魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
第六話「過去」
ガノトトスを討伐後、俺達はモニターに写る避難所の惨劇を目にした。
その映像を見る前に起こった強すぎる通り雨。他の皆は何も感じていないようだった。
しかし俺は違和感を感じた。
もしその違和感が…古龍の首都への襲撃が実際に起こるとするならば、どうすればいいのだろう。
戦闘などの問題ではない。明らかに戦場は街になる。
そうすれば、必ず誰かの命が絶たれ、多くの人が悲しむ。
そう考えると、どうしようもなくて、切なくて。
でも、俺は戦わなくちゃならない。刻はこっちの都合なんて考えちゃくれない。
だったらできることに全力を尽くすべき…なのだろうか。
なぁ、答えてくれよ。お前はいつだって俺のわがままや相談に笑顔で付き合ってくれたじゃねぇか。
…握ったペンダントは何も答えず、中に入った写真に写る男性の笑顔が見えるだけ。
「…古龍やて?」
「あぁ、あの避難所襲撃、そして強すぎる通り雨。憶測だが古龍がいる。」
機動六課宿舎の広間に機動六課メンバー、そしてハンター組が揃い、全員の前でジェイが話している。
表情は当たり前ではあるが穏やかではなく、非常に険しい。スバルが恐る恐る手を上げて質問。
「あの…そもそも古龍って何なんですか?」
ジェイは顎に手を添え、どう答えるべきかを考える。正直古龍についてはジェイもよく知らない。
「強いて言うなら…古代より生きる、あらゆる生態系から逸脱した圧倒的な存在。その全てが驚異的な生命力と長寿性をもち、
他の生物に比べ特異で超常的な能力を身につけている。…としか。」
こう説明するしかなった。古龍はジェイ達が生まれる約何千年前から生きているという話がある。ジェイ自身もそれを知っているし、今まで対峙した
古龍はどれも「ありえない」力を持っていた。そしてその存在自体が天災と呼ばれているものもいた。
ジェイはポーチからドサリと分厚い本を取り出して数枚めくり、あるページで止まる。
「こいつが古龍の代表格だ。さっき言った理由も十分通用する。」
次に口を開いたのはエリオだ。その古龍の絵を指差して質問。
「この龍…通り雨を起こすほどの力を持っているんですか?」
「もちろんだ。こいつがいるだけでその地域はひどい雨になる。下手すれば洪水でも起こるんじゃないかというほどにな。」
あたりにどよめきが起こる。魔力もなしで自然現象を起こすなんて聞いたことも無い。しかしその古龍と会った男が目の前にいる。
そうすると無理やりだが信じるしかない。
「ところで…この古龍の名前は?」
「風翔龍『クシャルダオラ』。風翔龍って名がついてる通り、自由に風を起こすことができる。狩ったことは何回もあるが…、
今でもアイツの相手は必要以上にしたくないな。」
「同感だ。私も風に何回も吹き飛ばされた。」
「右に同じ。」
ジェイの言葉にドクとゼクウも同意する。
「だが…狩るしかない。これ以上犠牲者を出さないためにもな。あとは…フォワード陣、前に出ろ。」
くい、と指を曲げるとフォワード陣と隊長陣が前に出てくる。皆表情には緊張が走る。ジェイは皆の顔を見回してまた何かを考える。
一人大きく頷くと目を開いて口を開ける。
「今回も俺達のジンクスに従って四人行動で行きたいところだが…この際ジンクスなんてどうでもいい。次に襲撃する場所も避難所…もしくはここみたいな
人が密集する地区になるだろう。施設を援護するメンバーとヤツを叩くメンバーと分けて行動した方がいいと思う。」
ジンクス…それは四人以上で狩りに行くと仲間を失うというものだ。ジェイ達は半信半疑。だがここはミッドチルダ。そんなジンクスはない。
持ち込んでしまったが今回ばかりは話は別だ。一秒でも早くクシャルダオラを討伐して被害を最小限に抑える。
「今雨は降っていないから…装備をしてしばらく待機という形でええかな?」
そしてはやての号令とともに解散。フォワード陣は装備を整え決戦に挑む。
「ジェイ…さん?」
そして一人、青年の違和感に気がついていた。
数時間後、ジェイは屋上に来ていた。屋上に来てからずっと空を睨んでいる。
装備はいつもと同じのアカムトシリーズ。武器は龍刀【朧火】。しばらくすると隣に純白のバリアジャケットに身を包み、赤い宝石をはめた杖を持った女性が近づく。
「…なのはか。」
「うん。」
会話が止まり、沈黙が流れる。ジェイは空から視線を外そうとはしない。なのはは何も言わず座り、同じように空を眺めた。
蒼。雨などどう見ても降りそうにはない。しかし二人は空を見つめる。片方は睨んでいると言った方がいいのだろうが。
「ねぇ、ジェイさん。」
なのはの言葉にやっとジェイは空から視線を逸らしなのはの横顔を見つめ、なのはも視線をジェイの顔に移す。
表情は曇っていて、見てるとつい言葉を詰まらせてしまう。ジェイはそんな表情を何故か見ていられなくなった。
「何か、あったの?」
「何って…。何も無いさ。」
それでもなのははジェイのことをじっと見つめてくる。笑顔でごまかそうとするがどうしても顔が引きつる。
