魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
第七話「風翔龍」
まさかここに攻めてくるとはな。
ジェイはそう呟き、門でずっとこちらを睨む古龍、クシャルダオラと対面。
龍刀を握っているが切り込もうとはせずに同じようにクシャルダオラをずっと睨んでいた。
しばらくすると足音が響き、隣に数名が並ぶ。
「六課の非戦闘員は皆避難させておいたよ。」
横からのフェイトの言葉にもジェイは頷くだけで言葉を返したりはしない。
次の課題はいかに六課を傷つけずに戦うか―だ。
「皆、俺の話を聞いてくれ。」
皆の視線がジェイに集まる。
「これから機動六課本部の耐久力は100%と考え、クシャルダオラの攻撃がもし本部に当たった場合、耐久力が10%減ると考えてくれ。」
ジェイから考えると六課本部の施設は砦で場所は街のエリア3。目の前に広がる景色もエリア3に少し似ているような気がした。
何しろ六課はなのは達の『居場所』なのだ。今までの砦や街の防衛戦と居場所を守ることは変わらない。
息を吸い込み落ち着かせると「それから」と付け足してジェイの願いである言葉を言う。
「皆、死ぬなよ。」
作戦もここに攻め込んじゃあ崩れるよな…。でも、やるしかないんだ。お前ならきっとそう言うだろう?もう目の前で死人は起こしたくない。
ジェイは龍刀をしっかりと握り締めると一人先陣を切って走り出した。
龍刀の一撃をバックステップで避けるとわずかに吼え、ジェイ達を見回して数回足踏みをする。
その瞬間いきなり走り出した。目線の先にはキャロ。その巨体からは考えられないスピードで突進してくる。
ぶつかる瞬間にキャロを抱えてエリオが避ける。続いて目標を見失い辺りを見回すクシャルダオラの羽にシグナムがレヴァンテインを振り下ろそうと―
ブワァッ!
「何!?」
突然クシャルダオラの身体から強風が吹き始めてシグナムは煽られ、尻餅をついてしまった。
無防備になったシグナムに襲い掛かるがゼクウが振り下ろした大剣を避けるために軌道がずれた。大きく威嚇するクシャルダオラ。
身体には目に見えるほどの旋風が巻き起こり、まるで身体を守っているかのように吹き荒れている。
「な…何なんだ…!?」
「言っただろう。やつは風を操ると。」
クシャルダオラを始め、古龍が巻き起こすとされる強風。その強風を受けると吹き飛びはしないものの尻餅をついて無防備な状態になってしまう。
その強風を『龍風圧』といい、これを防ぐ防具はあるものの片手で数えられるぐらいしかないといわれている。中でもクシャルダオラはその扱いに長けている。
「近距離は難しい…か。アクセル!」
なのはは数個の桃色の魔球を生成してクシャルダオラに向かい放った。一方のクシャルダオラは何もせずにただ待ち構えておよそ数メートルに距離が縮まると、
金属が擦れるような咆哮を上げると風が巻き起こりアクセルシューターを破壊してしまった。
それを唖然と見つめる。流石にジェイ達も驚いている。
「まさか…なのはの魔力まで防いじゃうとはね…。なんかあったのか?こいつ。…!?」
「来るぞ!!」
今度はゼクウが前に出て大剣「召雷剣【麒麟王】」を振り下ろす。案の定風が巻き起こるがゼクウは諦めない。
腕に力を込めると甲冑がボコリと少しだけ膨れるほど腕の筋肉を隆起させて刃をその顔面へと近づける。風と刃のつりばせ合い。
次第に押してきている。刃がその顔面に触れた。刹那、麒麟王を下げる。血が吹き上げるが同時にゼクウは吹き飛ばされて壁に激突。
「ハハ…我に断てぬもの…なしっ!」
立ち上がると再び構える。
「まったく無茶するよ…!」
「無茶しなきゃ勝てない相手だろうが!」
呟くジェイの隣に黒い影が通り過ぎた。白衣を白いマントの如くはためかせて刀を振りかざす男。ドク。
クシャルダオラが龍風圧を起こすとドクは地面を蹴り大きく跳躍。背中に一本のナイフを投げるとクシャルダオラの後方へと着地してもう一本。
突進してきても怯まずにトン、と軽く飛んでクシャルダオラの頭に手を乗せてそれを軸にして一回転、背中にナイフを二本投げる。
地面に着地するとバサリとマント…いや、白衣を腕で振り払うと兜に雄々しき角を持つオウビートSシリーズを纏った姿があらわになる。
「何やってんだよドク…!あいつには龍風圧が…!!」
「そんなもの、もうないさ。」
「…え?」
「ジェイさん、あれ!」
スバルが指差した方向にはクシャルダオラの姿が。しかし、足元がおかしい。まさかあのナイフだけでもう瀕死なのか?
