心剣士の誤算と因縁の少女


歩いている。
灰色の衣服に身を包み、具足をかちゃり、かちゃりと鳴らす少年が。
日本人の割に色素の薄い髪を持った、キリヤ=カイトが。

「ようやく見えてきた」

視線の先には街がある。
ここを目指して、キリヤは歩いてきた。
どこか適当な拠点を見つけ、そこで夜をやり過ごすために。

彼は幾分か落ち着いていた。
同じようにカラオケボックス行きのバスから飛ばされて、同じように人死にの現場を見せつけられ、
同じようにこの広大な会場に放たれた、あの幼馴染みに比べて。
落ち着いて支給品を確認し、落ち着いて名簿をチェックし、落ち着いて行動方針を決めた。
だからこうして、街を目指している。

「未だに麻痺してるんだろうな、俺も」

自嘲気味に笑った。
あることが原因で、周りのことに無関心な姿勢を続けた、高校入学からの2年間。
シーナによってそこからの脱却を果たし、エンディアスでの戦いで、人と人との心の繋がりの大切さを知った。
それにしては、いやに冷めた反応。
憤りや戸惑いこそ感じるものの、こうして正常な思考を保っている。
いっそパニックになるくらいの方が、人間らしくてよかったのに。

「…ええい、やめだやめ!」

頭を振って、ネガティブな思考を吹き飛ばす。
そんな暇があるなら、現状の再確認の方が先決だ。

今自分が身に纏っているのは、エンディアスでの服を改造したバリアジャケット。
自分とシーナが何故これを着せられていたのかは疑問だったが、どうやら今は、元通りの普通の服に再改造されているらしい。
続いて、支給品。水や食料、コンパスなどはあったが、肝心の武器がいけなかった。
持っていたのはつるはし。これだけ。
どうやら威力はそこそこ高いようだが、こんな物では扱いづらくて仕方がない。

「心剣なんて便利なものがあるならそれを使え、ってか?」

簡単に言ってくれるな、とキリヤはため息をつく。
いずれにせよ、まずはパートナーと合流するのが必要だ。
そしてこんなふざけた戦いを終わらせなければならない。
争う必要のない人々が争うなんてこと、あってはならない。それはあの夢幻大陸で学んだこと。

「シーナ…それから、ティアナを探さないとな」

キリヤは街へ足を踏み入れた。


偶然か、はたまた運命か。
ティアナもまた、数分前に市街地へと入っていた。
不気味なまでに静かな街で、手頃な建築物を探す。

(…また悪夢、ってわけじゃないのが悲しいわね)

ティアナは眉をひそめる。
最後の記憶は棺桶の蓋。それに入って眠っていたはずなのだが、気付けばこうして殺し合いの渦中。
以前にも、棺桶の中で妙な夢を見たことがあった。
自身のデバイス・ヤクトミラージュの精霊を名乗る、思い出したくもない中年のオヤジ。
今回のゲームもまたそれと同じならば都合がよかったのだが、生憎とこれは現実らしい。

「あまり気乗りはしないけど…」

ひとまず、今は自分の身を守らねばならない。手にした銃を構え直した。
夜が明けたならば、まずはアーカードを捜すのが先決だろう。
あの凶悪なマスターは、この殺戮ゲームを大いに楽しんでいるはずだ。
ひょっとしたら襲ってくる可能性も考えられたが、それは無視した。
自分は多分、まだあの吸血鬼のお眼鏡にかかることはないだろう。悔しいが、今は新人の未熟さが味方した。
何にせよ、アーカードはこれ以上ないほど強力な用心棒となってくれる。残る仲間達との合流もスムーズになる。
そこから先はどうするか。
それは他の面々と話し合った方がいいかもしれない。今はそこまで考えるのはやめた。
考え事は少ない方がいい。でなければ、集中力を失うことになる。
ティアナはそのまま曲がり角を曲がって、

「――ティアナ!」

少年に出くわした。

「!?」

自分の名を呼ぶ、聞き覚えのない声。
そちらを向くと、見知らぬ少年が自分の方へ駆け寄ってくる。年齢は自分より1つか2つ上か。
間違いなく初対面の相手。
なのに何故、自分の名前を知っている?

「よかった。まさかいきなり君に会えるなんて…」

いずれにせよ、信用に足る人物かどうかは分からない。
不可解な現象は危険信号と取った方が身のためだ。

「近寄らないで」

警告と共に、銃口を向ける。
相手の――キリヤの表情が凍りつく。
かくしてティアナは、そうとは知らずに、自分とは決して因縁浅からぬ相手に敵意を向けた。
同じくそうとは知らず、因縁浅からぬ銃をもって。

「アンタ…どうしてあたしを知っているの?」


【一日目 AM1:20】
【E-6 市街地】

【キリヤ=カイト@SHINING WIND CROSS LYRICAL】
[参戦時間軸]6話終了後。カラオケボックス行きのバスに乗っている頃
[状態]健康・驚き
[装備]破壊神のつるはし@なのはのくせになまいきだ
[道具]支給品一式
[思考・状況]
基本 このゲームを止める。
1.どうして、ティアナが俺に銃を…!?
2.ティアナ…俺が分からないのか…?
3.夜を街で明かして、朝になったらシーナを捜しに行く
[備考]
※心剣は抜けます

【ティアナ=ランスター@NANOSING】
[参戦時間軸]八話中。飛行機で寝ていた頃。
[状態]健康・警戒
[装備]アイボリー@魔法少女リリカルなのはStylish
[道具]支給品一式、ランダム支給品0~2個
[思考・状況]
基本 仲間達と合流し、今後の方針を練る
1.コイツ、あたしの名前を…?
2.何となくだけど…危険かもしれないわね
3.夜を街で明かして、朝になったら仲間達を捜しに行く
4.捜索はまずマスターから。残りは二の次

020 本編投下順 022

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最終更新:2008年02月19日 21:44