檻に入った獲物達


ここまで誰にも出会わなかったのは偶然か、それともこの病院が僻地すぎるのか。
それとも既に多くが到着して迎撃体制を整えているからなのか。
少なくとも正面玄関から入るはずがない。
同類がいれば罠を仕掛ける。少なくとも俺なら・・・・・・。
あの分厚そうなガラスの扉はいい刃物になりそうで是非とも欲しいんだが。
適当なガラスをグラーフアイゼンで叩き破ってそこから進入する。
ガラスの砕ける音が辺りに響いたが、まずかったか。意識を研ぎ澄ませて警戒。
しかし、辺りに何かが動く気配はない。もしかすると一番乗りか。
とりあえずセントリーガンが飛び出して銃弾ぶちまけたり、レーザーぶちまけたり、
けたたましい警報が鳴り響かないところを見ると特にセキュリティシステムはなさそうだ。
あの荒野に比べればだいぶ生易しいらしい。それとも誰かがセキュリティシステムを切ったのか?
しかし・・・・・・病院に入ったはずだよな、俺。目の前に広がるこれはどうみても料理屋なんだが・・・・・・。
警戒しながらガラスの扉を押して店の外を伺うと、覚えのある病院の臭いとしか表現できない臭いが鼻につく。やっぱり病院だ。
俺の世界で病院といえばもっと小規模なものなんだが、この病院にいったい何個入るんだ?
むしろなんで病院に料理屋まで入ってるんだよ!!
なんにせよ、料理屋であれば好都合だ。武器を充実させるのにこれほど好都合の場所は無い。
いくらなまくらであろうとも刃物は刃物でガラス瓶はガラス瓶で冷凍肉は鈍器で缶詰は投擲武器兼食料で料理油は燃料だ。
全部もって行きたいのはやまやまだが、服装がそれを妨げる。
デイバッグの中は余裕があったが、文字通り即座に使うにはポケットやホルスターやスリングといったもので文字通り身に着ける必要がある。
ホルスターやポケットがないこの服装はあまりにも痛い。主催者どもは愛用のハンターベストまでご丁寧に剥いでくださりやがって、今の服装はデニムのツナギとブーツ。
この格好で歩き回ることになるのはひよっこだった昔以来だ。いいだろう。昔に戻ったつもりで装備を充実させることに専念しよう。今は悩む時間さえ惜しい。
刃物を大振りで刃に厚みのあるものを選び持っていく。40cmクラスの包丁を置いていないなんてもう少し準備よくしておけよ。
35cmクラスで断念しよう。グラーフアイゼンがあるとはいえ、投げつけるにも斬りあうにも刃物はあって損が無い。
むしろそれ以上に重要なのはこっちだ。デイバッグの中に酒瓶を片っ端から入れていく。
投擲よし、殴って良し、突いてよし、保存良し、トラップよし、火炎瓶によしであるこれがすぐに6本、調理台の上においてあったのは幸いだ。
中身をとっとと捨てて放り込む。ついでに水が出るかと蛇口を片っ端から捻ったがうんともすんとも言わない。ご丁寧に止めてくれてやがる。
だが、タコ糸があったのは幸いだ。これでワイヤートラップが作れる。今すぐ手に入る燃料である調理油も放り込んで、火炎瓶の材料たる石鹸を忘れてはいけない。
あとは缶詰を6つばかり。さて、問題は視線の先にあるなにかの保管庫みたいな雰囲気を漂わせる扉。
保管庫であるならば入り口は1つだけだろう。退路を絶たれる可能性を考えれば踏み込みたくない。俺が一番乗りしたという仮定が正しいとしよう。
どれだけの間、次の人間がこないだろうか。今すぐ出会ってもおかしくは無い。それに、いつまでも病院内に俺だけがいるわけじゃないんだ。
少しでも急いで探索し、装備を充実させなければ。あの荒野にいたときのように。
他に持っていくとすれば、店内の白いテーブルクロスを4枚、いや5枚は持っていこう。
武器、包帯、火炎瓶の口、拘束具、防寒具、その他いろいろ使い道はある。それと、ないよりましか。
割ったガラスの中で比較的形が整った1つに別のテーブルクロスを切って巻きつけ柄にする。適当なタイミングでさっさと投げてしまうべきだな。
注意さえ引ければいいし、傷を負わせられればもっといい。
それでは、とっとと病院内を探すとしよう。
余裕があれば入り口という入り口に火炎瓶つきのワイヤートラップ、あるいはもっと簡単にコップでも落ちて割れるようにして侵入者がきたかどうかの警報にしたかったが、
あまりにも装備が足りず時間が惜しい。
1秒でも早くこの病院を捜査しきる。
ときおり目に付く赤い消火器を手に入れたくてしかたないが、かさばるため断念。
この病院内に回復カプセルなんてないだろうと思いながら、白衣があれば携帯の問題をクリアできることに気がついた。
だが、白衣では目立ちすぎる・・・・・・血染めにすればいい。血が赤から黒に染まるのは経験済み。優先順位が無意識につけられていく。
駆け抜けながら思考を続ける。やがてある問題に突き当たった。
もしもなにかに遭遇した場合、どうするか。
戦うのはいいが、相手がロケットランチャーでも持ち出すくらいに装備が勝っていた場合はどうする。
ショットガンかドラグノフでもあれば戦ってもいいが、遠距離装備がいささか足り無すぎるのが現状だ。
グラーフアイゼンのタフさは疑いようがないし、刃物も手に入ったが、遠距離戦をやるには使い切りのものばかりで物足りない。
火炎瓶さえ作ってしまえば混乱している間にどうとでもできただろうが、瓶と石鹸と調理油があっても肝心の火種となるライターやマッチや硫酸や硝酸カリウムがない上に、
作った火炎瓶をシールするための道具も無いのが痛い。作り置きできなければ運用に最悪だ。逃げるべきだな。
そうなると退路として飛び降りる可能性も考慮。
3階まで探索して、それ以上の階には行かないほうがいいだろう。
ご丁寧に病院案内とかいう地図も転がっていた。
銃、白衣、血液パック、薬品、ガソリン、シール材と無意識に欲しいものの優先順位をつけながら、
デイバッグとグラーフアイゼンを担いで階段を駆け上がった。
しかし、時間的なものもあるが明りがないのは本当にやっかいだ。
エレベータやエスカレータが止まっているくらいはあの荒野でなれたものだが、一番は荒野の夜を思い出すほどに真っ暗な病院。
荒野でなれたから夜目が多少利いてどうにかなるが、それでも動きづらいし、なにより文字が読みづらくてしかたない。
暗視装置でも持っているやつがいたらまさに一方的だ。
万が一、遠距離から先制攻撃を受けることがあれば全力で逃げ出そう。
その一撃を食らっても生きていられればの話だが。