いや、それはありえない。ふと、顔を睨む。口からボコボコ、と紫色の泡と煙が噴出している。
毒にしただと?どういうことか説明してもらうためにドクの方向へ向く。
「なぁに、あの風は角と内蔵器官が連結して起こしているのでな。」
懐から一本のナイフを取り出してどこかのガンマンが銃を回転させて弄ぶように回転させてピシ、と構える。
「だから毒を与えて内蔵器官の働きを弱めてやったまでさ。ククク…!クシャルダオラよ。これで君を纏う風の鎧はなくなったというわけだ。
苦しい!?苦しいだろう!?フハハハハハ!」
「うわ…出た…。」
持っていたのは攻撃力は高いとはいえないが数本で相手を状態異常にさせる投げナイフの一つ「毒投げナイフ」。
ドクが相手を毒状態にすると必ずやる癖、観察して高笑い。しかし今回の相手は古龍。すぐに高笑いをやめると背中から片手剣「デットリィタバルジン」を取り出し
切っ先をクシャルダオラに向けると走り出した。振り下ろすと回避して尻尾を撓らせて攻撃。
盾と尻尾がぶつかって鈍い鉄の音とともに距離を離される。
「シュート!」
続いてティアナの射撃魔法。胴体に二発当たるが血は出ない。その代わり、皮膚なのにヒビがついている。
クシャルダオラの甲殻はほぼ金属に近い。それを理解して何回も射撃する。ヒビが大きくなり血が少しだけ出た。
同じ場所になのはのアクセルシューターが直撃、横腹の甲殻の一部分が砕けた。
二人に向かって襲い掛かろうとした瞬間にジェイが龍刀を振りかざして注意をそらす。ジェイの姿を追うクシャルダオラ。
「今だ!スバル!」
「はいっ!ディバイィィィィィン…バスタァァァァァァ!!」
先ほどの甲殻が砕けた箇所にスバルのリボルバーナックルが直撃、同時に蒼い魔力を放出させて巨体を数メートルだけだが吹き飛ばした。
その先にはエリオが立っていてブーストを噴出したストラーダの一撃を放つ。また数メートル吹き飛ばされる…が。
立っている。その四肢でしっかりと。さっきとは比べ物にならないほどの殺気。二本足で立つと咆哮、かなり大音量のものだ。
ジェイはその咆哮を効かなくするスキル「耳栓」があるため平気だったが他の皆は思わず耳を塞いでいた。
「今やれるのは…俺しか…!」
走り出すジェイだが、異変に気付く。ズシンと前足をおいた瞬間に風が吹き上がる。龍風圧だ。
「もう毒状態から直ったのか…っ!」
クシャルダオラは口に何かを溜めている。尻餅をついたジェイに向かって溜めていた「何か」吐き出した。
それは風だった。ただの風ではなく螺旋状を描いて地面の岩を抉っていく。目の前まで接近して目を瞑る。なのは達はその音の中で悲鳴を聞いた。
「ぐあぁぁあぁぁぁぁっ!!」
目を開くと自分の身体が浮いていた。浮いていただけではなく周りに吹き荒れる風に両腕と両足を持っていかれそうな激痛が走る。
次に味わったのは堅いコンクリートの感触。ただでさえブレスの一撃で痛いというのに追い討ちのごとく背中に痛みが走る。
「ゴブゥッ!!」
叩きつけられたと同時に吐血。それでも彼は生きている。否、生きなければならない。ガクガク震える足でなんとか立ち上がり太刀を構えた。
しかし手が震える。目元が霞む。震えは全身に走り立ち上がったがまた膝をつく。
脳裏に焼きついて離れないのは死に際に見せた親友の笑顔。未練?トラウマ?どちらでもいい。とりあえずこの感情を振り払わないと。
「なんてザマだよ俺…!」
「まぁまぁ、ジェイ、私に任せてみないか。」
