誤解を呼ぶもの
スバルは山道を走っていた。
支給されたデイバッグを持って、ただ前へと駆け抜ける。
(ルルーシュ……ッ!)
その思いは唯一つ。ゼロ……いや、ルルーシュに会うために。
彼女が目を覚ましたのは、最初の部屋で明日香の首が飛んだ直後だった。
爆発音を目覚まし代わりに起き、最初に見たのはまるで投げられたボールのように転がる明日香の首。
これは一体何なのだ。何故人の首が目の前に転がっているのだろうか。
目覚めて最初に見たスプラッタな光景に、混乱するスバル。だが、偶然近くにいた誰かに状況を聞いたおかげで状況は把握できた。
その直後にはもう一人、異形へと姿を変えた男が首を飛ばされる。
そして神崎の説明を聞き、会場に飛ばされていった。
続いて飛ばされた直後に目を向けてみよう。スバルのスタート地点は山の中腹辺りである。
「さっきのは、夢……じゃないか」
会場に到達して、最初にスバルが行ったのは、先程の光景が現実かを確かめること。
そのために一番早いのは、自分の分の支給品を探すこと。現実ならば近くにあるはずである。
そして……見つけた。支給品であろうデイバッグを。
それが意味することは、今のこの状況が現実であるという事である。
いつ拉致されたかなどの腑に落ちない点もあるが、とりあえずはそれで納得し、支給品を確認するためにデイバッグを開いた。
最初に出てきたのは名簿。最初に見えた名前のような文字で名簿だと気付き、上から目を通す。
「フェイトさん、エリオ……」
親しい人物の名は、すぐさま見つかった。
自分と同じく機動六課に属する二人の人物の名が。
そして、次の瞬間……スバルの思考が凍りついた。
ルルーシュ=ランペルージの名を見つけたことによって。
ルルーシュは、ギアスと呼ばれる力を使い、黒の騎士団リーダー『ゼロ』として行動していた。
だが、そのギアスは日に日に強まり、そしてあの日、遂に自らの意思に反して常時機能している状態と化してしまった。
その力のせいでユーフェミアは死に、そしてルルーシュも絶対に止まれなくなる。
彼女に与えられた任務からすれば、すぐにルルーシュを捕らえねばならない。だが、今の彼女にそれは不可能。
このままではいずれルルーシュは壊れる。だからこそ会わねばならない。
会ってどうするかなど考えず、気付けばデイバッグを片手に駆け出していた。
そして、今に至るという訳である。
今の彼女の脳内には、先の名簿で見つけた仲間の事も吹き飛んでいた。
下りる山道を全力疾走。疲労で足がもつれて転ぶが、すぐに立ち上がってまた走り出す。膝が痛むが、知ったことではない。
一瞬この山の上の方にいたのではないかとの思考が脳裏をよぎる。どうやら確率が低すぎて無意識に除外していたらしい。
そしてその思考が足を止め、上へと戻ろうと反転したときにそれを見た。
血塗れの服を着た黒髪の少年が、こちらを見ているのを。
少年……クロノがこの山麓に降り立ったのは、胸にザビーの紋章が現れた時だった。
突如襲ってきた胸の痛みによって気が遠くなり、次に目覚めた時には最初のあの部屋。
気付いた時には胸の痛みは消えていた。あれは何だったのかと思いながら。
そして主催の説明を聞き、ここに飛ばされて今に至る。
「駄目か……くそっ!」
今クロノの胸中にある感情は怒り。大人数を集めてこんな殺し合いを開催し、あまつさえ二人殺した主催者達を許すことなどできない。本当ならば今すぐ逮捕している。
だが、今の自分には主催者へと反抗する力は無い。それが余計に怒りを誘う。
はじめに念話でアースラへと救援要請を出そうとしていたが、反応は無い。妨害されているのだろうか。連絡さえつけばすぐにでも主催者達を逮捕できるというのに。
と、近くに置かれたデイバッグの存在に気付いた。これは主催者が言っていた支給品だろう。鞄を開き、さっそく中身を検める。
まず出てきたのは、食料や地図、名簿といった基本的なもの。地図を手に取り、現在位置を調べ始めた。
方位磁針で方角も調べ、さらに近くに川らしきものも発見。南方に山が続いていることから見ると、どうやらここはG-7地点の端のようだ。
続いて名簿を見る。そこで見知った名を見つけた。
「フェイト……だって……!?」
フェイト=T=ハラオウン。彼にとってたった一人の妹の名がこの名簿に刻まれていた。二つあったが、片方は同姓同名の別人だろうと判断する。
さらに名簿を読み進めていくと、彼の仲間の名がどんどんと出てくる。
高町なのは、八神はやて、ユーノ=スクライア、ヴィータ、ザフィーラ。
これだけ多くの顔見知りが参加させられているというのは、彼にとっては非常に遺憾だ。何せ、こんな所にいる以上いつ殺られるか分からないのだ。
そして、もう一つ見つけた名前。それを見たクロノはしばらく考える。
(天道……あの男、信用できるのか?)
