魔法少女フルメタなのは
第四話「wake from death」

宗介達の歓迎会からしばらく経ったある日。
フォワードメンバーの訓練が一区切りついたという事で、その日は丸一日の休日となった。
スバル・ティアナ・クルツはバイクで、エリオとキャロはモノレールで町へ向かうらしい。
ちなみに宗介は隊舎の近くで釣りをする為、一人出かけずに残った。

釣糸を垂らし、間に読書していると、スバル達からの通信が入る。
「相良さ~ん、そっちはどうですか~?」
「問題ない。ここはなかなか良い場所だ。すでに何匹か釣り上げた。」
「オメーも一人じじくさい事してねーで、一緒に来りゃ良かったのによ。」
「特に用事も無かったし、読みたい本もあったのでな。休みの日はやはり釣りか読書に限る。」
「ほんっとにオメーはじじむさいな…他に何かねーのかよ?」
「まぁいいじゃないですか。相良さん、帰る時にお土産買っていきますけど、何か欲しい物とかあります?」
「いや、特に希望はない。」
「じゃあ何か見繕って買っていきますね。それじゃ、また後で。」
「ああ。」
そして通信は切れた。

「平和だな…」
宗介は何気なく呟く。
元の世界で紛争や革命の火消し役として世界中を飛び回っていた宗介にとって、今こうして静かに過ごす時間は極めて貴重なものだった。
穏やかで何もない日が無い訳ではなかった、多忙で命懸けの日々と比べれば、それは束の間の休みにしか過ぎず、それ故宗介は一人静かに過ごせる時はこうして釣りと読書を行い、短い時間をより充実させているのだ。

しばらく釣りを楽しんでいた宗介はふと元の世界の事を思い出す。
(大佐殿…息災でいるだろうか。帰ったら怒らせた事を謝らなくては…
カリーニン少佐…あのボルシチの味も今では懐かしいな。…二度と食う気はないが。
マオ…帰ったらまたどやし付けられるな。それで帰還祝いでまた朝まで酒盛りだろうな…)

そして、やはり思い出すのは…
(千鳥、今君はどうしているだろう…)
宗介の大切な女性、千鳥かなめの事だった。
だが、かなめの事を思い返す宗介の表情は暗かった。
はやては元の世界を探してくれると言ったが、管理局も把握しきれていない無数の世界の中から、特定の世界を探すというのは容易な事ではなく、長い時間を要するのは確実だったからだ。
(千鳥、俺は…)

宗介はそんな落ち込んでいる自分に気付き、浮かんできた不安を払拭する。
(何を考えているんだ、俺は。結果も出ていないのに諦めるのは早過ぎる。)
宗介は空を見上げ、心に新たに誓う。
(待っててくれ千鳥。俺は必ず、君の元に…)

そこまで考えた宗介に、はやてからの緊急通信が入った。
曰く、エリオ達が町中でレリックとそのケースを運んでいた女の子を発見、ガジェットの襲撃の恐れがある為、宗介も応援に向かって欲しいとの事。
「なのはちゃん達ヘリで現場に向かわせるから、相良君もそれに同行してや。」
「了解しました。」
十分後、宗介達を乗せたヘリが六課から飛び立った。


ミッドチルダから遠く離れた山岳地帯。
その地下深くに、狂気の天才科学者ジェイル・スカリエッティのアジトはあった。

「ガジェット、及び“新型”は間もなく準備が完了します。」
戦闘機人ナンバー1、ウーノが報告する。
「そうかね。クアットロ達はどうしたかな?」
「そちらも問題ありません。ルーテシアお嬢様も予定の位置で待機されています。」
それを聞き、スカリエッティは不敵な笑みを浮かべる。
「フッフッフッ、よし、後は聖王の器をこの手に…」

その時、二人のいる部屋の扉が開き、一人の男が入って来た。
「ようドクター、随分とご機嫌だな。」
スカリエッティは自分に呼び掛けてきたその男を振り返る。
「やあ君かい。まぁ少しね。それで、私に何か用かね?」
「ああ、デバイスも新しい身体も問題はねぇんだが、訓練室で鉄屑と遊ぶのも飽きてな。暇潰しになる事はねぇかと思ってな。」
スカリエッティの作品を遠慮なく鉄屑と呼ぶその男をウーノは睨み付けるが、男は何処吹く風だ。
「そうだね…丁度今ナンバーズが作戦で町に出ているんだが、それの応援に行ってくれないかい?管理局も気付いてるだろうしね。」
「OKだ。ところで、管理局とやらの人間は殺していいんだな?」
「構わないよ。我々の計画が成就する為の尊い犠牲さ。
転送魔法陣の準備はしておくから、早速向かってくれたまえ。」
「クックックッ、あいよドクター。」
男はそのまま扉から出て行く。