「ドク…なんか秘策でもあるのかい?」
「そんなに期待されても困るね。借りるぞ。」
デットリィタバルジンを置き、ジェイが鞘に収めておいた龍刀を取り出しクシャルダオラへと向かい歩いていく。
歩いていく途中で白衣を脱ぎ捨てて走り出した。そして高らかに叫ぶ。
「さぁ、第二ラウンドとしゃれ込もうではないか!!」
クシャルダオラは大きく吼えて風のブレスを吐き出した。横っ飛びで回避した目の前にクシャルダオラが滑空してくる。
ドクは防御できずに受けて吹き飛ばされる…が、すぐに体勢を立て直して翼へと斬撃を放つ。
が、鈍い音とともに龍刀の斬撃を弾かれて地面に着地後、すばやく距離を離す。
次の動作はバックステップ、しかし足は地に着かずに身体は宙に浮いている。この状態のときは何かと龍風圧が吹き荒れていて厄介だ。
それを見てもドクは止まらない。一瞬風が収まり、それを
「ここだっ…!」
見極めた。
尻尾の付け根に龍刀を刺すとクシャルダオラは咆哮…、いや、悲鳴をあげて滑空しながら距離を広げる。
「まぁだだぁっ!」
ちょうどその箇所に待ち構えていたゼクウ。どっしりと構えて鎧に赤い光が発光している。
麒麟王の刀身には蒼白い雷でより一層、大きく見えた。満身の力を込めて蒼白い軌道を残しながら巨大な一撃を振り下ろす。
「チェストオォォォォォォ!!」
その一撃はクシャルダオラの巨体を叩き斬ったのではなく、地面へと叩き伏せた。クシャルダオラに次なる攻撃が襲う。
金色の刃に黒い身体、バルディッシュを振りかざすフェイトの一撃。今度は正真正銘の斬撃。
「はぁぁぁ!!」
バルディッシュは深く肉を抉って尻尾を切り離した。血は決して出なかったが確かに切り裂いた。尻尾の断面から銀色の肉が露になる。
痛みで巨体を回転させるクシャルダオラ。その爪はフェイトを捉え、吹き飛ばした。怒りの証拠である白い吐息を漏らしながらフェイトを睨む。
そして放たれる風のブレス。速度は先ほどジェイが受けたのよりも大きく、速い。
フェイトが目を開けたときは約2メートル。バルディッシュがディフェンサーをやる前に―
ガキィィィ…ン
ドクが前に飛び出して防御をしている。龍刀ではなく、右手で。
唸る轟音と吹き荒れる風。流石につらいのか左手で右手を掴んでより前へ押し返そうと踏ん張っている。
フェイトは頬に何か当たるのに気付き、前を見る。 右手のグローブが次第に割れている。フェイトの頬に当たったのはそのグローブの破片。
次第に押されてきているドク。一回拳を引き、そして前へと思い切り突き出す。その時フェイトはうっすらとだが、赤い魔法陣が見えたような気がした。
「ぬぅぅぅぅんっ!」
風は轟音とともに八方へ分散して通り過ぎる。
「っく…!」
「あの…大丈夫ですか…!?」
「そんな余裕があったら敵を常に視界に入れておきたまえ!!」
「は、はい!」
何がなんだかわからないうちにドクはまた走り出してしまっていた。
切っ先を前に向けてそのまま走る。龍風圧は何故か起こらない。龍刀がクシャルダオラの胸に刺さり、悲痛な咆哮をあげた。
それでもドクは力を抜かず、より深く龍刀を突き刺す。胸から吹き出す鮮血がドクが身に纏っているオウビートSシリーズを紅く染めていく。
傷口を広げ、ポーチから導火線だけを出してまた中を探ってマッチを出して火をつける。導火線が火花を散らしながら短くなっている。
導火線の元は、『小タル爆弾G』。爆弾を傷口にねじ込む。導火線が残り一センチになっても、ドクは離れない。
