魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
第十二話「白影竜」
いきなりだがここは地上本部、地下。
水道管から水滴が滴り落ちる音、駆動する機械の音。そして見える先は闇。
周りは見えないことはないのだが薄暗くてあまり良いとは言えない。
その中を進むフェイト、シグナム、エリオ、キャロとフリードリヒ、アギト。その中に闇に溶けてしまいそうな漆黒の鎧を着た男が一人。
竜によく似た漆黒の体に腕、足にまっすぐ伸びる赤い線が時折発光する。鎧の名は「ドラゴンS」。装着者はゼクウ・ローレン。
あだ名の『親分』に相応しい貫禄を持ち、整った銀髪をオールバックにしている。
「あの…ゼクウさん。」
「何だ。エリオ。」
「今日は兜…つけないんですか?」
「悪いがこの鎧はいわくつきのものでな。」
ちなみに兜は背中の部分にちゃんと装着してある。もしものために。
「じゃあなんでつけてきたんですか?」
「電気が通らない防具がこれしかなかったんだ。」
「え?」
すこし呆然とした表情のエリオ。
そんな彼を見てゼクウはふむ、と唸り考える仕草をする。何故彼が唖然とした表情をしているのか。まずそこから考えよう。
「あぁ、ヤツは電気を操るからなぁ…。そして雷は効かん。」
「「ナンダッテ!?」」
その話を少しだけ聞いていたフェイトも振り返る。今度はゼクウが唖然とする。
そんな表情も少しの間で数秒後ゼクウは申し訳なさそうな顔をし、何度も頷きながらフェイトとエリオから視線を逸らす。
これから狩りにいく相手はフルフルといい、他の飛竜とは明らかに生態が違いすぎるモンスターだ。
退化した目に不気味な口。そして鋭い嗅覚、ブヨブヨしてヌルヌルした皮。今更ながら結構不気味。
…話を戻そう。
「もしかして二人とも、雷主体の魔法を使うのか?」
「「…………」」
二人そろって汗をダラダラ流しながら明後日の方向へと向く。どうやら図星のようだ。
雷が使えないとなると頼りになるのは純粋な攻撃力。この二人なら魔法も使えるし攻撃力ならば補えるだろうとゼクウはあまり抉らないようにしておいた。
時には何も聞かず流すのも優しさになるのである。アギトが頭の上にポスン、と乗りゼクウに質問する。
「じゃあさじゃあさ、そのフルフルってやつは何が弱点なんだ?」
「炎だ。」
「マジで!?」
今度はシグナムとアギトがゼクウを見る。
先ほどの二人とは違いどこか嬉々とした表情で。おそらく彼女達は炎属性主体の魔法を使うのだろう。
あるとないとではそこそこ違ってくる。それなりにあれば、それなりに楽になってくるのである。
弱点を見極めるためには攻撃力と属性のバランスも見極めなければいけない。非常に難しい。
キャロに目を向けると苦笑して少しだけ頷く。ゼクウも同じような表情で返した。そして違和感を感じる。
「僕たちはどうすればむぐっ!?」
エリオの口を手で塞ぎ、先ほどとはまったく違う、真剣な表情であたりを見回す。口に人差し指を添えて「静かにしろ」の仕草。
突然変わった雰囲気に少しだけ驚きながら皆止まり、静かにする。
―――――違和感はすぐにその場にいた全員に襲い掛かってきた。
静かだ。あまりにも静かすぎる。聞こえるのは先ほど言ったような水が落ちる音と機械音。
今はただそれだけだ。
空気がぐにゃぐにゃと気持ち悪いぐらいにぬるい。
そして違和感は音になってやってきた。
―ぴちょん
それは変わらない、水が滴り落ちる音。
―じゅわぁぁ…
それは何かがはじけ、溶ける。まるで酸をかけられたかのように。
―ぐちゅ
それは気持ち悪い、不快な音。
どう言っていいかわからないほどの不快。
―ずりゅ、ずりゅ、ずりゅ
それはさっきの音がこっちに進んでくる音。
皆は体が硬直する。それは緊張故か。はたまた『見えない相手』への恐怖か。
皆は確信する。フルフルという『ヤツ』は”来た”のではなく確かにそこで”待っていた”。
狩りの基本の待ち伏せという、なんら変わりない方法。しかし『ヤツ』の待ち伏せはあまりにも怖くて、不気味で。
アギトの背筋に何かがうごめく。這い回る。
ゆっくりと後ろを振り向けば………赤い壁に白い牙。そう。口だ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ぬんっ!!」
フルフルの口が閉じる前にゼクウが大剣「キングテスカブレイド」を突き出して閉じるのを防ぐ。間一髪でアギトは抜け出しシグナムの肩へと。
天井から降り立つ白い影、フルフル。
耳もない、目もない。その顔にあるのは口だけ。不快な液体音を響かせながら歩く。
数回辺りの臭いを嗅ぐとゼクウがいることを認識。威嚇の咆哮をあげる。
「……来るぞ!」
それぞれの武器を構える。フルフルとの狩りは、始まった。
番外その7「フルフル」
やぁ、皆ちゃんと己の無限の欲望に従っているかね?スカリエッティだ。今日はフルフルについて解説するとしよう。
フルフルは竜盤目 獣脚亜目 稀白竜上科 フルフル科に属する飛竜。
白く目も耳もない不気味なヒルのような頭部を持つ飛竜でな、戦うのは私でも気が引けるくらいだ!
視覚が無いから当然閃光玉が効かんぞ。尻尾をアース代わりにして体中から電気を発するというなんとも驚きな器官を持っている。すごいものだな。
幼体は手も足もなく、他の生物に寄生して過ごす。成長が進むと手足が発達して成体となる。フルフルベビーと呼ばれているぞ。ギルドの言いつけで持って帰ってはいけないのだ。
噂じゃ生物の皮膚を噛み千切って体内に侵入。侵食し一定期間立つと胸から飛び出て……どうもウソくさいな。映画の見すぎだ。映画の見すぎ。とりあえず肉食なのは確かだな。
アイスにすると美味いらしい。食いたくはないがね!
首は柔軟で少しの間なら長く伸ばすことは出来るが、老化が進んで筋力が衰えると形を維持できなくなり、垂れ下がって捕食が出来なくなり死に至る。…する馬鹿は見ないが。
体が赤色の亜種の存在が確認されており、亜種は原種よりも首が長く伸びる。皮膚の性質上、血管の一部が透けて見え、特に亜種の血管は青紫色に見えるが、流血時の色は双方とも赤い。
どうやらこの飛竜のことをエイリアンだかどうだかと表現する輩がいるらしいが…理解し難いな。
最終更新:2008年02月08日 21:49