――ここは、ミッドチルダ郊外の、とある自然公園。その、広い広い草原の真っ只中。
 ほんの少し前に、運命のいたずらから出会った、魔導師の親子と、奇妙な旅人の一行は、まだそこにいました。
 陽は、少し傾き始めたみたいです。
  しかし、彼らはまだ離れる気配がありません。
 だって、

「ヴィヴィちゃ、ここだよー」
「えっ、何処どこ、ニジュク?」
「ヴィヴィちゃん、こっちだよー」
「えー、どこなの、サンジュぅ?」

 子供達が、遊ぶことに夢中だから。


 そんな子供達のことを、なのはとクロは、少し離れた所から半ば呆れつつ、でも優しく見守っています。

 今、子供達は鬼ごっこの真っ最中。
 と言っても、
「こんなに草の背が高いと、二人のこと見つけられないよー」
 ヴィヴィオはとうとう、その場にへたり込んでしまいました。少し、ふてくされているみたいです。
 確かに、生えている草の背は高いようですが、それでも、最も高いところでもヴィヴィオの膝から下くらいしかありません。
 でも、
「ヴィヴィちゃ、あいとー」
「ヴィヴィちゃん、がんばー」
 ヴィヴィオからそう離れていないところから、白い双子、――ニジュクとサンジュの声がします。

 ただし、姿は見えませんが。

 もしかしてあの双子は、透明になる力でもあるのでしょうか。――いえいえ。

「二人とも卑怯だよー。体ちっちゃくして、草の中に隠れるんだもぉん」
 ヴィヴィオは口をとがらせて言いました。

 そう、あの双子は体を小さく出来るのです。 何故か、着ている物も小さく出来るのですがね。

「えへへー」
「あそびでもしんけんにやれって、センゆってた」
「だから、しんけんに、つかまらないようにするの」
「だからって、卑怯なものは卑怯なのっ!」
 ちょっと得意げな双子の声に、ムッとなって叫ぶヴィヴィオです。
「わーい、おにさんおこったー」
「にげろ、にげろー」
 双子の声が、ヴィヴィオから離れ始めます。
 ガサガサと、音を立てて離れます。
「こらー、ふたりとも逃げるなーっ!」
 両腕を振り上げて、ヴィヴィオはまた、ニジュクとサンジュを追いかけ始めました。


 そんな子供達の様子を、ベンチくらいの大きさの岩に腰掛けて見守っていた、大人二人。

「やれやれ……」
 と、クロは嘆息し、

「三人とも……」
 なのはは頬に手を当てて苦笑。

「何で、あそこまで元気に」
「本当、走り回れるんだろう」
 ずっと、こんな調子の二人である。

「でも、ま、そうは言うけどよ」
 二人の背後から声がした。

「あの三人がここで思いっきり走り回ってるのって、結構幸運で、幸福な事じゃねぇの?
聞けば、ヴィヴィオちゃんもかなりやばいことに巻き込まれてたって話だし、
うちの二匹だって、下手すりゃあの屋敷でミイラになってたかも知れないしな」

 それは、まだてるてる坊主にされている、センの声だった。
 クロとなのはが、子供達について、その子達を見守りながら話しているのを耳にしての言葉でもあった。
「ものは考えようっていうのかな、俺達は今、結構幸せな光景を、見られてんのかも知れないぜ?」

「……ふむ」
 クロは、右手で帽子の鍔を軽くあげ、
「そうかも、知れませんね」
 なのはは軽く頷いて、
「センにしては良い事を言うね」
「おいおい、いつものことだろ、クロ?」
「でも、本当にそう思いますよ、クロさん」
「……同感です、実は」