「エリアサーチに反応。病院内に1名。はんた。」
「・・・・・・それは犬の名前かなにかか?」

クラールヴィントの告げた言葉にそう返してしまったのも無理は無いだろう。
俺がルルーシュ・ランペルージであり、スバルがスバル・ナカジマであるように、姓と名があるものだ。
名簿に確かにその名前はあったがそんな偏見があった。しかし、犬なんかでありうるか。考えろ。主催者がなにを求めているか。
どんな状況を作り出したいのか。逆にどんな状況を作りたくないのか。俺は思考する。
主催者側の意図として一番避けたい状況。それは時間切れによる全員の死亡のはず。
それを真っ向から否定した場合、意図的に殺し合いを促進させるルールにかみ合わない。
ならば殺しが確実に行われ円滑なゲームの進行をするにはどのような方法があるか。
禁止エリアやルールだけではゲーム進行に支障がある。スザクみたいな馬鹿や非戦主義者がいないはずがないことも考慮すればなおさらだ。
そして言葉が通じさえすれば説得という選択肢が生じてしまう。ならば説得のできない生物であればいい。
それならば簡略な名前のものは大型の肉食獣であると考えることが可能。いや、待て。C.C.の名前のような可能性や偽名の可能性もある。
少なくとも病院という場所がどんな事態を起こすか分かった上で待ち受けているとすれば恐るべき思考の人間である可能性が高い。
ギアスが使えない今、相手を利用するために遭遇するべきか、避けるべきか。
幸いクラールヴィントによって索敵は完璧だ。
ろくな武器もない現状を考慮すれば避けるのが定石だろう。病院の規模的なものを考慮しても遭遇せずに済ませられる可能性は高い。
なにより、多少のリスクを負ってでも医療品の独占は十分なリターンに繋がる。しかし、先についているやつがいたのは予想外だ。
それこそ病院を消し飛ばして、医療品を完全に独占し、施設としての機能さえ破壊する目論見が崩れた。
なにより消し飛ばす手段として考えていた手段のいずれもが準備段階において肉体労働の比率が高いことを考えると容易に実行できそうに無い。

