魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER

第十話「鎧竜」

唸る轟音と時折広がる爆風。響く金属音と弾かれるような鈍い音。
保護施設だった場所にて狩人ドクと黒鎧竜グラビモスは戦う。
唸りながら迫る尻尾の攻撃をガンランスの大きな盾で防ぎ、砲撃の反動とバックステップで距離をとる。
「やれやれ…!やはりソロはかなり堪えるな…!!」
顎へとつたう汗を手で拭い、構えなおすドク。その表情は苦痛で歪み、汗がにじみ出ている。一方のグラビモスはまだ余裕のようだ。
さすが黒く、硬く、強くなったグラビモス。一筋縄にいかない…というよりかは、下手すると負ける。
そんな相手を一人で狩るということは相応の覚悟と腕とどんなことでも動じず、耐えられる忍耐力が必要。ドクはそのすべてを持っているつもりだったが一つ失敗をした。
左手に握られている銃槍を見て舌打ちをする。その銃槍は「ディープフィッシャー」。もう一段階強化すれば「リヴァイアサン」という最終形態になる。
「君が通常のグラビモスならばガンチャリオットで歓迎したものを…。」
そう呟いたって目の前の相手は黒い。本来の弱点である龍属性が効かないのだ。となると次に効きやすいのは水属性。だからドクはこれを選んできた。
しかし、それが失敗だった。いまさら後悔しても遅い。……だったら?もちろん、それでも狩る。
「さぁ、どちらが倒れるか持久戦(我慢比べ)といこうじゃないか!!」
弾丸をリロードして唸り声を上げる黒鎧竜の元へと、走る。
頭に思い浮かべるは七人の愛娘達の姿。
グラビモスはこちらへと走ってくるのに対し、ドクは急に足を止めて盾を構える。無論ぶつかる両者。盛り上がる地面。
刹那、ドクの右手につけた籠手の隙間から赤い光が漏れ出して一瞬だが魔法陣が展開。グラビモスの巨体を、止めた。
続けて盾で顔を殴る。わずかに怯み、顔面に砲撃を見舞う。至近距離からの砲撃にも関わらず顔は煙を纏うだけで何も効いてないようだ。
顎の攻撃を盾で防ぎ後方へと押し返された。
続けて突進。ドクの二度目の対処は、ためらわず走る。5m…4m…、距離が縮み、ドクが軽く地面を蹴るとスライディング。綺麗にグラビモスの真下をすり抜けた。
ただすり抜けたわけじゃない。槍で腹を斬る。否、甲殻を削ると言ったほうがいいかもしれない。刃は肉を斬らず、鋼鉄のような甲殻を削っていく。
グラビモスは停止。ドクは立ち上がり様子を伺う。やはり効いていない。
「ならば……。」
目を細め、腹部をじっと見つめる。ディープフィッシャーをしまって懐へ潜り込み、腹部を殴る。
魔力も込めていないし特別なものなんて入れてない。ただ殴っただけ。ドクは一点、不自然な部分を見つけた。
「ここか…っ!!」
すばやくディープフィッシャーを取り出して不自然を感じた部分を突き刺す。刃は甲殻のわずかな隙間を通り、肉を刺す。
滴り落ちる血をドクは見逃さない。すかさず砲撃を撃ち込んだ。
さすがに効いたらしくグラビモスは悲痛な咆哮をあげた。しかしこれがガス噴射の引き金となる。
突然身体のいたるところから赤いガスが噴出。ドクの全身を取り巻いた。
吹き飛ぶドク。白衣は完全に燃え尽き、全身から黒い煙が出ている。立ち上がるが身体は震えている所を見ると、かなりのダメージみたいだ。
「ガードしてもこれかね…。思い切り危険じゃないか。だがな…。」
ポーチから回復薬を取り出して一気に飲み干し、空になったビンを投げ捨てる。
続いてガンランスの弾をリロード。グラビモスの突進を防御して動きをとめたところで先ほどの箇所をまた刺す。
今度はただの砲撃じゃない。何か空気が抜けるような音が響いた後、静止。
「私も…引き下がれないのだよっ!!」