 二人と一匹は子供達を、微笑みながら見つめていた。


 そんな時です。

 不意に、とても強く、風が吹きました。

 森が、激しくざわめきます。

「わあっ」
「なになに」
「すごいかぜなの」

 思わず、ポンッ、という音を立てて元に戻った、ニジュクとサンジュ。

 そして、白いものが舞い上がりました。

 それも、たくさん、たくさんです。

「すごい……」   
「しろいもの、いっぱい……」
「おそらに、あがってくの……」

 思わず、ヴィヴィオとニジュクとサンジュは、空を見上げました。

 空に漂う綿毛は、空の蒼さと相まって、子供達にはとても真っ白く見えました――。

【一期一会(作詞・作曲:中島みゆき)】

『見たこともない空の色 見たこともない海の色』

「……タンポポ、かな?」
「えっ、タンポポ?」
「ヴィヴィちゃ?」
「二人とも、初めて見るの?」
「「うんっ」」

『見たこともない野を越えて 見たこともない人に会う』

「タンポポ、ですね」
 クロが呟いた。
「クロさんの世界でも、タンポポってあるんですか」
「ええッ。と言うか、この世界でも、これってタンポポなんだ。ちょっとびっくりだな」

『急いで道をゆく人もあり 泣き泣き 道をゆく人も』

「ぽわぽわ、とんでいくね」
「どこまで、とんでくのかな?」
 双子はぽーっと見惚れています。
「ねえ、ふたりとも」
「「なに、ヴィヴィちゃ?(ちゃん?)」」
「タンポポ、飛ばしてみようよ」

『忘れないよ遠く離れても 短い日々も 浅い縁(えにし)も』

「そうですね、考えてみればびっくりかも」
「世間は狭いと言うけれど、『世界』も案外狭いのかな」
「うーん、……そう考えると、この世界とクロさんの世界って、意外と隣り合わせとか?」
「ふふッ。お互い、気付いてなかっただけだったり?」
「にゃはは。でも、それならそれで、とても素敵なことかも知れないなぁ……」

『忘れないで私のことより あなたの笑顔を 忘れないで』

「クロちゃ、これ、これぇー」
「しろい、ぽわぽわ、みつけたのー」
「ママ、ねぇ、飛ばしっこしよ、タンポポの」
 子供達が、手に手に、小さな小さな綿帽子を持って、ニコニコしながら二人に駆け寄ってきました。

『あなたの笑顔を 忘れないで』

                                       【歌:匿名希望のW・Hさん(女性)】

 さて、そろそろ。

 旅話の続きを、お話しするといたしましょう――。


「(すうっ)……ふぅ~~」

 ニジュクとサンジュの目の前で、ヴィヴィオは綿毛を飛ばすお手本を見せます。

「「うわぁ……」」
 ヴィヴィオの吹きかけた息に乗って、タンポポの子供達は舞い上がりました。
 風は、まだ少し強めに吹いているので、思った以上に高く、高く、舞い上がっていきます。
 先程の光景よりはささやかなものでしたが、ニジュクとサンジュにはやっぱり不思議に満ちた光景です。

「ヴィヴィちゃ、すごぉい」
「しろいぽわぽわ、とんでいくの……」
「えへへ、そうかな♪」
 はにかみ笑顔な、ヴィヴィオです。

でも、二人にも出来るよ」
「そかな?」
「うん」
「できるかな?」
「簡単だよ、ほら、やってみようよ」
 ヴィヴィオは、二人を促します。

「……うんっ」
「わかったの」
 覚悟を決めた双子の顔は、真剣そのものです。タンポポを持つ小さな手に、力がこもってます。

「あの、二人とも、そんなに力まなくても、……あはは」
 なのははそんな二人の様子に、微笑ましく思いながらも、苦笑いを浮かべ、
「ええっと、リラックスだよ、ニジュク、サンジュ?」
 ヴィヴィオはあたふたと双子をなだめます。
「ふふっ、やれやれ」
 そして、白い双子のいつもの様子に、黒い旅人はいつものように肩を軽くすくめた。

「じゃあいくよ、せぇの……」
「「「ふぅ~~~……」」」
 三人の子供達は、一斉に綿帽子に息を吹きかけました。
「「うわぁ……」」

 それに促され、また別のタンポポの子供達が舞い上がります。
 その様子に、双子はやっぱり声を上げました。
 でも、その大きく見開いた目の色は、今までとはちょっと違うかも。