「心臓の悪い人はここから先は見ないようにしておくがいい!!」
ドクの視界が、赤く染まる。
そして、響く爆音。
爆音のあと、目の前には爆風が広がり、煙が広がっている。
しばらくすると爆風から出てきたのは右手を前へ突き出したドク。吹き飛ばされているところをジェイがとっさに受け止めた。
ジェイが前へ出て顔を覗き込むとドクは黙ってサムズアップ。後ろを向くと胸にポッカリと穴があいたクシャルダオラの死体があった。
目に光は宿っていないし、息もしていない。絶命した。
「うひー、終わったぁ…。ごめんなー。ドクー。」
「強敵だったな。キングサイズに近づいたのではないか?」
「しっかしフェイトのあれ!すごかったなぁ!多分親分の大剣よりでかかったよあれ!」
「ぬ…ぬぐぐ!」
「しかしこれを使うことになるとはね…。ドク、大丈夫かい?」
「ん…予想外だったが問題はないさ。」
ゼクウとジェイの視線はドクの右手へ。オウビートSのグローブは砕けてしまったがドクの肌は露出していなかった。
手を包んでいたのは三本の鉤爪が付いた別のグローブ。赤い線が通り手の甲には黄色の球がついている。しかし二人は驚く様子はなく、慣れているようだった。
「なんだかんだいって世話になってるよなぁ。」
「初めて見たときは流石に驚いた。グラビモスの熱線をまさか手で防御してしまうとは…。シールドみたいなものを展開したと言われてまた驚いたものだ。」
「そうそう。っと、立てる?」
ジェイは手を差し出し、ドクはその手を掴んで立ち上がるがどうも足元はおぼつかない。施設に視線を移すと幸い宿舎と本部にこれといった被害はない。90%ぐらいだろうか。
ふとゼクウはクシャルダオラの死体に反射するものを見つけて近づき、それを手にとってみる。
丸く、綺麗に光る球。太陽に掲げて覗き込んでみる。変わらない。
「お、『鋼龍の宝玉』じゃんかよー。おめー。」
ジェイは軽く拍手する。『鋼龍の宝玉』とはクシャルダオラの体内で長い年月をかけて生成された宝玉のことだ。取れることはかなり稀で武具の材料はもちろん、
売ればかなり高値になるというレアアイテムだ。ちなみに「おめ」とはジェイ達の世界で言う「おめでとう」の意だ。
ドクは何故かしっかりとした足取りでゼクウの前へ行き、肩をがっちりと掴む。
「素晴らしい!!あぁ…欲しかった…!私も欲しかったなぁ!!」
「「探して来い馬鹿野郎」」
見事に二人の声が重なりドクの言葉を一蹴した。その会話の対応もお互いにとっては慣れてしまっているようでそれ以上何も言わない。
「あの~盛り上がってるところ悪いけど…」
三人が振り返ると非常に顔色が悪いなのは達の姿があった。ジェイは何か言われることでもしたかなと思いつつ正面に立つ。
「あれ…どうするつもり…なの?」
なのはが指差した先にはクシャルダオラの死体。確かに、処理の仕方は考えてない。いつもなら風やらなんやら自然現象がなんとかしてくれたのだが…。
ここは場所が違う。それにこんな心臓に悪そうなもの早く処理しなくてはならない。三人は顔を見合わせて考え…。
「よし、俺達に任しておいてよ。だからなのは達は先に戻っててよ。な?あ、決して見るなよ?」
そう言われてなのは達は最後まで「?」マークを消せないまま宿舎に戻っていった。
「あの人…何で魔法陣を…?」
フェイトだけは、他のメンバーとは違った疑問を持っていたが。
その後、ドクのどこか悲しみと怒りを帯びた雄叫びが大音量で響いたとか。
最終更新:2008年01月18日 19:42