天の道を往く男


長いマフラーを靡かせながら、誰も居ない夜の街を歩く一人の男が居た。
その男は、片手にデイバッグ。もう一方の片手はポケットに突っ込んだスタイルで、威風堂々と道路の真ん中を行く。
このバトルロワイアルにおいて、身を隠しもせずに道の真ん中を歩く事は自殺行為に等しい。
どこに敵が潜んでいるかも解らない状況で、自分の身を曝している様な物なのだから。
しかし、それでも歩き続ける。
彼が堂々と歩き続けるのは、そこに誰も居ない事が解っているからだろうか。
……いや、違う。彼がその道を堂々と歩く理由は、そんな小さな理由では無い。

さて、彼が何故こんな所を歩いているのか。時は小1時間程前に遡る。

「――ならば、始めるぞ」

神崎が、指を鳴らした。直後、会場にいる人々は消えて行く。
それは彼―『天道総司』―も例外では無かった。
人々が消えて行き、天道の目にも、真っ白な光が拡がって行く。その光のあまりの眩しさに、天道も目を逸らしてしまう。
光は周囲の全てを包んだ。その空間にいるのは天道一人。恐らく、さっき会場に居た皆もこうしてどこかへ移転されるのだろう。

そしてそれは、転移先に到着するまでの数秒間の出来事だった。

閉ざされた天道の目はすぐに、再び見開かれた。天道の目に飛び込んでくる、もう一色の眩ゆい光。
白い輝きの中に、美しく輝くエメラルド色の光。
その光の中心に居る者は、未来を示す勝利の鍵。その正体は。

「――ハイパーゼクター……ッ!?」

その名を呼ぶ天道。白い光の中で、エメラルド色の光を放ちながら浮かぶそれは、天道にとっての「未来」そのものだった。
ハイパーゼクターを掴み取ろうと、手を伸ばす。が、ハイパーゼクターは天道の手に掴まれる事は無い。
「何処へ行く……!? ハイパーゼクター……!」
ハイパーゼクターは、天道を包む白い輝きをも越える程の、眩ゆいタキオンの輝きを放ちながら、その姿を消した。

「……なるほどな。そういう事か」
次に天道が目を覚ましたのは、見慣れないソファーの上だった。どこか、真っ暗な室内に設置されたソファーの上だ。
起き上がり、呟く天道。見た所、どこかの街のホテルのロビー……と行ったところか。
いくつか並んだソファー。入口付近にはカウンター。奥には上階へと上る為のエレベーター。
冷静に状況を判断。次に、足元に置かれたデイバッグが目に付いた。

「そしてこれが支給品……という訳か」
一通りデイバッグを探った天道は、武器として使えそうな物を一つだけ、テーブルに置いた。
色は黒を貴重にし、オレンジのボタンが4つ付いた、手甲の様な形をした物体だ。
残りの支給品をデイバッグに戻した天道には、もう一つだけ気付いた事があった。
さっき一瞬だけ現れたハイパーゼクター。あれは確かに、幻などでは無い。間違い無くそこに居た筈だ。
それなのにハイパーゼクターは、天道がいくら呼んでも現れる気配が無い。
「……ハイパーゼクターも支給品として紛れ込み、誰かに配られたと言う事か」
時空を越える力を持ったハイパーゼクターを、何らかの意図があって主催側自らが支給品に選んだのか。
それとも、ハイパーゼクターが主を救う為、自らの意思でこの時空に介入。そして支給品として紛れ込んだのか。
それは流石の天道にも解らない。が、天道がどう動くかはもう決まっている。
「(ハイパーゼクター……俺は再びお前を……未来を掴んで見せる……!)」
表情を固める天道。
「おばあちゃんが言っていた……。
――人が歩むのは人の道……その道を開くのは……天の道……!」
こんな下らない戦いを見過ごす訳には行かない。第一、天道にはひよりを探すという大事な使命がある。
この言葉の意味も、今更説明するまでも無いだろう。ならば話は早い。

「(全ての参加者を救い、奴を倒す……! そして、ひよりも救ってやる!)」

それが天道の出した答えだった。

「二兎を追う者は二兎共を取れ」。それがおばあちゃんの言葉であり、天道の考えでもある。
天道は、一つを取る為に他の一つを諦めはしない。
「全てを救ってみせる」。それが天の道を往く男の決意だった。

天道は、テーブルに置かれた黒い物体をそっと手に取った。そして、それを両手の甲に当てる。
同時にそれは天道の両手を包み込み、グローブ状の形を取った。
天道はそれを確認すると、すぐに行動を開始した。
デイバッグを掴み、ホテルの入口に向かって歩き始める。まずは外に出なければ話にならないからだ。


