Devil never Strikers
Mission : 07
VS Dante
エリオ・モンディアルの武器はスピードだ。
彼を少なからず知っている者ならば、それを否定する事は無いだろう。
そのスピードで彼はダンテに背後から奇襲を仕掛けた。
「最初はエリオか」
隣でフェイトが冷静に言った。
ここまでは予想通り、と言うか予想する必要も無い。
我々が見たいのはダンテの対応のほうだ。
そのダンテは後ろから来たエリオの攻撃を振り返りながら倒れるようにして避けた。
倒れながらストラーダの柄の石突(一番下)に近い所を掴み、エリオについていく形で移動した。
あれは中々いい考えだ。回避と防御が同時に行える。
実際さっきまでダンテがいた場所に、ティアナとキャロの同時攻撃が飛んでいる。
結果から見ればあれは最善手の一つだ。
「あ、エリオ落ちた……うわ、大丈夫かな、あれ」
今言ったのはシャーリーだ。
ダンテがゼロ距離でエリオを撃ち落とし、エリオは近くの木に激突したのだが……大丈夫だろう、きちんと受身をとっていた。
だがエリオは今ので撃墜だ。
ダンテの銃が非殺傷設定だったからあれで済んだが、エリオが撃たれたのは頭、本来なら死んでいるはず。
もっとも部位に限らず当たれば撃墜扱いでリタイアになるルールなのだが。
この模擬戦はダンテの銃、エボニー&アイボリーSの改造者、シャーリーの要望で行なわれている。
作った以上できる限りの面倒は見たいというメカニックとしての考えと、色々な相手との経験を積ませたいというなのはの考えが上手い具合に重なり、新人四人+今日から入るギンガが相手を務めている。
そんな事を考えているうちにダンテは手を放し、数十メートル離れているキャロの額に鉛弾(に見える魔力弾)を当てていた。
「キャロ、撃墜!」
「あの人頭を撃ったよ!?あんな小さい子なのに!?」
審判を務めるなのはの声が訓練場に響き、
陸士108部隊からきたマリエルが信じられないといった声を上げるが、
相手が誰であろうと手加減しないのは相手を対等に見ているからなのだから、あれはあれでフェアだ。
俗に『フレイザード理論』と言われる物に近い。私だったら絶対しないし褒める事も出来ないが理解はできる。
「ふう、次は誰だ?面倒だしまとめて来いよ」
そう言って挑発するダンテ。
その挑発に乗った訳ではないだろうがギンガとスバルが同時に飛び出し、それぞれのリボルバーナックルを突き出すが、ダンテはそれを転がって避ける。
しかしよく転がるやつだ。転がって移動していた時期があったのかと思ってしまうくらいだ。
転がったダンテと拳を打ち込んだナカジマ姉妹。
体制を整えたのはナカジマ姉妹が速かった、銃と拳のリーチは比べるまでも無い、攻撃はダンテの方が先だった。
放たれた銃弾はナカジマ姉妹の額に一発ずつ命中、撃墜。。
この時ギンガはスバルを守ろうとしてスバルとダンテの間に入り、スバルは防御や回避より攻撃と考えたのか前に走った。
「あた!?」
「え!?」
結果、姉妹はぶつかり合い、スバルが下、ギンガが上の形で仲良く折り重なって倒れた。
倒れた瞬間スバルの体が映らないチャンネルにあわせたテレビのように歪んだ。
ふむ、今のを見たかどうかが今後の展開の予想の分かれ目だろう。
さて、残りはティアナだけだが同じ二丁拳銃で勝ち目があるかは怪しい。
ティアナにあってダンテに無い物は幻術と弾丸の使い分けくらいか。
ダガーモードは論外だ。あのダンテに接近戦を挑むなんて……
「モード2!」
「Set up: Dagger Mode」
考えたそばからティアナはクロスミラージュを変形させ、駆け出した。
何を考えている?ダガーモードではリベリオンに対抗できるわけがないしそもそもダンテが接近を許すとも思えない。
無謀としか言いようの無い特攻。当然ダンテはティアナに銃を向け、トリガーを引く。
右手の銃から放たれた魔力弾がティアナに襲い掛かるが、顔の前で構えた魔力刃によって弾かれる。
「お、上手い。でも多分…」
もう今の防御は通じない。シャーリーはそう言いたいらしいが私はそうは思わない。
今のは常に頭を狙うダンテの癖を見抜いたから出来た防御だ。
癖と言っても悪癖ではなく、意識された行動だから防げるのは最初の一発きり。二度目は無い。
だが欲しかったのはその一発だろう。
一発防がれればどうする?