男が出て行った後、ウーノはスカリエッティに話しかける。
「ドクター、何故あんな男をここに置いているんですか?」
「彼の戦闘力には目を見張るものがある。下手すればナンバーズも敵わない位にね。
何より、私と彼は様々な所で共通している“友人”だ。追い出す理由はないよ。」
「あの男は危険です!放っておけば我々に危害を…」
「狂人の考えは狂人が一番分かるのだよ。今すぐ彼が裏切る事はないし、危険な時は相応の処置をするさ。
それより今は作戦が第一だ。集中したまえよ、ウーノ。」
「…分かりました。」
作業に戻るウーノ。
「ククッ、さあ、全ての始まりだ!」


ミッドチルダ都市部。
「来ました!地下と海上にガジェット、それと地上に…アンノウン多数!」
シャーリーが報告する。
「アンノウン?ガジェットの新型って事?」
「いえ、それとはまた別系統のような…とにかく画面に出します。」
そして目の前に表れた映像には、宗介達にとって見慣れた物が映っていた。
「〈サベージ〉!?」
カエルの様な頭部、ずんぐりした胴体は、正しく見慣れた旧型ASそのものだった。
「相良さん、知ってるんですか?」
「俺達の世界の二足歩行兵器だ。元の物よりは小さいが…何故あれがここに?」
「考えるのは後だよ。私達は海上の敵を殲滅するから、スバル達は地下、相良君達は地上をお願い!」
「了解!」(×7)
それぞれの持ち場へ移動する隊員達。


デバイスを起動し、やって来る敵を待構えている宗介達は、その合間にスバルの言う人造魔道士についての話を聞いていた。
「聞けば聞く程胸クソ悪くなる話だな。えげつねえ事しやがるぜ。」
「同感だな。」
「しかし何でその人造魔道士とやらがレリックを…っと宗介、お客さんだぜ。」
宗介が前方を注視すると、二十機程の〈サベージ〉が接近していた。

「ロングアーチ、こちらウルズ7。敵機とエンゲージ、攻撃を開始する。」
『ロングアーチ了解。ウルズ6、ウルズ7は敵機を迎撃して下さい。』
「ウルズ7了解。」
「ウルズ6了解だ。さ~て、おっ始めるぜ!」
掛け声を上げ、魔力弾を発射するクルツ。
しかし弾丸は当たる直前で、サベージの発したAMFによってかき消される。
「チッ、AMFを積んでやがったか。そんなら…M9、弾種変更、多重弾殻弾だ。」
『了解。多重弾殻弾』

カートリッジが排出され、ライフルの銃口に多重弾殻弾が精製される。
「食らいなカエル野郎。」
放たれた銃弾はAMFの壁を貫き、見事サベージの胸に命中する。
だが今度は分厚い装甲が貫通を阻み、サベージはすぐに動き始めた。
「クソッタレ、ガジェットより手強いな。
おいソースケ、こいつら以外と…」
宗介に念話で話しかけたクルツは、ラムダ・ドライバを発動した宗介がいとも容易くサベージを破壊する場面を見た。
「こちらは問題ない。そっちはどうだクルツ?」「…あーそーだな、コイツ反則技持ってたんだったな…」
「クルツ?」
「何でもねーよ、早いトコこいつらを潰すぞ!」
「了解だ。」
通信が切れた後、クルツはぼやく。
「ったく、全部テメーらのせいだ…吹きとべこの鉄ガエル!」
イライラをサベージにぶつけるクルツだった。


ミッドチルダ海上。
ここでは現在なのはとフェイトが、幻術と混合した敵の増援に苦戦を強いられていた。
「防衛ラインを割られない自信はあるけど、このままじゃ…」
「埒が明かないね…こうなったら限定解除で…」
そんな二人に、はやてからの通信が入る。
「それは却下や、なのはちゃん。」
「はやてちゃん?」
「二人ともそこから離れてや、今から広域魔法攻撃をするで!」

「はやて、まさか限定解除を!?」
「せや。戦力出し惜しみして被害広げたないからな。
それに見分けが付かない以上、完全に殲滅するしかないやろ?」
「ちょい待ち~、はやてちゃん。」
今度ははやてに対してクルツが割込みをかけた。

「クルツ君!?どうしたんや?」
「限定解除とやらをする必要はないぜ。要は敵が見えりゃいいんだろ?」
「それはそうやけど、一体どうする気なん?」
「俺のM9にはASだった頃の機能が一部残ってる。その中にゃ、データを他の機とリンクさせるって物がある。」
「それで?」
「M9の特殊魔法“妖精の目”の効果と、なのはちゃん達のデバイスをリンクさせりゃ幻影が分かる筈だぜ。」
「そんな事可能なん?」
「今やる所さ。M9。」
『了解。データリンク開始、“妖精の目”を各デバイスに伝達します。』

