魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
第九話「対面」
「じゃ、よろしく頼むぜ。できるよな?」
「ちょいと時間はかかるけど早めに仕上がるように努力してみるニャ。」
会話するジェイと武器屋のアイルー。彼等の隣にあるテーブルには大きな袋と二本の刀。ジェイは頷くと立ち上がる。
バン、と紙幣をテーブルに叩きつけるように置いていく。札束が三つと小銭が数枚、ジェイはそれを見てちょっと名残惜しそうな顔をしていた。
「まったく、ここに来ても金を払わなきゃならないのかい?」
「商売だからニャ。それにシャーリーさんに設備の使用費も払わなきゃいけないからニャ。」
「ご苦労なことで。」
ドアに向かって歩き、傍らに置いてあった太刀「鬼神斬破刀」を背負うとさっさと部屋から出て行く。このあとは確かミーティングだかなんだかがあるはずだ。
おそらく上からクエストでも受けたのだろうか。どんな相手と戦うのだろう、不安によく似た期待がこの胸を満たす。
歩きながらアイテムポーチの中身を確認して、会議室の前に立つと勢い良く扉を開けた。
会議室に入るとしかめっ面をしているはやてが目に入った。横には同じようなしかめっ面をしたフェイトとなのは。次にドクとゼクウ。
「はやて、これでハンター組揃ったぞ。用件を聞かせてもらおうか?」
「とりあえず、これを見て欲しいんよ。」
ゼクウが口を開くとはやては三枚の紙を取り出し、デスクに置いた。三枚の紙には別々の依頼内容が書かれており、場所もさまざま。
依頼の紙にクリップで留められてあったのはその場所に出現したモンスターの写真。どれもこれも見覚えがあってむしろ懐かしい。さて、どうやって写真撮って生き残れたんだ?
一つは地上本部地下施設に巣食ってしまったモンスターを討伐せよ。のことだ。続いてモンスターの写真に目を通す。
白い身体に伸びる首、目、鼻がないヒルのような不気味な顔を持つ飛竜、「フルフル」。
担当する小隊はライトニング。つまりフェイト達の小隊とともに狩りにいくというわけだ。後ろを向き紙をヒラヒラするとゼクウが頷いてから取る。
「では、このクエストは俺が受けよう。」
「よろしくお願いします。」
「うむ。」
二つ目は保護施設と監獄の防衛と言い終わる前に紙をドクに取られてしまった。代わりにドクが声を出して内容を読み上げる。
そしてそのクエストの紙に留めてあった写真を見ると白い鎧のような甲殻を持った竜が口から熱線を吐いて施設を破壊している場面が写っていた。
こいつは鎧竜、「グラビモス」だ。何故かドクの拳に力が入っているが特に心当たりはないためなにも言わないことにした。
担当小隊はいないらしく、かわりにそこの保護施設で更正プログラムを受けている者達が協力してくれる、と書いてある。
「このクエストは私が受ける。」
「はい、わかりました。」
「……あぁ。」
ドク、何か因縁でもあるのだろうか?
さて、三つ目だ。こいつは…地上本部の周囲に巣食ったモンスターの討伐だ。
写真にはジェイが良く知っている相手が写っていた。橙色と青色のまだら模様をしていたその姿は四年前、雪山で見た飛竜。
ジェイは眉を顰めて写真をじっと睨みつける。どちらにしろ残ったのはこのクエストだから受けなくてはならない。
その相手、轟竜「ティガレックス」。
担当小隊はスターズ。なのは達の部隊、これは何かの因縁というやつだろうか?なのはを見るとやはり表情が暗い。確かヴィータもこの小隊だっけか。
「ということは俺がこのクエストを受けることになるな。」
「よろしく……お願いします。」
「こちらこそ頼む。」
全員の様子を伺ってからはやては立ち上がって口を開く。
「早速で悪いけど、一刻の有余もないんや。出撃するで。」
「「「「「了解……!」」」」」
五人の声が重なり、皆は会議室を出て行った。
会議が終わり数時間後にハンター組の一人、ドクは保護施設に降り立った。
「じゃあがんばってくださいね。ちゃんと、生きててくださいよ?」
「努力はするさ。」
アルトが操縦するヘリがドクを降ろすとプロペラを回し、空中に飛立つ。ヘリを見送り、あたりを見回してみる。
そこは写真で見る景色とはかなり違っていた。半壊した施設に何かで溶かされて穴があいている壁。これもグラビモスの仕業と考える。
おそらく溶けた跡が残る壁はグラビモス自慢の熱線でやられたのだろう。とにかく酷い有様だ。
気付けばドクの前に薄い紫の髪の少女が立っていた。
「あなたがドクさんですか?」
「本名ではないがね。まぁ、そうだ。」
「私は……」
「ふむ、ギンガ・ナカジマでよかったかな?」
「え?どうして私の名を……。」
「ミーティングで名前を聞いた。それだけさ。」
「はぁ……。では、こちらへどうぞ。」
自己紹介というよりかはただの名前の確認をするとドクはさっさと案内された道を歩く。もちろんギンガとは会話せずにただ歩く。
ギンガは時々不信感が溢れた視線でドクを見るがはやてが紹介してくれた人物なのだから何も無いと思った。というか、そう信じたかった。
一方のドクは表情に焦りが混じっている。歩調もギンガよりも速くなっているし辺りを何回も見回している。とある箇所に出ると歩を止めた。