おそらくダンテは防がれない攻撃をする。協力だが、少し手間のかかる攻撃を。
「……甘いぜ」
私の予想通りだった。ダンテは銃を構えながらも引き金を引かず、集中していた。
マガジンがある手の中に魔力を留め、集める。
手の中だけでは収まらない魔力は力強い赤い光となりダンテの手から溢れ出す。
その光はゆっくりと手を伝い、手首を越え最終的には肘近くまで到達した。
「これは防げないだろ?」
ティアナを見据えながら銃をくるくる回すダンテ。
確かにあのチャージショットは防げないだろうが、あのスピンには何の戦略的優位性(タクティカルアドバンテージ)もない。
実戦用とパーティー用のスキルは違う。いいセンスだが、あれは役に立たない。
目的は引き付けるまでの時間潰しだろうが、それはティアナに対してのみだ。
後ろから飛び掛るスバルには意味を成さないどころか大きな隙になる。
「スバルが……2人?」
スバルは今ギンガと一緒に撃たれた方とダンテの後ろにいる方の2人がいる。
どちらかが幻術なのだろうが、それはもちろんギンガといたほうだ。
本物のスバルが後ろに接近していた事など考えもしなかったダンテ。
つまり、リボルバーナックルの一撃をほぼ無防備に受けてしまう―――はずだった。
ダンテがスピンの一環として自分の体さえ回していなければ。
銃を上に放り投げ、自身も一回転しキャッチ。
当然その時わずかな間だが後ろを向く。
そのわずかな間でスバルとダンテの目が合ってしまった。
「何だ、後ろからも来てたのか」
見落としてたらかなり危なかったのだがダンテは皮肉な笑みを崩さない。
この時点でティアナを餌にしてスバルで叩く計画は失敗。
別に誰かのミスがあった訳ではない、むしろギンガのスバルを隠すフォローがあった分いつもより良かったはずだ。
それなのに失敗したのは運が悪かったからだろう。本当にそれ以外に理由が見当たらない。
「使うつもりはなかったんだがな……」
そう言いながらダンテは背負った得物に手をそえる。
どうやら大剣を使うつもりらしいが、その前に双銃の回収を済ませるため、上に跳んだ。
空中で双銃を掴んだダンテはそのまま上昇を止めず、真下にティアナが来た辺りでようやく跳躍の頂点に達した。
そのまま頭を下にし、独楽のように回転しながら真下に銃弾を注ぎ込む。
「ティア!」
銃弾の雨の嵐に曝されようとしている親友を守るべく、一瞬遅れて真下に行き、防御魔法を上に展開するスバル。
ダンテの降らす銃弾の雨を防ぐその姿はまさに傘。この傘から出た瞬間降り注いでいる銃弾に蜂の巣にされることは間違いない。
しかも降って来るのは弾丸だけではない、ダンテだっていつまでも重力に逆らえる訳ではない。
弾に比べれば遥かに遅いが、ダンテだって落ちてきている。
このままダンテとの距離が縮まっても接近戦の速度で勝てるとは思えない。
かといって逃げることも出来ない。完全に手詰まりだ。
「ティア!何とか一撃防ぐから!一撃で倒して!」
「まったく、簡単に言うわね……いいわよ、それで行きましょ」
今の会話から二人の作戦――そう言えるのかも怪しいが――は簡単に予測できる。
だがそれがダンテに通じるか?これは本当に賭けだろう。
ダンテとの距離は既に3メートルを切っている。
「面白くなってきたな」
「ああ、小細工のない純粋な力勝負だからな」
シグナムが今日初めて言葉を発した。
それに答えたのは同じく今まで黙っていたヴィータ。
―――距離はあと2メートル。
「力勝負の何が面白いんですか?」
マリエルの質問は当たり前だ。
今日初めてここに来た彼女には今までなのはが何を教えていたかを知らない。
―――あと1メートル。
「なのはは今まで、基礎を重点的に教えてきたんですよ」
フェイトが言い、納得するマリエル。
2人はなのはが入隊以来ずっと鍛えてきた物で勝負に出る。
ダンテのような化け物じみた相手に今までの訓練の成果をぶつけるのだ。
これが面白くならない訳がない。
銃口とバリアが触れた瞬間、ダンテは銃口を支点に体を横に倒し、地面に着地した。
ホルスターに銃をしまい、大剣マーシレス――リベリオンと比べて細く、強度は劣りそうだが少し長いので間合いの広そうな剣だ――を抜き放ち、スバルを見据えるダンテ。
ダンテの視線に臆することなく睨み返すスバル。どちらも気合は十分だ。
ダンテは左半身を二人に向け足を肩幅より広く開いて立ち、マーシレスを顔の右で、両手を使い縦に構えた。
分かりやすくいうと野球のバッティングのフォームだ。
ボールはシールドとそれを作っているスバル、そしてその後ろでクロスミラージュを構えているティアナ。
「準備は良いか?」
「ハイ!」
スバルたちが大声で話した作戦はダンテも聞いていた。その上でダンテは勝負に乗った。
もう余計な口を開く事は無い。ここから先は力と力の真っ向勝負。
マーシレスを少し後ろに戻し、そのまま勢い良くシールド目掛けて叩きつける!
