魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER

第十一話「新生」

「ドク……ドクター!?」

「スカリエッティ!?」

「お察しの通りだ。しかしまぁ、初めてだな第三ラウンドは。」

黒グラビモスとの激闘でドクの正体が発覚した。
その正体はここ最近何故かミッドチルダから姿を消していた犯罪者ジェイル・スカリエッティ。
ギンガ達の表情にはもちろん驚愕。スカリエッティはそんな彼女達を見向きもせず、守るように立ちグラビモスを睨む。
右手を思い切り握ると発光。魔法陣が出現。

「不完全だから魔力全開は5分12秒5.69…。やってやるさ。」

そう呟いた瞬間スカリエッティの体に衝撃波が走る。体の周りに漂う赤いオーラ。
純粋な身体能力を飛躍的に上昇させる魔法。しかしその魔力は並の量じゃなかった。
短時間の間だが魔法狩人ジェイル・スカリエッティ誕生。赤い軌道を描き、走る。
グラビモスが体勢を立て直し顔を前に向けた瞬間目の前にはスカリエッティの姿。
魔法陣が展開された右手の拳で殴る。その衝撃、ハンマーの一撃の如く。大きく後ろに飛ぶグラビモスの黒い巨体。
スカリエッティの右手から伸びた赤い魔力の線がグラビモスを捕らえ、地面に着くのを許さない。
次に浴びせるは拳の嵐。やっと巨体が地面にたたきつけられたのもつかの間、スカリエッティの踵落としが腹に直撃。腹の甲殻を破壊して再び巨体を、浮かせた。
浮いたグラビモスの顔面に魔力を込めた回し蹴り。蹴られた反対側の頬から赤い閃光が噴出、威力を物語っていた。
スカリエッティの眼光が何か捕らえた。甲殻の隙間から零れる赤い煙、すばやくその巨体を踏み台にして跳躍。距離をとる。

「ふぅ…『以前の』私なら不注意で今のをまともに受けていただろうな…。」

地面に降り立つスカリエッティに向けてグラビモスの怒りの咆哮があがる。
スカリエッティは無言で冷たい眼差しを向けて「来い。」と言っているかのように人差し指をクイ、と曲げる。
怒りのグラビモスの口から放たれるは以前のより大きさと威力を増したブレス。
スカリエッティは一旦魔力を抑え、右腕を前へ突き出す。発動したのはプロテクション。完全に受ける気だ。
続いて発動したのはプロテクション自体を強化させる魔法。赤く展開された大きな魔法陣が光を強める。
ついにブレスとプロテクションが激突。両方とも動じずにそのままの体勢を維持できている。
が、先に動いたのはスカリエッティ。相当な衝撃にも関わらず前に踏み出して加速。ブレスを防御しながら走り出した。

「さぁ、飛べ。」

プロテクションがブレスが小さくなるに連れて次第に形を変え、最後には魔力で生成された大きな塊となっていた。
その大きな塊、大きな球体でグラビモスを殴る。また巨体が吹き飛んだ。

「私は時間にルーズなのでな。早く終わらせてもらう。」

地面に落ちていたディープフィッシャーを拾い、投げた。
まっすぐに飛ぶディープフィッシャーの刃はグラビモスの腹に綺麗に刺さる。
さらにスカリエッティが殴りより深く、腹へと突き刺さった。
グラビモスが悲痛な声を出す前に握りなおし、弾丸を撃ち込む。最後にディープフィッシャーにも魔力をつぎ込むと内部で機械音が響く。

「私の魔力を込めた全力全開、竜撃砲のプレゼントだ。しっかり受け取るといい。」

空気が抜ける音の直後、大爆音。爆風が響き、グラビモスの体を魔力が貫いた。
ズシン、と倒れ地面がわずかに揺れる。それでもグラビモスは立ち上がるが向いた方向はスカリエッティとは正反対。
かなりのスピードで逃げようとするが数秒後、止まる。
スカリエッティの右腕から出現した赤い魔力の線がグラビモスの尻尾をがっちりと捕らえていた。
グイ、と引っ張ると宙に浮きながらスカリエッティの元へと引き戻される。

「眠れ。」

グラビモスの目の前に飛んできたのはスカリエッティが投げたディープフィッシャー。赤い魔力を帯びて鋭さを増している。
ディープフィッシャーは速度を増していくにつれて回転、魔力が螺旋を描く。
大きな咆哮が出る前に深く、深くグラビモスの額の甲殻と筋肉を貫いた。

「やれやれ、残り時間1分か…。危なかったな。」

右手を軽く振り、デバイスに異常はないかをチェック。異常なし、と確認して後ろへ振り向くと誰が投げたか、石が綺麗に当たった。
しゃがみこんで呻き声をあげながら額を押さえる。顔を上げた目の前には自分を睨む少女達。
額に冷や汗が流れた。何しろ睨み方がまるで親の仇を睨むような、そんな感じである。いやまぁ、実際にギンガの親の仇ではあるのだが。

「今までどこいってたんですか?」

ギンガの言葉は非常に冷たい。
私は思う。あぁこれが気まずいってことなのか。と。

「監獄に入ってたら連れ出されて雪山に飛ばされて村の人に救われてハンター始めてしばらく経ってここに戻って…。」
「…かっこ悪い」
「………ストレートすぎないかね?これでも必死だったんだよ。」

彼女達の自分を見る目は変わらない。
いくらスカリエッティといえど気まずい雰囲気を打破する方法なんて持ち合わせてはいない。
というよりも、自分は逆に”してしまう方”なのだ。頭が重く感じる。どう考えても皆を見ても状況は変わらず。

「さて…と。」
「!?」

チンクとギンガに首根っこをつかまれる。表情は笑顔に変わっていた。…確かに笑顔なのだがとてつもなく怖い。妖しい。
周りを見るとほかの皆もそうだ。最後の良心かと思われるディードとオットーはすでに見て見ぬフリ。
スカリエッティは悟る。「もうダメだ。止められない」と。

「お話、たっぷり聞かせてもらいますからね~。」

余談だが、チンクとギンガに引きずられていくスカリエッティの表情は口から何か魂が出るんじゃないかというほどだったが、
どこか懐かしさを感じているような、そんな顔だったという。
空は青い。まだ昼ぐらいだろう。スカリエッティはジェイ達がどうなってるかを思いながら地獄へと引きずられていく。

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最終更新:2008年02月08日 21:35