「(早く新しい武器を見付けねぇと……)」
街の散策ついでに、ヴィータには探すべき物があった。
ボロボロになったチェーンソーに変わる、新たな武器を見付けなければならない。
手に持ったこのチェーンソーは既にその機能を失い、刃も欠けてしまっている。
こんな役に立たないチェーンソー、新しい武器を見付け次第どこかで捨てるつもりだ。

しばらく歩いていると、ヴィータは正面から歩いて来る男に気付いた。
「(敵かっ……!?)」
そう考えるのが普通だろう。ヴィータは咄嗟に、路地裏に飛び込んだ。
息を潜め、少しだけ顔を覗かせる。
「(何だアイツ……死ぬ気かよ……)」
道のど真ん中を堂々と歩く男に、そんな感想を抱いた。何度も言うが、あれでは是非狙って下さいとでも言ってる様な物だからだ。
ヴィータには武器が無い。あるとすれば、この役に立たないガラクタ―壊れたチェーンソー―だけだ。
出来れば不意打ち等という卑怯な戦法は取りたくは無いが、この壊れたチェーンソーでやれる事はかなり限られている。
「(アイツが通り過ぎる瞬間に、このガラクタでブン殴る……!)」
殺す必要は無い。まずは武器の確保が先決だからだ。
速効で殴って、怯んだ隙にデイバッグを奪う。そうなればこっちの物だ。
本来ならば絶対にこんな戦法は取らない筈のヴィータが、こうまでして武器を欲っするのは、やはりヴィータとて負けたくは無いからだろう。
デイバッグを奪った後の事は後で考えればいい。今は、目の前の敵に集中する。
一歩、また一歩と近付いて来る男。ポケットに手を突っ込んでいる時点で、かなりのスピードを持つヴィータの攻撃を防ぐ手段は無いだろう。
そんな態度でゆっくりと歩き続ける男に、苛立ちさえ感じる。
だが、ここで焦る訳には行かない。タイミングを外したら終わりだ。
気付けば、男はヴィータのすぐ目の前まで迫っていた。相手はまだ気付いていない。真っ直ぐに前を見ている。
「(貰った……!!)」
ヴィータは勢い良く飛び出した。目の前の男をブン殴る為に。あわよくば仕留める為に。


「おらぁああっ!!」
ヴィータは、両手に壊れたチェーンソーを振りかぶり、天道に襲い掛かった。
「な……ッ!?」
だが、攻撃は当たらない。自分の目を疑うヴィータ。この男には自衛の手段等無かった筈なのに。
では何故攻撃が当たらない? その答えは、至極簡単だ。天道は、ヴィータの攻撃が後頭部に直撃する寸前に膝を落としたのだ。
「チッ……!」
「…………」
ヴィータは再び天道にチェーンソーを振り下ろす。だが、当たりはしない。
右も、左も、上からも、下からの攻撃も、軽く回避されてしまうのだ。それも、ポケットから手を出す事も無く、上半身の動きだけで。
「っざけんなッ!!」
馬鹿にされていると感じたヴィータは、怒りを込めて、チェーンソーを投げ付ける。だが結果は同じだ。
上体を反らし、飛んで来たチェーンソーをかわす天道。しかも、天道は最低限の動きしかしていない。
ほんの数十センチ、上体を反らしただけ。まるで狙った様にチェーンソーは天道の顔面スレスレを飛んで行く。

「どうした、俺を殺すんじゃないのか?」
「うっせー! 運良くかわせただけで、調子に乗んじゃねぇっ!」
天道の言葉にさらに苛立つヴィータ。こうなれば一撃でも入れなければ気が済まない。
一気に飛び上がり、回し蹴りを放つ。天道の顔面を狙い、凄まじい速度で。
だが……

