッティは呆れて、ウーノは少しばかり怒りを抱いて眺めていた。
「あ~。やっぱり行ってしまったね~」
「ドクターよろしいのですか!? このままでは作戦に支障が出かねません!」
「まあ、良いじゃないか? こういうハプニングも楽しいものだよウーノ」

スカリエッティは楽しそうにモニターを眺めて戦況を確認する、最強の死人兵士が再び機動六課の魔道師達との戦いを繰り広げようとしていた。

その日、休暇を楽しんでいた機動六課のフォワードメンバーは偶然にもレリックコアと身元不明の少女を発見する。



事態は六課隊長陣も出動しての大規模な戦闘に発展した。

そして発見されたレリックコアと身元不明の少女を乗せたヘリが謎の戦闘機人の砲撃を受ける。
だがその攻撃はなのはの防御に防がれ、なのははフェイトと共に襲撃犯である二人の戦闘機人を追い詰める。

クアットロは飛行能力の無いディエチを抱えて追いすがるなのはとフェイトの追撃から逃げようとしたのだが、執拗な追撃に挟み撃ちを受け地上に落ちたのだった。

「ちょっ…ちょっとこれはヤバイ感じね~」
「そんな事、言ってる場合じゃないよクアットロ…このままじゃ…」

その二人を前後から挟み込むようになのはとフェイトが下り立ち射撃魔法の掃射の準備をする。
「もう逃げられないよ! 大人しく投降しなさい!」

なのはが声を張り上げた次の瞬間、地獄の番犬の名を持つ二丁銃ケルベロスの吐き出す15mm口径魔力ダメージ弾頭が雨の如く降り注ぎ、なのはとフェイトを襲った。
「くっ!!」
「きゃあっ!!」
なのはとフェイトはその突然の攻撃に防御障壁を削られ思わず悲鳴を上げる、そしてクアットロとディエチの下に最強の死人兵士ビヨンド・ザ・グレイヴが下り立った。

グレイヴは下り立つと同時になのはとフェイトにケルベロスの銃弾で弾幕を張りながらクアットロとディエチに語りかけた。
「クアットロ、ディエチ…早く逃げろ」

グレイヴはなのはの放ったアクセルシューターを撃ち落しフェイトの撃ったプラズマランサーをデス・ホーラーで防ぎながら二人に視線をやって早く逃げるように促す。
その強い意志と優しさを秘めた瞳を見たディエチはグレイヴの服の裾を掴んで小さく呟いた。
「分かった…絶対に帰って来てね、グレイヴ」

そのディエチの言葉にグレイヴは優しく微笑んで返し、クアットロに視線を移して口を開いた。
「クアットロ……ディエチを頼む」
「え…ええ分かりました。それじゃあ、あなたも気を付けてくださいね? 勝手に死んだらダメですよ?」
「…ああ」

グレイヴの小さな返事を受けてクアットロとディエチはその場を離脱する。
フェイトが逃げる二人に向かってバルディッシュを構えて飛び掛ろうとするがそこにグレイヴが放った“Dooms Rain”のマイクロ・ミサイルの雨が降り注ぎ爆炎を上げた。

炎が晴れた時にはクアットロとディエチの姿はなかった、そして場にはグレイヴとなのはとフェイトのみが残される。

その時グレイヴのインカムにスカリエッティからの通信が入る。
『あ~グレイヴ。聞こえてるかい?』
「……」
『デス・ホーラーに付いた新機能を使ってみてくれないか? 実戦での性能をチェックしたくてね、それに彼女達のような強力な魔道師には有効な機能だよ?』

グレイヴはその通信を受けて眼前のなのはとフェイトを見る、確かに今までの有象無象の武装局員から比べられない強さである。
故にグレイヴはデス・ホーラーの新機能を使うのにためらいはなかった。
インカムから送られた信号に反応しデス・ホーラーは髑髏を模られたその顔を怪しく光らせてその力を発揮する。

「くっ!」
「これは! AMF!?」
グレイヴの背負っていた棺桶がその髑髏の目を光らせた次の瞬間、場に今までの比でない強力なAMFが発生してなのはとフェイトを苦しめる。
それは後にスカリエッティが聖王のゆりかご内部に設置するものと同じ規格の次世代型AMFである。
従来のガジェットでは出力不足と過剰な重量の問題で実用化できなかった代物であったが、この最強の死人兵士にはこの程度の重量ではなんの問題も無かった。

