魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER

第八話「休暇」

「はぁ…。」
ジェイが機動六課宿舎の廊下をトボトボと歩く。手にはカルテと薬。そして顔は少し悪い。
余談ではあるが、今の装備は上半身白いTシャツで胸に「狩人(かりんちゅ)」と書かれ、下は蒼いジーパンのような「ランポスーツフット」なるものを履いている。
ハンターだっていつも鎧をつけてるわけではないのである。余裕があれば休み、こう狩りをしない一日は鎧を外して日光浴や外出もするのである。
今日はたまたま管理局から仕事の指示がないためお休みなのである。モンスターもいつだって暴れてるわけじゃないということだ。ちゃんとした生き物なのだから。
そしてジェイはちょっと疲れを感じたためにスタミナ付けのドリンクはないかと医務室を尋ねてシャマルの質問に答えたら
「一日の睡眠時間が約数分!?何考えてるの貴方!!」
と怒鳴られ説教を小一時間くらっていた。ハンターの一日の睡眠時間は大体数分である。(ゲーム中、マイハウスでセーブする時間を考えてくれれば手っ取り早い。)
ジェイも始めはつらかったがなんというか、身体がもう耐えられる、つまり慣れてしまった。
結果、カルテと睡眠薬をもらった。栄養ドリンクはもらえていない。
「やっぱりハンターは変わりもんなのかね~っ」
庭に出て日光を浴びながらのびのび。最高に気持ちよかった。空は昨日の戦いとは打って変わって晴天。雲すらない。
「はっ、はっ、んっ、あっ。」
「ん?」
背中に誰かがトン、とぶつかる。あまり衝撃がなかったし下半身のほうにきたからぶつかったのは子供。とするとエリオかキャロだろうか?
後ろを振り返ると濃い金の髪を両側で結び、片目の色が違う、つまりオッドアイの少女が立っていた。一瞬見知らぬ子供で驚いたが。
ジェイはにっこりと微笑んで少女の身長ぐらいまでしゃがみこみ話しかける。
「どうしたのかな?迷子?」
「えっと…あの…」
「あ~…、君、お名前は?」
「…ヴィヴィオ。」
「そっか、ヴィヴィオちゃんか。俺はジェイ。ジェイ・クロードだよ。」
「ジェイ…おじちゃん?」
「おいおい、おじちゃんはないだろ?これでもまだ二十歳なんだぜ。」
やれやれ、といった表情でため息をつきながら肩を落とす。ヴィヴィオはというと何か悪いことでも言ったかなと思い、少し困っている。
考え込んでこの子をどうするかを考えてみる。迷子だったらどこに連れて行けばいいのか。ここでいいのかもしれないが早いとこ親のもとに連れてってあげたい。
ふと奥から人影が近づいてくる。近づいてきたその人はなのはだった。ヴィヴィオはぱぁっと表情を明るくしてなのはへ駆け寄る。
「ヴィヴィオ!」
「なのはママぁ!」
「……!?」
いきなりの会話に目を見開いて二人を見る。まさかなのはが親だったとは思わなかった。いや、その前に…などとジェイの頭に何か間違った思考がぐるぐる回る。
今度はヴィヴィオとなのはがジェイを見ている。そんなことも気付かずに思考をめぐらせる。
なのはが不安になって声をかけてみた。
「ジェイさん?」
「なのは、結婚祝い何がいい?」
「え………ふえぇぇぇっ!?」
「ごめん、まず落ち着こう俺。」
ちょっとした二人の混乱のあと、ヴィヴィオについての話を聞かせてもらった。
ヴィヴィオは高町ヴィヴィオとして、なのはの養子になっているということ。そしてこの子との出会い、今まであった出来事。
他人の自分にここまで話していいのだろうか?という話まで。ははぁ、いまだにピーマンが克服できてないのか。ちょっと吹き出しそうになる。
一方のヴィヴィオもなのはの話にあわせて表情を変える。怒ったり、笑ったり、少ししょんぼりしたり。
本当の親子みたいに仲がいい。できればずっとこの仲が続くよう、心で祈っている自分がいた。
なのはがヴィヴィオにカップを渡したあと、自分にも渡してきた。受け取ったカップの中にはカプチーノみたいな飲み物が入っていた。
「キャラメルミルクだよ。ちょっと多く作っちゃったから、ジェイさんに。」
「あぁ、ありがとう。遠慮なくいただくよ。」
カップに口をつけて少しキャラメルミルクを口に入れる。広がる甘さと少し残るほろ苦さ。見事に調和していておいしかった。
コクン、と喉を鳴らし飲み干した。なのはは空になった自分とヴィヴィオのカップを取る。
「美味い美味い。なのはって菓子作り得意なの?」
「得意…ってほどじゃないけど、親がパティシエやってたから自分も何か作れるように教わってたんだ。」
「へぇ~…。今度また作ってくれよ。」
「うん、いいよ。いつでも。」
「なのはママ、わたしのぶんも!」
「はいはい、わかってるよ。」
なのははしゃがみこんで微笑みながらヴィヴィオの頭を撫でる。ヴィヴィオも嬉しそうでなのはに抱きついていた。
ジェイは二人を見て少し微笑んだあと、そそくさと庭から去って行った。
(親子水入らずの時間を過ごさせてやんなきゃね…。)


