魔王と悪魔
集中治療室。
重大な疾病を患った患者が収容されるこの部屋は、十二分にルルーシュの欲求を満たしてくれた。
まずはメスを5本。続いてハサミを1つ拝借する。
包帯、薬品、麻酔…それら救急セットを一通り手にしたところで、物色を打ち切った。
自分の体力でぎりぎり機動力を削がないのはここまで。これ以上欲張れば、今後の行動に支障を来すことになる。
『エリアサーチ範囲に新たな反応あり。数は2』
クラールヴィントが、待ち望んだ来訪者の存在を告げる。
3人目どころか4人目まで来るとは思わなかったが、1組の集団となっているからには、さしたる問題になりはしない。
現れたのは草加雅人と城戸真司。日本人男性の2人組のようだ。
(肝心の1人目はどうしているか…)
ルルーシュはクラールヴィントの表示を院内に切り替え、はんたの姿を探す。
どうやら1階に降りてきたらしい。しかも、そこそこに近くまで来ている。
ルルーシュは今までのはんたの道順を呼び出した。
「チッ…ここに向かっているのか…」
そして、舌打ちする。
これまでの道筋は真っ直ぐだ。すなわち、この集中治療室へ一直線に向かっているということ。
まずいことになった。
ここは1階の中でも、最も奥に位置する部屋。相手に見つからずに逃れるのは難しい。
「集中治療室の利用…誰でも考えることだったな」
それこそ、馬鹿でさえも。
このはんたという男を、ルルーシュはそう認識していた。
闇雲にふらふらと歩き回る姿勢。明らかに場慣れしていない。
コイツはずぶの素人か、あるいは大病院というのをまるで知らない者のどちらかだ。
そしてルルーシュはその2つの可能性のうち、後者を取る。
食堂から抜き取ったと思われる装備のチョイスが、決して悪くはなかったからだ。
問題は、これからどうするか。
窓を割って脱出するのは駄目だ。そこから自分を追いかけてくる。後から来る者達との鉢合わせはなくなる。
「…ん?」
そこで、ふと彼は思い出した。
支給品の中にあった、用途不明の直方体の存在を。
「何だ…使えるじゃないか」
にやり、と。
悪意を宿した笑みが、魔王の口元にくっきりと浮かんだ。
暗闇の中、はんたは1人廊下を歩く。
病院案内にあった集中治療室とやら。
恐らく薬品や、運がよければ、白衣を染めるための血液パックも手に入るだろう。
巨大なグラーフアイゼンを担ぎ、極力音を立てずに歩き、その先で、何かを見つけた。
スリッパだ。
スリッパの片割れが、女子トイレの入り口から外に出ている。
(誰かが来た)
はんたはそう認識した。
恐らくここに、誰かが隠れている。
スリッパを蹴飛ばしたまま放置しているのは間抜けとしか言い様がない。ひょっとしたら、罠の可能性だってある。
しかし、素でそのままにしてしまっていた可能性も考えられた。
何人か見られた、六課の連中。特にひよっこども。彼女らならば、こんなミスだってやらかしかねない。
故に、はんたはグラーフアイゼンを強く握り、トイレへと足を踏み入れる。
「――待っていたよ、はんた」
それが待ち伏せだと気付いたのは、声を聞いてからだった。
「!」
堂々とした男の声。
こんな声音も、こんな態度も、あの甘ったれ達にはいやしない。
しかし、自分の名前を知っている。名簿には顔写真は載っていないにもかかわらず。
「何者だ」
故に、はんたは問いただした。
暗闇の中に――トイレの個室のいずれかに潜んでいるであろう、謎の男に。
「私は――ゼロ」
言いながら、姿を現したのはゼロ――ルルーシュ。
闇に溶け込む漆黒のマント。顔すら見えない暗がりは、掴み所のない不気味さを醸し出す。
「何者だ」
はんたは再度問いかけた。
ゼロ、などという名前は、
参加者の中にはいない。
「言うなれば…魔王」
「何者だ」
「黒き騎士達を率いる者」
「何者だ」
謎かけのような答えに、はんたの問いが少しずつ、威圧的な響きを孕んでいく。
この辺でいいだろう。
ルルーシュはほくそ笑んだ。
謎かけとは便利なものである。馬鹿はすぐ引っ掛かるし、それを嫌う者も、こうして食いついてくる――本題を求めてくる。
あえてルルーシュがゼロを名乗り、ゼロとして振る舞ったのはそのためだ。
もっとも、そこにはまた別の意図もあったのだが。
「君の敵であるのは確かだな」
つまり参加者であるということ。
このゲームに乗ったということ。
「どうして俺が俺だと分かる」
それ以上は無駄だし無意味だと悟ったはんたは、自身の疑念を率直に口にした。
何故自分がはんただと分かったのか、と。
「分かるのさ。どこがどんな地形で、どこに人がいて、それがどんな奴なのか…私には分かるんだよ」
「超能力者のつもりか」
「さぁ。だがしかし、読んでみせろと言うのなら…」
思考さえも読み当ててみせよう。
その気になれば、それくらいはできる、とルルーシュは言った。
虚言ではない。ましてやテレパシーでもない。相手の行動や心境を予測するだけのこと。簡単な心理学だ。
「………」
はんたは沈黙する。
この異様な存在を、推し量るかのように。
これがルルーシュが名前を伏せた第2の理由。
正体不明の異能者が現れた時、相手の実体が気にならぬ人間などいない。
故に、相手はじっくりとこちらを見据え、言葉に耳を傾ける。
