魔道戦屍リリカル・グレイヴ Brother Of Numbers 第六話「地上本部襲撃(中篇)」


ここは時空管理局地上本部。そこの一角において今まさに熾烈な戦いを繰り広げる二人の少女の姿があった。

投擲専用のダガーナイフが宙を飛び交い付加された特殊能力の効果により爆裂して炎を上げる。
その爆ぜる刃の雨の照準となっているのは左手に鋼の拳を纏い足にローラーブーツを装着した、青き長髪をなびかせる少女ギンガ・ナカジマ。
そしてダガーナイフと固有技能ランブルデトネイターで以ってギンガと交戦するのは戦闘機人ナンバーズ5番チンクである。

「くっ! このままじゃラチが明かないっ!!」

ギンガは苦味の浮かんだ顔でそう漏らしながらチンクの放つダガーナイフを回避する。
本来は自分の得意な接近戦に持ち込み、即座に倒したいところなのだがそれが相対したチンクはそれを容易にさせてくれる相手ではなかった。
寄らば引き、引かば寄る、絶妙に自身の得意とする間合いを保つその戦手筋は正に歴戦と呼ぶにふさわしいものである。
だからと言って簡単に負けるギンガではない、迫るダガーナイフの投擲を紙一重で回避しながら距離を詰めようとローラーブーツ型デバイス、ブリッツキャリバーを駆ける。



そして熱い勝負を繰り広げるチンクとギンガの下に高出力なAMFの波動と共に予期せぬ乱入者が割って入った。

「くうっ!!」
「きゃああっ!!」

突如としてチンクとギンガに目掛けて無数の金属製スパイクが飛来してき、そのあまりに唐突な不意打ちに回避も防御も間に合わず二人はその柔い身体を貫かれた。
チンクは右肩の関節にスパイクを受けるも着ていた高い防御能力を持ったコートのお陰で関節を完全に潰されるという自体は免れる。
だがギンガはそうはいかなかった、高濃度AMF下の影響と先の戦いの影響で脆弱となった彼女のバリアジャケットは受けたスパイクの攻撃を受けて呆気なく貫通を許していた。

「ぐうっ… げほっ! げほっ!」

左膝関節部と右胸部に1本ずつ、そして腹部に3本のスパイクが貫通してギンガは口から夥しい血を吐き、床を赤く染め上げた。
いくら戦闘機人であるギンガといえど生命維持に致命的なまでの損傷を与える過剰殺傷攻撃である。
そしてその攻撃を与えた主が通路の向こうからゆっくりと近づいてきた。


その男の姿がまず第一に与える印象は奇妙以外の何物でもないだろう。
両肩部分に巨大な半球上の装甲を括りつけ、その表面には無数の金属製スパイクが突き出しておりこれこそが先ほどの攻撃の元凶であると容易に想像させる。
あえて言うならばハリネズミとでも言うべき外観、そして逆立てた髪に顔には口部分を覆うマスクをつけていた。
男はまるで道に落ちているゴミでも見るような目で床を這う血まみれのギンガを見下ろし、マスクで覆われた口から言葉を漏らした。

「これが戦闘機人ねぇ~、こんな雑魚じゃあ楽しむ暇もねえぜ」
「貴様……何物だっ!?」

不意打ちで先手を取られたチンクは心中で狼狽しながらも気丈に吼えた。
そして脳裏に様々な憶測を巡らせる。
非殺傷もクソもない攻撃で不意打ちを仕掛けてきたという事はどう考えても管理局の人間ではない。
この地上本部襲撃で局の人間を攻撃するという事、そして自分達を戦闘機人と呼ぶ事から事件の裏を知る勢力でありスカリエッティとは関係ない第三勢力であると推測される。
そして男は余裕を持った悠然とした口調でチンクの質問に答えた。

「めんど臭えが教えてやるぜ、俺の名はマイン・ザ・E・G・マイン。GUN-HO-GUNS最強の男だ!!」






一方その頃、地上本部上層階の一室。そこに管理局局員にして壮大な反逆を企む男、レジアス・ゲイズはいた。
そこは一面が流血の赤に彩られ、朱に染まっていない所を探すのが難しい程に汚れ尽くしている。
そんな場所に立つのは二人の男レジアス・ゲイズと彼に仕える忠実なる死人ティーダ・ランスターである。
レジアスはおもむろに宙にモニターを展開して通信回線を開き副官の顔を映し出した。

