白き騎士と紫の少女


「…本当に、人っ子1人いる気配がないな…」

頼りない街灯が照らす街を、枢木スザクは1人で歩いていた。
人も、動物も、他の参加者さえも見えない、薄暗闇の中。
それが一層、彼の中の苛立ちを掻き立てる。

「こんな所で、こんなゲームのような殺し合いをしている場合じゃないのに…!」

苦々しげに呟き、道端の小石を蹴った。

彼には為すべきことがある。
あるテロリストを殺すこと。
自分の大切な人をいいように利用し、挙げ句手にかけた、あのフルフェイスの仮面の男を打倒すること。

たとえその中身が――自分の唯一無二の親友だったとしても。

スザクは皇女コーネリア・リ・ブリタニアの命を受けて、男を討伐するために愛機ランスロットで神根島へと上陸した。
そしてそこで突然意識を失い、気が付けばあのふざけた爆発ショーだ。
故に、彼はまだランスロット用の白いパイロットスーツ姿のまま。
そしてその手には、二振りの短剣が握られていた。
太さも形も、猛獣の骨のようなもの。
細かな刃が突き出している辺りは、むしろ剣というよりはノコギリのようだ。
本当にこんな構造で切断力があるのか、と疑いたくなる外見。
しかしそれは杞憂だ。
手近なアスファルトで試し切りをしていたところ、十分な切れ味を確保できた。

「…さて…これからどうするか…」

スザクは独りごちる。
大まかな答えは既に分かりきったことだ。
適当な建築物を見つけ、そこで夜をやり過ごす。
この暗闇の中でうろつき回るのは自殺行為だ。敵対意識を持った存在への対応が遅れるし、戦闘もままならない。
何より、移動時間が長くなれば、消耗も増す。
軍人ならば当然の判断。

「問題は…どの建物にすべきか、だな」

できれば飲食店がいい。
水回りがある以上、渇きを満たすことには事足りる。更に、何かしらの食料があれば儲けたものだ。

「…あそこにするか」

ふと、彼の目に止まったのは、ハカランダと看板に書かれた喫茶店。
他に条件を満たした建築物は見当たらない。ならば、そこにしよう。
そう決めたスザクは喫茶店の扉へ近寄ると、細心の注意を払い、ドアを開け、中に入る。

「っ!?」

そこには、先客がいた。

しまった。
内心で舌打ちしながらも、スザクは手にした双剣を逆手に構える。
もしも相手が仕掛けてくるのなら、戦うことになるだろう。

「な…何よ、アンタッ…!?」

震えた少女の声がした。
椅子の陰に隠れた少女は、紫の髪をツインテールにしている。
小柄だが、顔立ちからして、恐らく年齢はスザクよりも1つか2つ上だろう。
そしてその顔は――

「…どうやら、敵じゃないみたいですね」

安堵しながら、スザクは双剣を引く。
彼女の顔は、恐怖と悲しみの涙でぐちゃぐちゃに濡れている。そもそも、最初の反応からして戦意が感じられない。

「落ち着いて」

故に、スザクは穏やかに声をかけ、歩み寄った。

「僕は枢木スザク。17です。…貴方は?」

相手を落ち着かせるため、まずは名を名乗る。
向こうもスザクの態度にある程度警戒を解いたのか、その名前を名乗り返す。

「…柊、かがみ…高3よ」
「かがみさん…ですね」

にこやかに笑うと、スザクは適当な椅子に座り、背負ったデイバッグをカウンターに置く。

「僕は敵ではありません」

それから開口一番にそう言った。
そして椅子に手をかけ、座るよう促す。
他に取るべき方法もなく、かがみはそのまま座った。

「…自衛の手段は?」

座ったかがみに、スザクはそう問いかける。
知っておいて損はない。仮に彼女が敵に回ったことを考えても、これからこうして会話をするにも。

「全然ないわよ…変なベルトぐらいしか、持ってないし…」

かがみが弱々しく言葉を紡ぐ。
この手の経験のある者ならば、自分の無力を示す情報は死んでも言わない。
しかし、そこはそこ。かがみは一般人だ。あっさりと情報を漏らしてしまう。
いずれにせよ、このまま放っておくのはあまりに危険だ。ここから追い出すのも気が引ける。

「僕と…一緒に行動しませんか?」

故に、スザクはそう提案した。

「えっ…?」

目の前のかがみは面食らったような表情をしている。
突拍子もない言い方だな、とスザクも自覚していた。
しかし、彼にはこの少女を放ってはおけない。
スザクはお人好しだから。


