魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER

第五話「水竜」

イャンクックを討伐した数日後。狩り方はどうするのかとはやてに聞いたところ緊急事態なためこのままでいいんだという。
ちょおグロテスクで過激なんやけど…とはやては言う。そこは狩りなんだから仕方ないとしか言いようがない。
「ここにいるんですか?」
「あぁ、はやてちゃんの話によるとここらへんになるなぁ。ってかこんな大都会に河がある自体驚きだよ。」
「静かな河じゃないですか。」
「静かな河だからこそ不気味だとは思わないのかね?君は。」
「あ、そうそうキャロちゃん。この前やったフリードリヒの巨大化はしないほうがいいよ。ただでさえ刺激を与えるのにさらに刺激になっちゃうから。」
「はい、わかりました。」
「キュクルー」
ミッドチルダの中心部からかなり離れた場所の小さな河に立つ四人。ティアナにキャロとフリードリヒ、ドクにジェイというメンバーだ。
相手は水の中にいる巨大な魚、ということで遠距離中心のメンバーにしている。もちろんジェイはガンナー用の装備だ。
防具の種類は胴以外は皆アカムトシリーズに胴はリオソウルUというのを装着している。
ドクはガードが堅いガンランス「ナナ=フレア」を装備。防具はレウスSを装着。
「ところでジェイさん…。そのボウガン…。」
ティアナが指差すのはジェイが背負っているライトボウガン。白猫の姿を模している…というか白猫そのままなのだ。
にやけた表情がこれまたたまらない。このボウガンは「アイルーヘルドール」という高性能なライトボウガン。見かけは少し問題だが。
ティアナから見るとまぁ、可愛いのかなと思うのだがこれから戦う相手を舐めてるとしか思えない。
「急だったからね。一番手前に入っていたこいつを引っ張り出してきた。」
「どんだけ整理整頓してないんですか…。」
「彼にこのようなことを言っても無駄だ。」
「あははは…。」
この会話を流れを見てもこれから戦う者達の姿とは思えない。しかしこれもハンター達の行動の一つ。緊張をほぐすために、あるいは息抜きのためにわざと見かけが変な装備をしてくる。
ハンター達はこれを「ネタ装備」といい、少し狩りの緊張で疲れてしまった時にネタ装備をするというジェイ達の世界では密かなブームになっている。
見掛けはいいのだが性能がイマイチな武器は「儀式用」と何故か呼ばれていた。
アイルーヘルドールは見かけもネタ装備向けだが性能もバランスが良く、真剣な狩りの時にも愛用するハンターが多い。
「でも、どうやって引き出すんですか?」
「焦らない焦らない。コイツを使うのさ。」
ドクがポーチから取り出したのはただの蛙。ちょっと大きめの蛙。というかもう本当に蛙だ。
キャロとティアナは唖然としている。何かまた秘密兵器でも出すのかと思ったらただの蛙を出した。ドクはそんな二人お構いなしに釣竿を取り出して垂らした糸に蛙を括り付け、
かなり太い釣り針を付けてから河に放り投げた。キャロが念のために聞いてみる。
「釣る…んですか?」
「あぁ、釣るのさ。それより少し静かにしてもらえないかね。」
ドクに言われ皆喋るのをやめて沈黙。河の流れる音と風が通り過ぎる音しか聞こえない。ドクは片手で釣竿を握り、水面を睨んでいる。
ふと響く水が跳ねる音。釣竿を一気に引いて水面下の何かを釣り上げようと力をこめる。ジェイはアイルーヘルドールを構え、弾を装填。
ティアナとキャロもつられて構える。フリードも威嚇をし始めた。
「来るぞ!!」
振り上げて釣り糸が水中から出てくる。その糸の先には巨大な影。魚とも呼べるその容姿だが、巨大さと一緒に考えるとどう見ても「竜」だった。
立ち上がる巨大な魚竜。その魚竜の名を「ガノトトス」という。別名「水竜」とも言われる。