「……嘘だろ……!?」
ヴィータの渾身の蹴りも、天道にダメージを与えるには至らない。左手をポケットから出し、グローブの甲でヴィータの蹴りを受け止めたのだ。
そのまま払われたヴィータは、地面に落下。悔しそうに天道を見上げる。
「……残念だったな。運良くという言葉は俺には無い。第一、そんなナマクラでは俺の命は奪え無い」
「……てめぇ……!」
見下ろす天道。ヴィータも、鋭い眼光で睨み返す。が、天道がそれ以上ヴィータの目を見る事は無かった。
天道はなんと、ヴィータに背を向け、再び黙って歩き出したのだ。
「おい待てよ!」
「何だ、まだ何か用があるのか」
「なんであたしを殺さねー!?」
問い掛けるヴィータ。天道は、背中を向いたまま立ち止まる。
「俺はお前と違って忙しいんだ。可愛い妹の為にも、こんなくだらんゲームに付き合ってやる義理は無い」
「へっ、なるほどな……お前も偽善者って訳か」
「……偽善者……か」
ヴィータの言葉に、少しだけ反応する天道。ヴィータからすれば、「こいつもさっきの偽善者と変わらない」。
だが、「偽善者」と呼ばれた天道が返す言葉は、先刻ヴィータが戦った相手とは、全く違った物だった。
「いや……そいつは正確じゃないな」
「あ?」
キョトンとするヴィータ。ここで初めてヴィータに振り向く天道。振り向き様に、右手の人差し指で天を指差しながら。

「俺が偽善者なんじゃない……
『 俺 が 正 義 』なんだ」

天道は、自信に満ちた表情で、そう告げた。「俺が」を強調しながら、まるで自分が世界の中心とでも言わんばかりに。
ヴィータは、返す言葉を失った。こんな男は初めてだ。こんなにも清々しい表情で、自分を正義と言い張れる男は。
「お前……頭大丈夫かよ?」
「お前こそな」
天道は最後にそう呟くと、再び歩き出した。ヴィータにはただ、黙って見送るしか出来ない。
最後の天道の言葉に込められた意味を、ヴィータは理解出来なかった。
「お前こそな」だと? 自分の何が可笑しいと言うのだ。それこそ、ヴィータには訳が解らなかった。
道の真ん中を堂々と歩き続けるこの男の方が間違い無く頭が可笑しいだろう。そう思ったからだ。

歩き続ける天道の遥か上空を飛び回る、赤い影。カブトムシの姿をしたそれは、主を心配するかの様に天道の上空を飛び続ける。
「……安心しろ」
言いながら立ち止まる天道。
天道は空を見上げ、翼を展開しながら飛び回る「未来」を、真っ直ぐに見据える。
「待っていろ……俺は必ず、お前を再びこの手に掴んでみせる」
それでも、空飛ぶ赤い未来は、「キュインキュイン」と鳴きながら、心配そうに天道を見つめる。
「……だから今は行け、カブトゼクター……! 俺が再びお前を掴むその瞬間まで、ほんの少しのお別れだ」
軽く微笑む天道。しばしの沈黙の後、カブトゼクターも、主との別れを渋りながら、その姿を消す。
カブトゼクターはもう、ベルトを持たない天道の呼び掛けに答える事は無いだろう。だが、天道はそれほど心配はしていなかった。
何故なら、またすぐに出会えるから。すぐにライダーベルトを取り戻し、カブトゼクターと再会する自信があったから。
そして天道がそう思うのには、理由があった。道のど真ん中を歩き続ける事も、その理由の為だ。
そして、その理由とは――

天道は、再び天を指差し、言った。

「――何故なら俺は、選ばれし者……天の道を往き、総てを司る男だからだ」

【一日目 現時刻AM1:37】
【現在地 D-4 ホテル付近】

【天道総司@マスカレード】
[状態]健康・冷静
[装備]ゲキチェンジャー(ゲキチョッパー)@ゲキレンジャークロス
[道具]支給品一式・0~2つ、ランダムに支給品。
[思考・状況]
基本 全ての参加者を救い、主催を倒し、元の世界に帰る
1.待っていろ、カブトゼクター。俺は必ずライダーベルトを掴んでみせる
3.いずれはハイパーゼクターも掴んでみせる
2.相手が襲って来ない限り、こちらから手を出す必要は無い

備考
※ゲキチェンジャーには、サイブレードが次元圧縮で収納されています
※天道がサイブレードについて知っているかどうかは不明ですが、例え知っていたとしてもよっぽどの状況でなければ使うつもりはありません
※ゲキチョッパーへの変身は不可能と思われます

【ヴィータ@NANOSING】
[状態]健康
[装備]特に無し
[道具]支給品一式・ラウズカード(種類・枚数は不明)@リリカルなのはStrikerS+仮面ライダー
[思考・状況]
基本 カトリックの敵の殲滅
1.早く新しい武器を見つけないとな……
2.さっきの偽善者といい、なんでこの戦いに参戦してる天然パーマは変な奴ばっかりなんだ

備考
※壊れたチェーンソーはD-4のホテル付近に転がってます

019 本編投下順 021

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最終更新:2008年02月19日 21:43