「オーリス、そちらの準備はどうだ?」
『既に完了しています、死人魔道師もオーグマンもいつでも出動できます』
「そうか、ではこれから作戦行動の移るぞ。ファンゴラムも一緒に前線へ投入しろ」
『了解しました。ところで……その…ゼストさんはどうなさいましたか?』
「倒したよ、ティーダとワシがな」
『そうですか…』
「まあ、そんな事はどうでも良い。では始めようか……今の歪んだ管理世界を崩壊させる為の戦いを」
『“彼”はどうしますか? 現在待機中ですが』
「チャペルか…あいつにはこの先やってもらう事があるからな、しばらく待機させておけ。それとE・G・マインには引き続き地上本部内の掃討を指示しろ」
『了解です』

そうした会話を終えたレジアスは通信モニターを切り、死人魔道師ティーダを引き連れて部屋を後にした。



そして部屋には屍の如く倒れ付した一人の男だけが残された。
その血に濡れ尽くした男の名はゼスト・グランガイツ、かつての友を止めるべく戦いそして敗れた彼は確実に死に近づきつつあった。

「旦那ぁっ!! 大丈夫か、旦那っ!!!」

レジアスとティーダの去った室内に残されたゼストの懐から、悲痛な叫びと共に融合機アギトが飛び出した。
自身が敗れる事を悟ったゼストによりアギトは敵に見つからぬように彼の懐にか隠されていたのだ。

「なんとか…まだ……息はある…」
「旦那のバカッ! どうして融合しなかったんだよっ!? 融合さえしてたらあんな奴らなんかに…」
「…今…の俺では…融合しても…お前に負担をかける…だけだ。それに…あいつら相手ではお前が危険だった…」
「あたしの事なんて気にしなくたって良いんだっ! 旦那が死んじまったらルールーになんて言えばいいんだよっ!!!」

アギトはその小さな瞳にいっぱいの涙を浮かべながら徐々に死に近づいていくゼストに必死になって治癒魔法をかける。
それが無力で無駄な足掻きと知りながら。





「一体外の状況はどうなっとるん?」

ここは地上本部の一角、警備の為に来ていた機動六課部隊長である八神はやては混乱する状況に苦言を漏らす。
この場に来ていた自分と六課主戦力の一人であるシグナムはデバイスを持たない状況で外との通信が遮断されている為に状況が把握できず戦う術もないまま指を咥えているしかできなかった。
そしてはやては聖王教会の騎士であるカリムとシスターシャッハと共に地上本部内で待機していたのだが、そこに一人の男が現われた。

魔道師らしきバリアジャケットを着た青年を引き連れた中年の管理局高官、レジアス・ゲイズその人である。
突如として武装した魔道師を連れて現われたレジアスにその場に集まった者達はざわめきたつ。
そしてそんな状況でレジアスは唐突に声を張り上げた。

「皆の者、静まれいっ!!」

レジアスの発した怒号に場は静まり返る、彼の発した迫力は有無を言わさぬ威圧感を持っているが故に誰もそれ以上の言葉を発する事はできない。
そしてレジアスの繋げた言葉に空気はさらに冷たく凍りつく事となる。

「これより地上本部はこのワシ、レジアス・ゲイズの管理下に置かれる。そしてこの場に集まった各管理世界の方々は人質となっていただく!」

地上本部の内部警備にデバイスの持込が禁止になっていた理由、はやてはそれを今悟り表情を怒りと後悔に曇らせた。

「では始めよう。今ある秩序を破壊し、このワシが地上に完全なる平和と秩序をもたらす為の崩壊の宴を」

レジアスの狂気に染まり濁った瞳が邪悪な気配をかもし出し、自体は混迷を深める事となる。






レジアスが反逆を叫んでいた頃、時空管理局地上本部の周辺の一角では最強の死人兵士と二人の管理局魔道師が激闘を繰り広げていた。


「アクセルシューター!!」

言葉と共に放たれた大量の誘導弾が桃色の魔力光により宙に残像を残しながら美しい軌跡を描いて飛び交う。
そしてその魔力弾の数々は眼前の死人兵士に向かって正確な誘導操作に従い殺到する。だがその魔力弾の全ては死人の手にした巨大な二丁銃により撃ち落された。
しかし攻撃はこれだけで終わらない。

「ラケーテンハンマー!!」

遠距離攻撃が無駄に終わったと思われた瞬間、少女の声と共にベルカ式槌型アームドデバイスが強烈な近接攻撃を放つ。
死人は即座に背の棺を凄まじい勢いで振り回し、絶大な威力を込めた一撃でアームドデバイスの攻撃に応えた。
轟音が響き、火花が宙に散る、両者の得物が耳障りな金属音を奏で軋みを上げる。
そしてベルカ式アームドデバイスがカートリッジをロードして破壊力を増大させようとした刹那、死人の持つ棺が変形し複数の砲門を少女に向けた。