大量の水しぶきを上げながら魚竜ガノトトスは地面に落下。上陸に打ち上げられた魚みたいに跳ねて数秒後二本足で立った。
「まったく、釣りはいいがこの場合はなんというべきか!」
「素直にハンティングって割り切るべきじゃないのかい!?」
先ほどの気の抜けた会話をしていた人と同じとは思えない雰囲気が流れる。目つきも殺気を帯びた狩人の目。
アイルーヘルドールを構えて尻尾の先から煙を噴出しながら弾がガノトトスを襲う。体勢を立て直して身体を大きくうねらせて口を開け、高水圧のブレスが射出。
発射するまでの行動が長いためジェイはローリングで回避。ブレスの直後にできた隙を狙いティアナのシュートバレットが頭部に直撃。
大きく怯んだところにドクのナナ=フレアから青い炎が噴出、大爆発とともに砲撃。これはガンランス最大の技、「竜撃砲」だ。飛竜のブレスを参考に作られたという。
再び怯み、少し身を屈めたあとに身体を大きく回転させる。ガンランスの大きな盾でガードはしたもののジェイがいる後方まで吹き飛ばされた。殺意むき出しの目でガノトトスを睨む。
「ドク!」
「やれやれ…!相変わらずの重さだな…!!」
良く見ると手が震えている。ガノトトスの特徴の一つはその巨体から繰り出される攻撃。ブレスほどの威力は持たないものの驚くべき攻撃力を持つ。
「もう一度ヤツの懐にもぐりこむ。援護を頼むぞ!」
一度武器をしまって全速力でガノトトスの足元へと向かう。ジェイとティアナとキャロは射撃で援護。スライディングで懐に潜り込んだ。
「単調な攻めは止めたほうがいいと思うがね!」
武器を取り出して柔らかい腹に突きを繰り出す。ランスの先が肉を引き裂いて腹に少しだけ入り、すかさず砲撃。鮮血を撒き散らしながらガノトトスが暴れ始めた。
「フリード、ブラストフレア!!」
「キュクー!」
その傷めがけてフリードリヒの口から放たれた火球が撃たれる。ギリギリで当たり爆発を起こす。
ガノトトスの口から白い吐息が流れ始める。この時は怒っている状態。攻撃力もおそらく怒りの影響で上がっている。巨体を生かしてタックルを仕掛けた。
「ぬぐぅ!?」
タックルを全身に受けて吹き飛び、壁に叩きつけられる。怒り状態のタックルを受けたからそう簡単に立ち上がれない。
「大丈夫ですか!?」
ティアナが前に出てクロスミラージュの射撃でガノトトスにダメージを、ジェイは無謀にも足元にもぐりこんで射撃をしながら引きつけている。
「大丈夫、ドクはこんくらいでやられねぇ。」
「その通りさ。少し…痛いのを受けてしまったが、戦える。」
吐血しながらも回復薬を飲み干してドクはティアナの横を通り過ぎる。ちょうどガノトトスはブレスの体勢に入っていた。それでもドクは止まらず、口の中にガンランスを突っ込んだ。
そして引き金を引く。爆音とともに赤い光が見え、口から黒い煙を吐き出しながらのた打ち回る。ドクは引き抜き、リロードをしてもう一回突っ込む。
「これはお礼だ。何、遠慮することは無い。サービスだよ。」
引き金を何回も引き、装填された全弾を口の中にぶち込んだ。流石のジェイもそれはないんじゃないかと顔を歪め、キャロとティアナは視線を逸らす。
「ちょっとやりすぎじゃないのかい?」
「正直これでも足りないぐらいだ!」
口から大量の血を流すがそれでもガノトトスは立ち上がる。生きていることだけでも驚きだが舌は丸焦げで黒い塊と化して、煙をあげている。おそらくブレスはもう使えないのだろう。
ふとドクがガノトトスの背びれを見る。先ほどまで広がっていた背びれが情けなくダラン、と縮まっている。これは瀕死…という合図になっている。
「相手は瀕死だ!もう一息頑張るぞ!」
「「「了解!!」」」
しかしガノトトスは四人とは反対方向、河の方を向いてしばし足踏み。
「まずい!逃げる!」
直後、背筋を伸ばして大きな声で鳴きながら走り出した。あのスピードには到底追いつきそうも無い。
しかしキャロがデバイス、ケリュケイオンに光を溜めてジェイ達の前に出た。