そんなジェイを見てなのははジェイの手の甲に自分の手を乗せてくる。鎧を着けているはずなのに何故か感じるぬくもりが気持ちよかった。
「お話…聞かせて?」
ふぅ、とため息をついた。こうなるともう止めても無駄だろうな。というのをわかってしまったからである。
引きつった笑顔だった彼が突然少し暗い表情になる。
「なんだろうな。どこから説明してやればいいのか…。」
ジェイは胸にかけていた金色のペンダントを取り出す。金色とは言っても泥がこびり付き、もはや土色といったほうがいい位に錆びて、色あせていた。
横の突き出した部分を押すと勢いよく開き、中に入っていた写真には若い頃のジェイの姿と、隣に並ぶ黒髪の男性の姿。
彼は淡々と、不安そうな彼女に『お話を聞かせた』。
「簡単でいいか?」
「え…うん。」
「わかった。」
ペンダントを閉じてギュッと握り締めた。
「あいつとの戦いの中で仲間を一人失ってな、あれ以来クシャルダオラと相手するとどうにもやりきれなくてさ。」
「…え?」
なのはは自分の耳を疑った。今ジェイさんはなんていった?「仲間を失った。」そんなあっさりと言えることなのか。
少し考えてからジェイのほうに顔を向けると今度は自分の目を疑った。
泣いている。涙を零すジェイの顔。大量の涙が頬をつたう。
その時なのはは理解した。「あぁ、聞いちゃいけないことを聞いてしまったんだ。」と。
「あの…ジェイさん、ごめんなさい…あの…。」
「いや…いい…しかしどうしても…感情っていうのは抑えられないもんなんだな…。」
涙をさっさと拭いていつもの笑顔に戻るジェイ。あきらかに無理をしている。
今でも思い出す。あの戦友のことを。風翔龍とともに爆風の中に消えていったあの友のことを。
「クソッ!小タル爆弾はなくなっちまった!どうやってあいつを…クシャルダオラを倒せるんだ!」
「心配しなくていい。ジェイ、大タルG、まだあるよね?」
「あ…あぁ、でも何を…。」
「貸して。」
「うん、っておい!何を!」
「問題ない。人生最後の遊び心さ。」
「やめろ!それだけはやめろ!リタイアしよう!戻って来い!」
「リタイアしたらここ…ドンドルマはどうする!俺がやらなきゃ誰がやる?」
「やめてくれ!いかないでくれぇ!」
「先にいって、待ってるよ。なに、焦らなくてもいいさ。ゆっくりと、ね。」
「クライドォォォォォォォォォォォッ!!」
「…ジ……ん!ジェイさん!!」
「あ…あぁ、すまない。」
「やっぱり…私…。」
回想から戻ったジェイは先ず、目の前で自分の行為のせいで古傷を抉ってしまったと表情を暗くする女性をどうやってまた明るくするか。
それを考えてみたのだが言葉が思いつかない。その様子を見ていたなのははジェイの頬に自分の手を添えた。
「…?」
「どういったらわからないけど…死なせない…。私も…死なない。もし何かあったら、今度は私が守ってあげるから。」
それは単なる願いをこめた言葉だったが今のジェイには何故かその言葉が心に染み渡り、温かさをかみ締めた。
「はは…逆の立場になっちまうな。よろしく頼むよ。」
「にゃははは…。」
「ちょっと情けなくてお節介なお兄さんだけど…な。さて、行こうか。」
ジェイは「らしくないことをしたな」と呟きながら頬を掻き、手を離すとまた兜を被ると立ち上がる。
屋上のドアを開け、なのはとともに屋上から去る。それからは何故かお互い沈黙を保ったままだった。
ふと窓から空を見ると暗雲が立ち込めて一筋の稲妻が落ちると同時に雨が降り始めた。
二人は確信する
――――来た。
そして向かい側のビルの上に立つ影を見て二人は凍りつく。
風翔龍、クシャルダオラがまっすぐとこちらを睨んでいる。視点を変えることなく、ただ二人に目を向けて。
「ガァァァァァァァァァッ!!」
数秒、二本足で立って耳がつんざくほどの咆哮を響かせて地面に降り立つ。しかし破壊行為をするどころか門の前でただじっと待っているのだ。
まるで自分達を待っているかのごとく。ジェイはそれを見て自然に走り出していた。なのはの静止を求める声も聞こえず、クシャルダオラが待つ門へと向かい、走った。
(クライド…見てるか?やっぱり時間はこっちの都合聞いちゃくれねぇみたいだ…!)
番外その五「クライド」
クライドについてのことが聞きたいって?物好きだな…アンタも。
名前:クライド・ハーヴェイっていうんだ。
防具:最後に見たときはレックスシリーズだったな…。
武器:よく片手剣を装備してきたよ。
性格:俺のわがままに笑顔で付き合ってくれたよ…。
その他:ん?あぁ、俺と同期のハンターだったやつさ。
俺と親分とクライドと初めてクシャルダオラを狩りに街へ行ったとき。追い込んだんだがこちらのアイテムが切れて徐々に形勢逆転。
ピンチに陥っちまった。そしたらあいつが大タルGはあるかって聞いてきてさ。あるって言ったら貸せっていうんだ。
貸したらクシャルダオラの着地地点に全部しかけてよ。着陸したと同時に片手剣で起爆。
クシャルダオラと一緒に爆風の中に消えちまったのさ。
最終更新:2008年01月17日 20:27