魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER

第十三話「黒龍伝説」

アギトを飲み込もうとしてその不気味な姿を現した飛竜「フルフル」。
フェイトは写真を通じてみたことはあるがやはり間近で見るとかなり不気味。
キャロ達はまさに未知との遭遇を感じている。体が凍ったかのように動かない。
目のない顔をずっとこちらに向けてきている。そして身を屈め、飛び出した。

「来るぞ!!」

ゼクウの言葉にハッとした皆は四方八方にステップして回避。
フルフルは地面に降り立ち、顔を動かして臭いを探っている。その姿も不気味。
ぐるりとゼクウ達の方に顔を向ける。だが、見ていない。
しかし顔はまっすぐゼクウ達を捉えていた。

「皆…準備はいいか。行くぞ!!」

ゼクウが先陣を切って飛び出した。対するフルフルは咆哮を上げる。
奇怪な声を上げて突進してくるフルフルの巨体を回避、キングテスカブレイドで一番攻撃が入りやすい首の箇所を攻撃。
当たりはしたのだが手ごたえがあまり感じられない。肉質がブヨブヨしているものだから並大抵の攻撃では衝撃を中和されてしまう。
だったら?……手は一つ。『中和できないほどの衝撃を与えればいい』。たったそれだけだ。
絶大な破壊力。それはゼクウが愛用する大剣のメリットの一つ。速さを捨て、その一撃だけに全てを注いだ単純にて奥が深い武器。
腕が光り、鼓動が早くなる。
―一撃は、無防備なその頭に振り下ろされる。

「波ぁっ!!」

刃は肉に抉りこむことはなかったが、頭の内部に振動と衝撃を叩きつけた。
よほどの衝撃だったのか、頭を上げたフルフルは反撃せず、フラフラとよろめいている。
これも極限まで体を鍛え驚くべきほどの体の丈夫さ、力強さを生み出した狩人だからこそ成せる業か。

「おぉぉおぉぉぉぉぉぉっ!!」

続いて振り下ろされたのはエリオのストラーダ。
細身の刀身がブヨブヨの皮に傷をつける。それだけで皮と肉を切り裂くことは敵わなかった。
エリオはスピード主体の戦闘スタイルでおまけにフルフルには電気も通じない。
ガジェットや今まで戦ってきた敵とは何もかもが違いすぎる。そして、調子がどこかで狂わされる。
エリオはらしくない舌打ちをしてフルフルを見据える。
と、ここでやっとフルフルは動き出した。数回、エリオの方に足踏み。すると急に二歩踏み出して首を突き出した。

「伸びたっ……!?」
「エリオ!!」

フルフルの首が伸び、エリオを捕らえようと迫る。
しかしエリオは跳んで首にストラーダを刺した。肉を切り裂くという不快感がどうしても拭えないが今はそれどころではない。
ともかくこれでちょうどちゃんとした攻撃となったわけだ。すばやく距離を取り、離れた場所へ着地。

「はぁぁぁっ!」

そして次はフェイトのハーケンスラッシュが縮みきってないフルフルの首に直撃した。軽く悲鳴に似た泣き声を上げる。
次に飛び出すのは先ほどの動作の間にアギトとユニゾンしたシグナム。
手にするレヴァンティンにはすでに炎が纏っていた。

「飛竜一閃!」

フルフルを襲うは放たれた業火。さすが弱点属性の攻撃だからか、ダメージが大きいように見える。
必死になってのた打ち回り火を消そうとしている。
だが、そのフルフルに追い討ちが。

「フリード!ブラストフレア!」
「キュクルー!」

火達磨になって暴れるフルフル。壁に体を打ちつけ、のた打ち回り。
火を消そうとしている姿を見ていると何故かこちらまで顔を歪めてしまう。胸の中には不快感。
しばらくすると体のあちこちが黒くなったフルフルが立ち上がり、白い吐息を漏らす。

「オゴォォォォォォォアァァァァァァァァァ!!」

辺りに響くのは大音量の咆哮。
その音量は、大きすぎる。そして長い。その場にいた全員が耳を塞いだ。
しかし耳をふさいでも少しも音量は下がる気配はなく、結局は塞いでも塞がなくても変わらないんじゃないか、とまで思い始めた。
目を開けるとゆらぁり、ゆらりと迫り来る巨体。キャロとフリード以外、皆急いで武器を構えて飛び出すが、それが命取り。
尻尾の先が突然広がり地面に繋げ、自分は低く構える。ゼクウはその動作を知っているため止まろうと思ったが、遅かった。
体中から蒼白い光が放たれる。フルフルの攻撃の中で危険な攻撃に分類される放電。稲妻が体から発せられる。
悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。

