機動六課に配属された。
お仕着せの制服に身を包み、ずらりと並んだ人の群れ。
見覚えのある顔の幾つかに、若干を気を向けながらはやての言葉が終わりを告げる。
本日行う活動はスターズとライトニングとかいうやつらと共に訓練。
いったいなにをさせるのか。
『ソロソロデキルゾ人間ノクズ』とサースデイに告げられたけど、
いまだにデバイスは届かない。

魔法少女リリカルなのはStrikers-砂塵の鎖―始めるか。

第3話    ひよっこ

「平和と法の守護者、時空管理局の部隊として事件に立ち向かい、
人々を守っていくことが私達の使命であり、為すべきことです。」

機動六課稼動の挨拶で八神はやてが真顔で言ったそんな言葉に噴出しそうになった。
平和?法?
それは食べられるものなのか?
守護者?人々を守る?
随分と上からの傲慢な物言いじゃないか。
正気で言っているのか?
笑わずに堪えるくらいはするとしよう。
事情はどうあれ、今はあれに従うべき身分に俺自身がなってしまったんだから。
はやてが色々言っているが、その言葉が終わるまで
エミリと同じくらいの年頃の桃色頭の女の子と赤髪の男の子の後ろで
肩を震わせずにそのまま耐えることができていたか自信がない。
周囲の拍手にあわせて拍手をして、やがて式は終わった。


「ああ、テスタロッサ。直接会うのは半年振りか。」
「はい、同じ部隊になるのは初めてですね。どうぞよろしくお願いします。」
「こちらのセリフだ。大体、お前は私の直属の上司だぞ。」
「それがまた・・・なんとも落ち着かないんですが・・・・・・。」
「上司と部下だからな。テスタロッサにお前呼ばわりはよくないか。
敬語で喋ったほうがいいか?」
「そういう意地悪はやめてください・・・。いいですよ。『テスタロッサ』で『お前』で・・・。」
「そうさせてもらおう。」

シグナムがふっと笑みを浮かべるのにつられて私も笑い返す。
ほんの少し前は戦いあってた仲なのに、今は上司と部下なんて少し複雑な気分。
ふと思い出したようにシグナムが口を開いた。

「そういえば、なのはが殺されかけたとかリインが以前騒いでいたんだが、
見た限りなのはは元気そうだし、実際どうだったんだ?それに式のとき、
お前が保護者になった子供の後ろに他のやつらとは明らかに違う目のやつがいたが・・・。」


「そういえばお互いの自己紹介はもう済んだ?」
「名前と経験やスキルの確認はしました。」

言いよどむスバルの代わってなのはさんの問いかけに答える。
情報の共有は基本的なことだ。
特に部隊であたしが立つポジション的に・・・。
今日から機動六課の一員となったのだから、精一杯やれることはやっていかねばならない。

「あと、部隊分けとコールサインもです。」

エリオ・モンティアルがそう私の言葉に付け加えた。
しまった。
それも現在分かっている情報じゃないか。
行動する上で重要なものなのに。

「そう。じゃぁ、訓練に入りたいんだけどいいかな?」

気にする様子も無く、振り返りながらそう告げるなのはさんの問いに
『はい』とあたし達4人の威勢のいい声が廊下で響いた。


「なのはさーん。」
服装を着替えた後、一足先に訓練場でみんなの到着を待っているとそんな声が響いた。
視線の向けると笑いながらトランク片手に駆け寄ってくるシャーリー。
その後ろについてきているのは見覚えのある老人とロボットと男の子。
別方向から訓練用の服装に着替えたフォワードの4人が駆けてくる。

「今返したデバイスにはデータ記録用のチップが入っているから、
ちょっとだけ大切に扱ってね。」

フォワードの4人にそう告げるが、4人は手元のデバイスよりも、
当然のように自分達の横へ並んだ見慣れない男の子に視線を向けている。
むしろスバルは膝が震えているし、ティアナの顔は蒼白だ。
どういう順番に紹介しようか。

「ええと、まずは皆の横に並んだ子の自己紹介からしようか。」
「名前ははんた。階級は空曹兼陸曹。部隊はスターズともライトニングとも違って
ハンターというチームになる。コールサインはハンター1。使用スキルについては
デバイス調整の関係で現在はサポートスキルが使えないが他はなんでもやれる。
経験は・・・脊髄・・・たくさんとしか言いようがないな。」
「彼の階級は機動六課で一番低いけれど、六課の中では一番戦闘経験豊富なんだ。
彼のチームであるハンターは皆の手が届かないところをお手伝いする便利屋さんかな。
それと、スバルもティアナもそんなに怖がらないでいいから・・・ね?」