「できた、できた♪」
「あたしたちにも、できたぁ♪」
「ほら、できたでしょ?」
「「うん♪♪」」

 これぞまさしく満面の笑みという笑顔で、ニジュクとサンジュはヴィヴィオにこっくりと頷いたのでした。
 でも、ふとニジュクは思いました。

「ねぇ、クロちゃ?」
「んッ、どうしたんだい、ニジュク?」
「どしてタポポって、しろいのかな?」
「えッ、ああ――」
「あっ、それあたしもおもった」
 サンジュは、手を挙げて、ぴょんぴょんと跳びはねます。
「サンジュもかい? うーん、どうしてだろうねぇ」
 少し困った顔で、クロは眼鏡をかけ直した。

 そんなクロに、なのはが助け船を出す。
「じゃあ、色を付けてみようか、ニジュクちゃん、サンジュちゃん」
「「えっ?」」

 ヴィヴィオはぽんと手を叩いて、
「そうだよ、二人とも、そういうこと出来るんだし」

「あっ」
「そだった」
 そのことを思い出した双子は、傍らにあった綿毛を摘んで、思い思いの色を付けます。

 ニジュクは、
「おはなのあおー」

 サンジュは、
「はっぱのみどりー」

「捻りが無ぇー」

「「セン、うるさいっっ!!」」

 双子の抗議に、今だてるてる坊主のセンは、韜晦して口笛を吹いた。

「いくよ、サンジュ」
「うん。せーの……」
「「ふぅ~~~~……」」

 ――おや?

「とばないの……」
「どうしてかな……」
「もっかい、いくよ」
「うん、ニジュク」
「「せぇの、……ふぅ~~~~」」

 ――うーん。

「やっぱり、とばない」
「なんでかな……」
 双子の顔が、にわかに曇ります。

「「ねぇ、なのちゃ(ちゃん)、なんでかな?」」
 二人は、なのはに尋ねました。

「な、なのちゃん……」
 なのはの顔が、微かに引きつる。

「ママ、なのちゃん……」
 ヴィヴィオは両手で口を押さえて、何かを堪えているみたいです。

「クックク、……おい、クロ、……取り敢えず後で、あの二匹に何か言っとけよ、……クククッ」

 センは忍び笑いを漏らしつつ、傍の樹で手をついて笑いを堪えるクロに言った。

「――二人とも、そう言うことだから、この人のことは、
なのは『さん』と呼んであげなさい。それも礼儀というものだから。良いね」

 ここしばらく、なのはのお世話になることを、クロは双子に、堪えきってから告げた。

「「あいっっ!!」」
 二人は元気よく、手を挙げて答えました。

 それから、なのはに、
「それでね、なのちゃ、……ちがった」
「だめだよニジュク。なのさんて、……あっ」
 やっぱり、呼びにくいのでしょうか?

「にゃはは、――うん、わたしのことは、『なのさん』で良いよ、二人とも」
「いいの?」
「ほんとに?」
「本当だよ」
「ああ、すみません、なのはさん」
 クロは申し訳なさそうに頭を下げた。

「良いんですよ、二人とも色々解ってくれてるみたいだし。で、飛ばないことを尋ねようとしたんだっけ、わたしに?」
「うん」
「なんでだろ」
「うーん、どうしてだろうね……」

 なのはは言葉に詰まる。
 いや、たぶん色を付けたことが原因の一つであろうことは、容易に想像はつく。
 しかし、それだけでは何か今ひとつ説明がつかないような気がする。

 色を付けても、綿毛は綿毛らしくあった。今もそうである。

(飛びづらくはなったんだろうけど、でも、あのふわふわした感じは残ってるし。……飛べ無いなんて、やっぱり無いよね)

 正直、説明する言葉が見つからない。

(うーん、どう言えば良いんだろう……)