「うわああっ!!」

瞬間、爆音が響き渡り悲鳴と共に少女の小さな身体が吹き飛ばされる。
それは死人の持つ棺デス・ホーラーの技の一つDooms Rainである。それは複数のマイクロミサイルを発射する遠距離用の攻撃なのだが、死人はその武装を極近接距離に応用したのだ。

「ヴィータちゃん!」

先の誘導弾を放った少女が吹き飛ばされた仲間に声を上げる、死人はその少女の隙を逃すまいと両手に持った巨銃ケルベロスの狙いを定めて無数に銃弾を叩き込んだ。

「くうっ!」

少女は乾いた銃声と共に襲い掛かる銃弾を防御障壁で防ぎ、顔に苦渋に満ちた表情を浮かべる。
彼女は最高クラスの優秀な魔道師であった。
だがリミッターという枷と、場に満ちた高濃度AMFの影響により著しく魔法行使能力を削がれていたが故にその戦闘能力を格段に落としていたのだ。



最強の死人兵士ビヨンド・ザ・グレイヴと機動六課スターズ分隊隊長である高町なのはそしてスターズ副長ヴィータの戦いは熾烈なる様を呈していた。
なのはの放つ誘導弾は悪魔染みた正確な二丁銃の射撃に撃ち落され、砲撃を撃つタイミングも先手を打たれて潰され。
ヴィータの近接戦闘もまた背負った棺桶デス・ホーラーでの格闘戦闘により防がれる。
そしてグレイヴもまた強固ななのは達の防護障壁を上手く貫通させられず、なのはとヴィータの慣れた連携にデス・ホーラーの大技を中々使えずにいたのだった。

戦いは拮抗し、持久戦を彼らに覚悟させたのだがグレイヴがヴィータのラケーテンハンマーに対して行ったカウンターの攻撃により戦況は大きく動いた。
至近距離でデス・ホーラーのDooms Rainによりマイクロミサイルの掃射を放たれたヴィータはその爆炎に防御障壁ごと吹き飛ばされ、気を失って倒れ付したのだ。


内部の炸薬をスカリエッティにより魔力ダメージ設定のエネルギーソースへと変えられていたデス・ホーラーのミサイル弾頭はヴィータを殺すには至ってはいなかった。
その事実だけを確認したなのはは即座にヴィータの救護を諦め、眼前のグレイヴに視線とデバイスを向ける。
一瞬でも隙を見せたら倒されるという認識がなのはに氷のような冷静さを持たせた。
そしてグレイヴもまた1対1という状況に持ち込んだにも関わらず一切の油断も容赦も見せない。

永く闘争と殺しに生きた彼には理解できるのだ、この少女は簡単に屈するほどに弱くないと。

そしてグレイヴとなのはが睨み合うその只中に突如として3体の青白き影が踊りかかった。



「きしゃあああっ!!!」

それは筋肉質な身体に一糸纏わぬ姿をして、鎌のように変形した腕を持つ人間だった。
否、正確には人間のようなモノだった。
その異形の怪物達は一斉にグレイヴとなのは目掛けて襲い掛かってくる。
なのははその異形の敵に迷わず誘導弾を撃ち込み、グレイヴは背のデス・ホーラーを振り回して強烈な打撃を見舞った。
瞬時に繰り出された猛攻に異形は一瞬で倒されて白い結晶へとなり塵と消えた。

「これは……一体…何者なの?」
「……」

結晶となって滅びた未知の敵になのはが思わず声を漏らし、グレイヴは無言のまま塵となった敵の残骸を見つめた。
敵の名は“オーグマン”かつてグレイヴがいた世界で人間を改造した悪魔のような異形の怪物である。


混迷を深める事態はさらなる混沌に彩られる。
そして死人は思う、もうじきこの狂った舞台には容赦ない血の雨と屍の山が加わるだろう事を。

続く。


解説。
「マイン・ザ・E・G・マイン」
ここでは説明する必要ないくらい有名かもだけど一応説明します。
トライガンに登場するGUN-HO-GUNSの一員でミスターハリネズミな外観の男。
全方向に発射可能なスパイクを飛ばします、そして三下臭プンプンですがな。

「オーグマン」
ぶっちゃけて言うとマッパのマッチョ、以上。
青白い身体で腕やらなんやらを鎌だのマシンガンだのロケットランチャーだのに変形させて攻撃してくる。
そして倒されるとガラスのように砕け散って塵と消える、後には何も残らない。
そしてマッパ、そしてマッチョ、なんと言おうとここ重要。

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最終更新:2008年05月24日 19:41