はんた君が物騒な表現を使わないでくれたことにほっとする。
それと思った以上にエリオとキャロが彼を怖がっていないことにも。
むしろエリオ達はスバル達の様子を不思議がっているみたい。

「それと、メカニックのシャーリーから一言。」
「えー、メカニックデザイナー兼通信主任のシャリオ・フィニーノ一等陸士です。
みんなはシャーリーって呼ぶので、みんなもそう呼んでね。みんなのデバイスを改良したり調整したりするので時々訓練を見せてもらったりします。デバイスについての相談があったら遠慮なく言ってね。」
「それと、その隣にいるのがバトー博士と助手のサースデー。」
「んー。メカニックデザイナー主任のバトーだ。こっちは助手のサースデー。
キミ達のデバイスを根本的に設計変更するときなんかはボクの出番だね。
シャーリー同様、暇があれば訓練を見に来るし、
簡単なカスタマイズも暇があればしてあげるよ。
今回はボクのトモダチに新型デバイスを届けたついでだね。」

不気味なくらい静かなバトー博士。
あれ?シャーリーはなんでシャーリーなの?
わたしはバカチンなのに・・・。
後で聞くとしよう。
それは今は置いておいて、まずは訓練を始めよう。

「じゃ、さっそく訓練に入ろうか?」

私の言葉に戸惑いながら返事を返すフォワードの4人。
目の前に広がるなにもない平地の訓練所を見ているせいだろう。
私はシャーリーに声をかけた。


「シャーリー。」
「はーい。」
なのはさんの言葉に返事を返して、私は周囲にディスプレイを展開し操作する。
片手間にここの訓練場の説明を続けながら。
「機動六課自慢の訓練スペース。なのはさん完全監修の陸戦シミュレーター。
ステージセット!」
ディスプレイを指先で押すと、機械の稼動音と共に何も無かった訓練所に
建造物が次々浮き出してくる。
フォワードの4人は驚きの声を上げて呆然とするばかり。
その様子に内心では『やったね』と喜んでいた。
もっとも、はんた君はかけらも動揺しなかったのが残念だったけど。


「ヴィータ、ここにいたか。」
「シグナムか。」
「新人達はさっそくやっているようだな?」
「あぁ。」
「お前は参加しないのか?」
「4人ともまだヨチヨチ歩きのひよっこだ。
あたしも教導を手伝うのはもうちょっと先だな。」
「そうか。」
「それに自分の訓練もしたいしな。あたしは空でなのはを守ってやらないといけねぇ。」
「頼むぞ。」
「あぁ。」

シグナムと新人達を眺めながらそんなやり取りをする。
どれだけ短時間で新人達を使い物になるまで育てられるか。
なのはのことだからどうにかしちまうだろうけどな。
そういえばシャマルの姿が見えないことに気がつき、尋ねようとした矢先、
シグナムが口を開く。

「そういえば『4人』とヴィータは言ったが、もう1人いるぞ?」
「なに!?どこだ!?連絡来てねぇぞ!!」
「いずれにせよ4人じゃなくて5人なことに変わりはない。
それに5人目は相当な使い手のはずだ。なのはの一件もあるしな。」
「なんだよシグナム。なにかあったのか?」
「リインから連絡が来なかったか?なのはがデバイスも無い相手にやられたって。」
「なにーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」


「よしっと。皆聞こえる?」

通信越しのなのはさんに5人が返事を返す。
廃墟となったビルが乱立した訓練場でいったいどんなことをするのか。
機動六課というエリートの集まりな部隊であるだけに気を張り詰めさせる。

「じゃ、さっそくターゲットを出していこうか。まずは軽く8体・・・。」
「動作レベルC、攻撃精度Dってところかしらね。」
「うん。わたし達の仕事は捜索指定ロストロギアの保守管理。
その目的のためにわたし達が戦うことになる相手は・・・・・・これっ!」

なのはさんの言葉と同時に魔方陣が展開され、地面からなにかが転送されてくる。
あれ?
でも、この形って試験のときとほとんど変わらないんじゃ?

