(気に入らねぇな)
絶え間ない剣戟の中、ヴィータは苛立っていた。
無論、優位に立っているのは彼女である。
空を飛べる自分と空を飛べない相手。どちらが有利かは一目瞭然。
少し相手の背丈よりも高い所に浮いているだけで、回避率はぐんと上がる。
スザクの攻撃は、ヴィータの防御にすら届かない。
では、彼女は何が気に食わないのか。
(とんだなまくらじゃねぇか)
矛先は手にしたノコギリもどき。
このチェーンソーとやら、切れ味は普通のノコギリと大して変わらない。
相手の芥骨は、攻撃のとばっちりを受けたアスファルトの表面に爪跡を刻んでいく。
しかし、このチェーンソーで同じ状況になろうと、せいぜい虚しく跳ね返るくらいだろう。
とんだハズレを引いたものだ。武器のスペックは、向こうのほうが遥かに高かった。
(それとも…やっぱコイツか?)
ヴィータの視点は、チェーンソーから伸びた紐に向けられていた。
完全に用途不明の紐。鎖鎌のように使おうにも、細すぎるし短すぎる。
しかしこの紐、よく見れば、くす玉のように引けそうな気がしないでもない。
(何かのスイッチなのか?)
一瞬、思考を張り巡らせる。
引いた途端に爆発する…などといったことはないだろう。設計上、メリットがない。
ならばこのスイッチは、このチェーンソーを強化するものか。さながらカートリッジシステムのように。
(?)
と、スザクの表情が変化した。
どこか申し訳なさそうな瞳。
一瞬のうちにそれは切り替わり、先ほどよりも鋭い視線で、スザクは動き出す。
(馬鹿げてる)
心底嫌気がさす。
殺す気になったのだ。
恐らく殺さず無力化させるのは無理と判断したのだろう。
現に相手は、驚異的な脚力で壁を蹴ると、両の芥骨を同時に振り上げて襲いかかってくる。
しかし、そこまでがよくない。
あの瞳。
殺すことになってすまないとでも言うのか、コイツは。
とんだ甘ちゃんだ。
そんな攻撃に誰が殺されてやるものか。
ヴィータの手が、チェーンソーの紐を引いた。
――ちゅいぃぃぃぃぃぃぃぃんっ。
芥骨と衝突した瞬間。
不意にチェーンソーの刃が唸りを上げた。
「なに…!?」
スザクの目が見開かれる。
今まで満足に使いこなせていなかったチェーンソーが、不意に起動した。
互いの得物が擦れ合い、激しい火花を散らす。
つばぜり合いの状況で、それ自体に意味はない。
しかし重要なのは、この瞬間にできた、スザクの隙。
「なるほど…そういう武器かよ」
ニヤリ、とヴィータの口元が歪んだ。
同時にスザクに襲いかかる、重い圧力。
しまった、と思うよりも早く、彼の身体は道路に叩き落とされていた。
踏み込みの利かない態勢からの反撃を受けたスザクは、背中からアスファルトに突っ込む。
「ぐっ!」
苦悶の声が漏れる。
即座に立ち上がろうとした瞬間。
「よっと」
高速で飛来したヴィータが腹に跨がるようにしてのし掛かり、首筋にチェーンソーを突き立てた。
完全に身動きを封じられた。スザクには打つ手がない。
こんなにも早く終わるのか。
すぐ傍で震えているあの人すら守れず。
また――誰かを助けられずに。
脳裏を横切るのは、ぱあっと広がる桃色の髪と、白いドレス。そして、あの最高の笑顔。
スザクは唇を噛み、ヴィータを視殺せんとするほどの強烈な眼光をぶつける。
一方のヴィータは、ただ冷たい目線を落とすのみ。
これで1人目が死ぬ。それだけのこと。
「じゃあな」
チェーンソーを握る手に、力が込められた。
と、何か胸にぶつかるものがあった。
ヴィータが見ると、ガラスの破片のような物が舞っている。
飛んできた方向にあるのは、あの喫茶店。
「スザク、から…」
かがみの姿があった。
複数のガラスコップを小脇に抱え、恐怖でガチガチに震える身体を必死に動かし、ヴィータを睨み付けている。
であれば、先ほどのガラスは彼女の仕業。
そうだ。
スザクは自分を守るために戦ってくれている。
一方のヴィータは、純粋に自分達の命を奪うために。
守るために戦う人と、殺すために戦う奴。
「…離れなさいよっ…!」
スザクはアイツとは違う。
あんな人殺しとは断じて違う!