時間は昼下がり。相変わらず六課の食堂の飯は美味い。ぶっちゃけるとウチで雇ってるコックアイルーと互角…いや、それ以上だ。
なおかつ量が少ないからがっついて急いで食べる必要もないし少し落ち着いて食べられる。そして自分で食材を選ばなくていい。
かなり前の話になるが食材を間違えてしまい、倒れて気を失ったことがある。倒れている間、フェイトによく似た金髪の女の子と黒髪の女性と茶髪の女性と会う夢を見た。
というのは誰にも言えない。ジェイ、あらためて「食」のありがたさをかみ締める。
ちょっと上機嫌で歩いてるとエリオがいた。しかし格好がひどく見たことがある。スーツではなく、鎧だ。
紅い鱗をふんだんに使ったその鎧は「レウスシリーズ」。ふらふらとしながらジェイのほうに近づく。距離が短くなるごとにガシャン、ガシャンと金属音を立てている。
「エリオ…どうしたんだ?」
「は…はぁ、あの、突然ジェイさん達の知り合いだと名乗る猫が一匹入ってきまして…、この鎧をつくってくれました。」
ジェイの眼が生気を失い、死に始める。理由はただ一つ。心当たりがあるから。
「どこでだ?」
「こ…こっちです。」
エリオの案内のもとに一つの部屋にたどり着く。そこは室内訓練場だ。確かに中が騒がしい。
自嘲気味に妖しく笑いながら一歩踏み出す。ドアが開いて、そこから見える光景にジェイの目は完全に死んだ。というかもう、身体が真っ白になってもおかしくない。
それくらい何かが抜けていくのを感じてエリオがびくついてる。
「あ、ジェイさんジェイさん!これ、どうですか?」
まず自分の目の前に近づいてヒラリと一回転してみせるスバル。見かけがいつものバリアジャケットやスーツじゃない。またひどく見覚えがある。デジャヴだ。
肌の大部分を露出させたその防具は「ボーンS」。彼女の戦闘スタイルから動きやすさを考えたのだろう。しかしいいセンスといえるのか?これは。
なぜかヘルムはつけていない。
「こら!バカスバル!ジェイさんを困らせないの!」
後ろから近づいてスバルの頭を軽く殴ったのはティアナ。もちろん見かけも自分の世界でよく見る装備だ。
露出は少なめの分、ゴム質の皮膚で衝撃を和らげるのを考えた防具「ゲリョスS」。やっぱりガンナー用の装備だ。
キャップはつけていない。
「ふ、二人とも~、待ってください…。」
後ろから小走りで近づいてきたのは年少組の一人、キャロだ。ここで以下省略と言わせてもらおう。やっぱり防具なのだ。まず材料良く足りたなと思う。
キャロの装備はヘルムの耳みたいな部分が子供っぽさを引き出して白色の「フルフルS」。何故だろう、ちゃんとサイズに合わせている。
今回はヘルムもちゃんとつけていた。
嫌な予感がしたので三人の横を通って後ろへと歩を進めてみた。予想的中。副隊長までもが自分達の世界の防具をつけている。
横でゼクウがアイルーの首を絞めている。あのアイルーは…、ポッケ村の防具屋のアイルーだ。もう防具を作れるまで成長したのか。ちょっと微笑ましい…が。
「貴様ぁぁぁぁぁ!!何故ここにきたぁぁぁぁぁ!!」
「フニャァァァァァァ!!雪山を散歩してたらでっかい船が現れてこっそり乗ったらそのまま出発しちゃってニャアァァァァ!!」
前言撤回、全然微笑ましくない。頭が重い。ポン、と誰かが自分の肩に手を乗せたので振り返る。そこには桃色の髪を腰ぐらいまで伸ばした女性、シグナムがいた。
「あー…なんだ。そう、気を落とすな。」
苦笑しながら話かけてくるシグナム。今のシグナムはというとちょっと赤みがかかった甲冑に東方の武士みたいな防具「凛」をつけている。
名前のとおり凛とした感じがシグナムには良く似合っている。レヴァンテインを居合刀みたいに構えたらさらに似合うだろう。
「こんなカオス見れば誰だって気を落としたくなるっすよ…。」
目はすでに死んでいる。シグナムは苦笑するしかない。
「だいたいなんなんだ?あの猫?」
「俺等の世界の獣人で「アイルー」っていうんです。見ての通り知能が高くて人の文化の中でも生活してるもんもいるんですよ。」
横からヴィータが問いかける。もう格好にはツッコむのをやめた。あえて言うとするならば黒いメイド服のような見かけに胸にはネクタイ。
頭にチョコンと乗る帽子。「ヒーラーU」だった。小柄な彼女にはこういう装備は合うようだ。
そういえばなのはとフェイトとはやての姿が見当たらない。中をぐるっと見回してみても先ほどのメンツしかいない。奥のほうで三つの人影があったが気のせいだろう。
とりあえずこのカオスな場所から早く逃げたほうがよさそうだ。歩き出す前に誰かに手をつかまれた。恐る恐る後ろを振り返る。いたのは自分が先ほどまで探していた人だ。
「待ちや、私達を見て見ぬフリして立ち去ろうなんてええ度胸しとるなぁ?」
ふふん、と不敵な笑みを見せてぐっと腕をつかむはやて。身体が動かない。
「は…はやて…、これはちょっと…。」
顔を少し赤くさせてモジモジしているフェイト。はやてを止めようと声をかけるがはやて本人は聞いてない。
「にゃ…にゃははは…。」
同じように顔を赤くさせて頬を掻くなのは。あえて傍観者の立場にまわっているのだろうか?何もしない。
何故かは知らないが顔が熱い。多分自分の顔まで赤くなっているからだろう。何で赤いかは酒を飲んだから…というわけではない。
原因は『今の彼女達』の格好なのだ。大きく肌を露出させて白い皮をふんだんに使っている。腰は尻尾のようなアクセサリにハート型のポーチ。
この装備も知っている。「キリンS」だ。誰がこの三人にこんな装備をさせたか…というとやはり思いつくのははやて。彼女が一番乗り気に見えたからそう思った。
「離せ!離してくれ!俺はっ…生きる!!」
「無視した罰やよ~。」
なんとかこの状態を抜け出そうかと考えてるうちに室内訓練所のドアが開いた。
「やぁ、色々と騒がしいみたいだね。元気みたいでなによりなにより。」
入ってきたのはドクだった。しかし今の装備は彼の普段のイメージとは真逆のものだ。
全身が赤い。そして胸元を大きく露出させたその防具は「海賊Jシリーズ」。そして頭には大きな羽が着いた帽子「ギルドガードロポス紅」を被って上手く顔を隠している。
ピ、と手を軽くあげて挨拶をしてわずかに見える口元は端を釣り上げ八重歯を見せている。
しばらく硬直と沈黙は続く。ドクはその中を歩き、自分達の姿を見ながら壁際に向かう。壁にトン、と寄りかかり腕を組む。
「どうした、続けてもかまわんぞ?」
そしてまた騒ぎ出した。ちなみにアイルーは、しょうがないからここに居候させることにした。