「任せてください!我が求めるは、戒める物、捕らえる物。言の葉に答えよ、鋼鉄の縛鎖。錬鉄召喚、アルケミックチェーン!」
ガノトトスの真下に大きな魔法陣が現れ、そこから現れた何本もの鎖が巨体を絡め取る。ガノトトスは振りほどこうとするが中々外れない。
「キャロちゃんグッジョブ!」
続いてジェイがアイルーヘルドールに火炎弾を速射。当たって爆発と同時に赤い光が横一線に通る。これはスキルの一つ「見切り」。攻撃を上手く会心の一撃に変える。
ただし武器によっては会心の一撃に変えられる確率が途轍もなく低い場合がある。見切りはその確率を高めるためのスキルだ。
「ファントムブレイザーっ!!」
次に襲うのはティアナの射撃魔法。ターゲットリングで上手く腹の切り傷を狙い、発射。魔法弾が切り傷を深く抉る。
大きく咆哮をあげた後、吐血して息絶えた。倒れる衝撃であたりに地響きが起こる。
「お疲れ。ナイス射撃だったぜティアナ。」
ジェイはにっこりと微笑んでティアナに向かいサムズアップ。ティアナは肩を大きくゆっくりと上下に揺らしながら呼吸をしている。
なんとか微笑み返すが近くの壁に寄りかかり、座り込んでしまった。


「……やっぱりいい気分はしないかい?」
「当たり前ですよ…。」
狩りは終わった。討伐という結果で。ティアナ達にとっては何かを「殺す」というのは初めてなのかもしれない。
壁に寄りかかって座り込み、顔は俯いて息はまだ荒い。キャロも疲労と緊張が一気に開放されたのか同じような状態だ。心配そうにフリードが辺りを飛ぶ。
そしてドクはキャロの前に座り、様子を伺っている。心配しているのだろうか。
ジェイは再びティアナの方に向いてポツリ、と呟いた。
「なんて言うンかなー…。生活のための連鎖っていうべきかなぁ?食物連鎖とは違うし…うーん。」
「生活?連鎖?」
しまった。といった表情でボリボリと頭を掻いて別の例えを探る。
「生活を送るためにね、たとえば普段食べてる肉作るためにはその肉となる生き物を殺さなきゃいけないわけだし、ほら、弱肉強食っでやつだよ。単に君が知らないだけでさ。」
「その例え方…なんか変ですよ。」
「じゃあ…生きるために行う殺しを今君は始めて経験した…って考えりゃいいさ。」
「簡単に言ってくれますね。それに釈然ともしない。」
「それしかないんだよ。勘弁してくれ。」
苦笑するジェイだがティアナのほうはまだ気持ちに余裕が持てない。終わったはずなのに拭えない不安で手が震える。
「命の重さを知ってるから、そんな状態になれるんだと思うね。ほら、シャンとして。」
ジェイはそっと手を差し出す。ジェイの手を掴んでゆっくりと立ち上がり、何も言わずにキャロの方へ歩むティアナ。
そんなティアナに別に怒る様子もなく、やれやれといった表情でジェイはついていく。
「ところでジェイさん。」
「あいあい?」
「ドク…でしたっけ。あの人…何故か初めて会った気がしないんですよ。」
「ほう、それはどういう?」
ティアナは少し唸ってから振り返り、眉間にしわを寄せながら言う。
「なんていうか…あの人見てると腹が立って「仕様だ。」…は、はぁ。」
完全に言い終わる前にジェイが遮る。何がどう仕様なのかはわからないままだが。
続いて二つ目の疑問。どうやら期待はされていないようだ。呆れているのがハッキリわかる。
「ドクっていつも何か被ってて顔が見えないんですが…見たことあります?」
これは流石に悩む。一応自分には素顔を見せているとはいえ見たよ。と言ったらどんな顔でしたか?とか聞かれるに違いない。
それにドクにばれたら竜撃砲の一発や二発ぐらいじゃ済ませてくれない。少し考えてから何もないような素振りを見せて
「いや知らん。ってか連絡なしにあいつの家に言ったらブルファンゴフェイク被ってて『普段着だ。気にしないでくつろいでくれたまえ。』とか言うんだぜ?