視線の先には七人の少女。その姿を見た瞬間ドクの雰囲気は少しだけ和らいだ。だが少女達の表情は暗い。ドクは少し間をおいてから話しかける。
「やぁ、君等が現地の協力者かい?」
「あなたは……?」
まず最初に声を出したのは隻眼の少女、チンク。チンクもそうだが皆がドクに向ける視線は殺気にもよく似た警戒があらわになっている。
「ここら辺に出現したモンスターを狩りに来たハンターさ。」
「ということは貴方が八神はやての言っていた助っ人?」
「そういうことになるな。しかし、君等は武装していないようだが。」
チンクの隣にいた茶色で長髪の少女、ディエチが次に口を開ける。
「私達は、あくまでここに保護されてる身だから。」
後ろを向き、ギンガを見る。ギンガは「こればかりは……」とどこか辛そうな顔で視線を逸らした。ドクは彼女の言葉を理解した。ここにいる彼女達は保護下に置かれていて武装が
許されていない。たとえグラビモスが攻めてきてこんな状況でもだ。ふと想像してみる。ここにいる魔導士は全滅?見る限り修理しているものしか見当たらない。
「ここの戦力はどうなってるんだ?」
「ほぼ全滅です。」
「では聞こう、ギンガ。モンスターと戦ったときどんな状況だったかね?」
「はい、それは……」
ギンガの口から戦ったときの状況が話される。白い龍がいきなり現れて施設を破壊。口から発せられた熱線により人や壁が溶けて、まさに地獄絵図のようだった。
応戦し、なんとか倒すことに成功したが次に現れたのは白い龍と同じ姿で黒い甲殻をもった龍。恐るべき甲殻の硬さで魔導弾が中々効かずに苦戦。
右目を潰したが怒りが爆発。突然身体から発したガスで付近のものが火だるまになってしまったという。
撤退して今に至る……というわけだ。
一つ気付いた。狩りにいく相手はグラビモス。しかしただのグラビモスではない。黒い甲殻を持ち、かなりの防御力を持つ『亜種』だ。
戦力には期待できない。というよりは一人で戦うことになるのと等しい。……だとしたら?また少女達へ視線を移す。
………ここは一人で戦うしか選択肢はないようだ。
夜、ドクは自室で刀を研いでいた。刀は自分の顔が見えるくらいに、実に美しく、そして切れ味も抜群になるほど研がれていたのだが彼はその行為を止めない。
自分でもわからないが作業をやめようという気になれない。研いでいるのは狩った相手から武具の素材を剥ぎ取る時だけに使用するナイフだったのだが何故か、
彼は研がないといけないような気がしていた。不安を紛らわす…というのも少しだけあるのだが。ライトの明かりが反射するほど光っても、止めない。
刃と砥石が擦れ合う音が部屋の中に響く。
自分が必要ないと言っているのに結局少女達全員と自己紹介するハメになっていろいろと説明していると次第に頭の中に何かが渦巻いていく。
「まぁ、私には関係ないと思いたいがね。」
ヒュン、と投げると数回転、落下して机に刺さる。次にアイテムボックスから自分がよく使用している防具「暁丸・覇」を取り出して装着しはじめる。
右手に籠手をつける前に鉤爪の付いたグローブをつけるのも忘れない。握り拳を作ると指の部分に通っている赤い線が発光、手の甲にある金色の宝石も光り始めた。
アイテムポーチに入れられるだけのアイテムを詰め込み、兜を被ろうとした瞬間ドクは何かを耳にした。
始めは雷鳴かと思った。しかしテンポが一定だ。
重く響く雷鳴によく似た音は近くなる。
途中で何かが崩れ去る音と、唸り声。
ドクは確信する。
「やれやれ、どうやら徹底的に潰さないと気が済まない性質らしいな…!!」
兜を被り、ガンランス「ディープフィッシャー」を取り出すと自動ドアが動く前に思い切り開け、走り出していった。
番外その6「グラビモス」
ふむ、たまにはこのドクが説明するとしよう。
グラビモスは竜盤目 獣脚亜目 重殻竜下目 鎧竜上科 グラビモス科 で別名は鎧竜。
主に火山域に住む大型の飛竜で成長にとともに外見が大きく変化するため、幼体はバサルモスと呼ばれ区別されているのだ。 …変える必要あるのかね?
ほぼ全身が強固で耐熱性に優れた甲殻に守られており、短時間なら溶岩の中を潜行しても大丈夫なほど。便利なものだね。過熱した体を冷ます為に、
新陳代謝の一環として爆炎を体外に吐き出す。実は熱線も、体内に溜まった熱を排出することで形成されるんだ。以上の能力が一段と強い個体は甲殻が黒色化。
バサルモスは毒ガスを噴出するが、こいつは睡眠作用のあるガスを噴出する。どう変わったのかはまだ解明されていないのだが……。ククク、いつか解明してみせるさ。
どうやらバクテリアとの共生のおかげで鉱石までも食料にしてしまうらしいな。そのバクテリアの活性化のため、紅蓮石や爆発性のある火山岩を好んで食す。
原色の甲殻は灰色で亜種は黒…とされているが原種の黒化個体で厳密には亜種とはいわない。ようするにバサルモスからの成長過程で黒くなったというべきかな?
……そういえばどこかの誰かが生身で溶岩の中から出てきたのを見たことがあるぞ。人なのに。
最終更新:2008年01月26日 22:01