「クラールヴィント。はんたというやつへの注意を決して怠るな。エリアサーチは依然として続行。スバルの報告は最優先。」
「Jawhol.」

相手を過小評価せず、油断せず、今後どんな戦略をとるべきか、俺はクラールヴィントによって表示される位置情報を横に、正面入り口から病院へと侵入した。
まずは医療用品を集める。
正面入り口から入ってすぐのところに置いてあった病院案内を片手に眺めながら思考する。
なるほどフロアごとに違うのか。
1階はレストランやコンビニ、待合室といった施設と病院窓口・・・・・・いや、待て。
一番奥にあるこれは集中治療室。
病院で手に入りうる武器としてレーザーメスやはさみが手に入る可能性が最も高い。それ以上に薬が絶対にあるはずだ。
特に麻酔を初めとした手術用の薬は尋問、誘導、説得、治療を初めとして利用価値が高い。
こうなると先客がいたことに怒りを覚える。
時間さえあれば簡単な化学の授業をすることでTNTでもニトログリセリンでも組成し、笑気ガスや酸素ボンベを併用することで施設全部を吹き飛ばせたのだが。
今はそれは置いておこう。さて、集中治療室へ向かうとしようかと思ったとき、ひらめいた。
ろくに武器を持たぬ俺にとって今の状況は明らかに不利。
スザクと違い生身の戦闘能力に秀でているわけでもない。
居場所を知らせる行動は自殺行為として働く。
しかし、あえて今後来るだろう『3人目以降』の到着を考え、1人目にばらしてやればどうなる。
1人目は必ず警戒するだろう。好戦的ならば3人目を襲いにのこのこ出てくるかもしれない。
3人目も何者かがいることに警戒し、その行動を緩慢なものとせざるを得ないはずだ。
仮に3人目が逃げ出したとしても、1人目の行動パターンを把握することができる。
一番狙い目の状況は1人目と3人目が満身創痍であるときに遠距離からトドメをさす。
待てよ、説得して手駒にするというのもありだな。
幸いこのふざけたゲームの参加者にとって生き残るためにもクラールヴィントの索的能力は喉から手が出るほどに欲しいはずだからな。
ならばやることは簡単だ。
ここへ簡単な罠を仕掛ける。
幸いレストランがすぐそこにあるんだ。
グラスは余るほどにあるだろう。


