プロローグ
11月27日  2030時(現地時間)
イギリス  ロンドン郊外

ロンドン郊外にある大きな館。
ミスリル創始者であるマロリー伯爵の館である。

「それで今日は何の用だ?」

客間で旧友と会っているマロリー卿が言う。
旧友―――長い付き合いだがどこで何をしているか、いまいち分からない友の髪は
もう自分と同じように白くなっている。
その旧友の後ろに護衛として二人の黒髪の男が控えている。

「何、個人的な頼みがあるんだ・・・」

「個人的な頼み?」

マロリー卿が怪訝そうに聞き返す。

「・・・ミスリルの部隊を貸して欲しい。」

「馬鹿な。我々ミスリルは国際紛争の火消し役だ。ごく個人的なことでは
 動かすことはできない。それは出資者であるお前もよく分かってるはずだ。」

取り付く島もなくマロリー卿は断る。しかし久しぶり尋ねて来た旧友は続ける。

「なんらかの組織が日本で作戦を起こすという情報があるのは
 マロリー、お前も知っているだろう。この頼みはそれと関係しているんだ。」

旧友の言葉にわずかに目を細め、マロリーは黙る。なぜそのことを知っているのか?
もう二十年以上の付き合いになるが、この旧友の得体の知れなさは相変わらずである。
そして30秒ほど考え込み答えた。

「分かった。ちょうど日本に常駐している作戦部のエージェントを知っている。
 しかし、情報の出所が不明な点を考慮して派遣できるのは少人数になる。
 何かの陽動の可能性もあるといかんのでな。」

マロリー卿は自分の人を見る目を信じて見ることにし
先日、ミスリル上層部の前で啖呵を切った若い傭兵を思い出した。
そうして、海鳴市に戦争馬鹿が派遣されることが決定された。

11月31日  1710時
東京都   陣代高校生徒会室

授業が終わり特に生徒会の仕事もなく家に帰っても暇なときは
生徒会のメンバーはここで好きなことをして時間を潰す。
かなめも特にすることがないらしく、生徒会室の備品であるテレビで再放送のドラマを見ている。
宗介も机で書類を作成していた。香港での事件後に上層部と掛け合った契約内容の変更についてのだ。
ちょうどテレビのドラマが後半に差し掛かるときに宗介の携帯が鳴った。

「相良だ。・・・了解、ポイントエコーで合流する。」

そう言って帰り支度を始める宗介にかなめがテレビから視線を外して聞く。

「どこいくのよ、宗介。まさかまた任務じゃないでしょね?単位やばいってのに平気なの?」

「肯定だ。単位は何らかの口利きをしてくれると言っていたので
 長い任務になるかもしれん。なるべく一人で出歩くなよ。」

「長いって、どれくらいになるの?」

「分からん。もしかすると冬休みにまでずれ込むかもしれん。」

 そういって、支度を整え終え宗介は生徒会室を出る

「・・・ホント大丈夫なの?ちゃんと早く帰ってきなさいよ。」

「了解した」

11月31日  1924時
MH-67<ペイブ・メア>汎用ヘリ
コールサイン "ゲーボ9"

「なあ、姐さん。かなめの護衛任務のときに経験したとは言え
 この装備はいくらなんでも過剰じゃねぇか?今回は俺ら3人だけじゃなくて
 情報部の奴も参加するんだろ?」

絵に描いたような金髪碧眼の美形―――クルツ・ウェーバー軍曹は
チームリーダーであるメリッサ・マオ曹長に素直に疑問をぶつける。

「アンタ、少佐の説明に聞いてなかったの。情報部の援軍と言ってもたった一人だけなのよ。
 私たちが選ばれたのもかなめの護衛任務の経験があったからでしょうね。」

「しかしねぇ、一回やったとは言えASを持って来るのは、やっぱりやりすぎだろ。」

クルツは自分がやりすぎと称した装備―――ASを見る。
それは一見、華奢そうに見えるが力強い人型をしていて装甲板と頭部は丸く
ブレードアンテナが伸びていた。ミスリルが所有している第三世代ASのM9である。
確かに過剰と言えば過剰かもしれないが・・・

「この少人数でやるなら不可視型ECSを搭載したASのセンサーと火力がいるわよ。」

「そういうもんかね・・・おい、ソースケ何してるんだ?」

クルツは興味が失せたらしく、宗介のほうを向く。

「契約内容の変更に必要な書類の確認だ。学校に通えるように最大限の便宜を図ってくれるそうだ。」

「本当に契約の変更するのかよ。俺もあやかりてーな。」

「ならばお前も上層部に掛け合ってみるか?」

さらっと宗介は恐ろしいことを口にする。クルツはそれを聞いて即答した。

「いや、止めとくぜ。そのままクビになりそうだし。それにしても今回の任務、お前はどう思う?」

マオにぶつけた質問をクルツは宗介にも聞いてみる。

「任務の目的が不透明で人員が少ないのは、いつものことだ。早く終了して欲しいとは思うが」

「そうじゃなくて、今回の護衛対象だよ。まだ九歳の女の子とその親戚だぜ?
 この娘たちもかなめの同類なのかね。」

宗介は少し考え込み返答する

「資料にはウィスパードやそれに類する単語はなかった。ただこの娘と親戚が
 何らかの組織に狙われている可能性があるから最大一ヶ月間護衛せよというだけだ。」

「ウィスパードでもないのに九歳の子供が狙われる理由ね・・・。防衛省に紛れ込んでる
 スパイの名前でも知ってしまったのかね~。」

「それは分からん、ただ一ヶ月護衛すればいいと言うのだから時間が解決する類のものなのかもしれん。」

それを聞いてクルツは、もう一度資料に目を通す。
――――――――八神はやてとその親類たち
それが今回の護衛対象である。

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最終更新:2007年08月14日 12:02