大剣とシールドの接触点で赤と青の魔力が激しく争いあい、周囲に突風が巻き起こる。
空のような青さを持つ盾と血のように赤い魔力に覆われた大剣のぶつかり合いはいくらか赤が優勢だ。
先ほどの銃弾の雨の嵐より遥かに強力な一撃を全身全霊を賭けて耐えるスバル。
「頑張ってはいるが、負けたなこりゃ」
「…そうだな」
ヴィータとシグナムが言った。
私もその思いだった。どう考えても相手が悪い。
軽く見積もってもAAAはあるダンテの一撃に一瞬で終わらなかっただけ良くやった。
「……て……るか」
スバルが何か言っているらしいがここからでは良く聞こえない。
「…け……まる」
まだはっきりとは聞こえない。
だが口の動きで何を言ってるかは分かった。
「負けてぇ!たまるかぁ!」
その言葉に込められた想いは、おそらくなのはが一番教えてくれた事で負けたくないという意地。
意地という言葉を辞書で調べてみるとあまり良い意味は出てこない。
だが強く、そして気高い意地は『誇り』であると私は考える。
誇りを胸に抱いた人間の力は強く、時に限界以上の力を生み出す。
今のスバルがその状態だ。
咆哮と共に残りの魔力を搾り出し、さらに一歩踏み出しダンテを押し返すその姿は力強く、ダンテにも引けをとらない。
ここにきてスバルはダンテとほぼ互角に近い状態まで漕ぎ着けていた。
勝つのはスバルか、ダンテか。
一度はダンテが手に入れると思われた勝利は、未だその立ち位置を定めず、両者の間で動かずにいた。
だが、決着は意外な形で訪れ、意外な者が勝利を手に入れた。
ダンテの握る大剣、マーシレス。それにヒビが入ってしまったのだ。
このままこの状態が続けばマーシレスは砕け、ダンテの武器は無くなる。
そうすればスバルはシールドを解除し、ティアナが得意の射撃でダンテを撃ち取れるだろう。
状況がスバル側に傾いた瞬間に、何を思ったかスバルは一瞬力を緩めてしまった。
その一瞬で決着は付いた。
ダンテがシールドごとスバルとティアナをフルスイングでかっ飛ばし、2人は上空へと打ち上げられた。
フルスイングを終えたダンテはマーシレスを地面に突き刺した。
そして空いた両手でエボニー&アイボリーを引き抜き、空中にいる2人を狙い撃った。
2人はそれに何の反応も出来ず一発づつ額に受け、今度こそ撃墜となった。
「スバルとティアナ!撃墜!」
なのはが右腕を頭上でぐるぐる回しながら宣言した。今の勝負の影響かかなりテンションが高い。
これでフォワード陣は全滅だ。
ダンテに目を戻すと、地面に突き刺したままのマーシレスを眺めていた。
あのヒビの状態を見ているのだろう。
私がそう思った瞬間だった。どこからか飛んできた火球がダンテの頭に当たったのは。
火球は後頭部に当たったのでダンテは首を大きく前に倒した状態で固まっていてその表情は全く見えない。
「ダンテさん撃墜!」
なのはが言うが一体誰がやったのか分からなかった。
火球が飛んで来た方向を目で追い、やっと理解した。
「キュクル~♪」
「勝者!フリード!」
……確かにキャロは撃墜されたがお前は違ったな。
お前がいた事に気づいていたのは一体何人いただろうか、
『私』がザフィーラであることに気づいた数の方が多いと願いたい。
「終わった~?」
私の隣で不機嫌そうにヴィヴィオが言った。
ヴィヴィオは私と一緒になのはとフェイト、2人のママを迎えに来ていたのだが、今日はダンテとの模擬戦があったのでいつもより少し終わるのが遅かったせいで待ちくたびれている。
私は頷き、ヴィヴィオに「もういいぞ」と言った旨を伝える。
途端に上機嫌な笑顔を見せ、ヴィヴィオは駆け出した。まったく、子供とは無邪気なものだな。
そんなに勢いよく走ると転ぶぞ……遅かったか。
まあなのは達も見ているし、綺麗に転んでいた、大丈夫だろう。
「さっきから気になってたんだけどあの子って?」
「えっとですねえ」
そういえばマリエルはヴィヴィオの事は知らなかったな。
シャーリーは何と説明するのだろうか、面白がって誤解されそうな説明をしなければ良いが…。
「あの子は…」
『あの子』は今、私の隣にいたはずのフェイトに助け起こされていた。
なのはは自分の力で立ち上がらせたかったらしいが、フェイトの厳しすぎの一言に何も言えなくなる。
どう見ても子供の教育方針について話し合う夫婦にしか見えなかった。
「なのはさんとフェイトさんの子供です♪」