「み……皆……」

助けようと動き出したキャロとフリードの方へとフルフルの顔が向く。
口の中には先ほどよりも蒼白い光が溜まる。他の皆は電撃を直撃して、麻痺していた。つまり今のキャロは無防備。
雷のブレスを吐いた。が、速度は遅くそんなに大きくもないため避けようとした。
刹那、そのブレスが三つに分かれて一つがキャロの体に直撃。

「あ…あっ…ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

突然体中を駆け巡る言いようの無い痛み。後から襲う痺れ。
今まで味わったことのない痛みに目には涙が溢れ、麻痺で体がピクン、ピクンと痙攣している。
皆が自分の名前を叫ぶが聞こえない。感じるのは痛みのみ。
ゆらりとフルフルがキャロに近づき、そこに横たわるキャロの存在を確かめるべく臭いを探る。
時折滴り落ちる酸性の唾液がバリアジャケットをほんの少し溶かした。
皆は動けない。だが、一人の男は違う。

「今この時に使わなくて……いつ使うんだ…。」

フェイト達と同じように麻痺で動けないはずなのに、手が動く。鎧の背中に手をかける。

「今一度…俺は狂おうじゃないか…。」

取り出したのは竜を模した形の兜。それをゆっくりと、頭に被る。
被ると、力が抜けてしばらく停止した。
フルフルがキャロの小さな体を飲み込もうとした時、大きな衝動が辺りを駆け巡る。
同時に響く、男の咆哮。

「おぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

男、ゼクウの咆哮は普段の彼の声とは違っていた。それはまさに竜の咆哮……否、
ゼクウと竜の咆哮が重なって響いていたのだ。容姿は、全身漆黒の竜の如き鎧。「ドラゴンS」のフル装備。

―数多の飛竜を駆遂せし時 伝説は蘇らん
「でぇぇえぇぇぇぇいっ!!」
キングテスカブレイドを”片手で”振りかざし、フルフルを吹き飛ばした。かなり先へ、そして壁へ。

―数多の肉を裂き 骨を砕き 血を啜った時 彼の者は現れん
「つおおおおおおおおお!!」
壁に叩きつけられても尚、キングテスカブレイドで斬りつけ…否、殴りつけると言った方が正しいだろうか。
鈍い音が辺りに響く。壁が破れ、壁の向こう側にフルフルが飛ばされても、追う。

―その者の名は 宿命の戦い その者の名は 避けられぬ死 
喉あらば叫べ
 耳あらば聞け
  心あらば祈れ
「でぃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ヒーローというにはあまりにも禍々しく、悪というにはあまりにもらしくなくて。
だったら今目の前にいるのは誰なのか。

―天と地を覆い尽くす 彼の者の名を
「我………断つ……!!」
キングテスカブレイドの刀身から業火があふれ出し、包む。
狂った狩人と化したゼクウの辺りには魔力とは違う言いようの無いオーラ。
低く呻き声を上げるフルフルのその巨体、その上半身、そしてその首に地獄の業火を振り下ろした。…一つの命が、散った。
「ハァ…ハァ…オォォォォォォォォォォォォォッ!!」
気高く吼えるゼクウを見て皆は確信する。今フルフルを狩ったのは竜。漆黒の体を持つ、黒龍。


             彼の者の名は ミラボレアス


フェイト達の胸に渦巻くのは恐怖か、それ以外の何かか。
麻痺が解けたのも忘れゼクウの戦いに見入っていた。これが狩人の戦い方か、と。
刹那、崩れ落ちるゼクウ。

「ゼクウさんっ!」

先ほど感じていた何かを忘れゼクウへと駆け寄り、急いで容態を確かめるべく顔を見る。
やけにだるそうな顔をして苦笑していた。それ以外おかしいところは見当たらない。
数回咳をしてから何事もなかったかのように立ち上がると兜を拾い、何事もなかったかのように話しかける。

「すまないな、俺としたことがヤケになってしまったらしい。さ、報告してさっさと合流しよう。」

いつもどおりの笑みを浮かべ、いつもどおりの態度で接する。
最後まで不信感に思いつつも本部に戻ることにした。ちゃんと終わったらシャマルに診てもらおうと。
ゼクウは血が付いた手の平を隠しながら、皆の隣を歩く。
いきなり後の話になるが、シャマルに診てもらったは診てもらったのだが何も異常は無かったという。
ゼクウ・ローレン。ジェイ、スカリエッティの三人の中で唯一『黒い伝説』と戦い、勝利した男。

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最終更新:2008年02月11日 21:44