爆音とともに「竜撃砲」が放たれる。


「ねぇ、ノーヴェ、あのドクってやつ大丈夫っすかね?」
「アタシに聞くな!くそっ…!」
ドクとの激戦を残っていた施設の一部分の窓から見ているノーヴェとウェンディ。ウェンディは不安そうな表情に対しノーヴェが悔しそうな表情。
戦闘できない歯痒さ、苛立ち。何もかもが混ざり合ってやりきれない気持ちだ。
横を向くとドクの部屋になにやらうごめく影。
ノーヴェは恐る恐る近づく。そして
「何やってる!!」
思い切り開けるとそこには以前自分達が着ていた蒼いボディースーツに身を包んだチンク・セイン・オットー・ディエチ・ディードの五人だった。
「み…皆…!?チンク姉まで…!?」
全員でドクのアイテムボックスから武器を漁っている。頬を掻いて少し唸っているチンクが前に出て理由を話し始めた。
「こういうことをしてはいけないとは思ったのだがな…。私というやつは、やはり見てるだけはどうしても嫌らしい。」
続けてほかの者達も口を開く。
「右に同じ。やっぱり何かお手伝いしないとね。」
「僕も…ほぼ同じ理由かな。」
「何故かは知らないけど、あの人を死なせちゃいけない気がする。」
「後味悪いのは、嫌だから。」
「皆…。」
ノーヴェはウェンディと目を合わせ、二人とも頷く。
「悪いけど、借りるとするか!」
ノーヴェとウェンディもアイテムボックスを漁り、武器を取る。皆自分が扱えそうな武器やアイテムを選んで取る。
理由はただ一つ、「あの人を助ける。」何故こんな考えがあがったのか、と聞けば少女達は「そうしなきゃいけないような気がしたから」と言うだろう。
少女達は誰かに言われてるからでも、自分がそうしたいからでもない、心の奥にある本能に従ってると言うべきだろうか。
チンクが選んだのは己の以前の武器からだろうか。投げナイフ一式。普通の投げナイフから麻痺投げナイフまで。
セインは中々自分に合うものがない、と騒いでいたが片手剣「オデッセイブレイド」で落ち着いた。
オットーも色々と悩んだ末にライトボウガン「繚乱の対弩」。
ディエチは自分のもともとの武器に近いもの。つまりヘヴィボウガン「バストンウォーロック」に決めた。
ディードは以前の戦闘スタイルがツインブレイズ、双剣であるため案の定すぐに決まった。水属性の「ギルドナイトセーバー」。
ウェンディはディエチと同じへヴィボウガンを選ぶ。その名は「ヘビィバスタークラブ」。
ノーヴェはかなり悩む。悩みに悩んで共通点は打撃。ということでハンマー「イカリクラッシャー」に。
七人の少女は皆顔を見合わせて頷き、ドクの部屋から飛び出してドクを助けるために外へと向かう。その途中でギンガとばったり遭遇。
皆顔をゆがめてなんとか突破できないかと考えてるうちにギンガは後ろを向いて予想外の言葉を発した。
「どうしたの?早く行くわよ?」
不敵に笑うギンガの手には相棒「ブリッツキャリバー」が握られ、光っている。
笑顔に変わりギンガの後についていく少女達。外では、激戦が続く。