リミッターによる抑制と高濃度のAMF下で力を著しく削がれたなのはとフェイトにグレイヴは容赦なくケルベロスの銃弾を叩き込む。
二人のバリアジャケットは引き裂かれ魔力ダメージに赤く焼けた柔肌を空気に晒した。

「はああああ!!!」
フェイトがザンバーフォームになったバルディッシュの金色の刃を振り下ろしグレイヴに斬り掛かるがグレイヴはその斬撃を交差させたケルベロスで防ぐ。
軋みを上げる両者の得物だが高濃度のAMF下でのバルディッシュの刃は無慈悲にも単純な膂力で押し返される。
フェイトがいかに優秀な魔道師とて死人兵士を相手に常人が正面から打って出て、勝てる要素など無いのだ。

「くっ…」
バルディッシュの刃を押し返すケルベロスの圧力にフェイトは苦悶の顔を見せる。

「フェイトちゃん! こうなったら…」
そこになのはがカートリッジをロードして、形成できる最大限の誘導弾を作り出してグレイヴに発射した。

「アクセル・シュート!!!」
無数の誘導弾が精密な軌道を描きながらグレイヴに発射され、その全てがなのはの弾道コントロールを受けたそれは正確にグレイヴの頭部や腹部に命中した。

その誘導弾の攻撃にグレイヴの頭部から煙が立ち上り、彼の身体は地面に倒れ伏した。
なのはとフェイトはこの死人兵士からやっと戦闘能力を奪うことができて重い溜息をついた。
「ふぅ~…やっと止められたね…」
「うん…」

そしてなのはは通信をロングアーチに繋いで報告を入れる。
『こちらスターズ01。ウォーキング・デッドを無力化しました、至急ヘリの準備を…』

しかしなのはが通信で言葉を全て言い切ることは無かった、何故なら倒れた筈の死人兵士が背の棺に手を掛けていたのだから。
次の瞬間になのはとフェイトの意識は刹那に断たれ、その場に倒れ伏した。

グレイヴは即座に立ち上がると同時にデス・ホーラーの機関銃銃身から大量の銃弾を発射しながら360度回転して周囲に弾丸を余す所なく吐き出す大技“Bullet Dance”を行ったのだ。

弾丸を刻む舞踏の前に成す術なく敗れたなのはとフェイトをグレイヴは幾分かの憐憫をもって眺める。
死んだフリなんて古典的な手に引っかかった事も含めてだが、やはり何の罪も無い少女を傷つけるのはあまり良い気分ではなかった。


そのグレイヴの下にナンバーズの6番セインが彼女の能力ディープ・ダイバーで地中から現われた。

「セインちゃん到着~! さあグレイヴ~あたしの身体にしがみ付いて~。一緒に脱出~、ってなんかもう終わってるし…」
グレイヴを自身の能力で救出しに来たセインだが既に戦闘はグレイヴの勝利で戦いは終わりを告げていたのだ。

「それじゃあ帰ろうかグレイヴ。あっ! そうだ。それと無力化できたらフェイトお嬢さまを連れて来いってドクターが言ってたから…」
そう言って倒れたフェイトの腕を掴もうとするセインだがそれはグレイヴの手で遮られた。

「えっと…どうしたのグレイヴ?」
「……セイン…駄目だ」
「えっ!? でも…」
「駄目だ」
「う~…分かったよ…グレイヴがそう言うなら」

やっと納得したセインの頭をグレイヴは優しく撫でる、セインはまるで子犬のように喜んで笑顔を見せた。
「でも、ドクターには何て言えばいいかな~?」
「…通信は切ってあるから問題無い」
「そっか、なら別に良いや。それじゃあグレイヴ~これ内緒にしておくから今度またプリン頂戴♪」
「…ああ」


こうして死人は妹を連れてその場を去る、後には彼の残した大量の薬莢と気を失った魔道師が二人残されていた。

続く。

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最終更新:2008年01月11日 19:55