「自律行動型の魔道機械。これは近づくと攻撃してくるタイプね。攻撃は結構鋭いよ。
では第1回模擬戦訓練。ミッション目的、逃走するターゲット8体の破壊または捕獲。
15分以内に。」

『はい』と返事をする私達の中で、なのはさんをひどい目にあわせた男はんただけが、
どこか退屈そうな雰囲気を放っていた。
それに使用スキルで『なんでも』なんて言われては逆にどうすればいいのかも困る。
まずは皆がどれだけ動けるのか知るほうが先か。

「それではミッション、スタート。」

なのはさんとシャーリーさんの言葉と同時に8体のターゲットが移動を始めた。


「そういえばバトー博士。はんた君のデバイスっていったいどうなったんですか?
さっきの自己紹介で『なんでも』なんて彼は答えてましたけど。それに魔力適正は?。」
「そう。そうなんですよ。なのはさん。デバイスタイプに革命です。革命なんですよ!!
設計図は見せてもらいましたけど、本当に従来と思想が違うんです。
ぜひともどんな風になったか説明してくださいよ。バトー博士!!」

私の質問にバトー博士よりもシャーリーのほうが物凄い勢いで興奮している。
たしかに『なんでも』なんて普通は答えられない。
それについ最近まで魔法さえ無い世界にいたのがはんた君達だ。
『なんでも』という条件を満たせるデバイスがあるとすれば、闇の書?

「バカチンーーーーーーーーーーーーーーー!!!トモダチをアダナで呼ぶっていいよね。
つまりバカチンのそれはゴキブリにしたのと同じ説明をして欲しいって意味なのかな?」
「う、うん。そうだよ。」

にこっと笑えたか少し自身がない。
何度もバカチン呼ばわりされて我慢しきれず1度この訓練場を全壊させちゃったし。
シャーリーはどこか気の毒そうな目でこっちを見ているし。
うう、シャーリーはどうしてシャーリーなの?
サースデーは横でガチャガチャ身体を鳴らしながら
『ばとー博士ノトモダチノバカチントゴキブリハドウルイ。
ゴキブリハテツノクズヲアツメタニンゲンノクズ。
ダカラゴキブリノドウルイノバカチンモニンゲンノクズ』とか言ってるし。
うん?なんか人間の屑とかわたし言われてない?

「それじゃ簡単に説明するよ。ちゃんと聞いててね。分からなかったら分からないって
遠慮なく素直に言ってくれていいから。それじゃ説明するよ。
とりあえずゴキブリの魔力適正とかいうのはバカチン程度にはあるって分かったんだ。
感覚的にゴキブリは表現が難しかったけど生き汚くてしぶとくっていくら叩いても
も死なないゴキブリだからそれもありかなってボクは思ったんだ。
それで、ボクがゴキブリのために作ってあげたビューティフォーでワンダフォーで
スペシャルかつエクストリームにクソッタレのダッチワイフデバイスは
・・・(中略:専門用語とその10倍以上の聞くに堪えないスラングが3分ほど続く)・・・
ということでオナニーを覚えたサルみたいにガチャコンガチャコンヤりまくって
いくらでも激しいプレイをしてくれていいというファッキンシットなゴキブリ専用の
クソッタレスペシャルダッチワイフデバイスなんだ。少し早口だったかもしれないけど
こんなに簡単にしたんだもの。バカチンは当然分かったよね?」
「ごめん。バトー博士。まったく分からなかったんだけど・・・。」
「わ、私も全然・・・。」
「Sorry, me too.」

わたしの勉強が足りないのかと思う前に、デバイスマイスターのシャーリーと
インテリジェントデバイスのレイジングハートが分からないと答えている。
やっぱり、説明が難しかったんだ。
物凄い表現がたくさんあったけど。
少しだけほっとする。
眉間にしわを寄せたバトー博士がにかっと笑い再び口を開く。