最高のタイミングだった。マリエルが勘違いをするのには。
「そっかー2人の子供かー。ってええええええええ!?」
マリエルの大絶叫。それを聞きながら私は今日の模擬戦をまとめることにした。
ダンテ―――マーシレスは修復不可。模擬戦後にスバルの顔を覗き込み「…金じゃなくて緑か」と呟いた。意味は不明。
スバル―――ダンテに真近で顔を覗かれ赤くなるもその後の呟きで青くなった。
フリード――ある意味今回の主役。今度からは忘れないでいてやろう。
エリオ―――飛んで行ったストラーダを探しに行ったきりまだ帰ってこない。
フェイト――ダンテのあのバッティングフォームに何か閃いたらしい。
総評――――実戦だったらフリード以外死んでいるので高い点はやれないが、あのスバルの爆発力やあえてキャロとフリードを分けた作戦は高評価。
模擬戦の後、我々はは昼食を食堂で食べていた。
普段はアイナさんの目の届く場所で食べているのだが、彼女の事情や、寮の事情、そして大人の事情が複雑に絡み合い、食堂で昼食となった。
もっとも、さっきの模擬戦の
参加者や見学者、そして何より私がいるので危険など何一つ無い。
はずだった。
『なのはちゃ~んにフェイトちゃ~ん。ちょっとこっち来てや~』
ピンポンパンポーンと言うお決まりの電子音に続き主はやての声が響いたからだ。
館内放送で呼び出されたママ2人は少しワガママを言い出した娘をなだめ、この場を去った。
去ったのは二人だけではなかった。
「シャーリーさん。ちょっとストラーダを見てもらえますか?」
「あー、海に落ちてたんだっけ?分かった。調整室行こうか。ダンテさんの銃もメンテしなきゃだし」
エリオとシャーリーはデバイス調整室。それにキャロとフリードも付いて行った。
さらにスバルとギンガはマリエルに連れられて健康診断。ティアナは書類仕事。ヴィータとシグナムは食べ終わったらさっさと模擬戦に行ってしまった。
つまり今ここにいるのは私以外にはヴィヴィオとダンテの2人だけ。
……どんな会話が交わされるのか想像もつかない。
だが私の不安などお構いなしにヴィヴィオは未だデザートを食べているダンテに話しかけた。
「あかいひと?」
「……何がだ?」
ダンテの外見そのまんまだった。『何がだ?』は私もそう思う。
「あ~か~い~ひ~と~?」
少し不機嫌そうに再び問いかけるヴィヴィオ。
頼むダンテ。下手な事は言わないでくれ、完全に機嫌をそこねたらなのはかフェイトを呼ぶしかないんだ。
「それはどんな人だ?」
ダンテの言葉を聞き、少し考えた後にヴィヴィオはテーブルの上のナイフを投げる。
ナイフは誰かに当たって一大事、とはならずに床に落ちる。
そしてヴィヴィオは私の耳の毛を引っ張り、次にナイフを指差した。
取って来いと言う事か?とりあえず従ってみる。
ヴィヴィオは最後に私から受け取ったナイフを右肩の後ろ、つまりダンテが剣を収める場所に持っていった。
「こんなひと~」
ただの危ない人だ。
そんな人と関わるとろくな人間になれないだろう、そいつにはなるべく関わらせないようにしないと。
「……ああ、地下水路で会った嬢ちゃんか、色々変わってて分からなかったぜ」
手遅れだった。
いや、そうじゃない!まずナイフを投げた事を注意しろ!
悪い事を悪いと言え!それをしない大人が増えたから今の社会は大変な事になっているんだぞ!
「あの時はありがとうございました」
「…どういたしまして」
丁寧な言葉ではあるが、そこに堅苦しさはない。むしろたどたどしい言い方が微笑ましいくらいだ。
やれやれ、と言ったため息の後に面倒そうに返すダンテ。
だがようやく恩人に会えたヴィヴィオはかなり嬉しそうだ。
その顔を見ているとここで注意して恩人との再会に水を差すのは忍びないがここは一言言っておかねばならない。
だが私が注意するには人の声を出す必要がある。私は深呼吸し、覚悟を決めた。
「ナ…」
「嬢ちゃん。ナイフを投げるのは良くないぜ、誰かに当たったら怪我するだろ?」
……そうだ。
…………それで良いんだ。
その夜、私は主はやてに他の仕事が無いか聞いてみた。
そして食堂の新メニューのお知らせを作る仕事があるとの返事を聞いた。
少し迷ったが私はしばらくヴィヴィオを守る仕事を続けることにした。
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最終更新:2008年02月22日 19:29