しばらくするとドクのとなりにフェイトが同じように壁に寄りかかる。
「どうしたんだい?」
「あの…一つ質問があるのですが…。」
ドクはしばらく考えてから返答した。
「ふむ。言ってみたまえ。」
フェイトはドクの右手をじっと見つめながら、問う。
「クシャルダオラ…でしたっけ。あの龍のブレスから守ってくれたとき…あなたは何をしたんですか?」
頭に浮かべるのはドクがクシャルダオラのブレスから守ってくれた瞬間。ドクは右手を突き出してなんとか防いでいた。
しかしグローブをつけているとはいえ素手だ。どう考えても素手じゃガードできない。それはお互い良く知っているし、さらにフェイトはドクがブレスを跳ね返す時、
うっすらとだが赤い魔法陣を見たのだ。少し失礼かもしれないが、ただのハンターが魔法を使えるなんて考えられない。
フェイトのどこか刺々しい問いにドクは微笑んだまま。
「今は君のその艶やかな格好に気を取られて答えられそうにないな。また次の機会にしてくれ。」
ドクが手をヒラヒラさせて軽くあしらうように答えるとフェイトは少し顔を赤くした。
「!?ド…ドク!!」
ドクの軽めの笑い声が響く。こちらもこちらで、それなりに騒がしいようだ。