結構長い付き合いになるけど見たこと無いね。いっそのこと本人に聞いて来い。」
知らないというウソをついてしまった。ちなみにブルファンゴフェイクのことはウソじゃない。本当の話だ。
自分もあの人がやっていることの大半は理解できなかったりする。
「そ…そうします。で、ブルファンゴフェイクというのは?」
「猪の頭。」
ティアナは想像してしまったのか盛大に吹いていた。


帰還中の帰り道、ジェイは異変に気付いた。辺りの様子を見る限り何も異常はないのだが何かおかしい。
「あ、雨ですね。今日雨降るなんてニュースでやってなかったのにな…。」
「天気予報なんて外れるときもあるわよ。急ぎましょ。」
キャロが手の平で降り注いできた雨の感触を確かめる。その直後、雷とともにかなりの量の雨が降ってきた。
三人が走る中でジェイだけは険しい顔をして、何がおかしいのか。それを必死に探っている。そして走るのをやめて途中で止まる。
「ジェイ、どうかしたのかい?」
「悪い。皆ちょっと先に行ってくれないか?」
空を睨んだまま、先に行かせるように言うとドクは何も気にせず走っていった。キャロとティアナは何回かこちらを振り返るが走り去っていく。
今は昼間だというのに暗雲が立ち込めて辺りは薄暗くなり、雷が異常なほど光って、大量の雨が降り注ぐ。
はっきり言って不気味だ。とりあえず皆の後を追おう。
だが、追いつくのにそうかからなかった。しかし様子が変だ。表情に明るさが無い…のは確かだがさっきよりも暗さが増している。
「おい、何があった?」
「何も言わずにこれを見て欲しい。」
ドクに指差されたモニターを覗き込むとそこには惨劇の爪跡が残っていた。
まず目に映ったのは必死で救出作業をしている局員。そしてボロボロになった建物に抉られた跡が残る壁と地面。
山となっていた瓦礫の隙間からは血塗られた腕が出ている。
「なんてこった…。これは…どこの映像だ?」
「ミッドチルダ南部の…民間人の避難施設です…。」
今にも泣きそうな声で話したのはキャロだ。十歳の子供に狩りの現場を見せたあとにこの映像はちょっと残酷ではないのか。
ティアナはもう背を向けて画面を見ていない。
ふとジェイはまた違和感を感じる。壁などの抉られ方だ。爪でやった場合は綺麗に縦線を描く。火球などのブレスの場合は不規則な抉られ方をする。
しかし、モニターから見える地面はごっそりと綺麗に抉られて…いや、この場合削られたといったほうがいいのだろうか。
こんな風になるほどのブレスを吐く飛竜がいただろうか。…いないはずだ。この天候、そしてモニターに写る画面の違和感を合わせた。
そしてそれは一つの答えに。

「……古龍…だと?」


番外その四「ガノトトス」
こいつは魚竜種。詳しく言ってしまえば 魚盤目 有脚竜亜目 水竜上科 トトス科ってとこか。ドクの話の聞きかじりだからよくわからないや。
ズルイやつだよな。ほとんどは水中で活動してるから剣士の場合は地上に引っ張り出さない限り攻撃ができない。
そういうときは「釣りカエル」で釣り上げるか「音爆弾」で叩き出すかのどっちかだね。
釣りカエルの場合は釣り上げたときにダメージが通るけど見つかってない状態じゃないと意味がない。音爆弾は見つかっていても使える。
けどそれでも出てこない場合があるし出てきたとしても怒っちまうからどっちもどっちだねー。徹甲榴弾でも大丈夫なんだけどさ、音爆弾と同じ。
次の特徴は攻撃力だ。どこぞの教官が「私でも涙が滲んでしまうほどだ!」と言ったとおりかなりのもの。鈍いからといって甘く見ると痛い目にあう。
水圧のブレスはもちろん、巨体を生かした攻撃も要注意。ヒレで斬りつけられると眠っちゃうから気をつけて。
剣士でいく場合はガードできる武器で行ったほうがいいね。ドクみたいにガンランスでもいいし、片手剣も有効かな?
弱点は電気、その次は火で毒も結構効くなぁ。同じ魚竜種にドスガレオスとヴォルガノスっていうのもいるねー。
余計な話だけどさ、あれで肺呼吸らしいぜ?体表から酸素を取り込む…皮膚呼吸だったかな?あとでドクに教えてもらおう。
戻る 目次へ 次へ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年01月10日 20:29