俺は相手を過大評価していたのか?
俺が1番にここへ来ていたなら、まず最初にここで致命的とまではいかずともダメージを負わせる罠か、あるいは侵入を探知するアラームでもなるようにしておく。
レストランから拾ってきたワイングラスを扉の影に置いてやる。ついでに小ぶりのナイフも失敬したががスキル的にどこまで役に立つか疑問だ。
銃が欲しいところだな。ついでに蛇口も捻ってみたが既に蛇口は開けっ放しだった。水は止められているらしい。
そういえばレストランのガラスが割られていたな。それにテーブルクロスが外されたテーブルも複数。
奥にはワインセラーか冷凍庫でもありそうな雰囲気があったが、誰かを袋の鼠にしてやることはあっても、私が袋の鼠になるのだけは御免であえて避けた。
いずれにせよ、たったこれだけで警報装置の完成だ。
誰かが扉を開ければグラスが割れる。
これだけ静かな中、グラスの割れる音は響き渡るだろう。聞くものの身を凍りつかせるほどに。
臆病者はそれだけで逃げ出すかもしれない。
しかし、たったこれだけで済むのに、はんたというやつはこの程度さえ思いつかなかったのか?
なんにせよ、考えることは後でもできる。
クラールヴィントに表示させているはんたというやつは絶えず動き回りっぱなしだ。
上の階にいるみたいだが、1階へ戻ってくるのも時間の問題だろう。
遭遇する前に集中治療室へ行こう。
その前にコンビニで食料と飲み物も確保せねばならんな。
時間切れが定められていない以上、長期戦も視野に入れねばならない。ならば有限である食料や水分は少しでも確保しておくのが望ましい。
どれだけ長引くか知らんが、名簿を見る限りかなりの人数が参加している。
食料と水分の奪い合いは熾烈になる可能性が考えられる。
そう考えれば交渉の道具になりうる可能性さえ生じるだろう。
スザクならいくらでも持てるだろうが、非力な俺では重さで動けなくなる可能性を考慮し、最低限の食料と水を回収していく。
あと、なにかの役に立つだろうオイルライターとその燃料を1つずつ、それとワイヤートラップに代用できるだろう両面テープをありったけ詰め込んだ。
しかし、病院に電源が入っていないというのは痛いな。
これほどの広さを持った施設なのに、明りは灯らず、エレベーターは止まり、エスカレータさえ機能していない。
ライトなんかつけて歩いたら大声で居場所を告知しているようなものだ。
そして、生物学的に人間がろくな明りさえ無い中を動き回ることは酷く難しい。
しかし、クラールヴィントを持つ私ならば別だ。
中に誰がいるのか、どこにいるのか、地形はどんなふうになっているか、常に把握し続けることができる。
つまり、索敵能力を持たない人間にとって危険な施設がこの病院というわけだ。
さしずめここは檻だな。
獲物達にとっては喉から手が出るほどに欲しい医療品という餌がぶらさげられた檻。
レストランやコンビニまであるんだ。
文字通り餌が仕掛けられた檻というにふさわしいかもしれない。
ならば、檻にかかった獲物達を好きにするのはこの俺だ!!
ただ、1つだけあえて考えなかった可能性がある。
3人目がスバルであるという可能性。
確率的には当たるほうが難しいほどの低確率ゆえに排除したが、それでも当たるときには当たるだろう。
頼むからスバルが3人目であってくれるなよ。


【一日目 現時刻AM2:00】
【現在地:H-4 病院】

【緑の悪魔はんた@メタルサーガsts】
[状態]健康(アルファ不在により思考が天然マーダー寄り)
[装備] グラーフアイゼン・ギガントフォルム (リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―)
[道具]支給品一式
[今回の取得物]出刃包丁2本(刃渡り35cm)、酒瓶6本(750ml、空)、調理油1本(500g)
   タコ糸1束、石鹸2つ、テーブルクロス5枚(1m×1m相当)、
   ガラス片1つ、鮭缶6つ、病院案内
[思考・状況]
基本 最終的には皆殺し、裏切り上等、罠上等。アルファを助けられるならなんでもいい。
1. 装備を充実させねば。トレンチコートがあれば。妥協で血染めの白衣を・・・・・・。
2. 遠距離から先制攻撃されたら逃げる。暗くてろくに見えやしない。
3. 相手より先に攻撃する。
4. やばくなったら逃げる。
5. Dead No Alive
6. 火炎瓶さえ作れれば・・・・・・。あとは火とテープさえあれば!!
7. 材料手に入れたとしても悠長にC4なんか作っている暇は無いな。
※なんでも武器として認識し運用手段が思いつきますが、特に装備の即効性を重んじます。
※好戦的ですがリスクとリターンを考えます。


【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反目のスバル】
[状態]健康
[装備]クラールヴィント(リリカルなのはStrikerS+仮面ライダー)
[道具]支給品一式(水、食料、電王用ライダーパス@マスカレード)
[今回の取得物]包丁1本(刃渡り10cm)、おにぎり6つ(鮭味)、水1本(500ml)
オイルライター1つ、オイル1缶、両面テープ6つ、病院案内
[思考・状況]
基本 このゲームに生き残り、神根島に戻ってナナリー救出に向かう。
1.病院爆破は断念。くそっ!!
2.なんに使うにせよ医療品を手に入れねば。
3.スバルだけは絶対に守り抜く
4.俺に余計な手間をとらせたこと…いずれ後悔させてやる
5.集中治療室でメスや薬は手に入るだろう。
6.頼むからスバルが3人目に病院に来るなよ。

※普段から身体を鍛えておけばよかったといくらか後悔していたりします。
※基礎はできていますが、応用が・・・・・・。

013 本編投下順 015

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最終更新:2008年02月19日 21:38