「てめぇ…!」
せっかく後回しにしてやったというのに、つけ上がりやがって。
気の短いヴィータの脳は一瞬にして沸騰する。
もう面倒だ。どうせ一撃で終わる。
その大きな瞳にありったけの殺意を宿し、ヴィータが立ち上がる。
「ひ…!」
思わず、腰が抜けた。
かがみがへたりこむと同時に、落ちたコップが次々と落ち、破音を立てる。
やはり自分の勇気など、所詮この程度か。
底を見た気がして、悔しくて、悲しくて。
紫の瞳が涙で滲んだ。
「――一双!」
しかし、かがみは1人ではない。
「!? しまっ…!」
気付いた時には、ヴィータの身体はチェーンソーもろとも、天に打ち上げられていた。
猛獣の骨のような意匠の短剣が叩き込まれる。
「燕返しッ!!!」
ガードはできた。しかし、それに意味などあるものか。
態勢を立て直したスザクの追撃により、今度はヴィータが道路の感触を味わう羽目になった。
強烈な衝撃に、幼い身体はもんどりうって、チェーンソーを傷付ける。
刃はひしゃげ、モーター部分は破壊されてしまった。
「――もういいだろう」
勝利宣言のようなスザクの声が、高らかに響き渡った。
得物を壊された以上、勝ち目はない。
そしてどうやら、スザクに自分を殺すつもりはもうないらしい。
故にヴィータは悠然と立ち上がり、余裕な動作で着衣の汚れをぱんぱんと払う。
「僕達の仲間になる気は…ないだろうな」
「当然。他人に守られっぱなしになる趣味はねぇ」
自分の身は自分で守る。
ヴィータはそう言った。
「そうか…実際、僕も君を守れる余裕はない」
スザクは真剣な表情を崩さずに言う。
残念だが、ここから先、丸腰の少女2人を連れ回すことはできそうにない。
恐らく今の音を聞きつけ、やって来る
参加者もいるだろう。
心は痛むが、ヴィータは足手まといだ。
「なら、勝手にするさ」
それを察してか、ヴィータはスザク達に背を向け、そのまま歩き出す。
かつ、かつ、かつ、と響く靴音。
不意に、少女は振り返ると、スザクへと声をかけた。
「殺そうとしたろ」
思い返されるのは、チェーンソーの電源を入れた時。
研ぎ澄まされた殺気が、優しい瞳に宿った時。
「他人に人を殺させたくない…それでも自分は殺す時には殺す…」
ヴィータの目がそのスザクの目を、真っ向から見据える。
「矛盾の塊だよ、お前」
はっきりと言った。
情けも容赦もなく。
スザクの意志を真っ向から否定した。
「…!」
彼の身体は正直だ。
微かに眉がひそめられ、純白のスーツ越しの肩が震える。
「じゃあな、偽善野郎。せいぜい壊れんなよ」
皮肉たっぷりの捨て台詞を残して、ヴィータは立ち去った。
スザクの心に、大きな動揺を残して。
偽善。
どこまで行っても、所詮自分は偽善者なのか。
自分の正義は、どこまで行っても正義足り得ないのか。
(…俺は…)
【一日目 現時刻AM1:12】
【現在地:D-5 ハカランダ】
【枢木スザク@コードギアス 反目のスバル】
[状態]健康・落ち込み
[装備]回式・芥骨(リリカルスクライド//G.U.)
[道具]支給品一式(中身は描写なし)
[思考・状況]
基本 誰にも人殺しをさせず、このゲームを終わらせたい。
1.とにかくこの場を離れなきゃな
2.…俺は、結局偽善者なのか…
3.ともかく、お互い無事でよかった…かがみさんに感謝しないと[備考]
※「一双燕返し」は、原作で芥骨を用いていたハセヲの技。
技名はスザクの脳裏に何となく浮かんできました。…多分後でかがみにツッコまれます。
柊かがみ@なの☆すた】
[状態]健康
[装備]特に無し。
[道具]支給品一式・カイザギア一式(カイザフォン除く)@マスカレード、500mlペットボトル(水入り)
[思考・状況]
基本 誰も殺したく無い。つかさと家に帰りたい。
1.助かった…
2.スザク…大丈夫かしら…
【ヴィータ@NANOSING】
[状態]健康
[装備]特になし
[道具]支給品一式・ラウズカード(種類・枚数は不明)@リリカルなのはStriker
[思考・状況]
基本 カトリックの敵の殲滅
1.一刻も早くこの場を離れるか
2.アイツ…きっと潰れるな
3.新しい武器がいるな
最終更新:2008年02月15日 23:20