「まったくバカチンもシャーリーもゴキブリと同じでダメなやつだね。
本当なら1日かかる説明をこんなに簡単に説明したのに分からないって言うなんてさ。
でも大丈夫。なんたってボクは天才だからね。
シャーリーやバカチンのウジが湧いた足りない脳味噌でも分かるぐらい
簡単に説明することぐらい朝飯前さ。
それじゃバカチンでも分かるようとても簡単に1つ1つ順番に説明するよ。
1.現在ある5種類のデバイスタイプ全部を継ぎ接ぎでダッチワイフのアルファがAI。
2.ゴキブリが武器と思ったものはなんでも好き勝手絶頂に変形して展開できる。
3.宣言さえすればどんな無茶でも聞いてくれるけど、変形には4秒もかかる。
4.ゴキブリがプレイに使う道具を先に宣言しておくことで変形の予約ができる。
5.バカチンとシャーリーに言われてしかたなく取り付けたサディスト設定搭載。
6.激しくダッチワイフを使うゴキブリのために隕石が直撃しても壊れない親切設計。
7.変形中に何か挟まってもゴキブリらしく噛み砕いて問題なく変形する悪食設計。
8.幾ら小さくしても大きくしても重さはたったの250kg。
9.下から上は苦手だけど上から下なら幾らでも加速して飛べるゴキブリ仕様。
10.カサカサ這いずるゴキブリ専用仕様だからどんな攻撃をしても硬直時間は0秒。
11.ボクの設計した不思議魔方陣で勝手に魔力弾や魔力刃を展開する親切設計。
12.カートリッジが必要になりそうなゴキブリのお気に入り装備はまだオアズケ。
13.今日はまだブーストとユニゾンの効果がついてないし、もっと太る予定。
14.バナナはおやつに含まれない。
どうだい。言い足りない部分が物凄くたくさんあるけど
貧弱で脆弱でウジが湧いた脳味噌のバカチンでも分かるように
ここまで簡単にしてみたんだ。これだけ簡単にしたんだもの。
今度こそ分かったよね?ねぇ、バカチン?」


スバルが追い詰め、エリオが追い込む。
入り組んだこの地形で実力把握も終わっていないとすればそれなりの連携か。
即席でこれなら経験次第でそれなりになれるだろう。
ただ、あの程度の速度で『こいつ早い!!』とか言った気がしたのは聞き間違いか?

「前衛2人!分散しすぎ!ちょっとは後ろのこと考えて!!」
「は、はい。」
「ゴ、ゴメン。」

ティアナとかいう女がなんか言っている。
おいおい、援護射撃はどうした。
後ろのこと考えろっていうなら先に指示しておけ。
むしろ後ろが前衛を援護できる位置にずっといなくていったいどうする?
ここは前衛が突っ込む前か突っ込んで散開したところに
上から戦車砲で榴弾撃ち込むところだろ?
スバルとエリオの連携は作戦じゃなかったのか?
なんで謝る必要がある?
突っ込みどころが多すぎて、内容があまりにも退屈で、どうしたものかと思う。

「キャロ、威力強化お願い。」
「は、はい!!ケリュケイオン。」

キャロが腕を振りぬくと同時に魔方陣が足元に浮かび上がる。
これだけで威力強化できるのか。
随分と便利なものだ。
逆にティアナのほうはなんでさっさと撃たない?
溜めが必要とか言うくらいなら弾幕張って敵を追い込むのに専念して前衛に殺らせろ。
あ、ようやく撃った。
そういえばデリンジャーみたいな形してるな、4連射してるけど。
必殺のつもりで撃っただろうティアナの魔力弾は相手に当たる直前で消える。

「バリア!?」
「違います。フィールド系・・・。」
「魔力が消された!?」

驚く前に動けよ。
スバルは足止めたら蜂の巣にされるから足止めるなよ。
キャロのほうは案外状況の見極めができている。
使えるスキルの違いというやつなのか?
キャロが戦闘スキルを持てばいいハンターになりそうだが・・・。
そういえばキャロの横をなにかがずっと飛んでいるがペットか?

「そう。ガジェットドローンにはちょっとやっかいな性質があるの。攻撃魔力を
かき消すアンチマギリングフィールド-AMF。普通の射撃は通じないし・・・。」

なのはがそんな解説を入れる。
未知の敵に情報収集しながら戦う経験を積ませるつもりならかなり甘いんじゃないか?
とっとと情報を教えてしまうなんて。
スバルが魔力で道を作って追いかけようとする。
魔力を消すって言ったんだから足場が消えるって考えもしないのか?
後先考えろ。

「それにAMFを全開にされると・・・。」

なのはがなにをやらせようとしているか手に取るように分かる。
ただ、これなら経験を積ませる方法としては悪くないか。
痛みと共に身体が覚えたことは決して忘れないのだから。
案の定、道がなくなったスバルがビルのガラスに突っ込んだ。

「飛翔や足場作り、移動系魔法の使用も困難になる。スバル、大丈夫?」
「・・・なんとか。」
「まぁ、訓練中ではみんなのデバイスにちょっと工夫して擬似的に
再現しているだけなんだけどね。でも、現物からデータを取っているし、
かなり本物に近いよ。対抗する方法はいくつかあるよ。どうすればいいか。
素早く考えて素早く動いて!」