やがて2人は、それぞれの情報や立場を知るために、いくつか言葉を重ねる。
かがみが拒否の姿勢を示さなかったのは幸いだった。
もっとも、彼女の精神状態からして、自ら救いの手を手放すことはあり得ないのだが。

「双子の妹さんもいるんですね」
「うん…」

柊つかさ。ぼんやりしたところのある、天然なキャラの妹。
かがみにとって、自分以上に危なっかしい彼女が最大の心配であり、最大の希望でもあった。

「…分かりました。夜が明けたら、まずはつかささんの捜索を第一に行動しましょう」

スザクはそう提案した。
恐らくその選択が、かがみの精神の安定に最も効果的であると信じて。

「…ありがと…」

返ってきたのは、素直な感謝。
ツンデレな傾向があり、警戒心の強い彼女には珍しいことだ。
この殺戮の舞台という状況下で鉢合わせた初見の男――そんな相手にそんな行動を取った。
それほどまでに、かがみは追い詰められていた。

「それじゃあ、ひとまず朝になるまで――」

「朝は来ねぇよ」

「ッ!」

不意に、入り口の方から新たな声が発せられた。
スザクが反射的にそちらを向き、双剣を手に取る。
立っていたのは、冷徹な瞳を輝かせた幼女。
外見年齢とその目――何より、肩に預けたチェーンソーが、異様な違和感を醸し出す。

迂濶だった。

スザクはドアを開けたままにしていた自分を呪う。
これでは外に会話が漏れ、敵をむざむざ呼び寄せかねなかった。
ちょうど、今のように。

「おめーらに朝はねぇ。その前に死ぬ」
「…何故殺したがる」

スザクの目が細められた。
穏やかな瞳は一瞬にして豹変し、冷たいまでの鋭さを放つ。
その落差に、横から見ていたかがみはびくっと震えた。

「でなきゃ死ぬ」

幼女――ヴィータは淡々とそれだけを告げる。

「他に生き残る方法はあるかもしれない」
「ンな面倒、試してられっか」

スザクの言葉にもまるで耳を貸さない。

「…殺すのは、僕だけでいいんだ…」

不意に、ぽつりとスザクが呟いた。

「僕は、他の誰にも殺しをしてほしくはない。僕のようには…なってほしくない」

社会のルールは守るためにある。人殺しは重大な違反。
大切な人を喪うまでのスザクは、そう考えていた。
それが、あっさりと崩された。
たった1人の卑怯者の銃弾によって。
今の自分は最低の人間だ。
故に、誰にもそうなってほしくない。

(何なの、この人…?)

一方のかがみの思考は、再び混乱の渦に落ちた。
スザクの今の心など、彼女は知る由もない。
故に、かがみにとってのスザクは、「優しくて腕っぷしの強い少年」――それだけだった。
それが人殺し?
今の彼はそんなことなどする気はないのに?
訳が分からなかった。

「武装を解除する気は…ないんだな?」

スザクが最後通告をする。

「言われねーでも分かってるんだろ」

ヴィータもまた、殺意で答える。

「…残念だ」

スザクの白衣の身体が躍動した。

【一日目 現時刻AM1:04】
【現在地:D-5 ハカランダ】

【枢木スザク@コードギアス 反目のスバル】
[参戦時間軸]STAGE10途中。神根島上陸直後
[状態]健康
[装備]回式・芥骨(リリカルスクライド//G.U.)
[道具]支給品一式(中身は描写なし)
[思考・状況]
基本 誰にも人殺しをさせず、このゲームを終わらせたい。
1.まずは目の前のあの子を止める
2.かがみさんが巻き込まれないように、気を付けないと…
3.必要な時は…殺すのもやむを得ないか…?

【柊かがみ@なの☆すた】
[参戦時間軸]2話終了後以降。なのは達と仲良くなり始めた頃
[状態]健康・驚き
[装備]特に無し。
[道具]支給品一式・カイザギア一式(カイザフォン除く)@マスカレード
[思考・状況]
基本 誰も殺したく無い。つかさと家に帰りたい。
1.スザク…アンタ、一体何なの…?

【ヴィータ@NANOSING】
[参戦時間軸]幕間。イリスカリオテに所属していた時期
[状態]健康
[装備]大貫さんのチェーンソー@フルメタルまじかる
[道具]支給品一式・ラウズカード(種類・枚数は不明)@リリカルなのはStrikerS+仮面ライダー
[思考・状況]
基本 カトリックの敵の殲滅
1.こいつらは異教徒でも化け物でもなさそうだけど…殺しても構わねーか

005 本編投下順 007

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最終更新:2008年02月19日 21:29