 答えに、全く窮してしまった。
 そんななのはの様子に、クロは何も言わずに頷いて、

「それは、きっと」

 声をかけながら、二人に近づく。

「きっと、色を決められてしまったからじゃ、ないのかな」

「いろを?」
「きめられた?」
「どういうこと?」
 ヴィヴィオも興味を持ったようで、身を乗り出してきました。

「うん。もっと正確に言うなら、『勝手に色を決められた』から、と言うべきかも知れない」

 クロは、そう言うと足下にあった別の綿帽子をそっと摘んだ。

 子供達は、ポカンとした顔で、クロを見つめています。

「ほら、彼らはみんな、このように綿のような真っ白い色をしているね」
「うん」
「そだね」
「それは、たぶん」
 クロは、手にした綿帽子を、腫れ物に触るように、優しく撫でた。

「自分で、染まりたい色を見つけたいからじゃないかと、私は思うんだ」
 その綿帽子を見つめる目は、限りなく穏やかで、優しい。

「だから、彼らは真っ白でいたいのさ、旅立つその時が来るまでは、ね」

 子供達は、その言葉を聞いて、何かに気付きそうな顔です。

「たびを、するの、ぽわぽわ?」
「クロちゃんや、あたしたちや、センみたいに?」
「だから、風に乗って、飛んでいこうとするのさ」
「旅を、する……」

 でも、どこかもどかしそうな顔もしているような気がします。
 その時、なのはが、あっ、と小さく声を上げた。

「つまり、ニジュクちゃんとサンジュちゃんが色を付けちゃったことで、
二人の持つ綿帽子さんが、ええっと、その、拗ねちゃった、とか?」

 クロは、「成る程」と微笑みながら頷いて、

「そう言うのも、あるかも知れませんね」
 綿帽子を撫でながら、答えた。

「本当なら、色を決めるのは自分だから」
 撫でながら、なのはを見つめた。

「私は、ニジュクとサンジュの綿帽子が、勝手に色を決められたことで悲しんでいるのじゃないか、
と思ったのですけどね」

 そして、双子に目を落とす。

「旅に出る理由が無くなったから、ね」

 その、クロの言葉に、ニジュクとサンジュはシュンとなりました。

「あたしたちのせい、なんだ」
「ごめんね、ぽわぽわ」
「そこまで気落ちすることもないさ。でも、そうなると、やることは解るよね」
「「うん」」
 頷いて、二人はお互いの綿帽子に指を乗せます。

 付けられた色が、その指にすうっと吸い込まれ、二人の指がそれぞれ青と緑に染まりました。
 それから、二人はクロに綿帽子を預けて、渡されたタオルで手を拭きました。
 そして、改めて渡されます。これで綿帽子も指も元通りの色です。

「よかったね、ぽわぽわ」
「ぽわぽわ、またまっしろだね」

 風が吹きました。綿毛が飛び出せるほどのものではなく、軽く揺れる程度でしたが。

「何か、タンポポ、嬉しそうに見える……」
 それを見て、ヴィヴィオが呟きました。

「気のせいかな?」
「違うよ、ヴィヴィオ」
「ママ?」
「きっと、本当に嬉しいんだよ、この子達は」
「……うん、そうだね、きっとそうだよ」

 仲良し親子は、互いに微笑みながら、頷き合いました。

「じゃあ、そろそろ彼らも旅立たせようか」
「うん、そだね」
「たびさせようね」
「ヴィヴィオもやるよぉ」
「ではでは、わたしも……」

 一匹を除いて、各々が手に手に綿帽子を持ちます。

「みんなー、準備オッケー?」
「うん、良いよ」
「「あいっっ!!」」
「いつでも、良いですよ」

 ちょうどその時、風が吹きました。
 遠くまで飛ばすには、良い風です。

「よーし、じゃあ行くよー。せーの……」
「「「「「ふぅ~~~~~……」」」」」

 五人は、一斉に息を吹きかけました。

 綿毛達が、一斉に飛び立ち、舞い上がって行きます。

「うわぁ……」
 それを見て、サンジュが走り出しました。
「おーい、ぽわぽわぁー、げんきでねー」
 手をふりふり、綿毛達を追いかけます。
「あっ!」
「あたしもっ!」
 つられて、ヴィヴィオとニジュクも駆け出します。
「がんばれぇー、ぽわぽわぁー」
「自分の色、見つけるんだよぉー」
 子供達は、手を振りながら、追いかけていきます。