天道総司。その男は、クロノにとっては相容れない相手である。
かつて天道はハイパークロックアップで時を戻したことがあり、そのせいで管理局に追われる羽目になった。
クロノも一度は共闘したものの、その直後に逃亡。それ以来の因縁の相手だ。
それを信用できるかとなると……少々考え物である。
「……まあ、ひとまずは保留でいいか」
そう言って、別の支給品を調べ始めた。
デバイスが入っていればいいが、期待はできない。物事がそう都合よく運ぶとは思えない。
かといって、デバイス以外の武器が入っていたとしても、外見ではそんな大きなものが入っているようには到底見えない。
あまり期待せずにデイバッグに手を入れ、支給品を取り出す。
「こんなもの、どうやってデイバッグに入れていたんだ?」
支給品を見た第一声がそれだった。
出てきたのは一振りの剣。どう見てもデイバッグには入りそうも無い大きさだ。
とりあえずこれはデバイスではないだろう。もしデバイスなら、おそらくは待機状態にしてあるはず。
それに、デバイスならば無いはずの刃もついている。これはおそらく質量兵器にカウントされるのだろう。
説明書によると、これは『エスパーダ・ロペラ』と呼ばれる細剣で、文面から相当強力なものだということが伺える。
管理局法では質量兵器の使用は禁じられているが、背に腹は代えられない。とりあえずはこれを武器として持っていよう。
他にも何か無いか。そう思ってデイバッグを探るが、それは中断させられることとなった。
ズシャアッ
「何だ? 近くに誰かいるのか?」
盛大に摩擦音が鳴り、それがクロノの注意を引いた。
こんな音など、人間サイズの生き物が転んだ時くらいしか出ないだろう。ならば誰かが近くにいるのは必然。
それを確信したクロノはエスパーダ・ロペラを手に取り、音の方向へと向かった。
そしてクロノは、スバルと出会った。
スバルから見た第一印象は、その血塗れの姿に集約されていた。
普通に生活する上ではこんな大量の血が付くはずがない。ならば何故、血塗れになっているのだろうか。
それに対する回答は二種類存在する。
一つは少年が大量出血するほどの怪我をしている可能性。だが、立って歩ける程にピンピンしている今、その可能性は低い。
ならば必然的に、もう一つの可能性が正しいことになる……すなわち、大量の返り血を浴びたという可能性が。
それを認識した瞬間、スバルの脳が大音量のアラートを鳴らした。
一方のクロノは、相手の警戒心の強さに戸惑っていた。
初対面の相手をここまで警戒するという事は……この殺し合いの空気に当てられたか、それとも誰かに襲われた後か。
とにかく、警戒心を解いてもらわなければ話にならない。そう思い、一歩前進。
すると、スバルはそれに反応したかのように一歩後退。ここまで警戒されるいわれは無いはずだが……
ふと、クロノは服から「パリ」と音がした事に気付き、自分の服を見る。
着ていた服は、何故か真っ赤に染まっていた。
ここで一度時間を遡ってみよう。
明日香が十代へと何かを言い、それに反応したかのように彼女の首が爆ぜ飛ぶ。
さて、首が飛んだとなれば、相当の量の血が出るのは分かるだろう。ならばその血はどこにいった?
もちろん大半はそのまま床に流れただろう。だが、勢いが強かった時の噴き出す血が誰かにかからないとも限らない。
……そう、その噴き出した血は、偶然近くにいたクロノにかかってしまったのだ。
赤く染まった服を見た瞬間、相手の警戒心の理由を理解した。
すなわち、この赤い服を見て「殺し合いに乗った相手だ。しかも誰かを殺した後」と勘違いされてしまっている。
それに気付いたクロノは、どうやって誤解を解くかを考えていた。
【一日目 AM0:19】
【現在地 G-7 山麓】
【スバル=ナカジマ@反目のスバル】
[参戦時期]STAGE9 C.C.に気絶させられた後
[状態]健康。膝に擦り傷
[装備]特になし
[道具]支給品一式・ランダム支給品1~3個
[思考・状況]
基本:ルルーシュを探す
1:あの子、もしかして……!
2:ルルーシュに会わないと……
[備考]
※名簿はルルーシュの名を見つけた時点で見るのを中断しています。よってフェイト・エリオ以外の六課メンバーの存在を知りません
【クロノ=ハラオウン@マスカレード】
[参戦時期]ACT11. ザビーの紋章出現直後
[状態]健康・ザビー資格者
[装備]エスパーダ・ロペラ@リリカルなのはMS
[道具]支給品一式・ランダム支給品0~2個
[思考・状況]
基本:脱出し、主催者を逮捕する
1:まさか……誤解されているのか?
2:仲間の捜索
3:天道については保留
[備考]
※服に明日香の血が付いています
※ザビーの紋章に気付いていません
※エスパーダ・ロペラ
ジャミルがとある依頼の時に報酬として得た細剣。マルディアスの細剣の中ではトップクラスの性能を誇る。
ちなみに細剣にはとても見えないような形状である。
最終更新:2008年02月19日 21:40