「ちびっ子。名前なんてったっけ?」
「キャロであります。」
「手持ちの魔法とそのチビ竜でなんとかなりそうなのある?」

仲間の名前を忘れるって冗談だろ。
数秒前にキャロって呼んでブーストさせただろう。
本気で言っているのか?
・・・・・・ああ、殺そう、この女。
いや、まだまだひよっこだからなんだ。
駆け出しだからなんだ。
今しばらくだけは堪えろ。
堪えるんだ俺。
溢れ出しそうになる殺意を必死に抑える。

「マスター。なのはへマスターの戦闘参加要請をするべきと思われます。
敵位置および地形の把握、その他マスターの要求されると考えられる情報の収集は
完全に完了しております。40秒±10秒以内に完全撃破可能です。要請を。」
「アルファ、今しばらくだけ、堪えよう。」
「了解しました。情報収集および索敵を継続します。」

蘇ったアルファの声に自分を取り戻す。
そう、焦る必要はない。
傍らにアルファがいるのだから。
右腕に握り締める自動ライフルG3A3の形になったアルファに視線をやった。
本来なら存在しないぽこりと不自然にくっついた濃紺の巨大なガラス玉が
アルファの綺麗な目を思い出させる。
アルファが本当に蘇ったという実感で満たされる。
さて、ひよっこ達がなにかをやろうとしているみたいだ。
ただ、ティアナは指示を出しているが、そもそも全員どこにいるか分かっているのか?
ぽんぽん要求しているが。
そもそも、情報管制のスキルは誰も持っていないのか。


「へぇー、みんなよく走りますね。」
「危なっかしくてドキドキだけどね。デバイスのデータ取れそう?」
「いいのが取れてます。4機ともいい子に仕上げますよー。
レイジングハートさんも協力してくださいね。」
「All right.」
「もちろんバトー博士も・・・博士?」

通信の内容からしてもいい感じだと私は思っていたし、
デバイスから送られるデータも問題ない。
なのはさんも悪くないと思っていたのだろう。
しかし、傍らのバトー博士は非常に難しい顔をしていた。

「んー、とりあえずさ。バカチン。いつになったらこの遊びをやめて訓練始めるんだい?
ボクはたしかゴキブリにデバイス渡すついでに訓練を見に来たはずだったんだけどさ。
さっきからゴキブリが暇そうで暇そうでたまらない雰囲気なんだよね。」

言われてみればはんたさんは淡々と走っている。
ティアナとキャロの後ろをひどく淡々と面倒そうに・・・。

「時速150kmや200kmで飛ぶ相手を片手間に撃ちぬけるゴキブリなんだよ。
それよりもうすのろな相手なんだから退屈だと思うんだ。」
「つまり、こういうことかな?このぐらい簡単で欠伸がでるって・・・。」
「なにをいまさらなことを言ってるんだい、バカチン。むしろ、ひよっこ4人が
あんまりにもあんまりで衝動的にどうにかしたくなってるんじゃないかな?
ダッチワイフが蘇ったからだいぶ落ち着いてるだろうけどね。」
「それならどんなふうだとはんた君は喜ぶのかな?」
「んー、ゴキブリのことだから相手を全滅させたひよっこが包囲攻撃されるとか
敵に増援があるとか喜ぶんじゃないかな。対応できる位置にとっくに移動してるけどね。」


「エリオ、橋を切断。地形情報に変更を加えます。
橋の落下により敵4機の2機の撃破を確認。
スバル、近接戦闘による攻撃により1機撃破を確認。
残存勢力5・・・。
キャロ、ペットの火炎により敵3機に機能障害を誘発、
その後これは・・・該当データありません。
突如現れた鎖により機能障害を起こした3機を拘束、捕縛を確認。」
「召還ってあんなこともできるんですね。」
「無機物操作と組み合わせてるねー。なかなか器用だね。」