「ぐ…ぐぅ!?」
吹き飛ばされて施設の瓦礫をぶち抜いて埋もれて、なんとか立ち上がったのはドク。
グラビモスは腹の甲殻を少し失って赤い筋肉を露出させながらもまだ余裕といった面持ちでドクを睨んでいる。
それでもディープフィッシャーの弾丸をリロード。グラビモスに向かっていく。
「おぉぉぉぉぉぉっ!!」
ディープフィッシャーの刃がグラビモスの赤い筋肉に突き刺さり、鮮血が飛び散る。
その瞬間低く構えて巨体から赤いガスが噴出。それも予測していたかのようにドクは盾を前に突き出しながらバックステップ。
再び突撃しようとしたところに黒い鉄球のようなグラビモスの尻尾が衝撃を与え、ドクの体を吹き飛ばした。
地面を転がり壁に叩きつけられて吐血。顔を上げた先には明らかにブレスの体勢に入っているグラビモス。
「右手を……使うか……!?」
右手に手をかけた瞬間ドクの横を影が通り過ぎ、その影は紫の光を射出してグラビモスを怯ませた。
影が離れると同時にまた別の影が通り過ぎる。一つの影は一本の剣で腹を斬り、二つ目の影は巨大な鈍器で顔を叩く。三つ目の影は二本の刃で腹を裂く。
次にナイフがグラビモスの巨体に刺さり、痺れさせて続いて弾の嵐。
収まるとドクの回りには八人の少女。ドクはつい笑みを零し、その笑みを隠すように兜を深く被って顔を見せないようにした。
「ドク、大丈夫ですか?」
一人はリボルバーナックルを装着し、バリアジャケットに身を包んだギンガ。
「まったく、お前も無茶をするんだな。」
フフ、と微笑み麻痺投げナイフを構えたチンク。
「ここはお姉ちゃん達に任せとけ!」
オデッセイブレイドを手で弄び、ウィンクするセイン。
「……撃てた。」
ちょっと意外そうに繚乱の対弩を眺めて、少し嬉しそうにドクのほうへ顔を向けるオットー。
「へ!少しの間、武器借りるぜ。」
イカリクラッシャーを肩で背負い、不敵な笑みを浮かべるノーヴェ。
「これでお手伝いできるかな?」
バストンウォーロックを持ち心配そうにドクを見るディエチ。
「大体の銃はトリガーを引けば撃てるっす!ね?ドク?」
ヘビィバスタークラブを構えて満面の笑みを浮かべるウェンディ。
「ドク、貴方を助けに来ました。」
ギルドナイトセーバーを持って一見無表情だがどこか柔らかい雰囲気を出しているディード。
そんな彼女達を見てドクはまた笑みを零す。兜をこれでもかというぐらい深く被ってなんとか顔を見せないようにし、立ち上がる。
「すまないな。こんな私に付き合ってくれて。」
構えなおしてドクは叫ぶ。
「さぁ、第二ラウンドとしゃれ込もうではないか!!」
そして、少女達とともに走る。
「くっ!背中硬い!!」
「セイン!!ヤツの腹は比較的甲殻が薄い!!そこを狙え!!」
「うぉおおらぁぁぁっ!!」
「GJだノーヴェ!スタンしている間に一斉射撃!!」
「「「了解!!」」」
ナンバーズとギンガの参戦によりなんとか形勢を保ったドク。しかしグラビモスのタフさは尋常ではなく、これでもかと攻撃を加えても身を少し震わせるのみ。
ディープフィッシャーも竜撃砲を撃ちすぎたために少しオーバーヒート気味で本来なら冷却完了の時間を過ぎても蓋は閉まらない。
完全な我慢比べの戦いへと化した。
それでも「魔法」というものが加わっただけで形勢は傾きつつある。あと一押しといったところだ。
しかし形勢もグラビモスの咆哮で見事に変わる。ついにグラビモスが『怒った』のだ。突進の体勢に入り、皆は避けようとするのだが…
「速いっ!?」
突然グラビモスのスピードが上がった。黒い巨体がチンク、セイン、ノーヴェ、ディードを襲う。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
悲鳴を上げて四方八方に吹き飛ぶ四人を見て残りの四人も援護に向かおうとするが今度の矛先はその四人だった。
顔を大きく上に上げて口の中に熱を溜めてから前に突き出し、口から太い熱線が吐かれた。
ちょうど逃げ遅れたウェンディを助けようとしてディエチがが飛び込み足に熱線が当たってしまう。
「あ……あうぅぅぅあぁぁぁぁぁっ!あ…足がぁぁぁぁぁっ!!」
足が黒く焦げている。ギンガは殺気むき出しの目でグラビモスを睨み、突撃。だがグラビモスはブレスの直後。体から赤いガスが。
気付いたときにはもう遅かった。全身が赤いガスに包まれて、数秒後に吹き飛ばされていた。
「うっ……くぅぅ…!!」
壁にもたれ掛かりながらなんとか立ち上がろうとするギンガだが前方には迫る黒い巨影。
そんな中、ドクの中で何かが、弾けた。
巨体が壁もろともギンガを崩そうとする刹那、雄叫びを上げながら男が間に割って入り、赤い魔法陣を展開させて巨体を止めた。
「……!?」
誰もが驚愕する中、ドクはついに兜を投げ捨てた。露になる紫の髪。
目が開かれ、金色の瞳でグラビモスを睨む。
ナンバーズはそろって口を開く。
「ド……ドク…ター?」
”ドクター”と呼ばれた”元”ドクのその男は右手を横に凪ぎ、グラビモスを吹き飛ばした。
どこか貫禄に満ちたその風格と顔でグラビモスと対峙する。しばらくすると自嘲気味に笑い、呟く。
「愛しい娘は更正プログラムを受けていて、もう一方は獄中で暮らしている。だが立派に生を貫いている。
しかし私はどうだ。一部の人間の企みで食物連鎖という極限の中に投げ出されて、そして必死で。でもそのおかげで力を得た。

せっかく力を得たんだ……一度くらい、父親らしく娘を守ったっていいだろう?」


かつて次元犯罪者として名を轟かせた科学者、ジェイル・スカリエッティが、そこに立っていた。

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最終更新:2008年01月30日 22:02