約十秒後、レイジングハートとバルディッシュに妖精の目の効果が表れた。
「…見える、実体が見えるよ!」
「これならいける、なのは!」
「うん!いっくよー!」
ガジェットの群れに突っ込み、次々に破壊する二人。

「クルツ君、大きに!後で何かお礼するで!」
「マジで!?それじゃあはやてちゃんのキッスを…ダメ?」
「うーん、口はNGやけど、頬にならしてあげてもええよ。」
「うおおおっしゃあああああーーーー!!!」
狂喜するクルツ。欲望に忠実な男であった。


廃棄都市のビルの屋上。
そこで二人の戦闘機人が海上の戦闘を見ていた。

「幻術がばれたみたいだね。」
「そんな、嘘でしょ!?私のシルバーカーテンがもう見破られたっていうの!?」
「多分、あっちに幻影を判別する技術か術者がいるんだよ。」
クアットロとディエチがそれぞれ言う。
「仕方ないわね。ディエチちゃん、ガジェットしが全滅する前にヘリを砲撃よん。」
「それはいいけど、マテリアルまで撃っちゃって大丈夫なの?」
「あれが本当に聖王の器なら、砲撃くらいじゃ壊れないわ。いいから早くして。」
「分かった。IS発動、ヘヴィバレル。」
イメーノスカノンを構え、エネルギーチャージを行うディエチ。


ズドン!
「これで終わりか。」
二十機目のサベージを屠った宗介は、周囲を警戒しつつマガジンを交換する。
「アル、辺りに敵の反応は?」
『今の所はありません。ですが、遠方のビルの屋上に高エネルギー反応を確認。味方のシグナルではありません。』
「何!?」
その時ロングアーチから、現状では最悪の通信が入る。
「ロングアーチより各位、廃棄区画のビルの上に砲撃チャージを確認!目標はおそらく輸送ヘリ!」

(分隊長達はまだ海上、間に合わない…!)
そう判断した宗介は、アルに命令を下す。
「アル、緊急展開ブースター!」
『了解。緊急展開ブースター作動』
宗介の背中に巨大な魔力の翼が広がり、同時に表れたブースターが火を吹き出す。

これは魔力を著しく消耗する代わりに、通常の飛行魔法より遥かに高速で飛行出来るという魔法である。
尚、AS時は戦闘機の様に飛び続けるだけだったが、アルがデバイス化した際にヘリの様にホバリングする機能が追加されている。

宗介が飛び立つと同時にディエチの砲撃も発射され、宗介とヘヴィバレルのエネルギーはほぼ同じスピードでヘリに向かう。
(間に合え!!)

タッチの差でヘリに辿り着いた宗介はラムダ・ドライバを全開にし、砲撃を真正面から受け止める。
「おおおおおお!!」
砲撃と精神力の壁がぶつかりあい、辺り一面に閃光が走る。

閃光が止んだ時、そこには肩で息をしている宗介がいた。
「ロングアーチ、こちらウルズ7、ヘリは守りきったぞ。」
「相良さん!」
大喜びで答えるシャーリー。
「これより砲撃地点に向かい、犯人を確保する。

「あらら~って、あの能力って…」
「あの男と…同じ?」
「マズいわ、ディエチちゃん引き上げるわよ。」だが退却しようとする二人の足下に、魔力弾が弾痕を作る。
「っ!?」
「スナイパー!?」

「おいたをする悪い娘は逃さないぜ。
宗介、足止めはしとくから、早いとこ確保しろ。」
「了解だ。」
宗介はクアットロ達のいるビルに到着し、腰からショットガン“ボクサー”を引き抜いて言った。
「管理局機動六課だ。お前達を拘束する。」

だが宗介は不意に殺気を感じ取り、反射的にその場から飛び退いた。

ズガガガガガガガガ!!
銃声が響き、たった今まで自分の立っていた場所が穴だらけになる。
「よお~久しぶりだなぁカシムゥ。」
そして宗介は声のした方向を見た瞬間、息をするのも忘れた。

「まさかこの世界でもお前と出会うとはなぁ。運命ってやつを感じねぇか、カシム?」
「何故だ…何故お前がここにいるんだ…」
「おいおい、もっと気の利いた事は言えねえのかよ、感動の再会なんだぜ?」
「何故生きているんだ、ガウルン!!!」

そこにいたのは、宗介が完全にトドメを刺した筈の仇敵、最凶のテロリストガウルンだった。


続く

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最終更新:2008年09月21日 12:48