アルファによって情報が絶え間なく送られてくる傍ら、
通信越しのなのは達の会話が混ざる。
これが訓練か。
おそらく敵の全滅でこの訓練は終わりだろう。
たしかに未熟すぎるひよっこに経験を積ませるにはそれでいいかもしれない。
だが、現実を思い知らせるならもっと過酷にしたらいいだろうに。
例えば8機撃破直後の油断しているところに包囲された形からの連戦とか・・・。
しかし、ファイバースコープと違って直接視界にこういう情報が走るのは新鮮だ。
戦闘の邪魔になるからとウィンドウの表示を嫌ったらこうなったのだが。
今まではメガネ越しみたいな形だったのに、まるで戦車の管制コンピュータである
Cユニットの画面をそのまま視界に取り付けたようで、
あらゆる情報が感覚によるものに加え、アルファが集めたデータによる補正が付随する。
その情報を強制しないアルファのあり方が好ましい。
しかし、パーティ、こっちではチームと言ったか、の意味がないな。
全員が好き勝手に戦って、情報管制もできていないリーダーの気まぐれな指示に
振り回されている。
突出して強いのもいないようだが。
ただ、現在までのエリオ達の行動は貴重な情報だ。
建物を崩すことによる質量攻撃。
身体能力任せの接近戦。
炎による機能障害の誘発。
これらから導き出される結論として基本は向こうの世界の車両型モンスターと大差ない。
同じならば雷と衝撃が特に有効となるが・・・。
該当する装備が瞬時に頭の中に並ぶ。
ああ、あるいは向こうの仲間だったメカニックのミカやキリヤみたいに
相手を分解してもいいかもな。
キリヤならすれ違いざまに分解してみせるだろう。

「ティアナ、特殊弾頭に似た構成の魔力弾により2機の撃破を確認。
敵残存戦力の全滅を確認。周囲に敵影はありません。
訓練開始より訓練所外よりなのは達以外の移動しない勢力2。攻撃しますか?」
「いや、別にいいさ。」

視界にあるのは疲れきって座り込んでいるティアナ。
頼むから寝転がるな。
うかれたスバル。
終わったことにほっとしているエリオとキャロ。
不意打ちがあれば全滅だな。
さぁ、来い!!!!!
来るんだ!!!!
頼むから来てくれ!!!!
敵の増援を期待する。
増援は・・・・・・無い。
ああ、どうして・・・。

「マスター!周囲足場に魔力の収束を確認。6機召還が予測されます。」

音声で伝えながらもアルファはありったけの必要情報を視界にざっと並べてくれる。
脊髄反射で身体が動き出す。
呼び出された直後にフルオートで鉛弾、じゃなくて魔力弾だったな、をぶちこむ。
安易にも程があるほどの位置設定。
おかげで全てがブルズ・アイ(予測射撃)にぴたりとはまる。
相手の損傷率をアルファに表示させながら、
トリガーを引きっぱなしで魔力弾を片っ端からぶち込み、
左腕で殴り飛ばして1機吹き飛ばし、
2機目を変形させずにアルファで殴り飛ばす。
3機目を蹴りとばして、4機目を蜂の巣にし、
5機目は再びアルファで思いっきり殴り飛ばした。
そのまま数発、空中に無駄撃ち。

「アルファ、ミニバルカン。2倍速。」
「了解しました。」

5機目を破壊しながら告げる。
AMF発動前に5機を完全に撃破。
なんであんなに近くに出すかなぁ・・・。
遠距離砲撃とか飽和攻撃してくれることを期待していたのに。
そんな思考を走らせながらも、ハンターとしての習性が
アルファで殴りつけてから放った魔力弾の弾道データを確認する。
なるほど。
向こうと違って湿気、風、大気中物質、バレルの歪み、火薬の燃焼ムラといった
諸々の外的要因全てがなくなるのか。
変形に伴い実に機械らしい向こうの空気が濃密に感じられる稼動音が止んだ。
AMFを全開にしながら慌てて離れようとする6機目のガジェットドローンに向けて、
ただでさえ毎分2000発のミニバルカンが毎分4000発なんていうふざけた連射サイクルで魔力弾を吐き出していく。
向こうだったら絶対にありえないバルカンによるピンポイント射撃。
なるほど、キャロの観察眼は正しかったようだ。
『フィールド系』と言ったからには削れると予測を立ててやってみたが、
ものの見事に削りとり、6機目のガジェットドローンが蜂の巣になる。
キャロの評価を上方修正。
しかし、これじゃまるで遊びだ。
酒場にあるギャンブルマシンだってもう少しマシだろうに。

「6機目の撃破を確認。敵増援ありません。警戒および索的を継続します。」

アルファが機械的にそう告げる。
しかしさすがはバトー博士。
原理は知らないが便利なものだ。
なんせ、持ち替えざるを得ない場面が1つの武器でどうとでもできてしまうのだから。
ああ、でも持ち替えのほうがタイムラグが少ないのか。
4秒・・・。
彼女と殺しあったときなら致命的だな。
なにが起こったかわかっていない顔のひよっこ4人を見ながら、
既に頭はアルファの効率的な運用手段を考え始めていた。

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最終更新:2008年01月20日 09:56