食事を終え、フェイトの安否についての不安などを語り合いながら、マリエルと
シャーリーは中央センターへと戻ってきた。
マリエルと雑談しながら、シャーリーは自分の席の空間モニターを点ける。
何気なく画面下に出ている表示を見たとき、シャーリーの頭の中からマリエルとの
話もフェイトの身の心配も一気に吹き飛んだ。
シャーリーは、猛烈な勢いでキーボードに指を走らせる。
「ど、どうしたの?」
シャーリーの豹変に面食らったマリエルが上ずった声で尋ねると、シャーリーは
黙って画面下に指を示す。
「異質な信号を検知」
その表示を見た途端、マリエルも隣席で作業をしていた職員を突き飛ばして座り、
シャーリーに負けず劣らずの勢いでキーボードに打ち込みを始める。
「な、何すんだよ!」
仕事中にいきなり椅子から叩き落された、三つ目に二つの角が頭に生えた職員が、
長い鈎爪を持つ四つの腕を振り回して抗議するのも構わず、マリエルは検知された
信号と前回の信号の波形図を呼び出して、双方の信号パターンを重ね合わせる。
「信号パターン合致」
マリエルは、次元航行部隊及び地上部隊の配備状況を映している中央の超大型空間
スクリーンに信号の波形図を強制表示させ、自身の空間モニターをセンター内の
スピーカーに直結させて怒鳴った。
「例の敵が、ネットワークに再びクラッキングしてきたわ!!」
石が投げ込まれた水面に広がる波紋のように、センター全体が騒然となった。
技官たちは、マリエルが出した波形パターンを自分の席の空間モニターに表示
させて解析を始め、それ以外の、たまたま用事があってセンターに来ていた
武官・文官は、シャーリーたちの席へ駆けつけて、二人がクラッキングと戦って
いる様子を、息を詰めて見つめる。
野次馬たちを押しのけ、掻き分けながら、ゴリラの体格に潜水帽の形をした
ヘルメットを被ったセンターの当直指揮官が、マリエルとシャーリーの席へと
やって来た。
「トレースルートで調べろ!」
指揮官の命令に、シャーリーはモニターを睨んだまま首を横に振って答えた。
「既に試しました。でも、何度やっても遮断される、こちらの侵入に対して対抗
進化するファイアウォールを持っているみたい」
マリエルが厳しい表情のまま、後を続けて言う。
「何これ!? 適応速度が速すぎる」
中央センターの一階下では端末に張り付いたフレンジーが、マリエルとシャーリー
の奮戦を嘲笑うかのように甲高い電子音を発しながら、クラッキングしたネット
ワークから次々と情報を引き出していた。
新しい空間モニターが開くたびに、管理局、最高法院、元老院の機密ファイルが
次々と表示されていく。
十・百とモニターは際限なく増えて行き、いつしかフレンジーの周囲を球体状に
取り囲んでいた。
その中心で体を揺すり、天を仰ぎながらクラッキングを続けるフレンジーの姿は、
まるで麻薬で酩酊状態になった中毒患者の見る悪夢を思わせる。
銀の魔神 警告:最高国家機密 <セクター7>及び聖王教会法王のみ閲覧可
このファイルのタイトル画像を見た途端、フレンジーの動きがピタッと止まった。
何の知識もない人間からすれば特異なオブジェを絵にしたとしか見えないが、
フレンジーにとっては見慣れたものだ。
ファイルを開き、ページを手繰っていくと、“魔神”の写真が出てくる。
それを見た瞬間、フレンジーは今まで以上に耳障りな、歓喜の叫びとも取れる
機械音を発し、接続ポートに差し込んだニードルを動かす。
すると、「魔神」のファイルが表示されている空間モニターに、ダウンロード
開始を告げるウィンドウが現れた。
それを見たフレンジーは、満足そうに頷くと、再びニードルを操作して新しい
空間モニターを表示させる。
そこには、以下の内容が表示された。
ローカルシステムのエラーを、管理局軍事ネットワークに送信開始。
送信先
○時空管理局本局
管理世界次元航行部隊(第一艦隊~第三艦隊)
管理外世界次元航行部隊(第四艦隊~第七艦隊)
艦隊ステーション「タイコンデロガ」
機動一課(首都・ミッドチルダ・ベルカ自治領担当)
機動二課(管理世界担当)
機動三課(管理外世界担当)
機動四課(特殊作戦担当)
機動五課(管理内外世界緊急展開担当)
センターの超大型空間スクリーンに映る無数のウィンドウの中で、淡々とデータを
表示していたウィンドウが、突然意味不明な文字の羅列を流し始めた。
「マリエル技官!!」
シャーリーは、怒涛の勢いで流れる記号の列を、マリエルの空間モニターに転送する。
二人はしばらくの間無言でキーボードを叩いていたが、突然、マリエルがコンソール
に両手を叩きつけ、当直指揮官に振り向いて怒鳴った。
「ダメだわ! システムの接続を切って!!」
マリエルの言葉に、当直指揮官は仰天して言い返す。
「接続を切るだと!? そんな簡単にできる事じゃないぞ!!」
マリエルは、まるでモニターに手を突っ込んでデータの奔流を引き千切ろうと
するかのように、画面を指差して叫ぶ。
「だったら、出来る人間を急いで呼んできなさいよ! 分かってるの? 管理局の
機密データバンクから情報が盗まれてるのよ!」
「デ・データバンクから!?」
あまりの事に、呆然となった指揮官がオウム返しに答えるのと同時に、シャーリー
がマリエルと指揮官の方を振り向いて大声で言った。
「待って下さい! これ、盗んでるだけじゃなくて何かをネットワークに送信して
いる!
盗みと仕込みを同時にやってるみたいです!」
シャーリーの言葉に我に返った当直指揮官は、空間モニターを開いて絶叫に近い
声で命令を言った。
「大規模セキュリティ事故発生! 中央コンピュータの接続を総て手動で切れ!!
ケーブルを引き抜くんだ!!」
最終更新:2008年02月08日 20:31