「おーい、みんなー、あんまり遠くまで行っちゃだめだよぉー。もうすぐ帰るんだしぃー」
 なのはは、苦笑しながら叫んだ。

「ははッ、やれやれ」
 クロは、やはり苦笑しながら、頭を掻いていた。

「それにしても」
 不意に、頭を掻く手を止める。

「ここのタンポポ、花の色は」
「えッ、ええ、種類にもよると思いますけど、大体が黄色じゃないか、と」
「ああ、やっぱりそうでしたか……」
 ふう、と、クロはため息をついた。

「ほらを、吹いちまったな、クロ」
 傍で枝にぶら下げられている、小生意気なてるてる坊主が言った。

「あの、ほら吹き男爵のことを……」
「そのことだけじゃないさセン、私がため息をついたのは」
「あン?」

「もし、仮に、綿毛達の旅が私の言ったような目的のものだったとして、
その行き着く先は、予め決められたものだと知ったら、どう思うのかな、って」

「……成る程。何か、お前らしいや」
「黄色な花しか咲かせられないと知って、彼らは――」

「大丈夫じゃないのかな、思うんですけど」
 なのはが、子供達を見つめつつ、明るく言った。

「確かに、落胆したりするかも知れないけど」
 そして、クロを見つめた。
「受け入れて、別の決意というか、夢を持ったりするんじゃないかな。えと、例えば――」
「例えば?」

「もっと、明るく、目立つような黄色で、咲いてやろう、とか」

「……ふふッ、そう言えば、ほとんどのタンポポって、とても明るい黄色で咲きますよね」
「だから、大丈夫」
 クロに向かって、なのははにっこり笑って、大きく頷いた。

「みんな、そう言う強さを、持っているものだから」
 そう言って、なのはは機動六課で過ごした日々を思い出していた。

(あの子達も、頑張ってるよね、今も)

 そして、クロをしっかりと見据えて言った。

「クロさんも、ですよ」

 その言葉に、かぶっている帽子の鍔を持って、表情を隠すクロ。
 ようやく見える口元は、微かにふるえているようだった。
 やがて、その口元が弓状にしなり、
「なのはさんも、そうなんじゃないですか」 鍔を上げた顔は、にっこりと、優しく笑っていた。
「うーん、どうなんだろ?」
 そう答えたなのはも、にっこりと笑っていた。
「ふふふ……」
「にゃはは……」
 しばらく、笑いあっていた、二人。
「さて、お疲れでしょうから、そろそろわたし達の家にご案内しますね。でも、くつろげるかどうか、ちょっと解らないけど……」
「野宿よりは全くましですよ。泊めていただけるだけで、とても有難いことです」
「うわあ、何か、逆にありがとうございますって言わなきゃ、って気が……」
「いやいや、そんなことは……」
 そして、また笑いあう。

「おーい、そろそろ帰るよー」
 なのはが、綿毛達のことを手を振って見送っていた子供達に、叫んで声をかけた。
「はーいっ!」
「「いま、いくのーーっっ!!」」
 子供達はなのはに向き直って、手を振って答えました。
「ふふっ、やれやれ」
 そう呟いて、クロは樹に立てかけてあった棺桶を背負う。

 陽は、傾きを増していたが、まだ、地平線に沈むまでには、至っていなかった――。


 旅をする、と言うことは。


 常に、希望と絶望が背中合わせのものであることを意識するものなのかも知れません。


 しかしながら、それでも人は、旅する者は、それを続ける。


 その先に何があるのかを知りたくて、続けるのでしょうか。


 それとも、それを敢えて振り切ることが、続ける理由となっているのか。


 もしかしたら、……それらに気付くために、旅を続けるのでしょうか。


                                    『棺担ぎのクロ。リリカル旅話』
                                                 第二章・了




「あー、取り敢えずこの俺の拘束を解け。話は、それからだ」

 あッ、忘れてた。

「ひどッ!」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年01月10日 02:06