その後、フォワード陣は訓練に行く。というのでハンター陣はそのまま留守番することにした。
そして外も暗くなってきた頃、帰ってきたのはやけにボロボロのスバル達と少し汚れただけのなのはとフェイト。
何があったか大体想像がついてしまったジェイ達は、あぁ、もう慣れてしまったんだなぁと思い始めている。
同時にチャイムが鳴り響いた。夕食の合図らしい。スバルがいきなり元気一杯になって食堂へ向かい、少し呆れたような表情を見せるティアナと苦笑している
エリオとキャロ、なのはとフェイトを見てるとジェイとゼクウは自然に微笑んでいた。ちなみにドクは先ほどのギルドガードロポスを被ってちゃんと食べられるようにしている。
食堂に着き皆がテーブルに向かう。と、エリオがこんなことを質問してきた。
「そういえばジェイさん達ってここに来る前はどんなものを食べていたんですか?」
「「「……う~ん?」」」
三人一緒に首を捻る。どんなもの、と言われると結構答えづらい。こんなもの、と出したら皆はどういう表情をするのだろうか?
三人は顔を見合わせて再び首を捻る。そのうちドクとゼクウが狩りをやっている時のような殺気を放ちながらジェイを睨んでいる。
ジェイが答えろ。そういうことだ。ものすごく嫌そうな顔をしてから渋々説明を始める。あぁ、ポーチの中に一通り食べ物入れてきてよかった。と思った。
「えっと、まずは…これだね。ハンターなら誰しもが食べるであろうものさ。」
ドン、とテーブルに置いたのは肉。骨が両端から突き出たよくありそうでないような肉。実にそのまんまだ。何故か湯気も出ている。
続いて出したのは魚。そして生きている。何で水に入れておかなくても生きているのかと皆は思う。魚はテーブルで跳ねていた。
「これは名前の通り『こんがり肉』。まぁ肉…といってもいろんな肉がある。そっちの豚肉や鶏肉みたいにさ。こいつの焼き加減が非常に難しくてね、
手こずる人も多いみたいだよ。味、焼き加減、すべてが上回る『こんがり肉G』っていうのもある。あとはこっちのサシミウオっていう魚さ。生で食える。あとは…あれかな?」
ジェイが横を向くとスバル達もその方へ向く。そこには先ほどのアイルーが料理を作っており、完成したのは一人で食いきれるのかというほどの量の料理だった。
「あれ…パーティー用…ですかね?」
「いんや、あれでも一人用さ。」
「まぁ、大半残しちゃうんだけどね。」と笑いながら言い足すジェイ。しかし皆は聞いていない。料理と対峙しているのは一人の男性局員。かなりの大食いらしく、
あの量の料理を見ても動じはせず、まるで強敵と会えた喜びをかみ締める戦士のような目をしていた。
両手をパン、と合わして「さぁ、食うぞ~」とか言っていそうな表情をしている。まずは一番手前にある前菜から手を出した。スプーンで口の中へと入れて、
噛み、飲み込む。男性局員はそれから次の料理に手をつけることなく硬直している。そして、腹を抱えて倒れた。
「あ、食材間違えたな。」
「それだけで済ますのっ!?(んですかっ!?)」
「最初のうちはよくあることなんだよ。料理を作る前に二つの食材を選んでさ、その二つの食材を使って料理を作る…んだけど相性が悪いとあんな風になっちゃうのさ。
懐かしいなぁ~。俺も最初のころよくやらかしてたよ。最悪三途の川まで見えちゃうんだってよ…って、あれ?」
気付けばテーブルには三人以外誰もいない。皆、先ほどの男性局員へ駆け寄っていた。結構大事になっている。
三人のため息が、同時に出た。


騒ぎから離れ、ジェイは一足先に自分の部屋に戻った。行くところ全て何か騒ぎが起きていたがこれはこれでいい休暇だなと思っている。
だがジェイは一つ、どうしても理解できないことがあった。
「…あれ?俺のアイテムボックスの中身こんなスッキリしてたっけ?」
そうやってしばらく中身がやけに少なくなったアイテムボックスを見て首を傾げていた。

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最終更新:2008年01月21日 20:00