「――私を殺そうとしても無駄だよ」
釘を刺す。
相手が思考の末路――「危険な敵の排除」に至る前に。
「これが何だか分かるな?」
取り出したのは、四角い物体。
まるで使い道の分からぬライダーパス。その名前すらもルルーシュは知らない。
そして、これが何か分かる者など、そうはいるまい。
故に、彼はそれを利用する。
「爆弾か?」
「ニトロか、はたまたC4か…一体何だろうな?」
これははったり。立派なブラフ。
普通に考えれば、ルルーシュにはそれを作る時間的余裕はない。
しかし、相手は彼がいつからここにいたのかを知らない。
もしかすると、自分の来るずっと前からここにいて、それを作った可能性もある。
それがはんたの思考。
「君がそれ以上近づけば、私はこれを爆破する」
はんたは対応に詰まった。
あれが爆弾なら、自分に打つ手はない。
こんな狭い場所で自爆などされようものなら、自分もただでは済まないだろう。
グラーフアイゼンの柄は長い。本来なら、ぎりぎり爆発の範囲外から彼を倒せる。
しかし、この狭いトイレでは、巨大なギガントフォルムは使えない。刃物を投擲したところで、致命傷には至らず、そのまま爆破される。
こちらも爆弾を使う、という案は論外。それを作ることができないから、今自分は困っているのだから。
要するに、対応策はなし。
「そういえば…いいのか? 私だけを気にしていて」
ふと、ルルーシュが口を開く。
クラールヴィントのエリアサーチは、侵入者が食堂に差し掛かったことを告げていた。
――ぱりん。
「!」
はんたの視線が音のする方へ、反射的に向けられる。
ルルーシュが仕掛けた警報装置。簡単な図工の賜物。
それが、第三者の存在を告げていた。
「おやおや…仕方のない奴だ」
「…仲間がいるな?」
思惑通り。
はんたは最大の罠に引っ掛かった。
今の言い回し、そして名を名乗った際の「黒き騎士達」という言葉。
全くルルーシュと関係ない2人組は、彼の部下に――はんたの敵になった。
「その誰かだろうな」
「チッ…」
舌打ちをする。
いつの間にか、自分は包囲されていたということか。この暗闇の中で、ふざけた男の罠にかかったということか。
ならば、とるべき行動は1つ。
目の前の倒せない親玉より、まずは倒せる雑兵だ。
「…覚えておけ」
吐き捨てると、はんたはそこから駆け出した。音のした、食堂の方へ。
その場に残ったのは、ルルーシュ1人。そしてそこから、再び集中治療室へ歩き出す。
数分後、ルルーシュの姿は病院の裏にあった。
あの後、集中治療室にちょっとした細工をし、窓を破って脱出したのだ。
今しているのは、言わば高見の見物。
草加と城戸なる男達のことは、「仲間の1人」と言っておいた。
当然、それ以外にも敵がいる、とはんたは思考する。
仮に草加達がルルーシュと無関係と知れても、今度はその2人組が、自分達が囲まれていると誤解する。
そして、先ほどのガラスの音だ。
彼らにとって、この音はルルーシュの脱出音とは限らない。新たな人間の到来と誤解する。
更には、これから先、本当に別の参加者が入ってくる可能性もあるだろう。
それこそ思うつぼ。ゼロの部下の役を演じてもらうことにしよう。
そして今からしばらくすれば、今度は火災報知機が鳴り響く。
集中治療室内の配置をいじり、ライターを犠牲にして、出掛けに火を放っておいた。
けたたましい音はパニックを生む。否、鳴らずとも、敵が貴重な物品を手に入れるのを阻止できる。
「…ックククククク…」
全て自分の思いのままだ。
もはや檻ですらない。この病院は今や魔窟。入ったが最後、永遠の戦いを強要される。
謎の超能力者・ゼロの影に付きまとわれる。
「ファハハハハハハハ…!」
全てはこの魔王の手に落ちた。
抑えた笑い声が闇に溶けて、消えた。
【一日目 現時刻AM2:19】
【H-4 病院】
【ルルーシュ=ランペルージ@コードギアス 反目のスバル】
[状態]健康・歓喜
[装備]クラールヴィント@なのはStrikerS+仮面ライダー
[道具]支給品一式・電王用ライダーパス@マスカレード・メス×5、ハサミ、各種薬品、麻酔、包帯
[思考・状況]
基本 このゲームに生き残り、神根島へ戻ってナナリー救出に向かう
1.舞台は用意してやった。さぁ、存分に殺し合うがいい!
2.スバルは絶対に守り抜く
3.そして主催者達…いずれはお前達も後を追わせてやろう
[備考]
※オイルライターとオイル缶を失いました。残る所持品は「檻の中の獣達を参照のこと。
【緑の悪魔はんた@メタルサーガStS】
[状態]健康・苛立ち
[装備]グラーフアイゼン・ギガントフォルム@リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―
[道具]支給品一式
[思考・状況]
基本 最終的には皆殺し、裏切り上等、罠上等。アルファを助けられるなら何でもいい
1.遠距離から先制攻撃されたら逃げる。暗くてろくに見えやしない
2.相手より先に攻撃する
3.やばくなったら逃げる
4.Dead No Alive
5.ゼロ…アイツには必ず借りを返してやる
[備考]
※残る所持品は「檻の中の獣達」を参照のこと
最終更新:2008年02月19日 21:41