気まぐれイレギュラー
「大変なことになっちゃったな…」
夜風がしみる丘の上。
幾多の世界を旅する漂流者・小狼が、そこにぽつんと立っていた。
「どうやら今回は、記憶の羽根とは関係ないみたいだけど…」
長く果てない次元旅行は、散ってしまった王女さくらの記憶を探す旅。
その旅の道しるべとなるのは、次元の魔女から授かったモコナの役目である。
しかし、今回ここに飛ばされたのは、モコナの力によるものではない。
そもそも、それまでいた世界――ミッドチルダで、管理局の保護下に入ることを了承した直後のことだ。
そんな唐突な転移、あり得はしない。
「…まさか、いきなりあんなことになるなんて…」
否、深刻な問題は別にあった。
沈痛な面持ちで、小狼が呟く。
これまでの旅では、色んなことが起こっていた。
しかし、目の前であんな惨状が起こったことは初めてである。
無残な光景を思い出せば、今でも吐き気がしそうだ。
さて、自分はどう立ち回るか。
仲間はいない。黒鋼とは、この広大なフィールドへ飛ばされた際に離ればなれになってしまった。
頼れるものは自分だけ。
しかし、それを頼って何をする?
容赦なく他者を踏み台にする殺人鬼の道? あるかどうか分からない、皆が助かる方法を探す夢想論者の道?
「殺したくはないけれど…」
されど、どうしていいかは分からない。
殺さないとして…それからどのようにすればいいのか。具体的なビジョンが見えてこなかった。
「…そうだ、支給品…」
言いながら、小狼はデイバッグを地面に下ろす。
そのままバッグの口を開き、中の物を物色し始めた。
少なくとも生き残るため。そのために必要なものが、ここにあるはずだ。
最初に手にしたのは、鉈だった。
何のへんてつもない、ただの鉈。と言っても、取り回しには便利そうだが。
ひとまずこれが、自分の身を守るメインウェポンとなる。
「で、後は…」
その後も小狼はデイバッグの中身を探り、水と食料、地図、
参加者名簿を見つけることができた。
そして、それらの1番奥にあったのは…
「…何だこれ?」
わっか。
そう言ってしまえば終わりだろうが、彼の手の中にあったのは、間違いなくリングだった。
中心には黄金の三角形が鎮座し、さらにその中心には不気味な一つ目。
リング外周には無数の楔がぶら下がっており、ご丁寧に首にかけるための紐まである。
『よぉ』
「えっ!?」
不意に、声がした。偉そうな男の声だ。
まさか見つかってしまったのか?
そう思い、小狼は周囲を見回す。
『おいおいそうじゃねェよ!』
呆れたように声が言った。
頭の中に直接響いてくるような、不思議な声。
否、そうではない。
『俺様はここだぜ』
本当に頭の中から響いてくる声だった。
「う、うわぁっ!?」
突然自分の意識の中に浮かんできた人影。
白の長髪が印象的な、10代後半ほどの男の姿だった。
その顔に貼り付くのは、とてつもなく邪悪な笑み。
『にしても驚いたぜ。まさか3人目の宿主様が現れるなんてなぁ?』
「ななな、何だお前…!?」
いくら何でもこれはひどい。
こんな事態、経験したことなどあるはずがない。
思わず尻餅をつきながら、小狼が意識の中の男へ問いただす。
『ヒャーッハハハ! そう慌てんなよ。聞きたきゃすぐに教えてやるさ』
ひどく凶悪な笑い声と共に、男は堂々とした態度でその名を名乗る。
『俺は盗賊王…バクラ様よ!』
「バ…バク、ラ…?」
名前だけを言われても、さっぱり訳が分からない。
ほとんどパニック寸前の小狼は、その名前だけを口に出す。
『お前が持ってる千年リング…その中に住んでた魂が、この俺様よ』
そしてバクラと名乗った男は、くっくっと笑いながら説明した。
自分の出現に狼狽しきる小狼が、滑稽極まりないといった様子で。
千年リング――それこそが、小狼のデイバッグの奥底に眠っていた、最後の支給品の名前。
数多の屍から生まれた、冥界の扉を開く鍵。大邪神ゾークの悪しき魂を宿す、呪いのアイテム。
それが千年リングだった。
『しっかしまぁ…何でまた俺の宿主様は、こういうのばっかりかねぇ?』
小狼の意識の中のバクラは、どこかがっくりとした様子で愚痴をこぼす。
最初の宿主といい、2回目のキャロ・ル・ルシエといい、お人好しというか線の細いというか…
とにかく、バクラとは正反対の人間ばかりが彼の魂を宿している。
『いっそ黒鋼とかの方が楽だったかもな』
「え…どうしてその名前を…?」
慣れてきたのか、落ち着きを取り戻してきた小狼が尋ねた。
初めて会ったばかりのこの男が、何故黒鋼の名前を知っているのか。
『俺様はお前の覚えてることは全部覚えてる。そういうモンなんだよ』
バクラはそう答えた。
要するに、彼は小狼の記憶を一方的に取得しているらしい。
『で…この最高にハッピーなゲームが終わらない限り、俺も元の宿主様の所に帰れねぇときた』
にたぁ、とバクラが邪悪に笑う。
残忍で狡猾なこの男は、命を弄ぶこの戦いをさぞ愉快に思っているようだ。
『協力してやるぜ、宿主様よぉ』
そして、彼は元の世界に帰らねばならない。
自分が不意にいなくなっては、あの気弱な相棒はさぞ寂しがるだろう。
認めたくないが、それがどうにも気がかりだった。
『さぁ、闇のゲームの始まりだ!』
「は、はぁ…」
血で血を洗うバトルロワイアル、その最大の誤算。
支給品という形で紛れ込んでしまったイレギュラー。
しかし、この乱入者は気まぐれだった。
故に、この誤算がどう転ぶのかは、誰にも分からなかった。
【一日目 現時刻AM0:46】
【現在地:A-2 丘】
【小狼@ツバサ~ミッドチルダ編】
[状態]健康
[装備]レナの鉈@なのはStrikers-NEXT
[道具]支給品一式、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです
[思考・状況]
基本 まだどうしていいのか分からない
1.とにかく、死にたくも殺したくもないな
2.バクラって…この人、一体何なんだ…?
3.黒鋼さんに会えるといいけど…
[備考]
※千年リングにはバクラの人格が宿っています。死霊の召喚は不可。
[バクラ思考・状況]
基本 この最高にハッピーなゲームを楽しむ
1.相棒はどうしてるかねぇ…うるせぇのも面倒だし、なるべく早く帰らねぇとな
2.宿主様は乗り気じゃねぇようだが…ま、いざとなりゃ乗っ取っちまえばいいか
最終更新:2008年02月19日 21:37