少年を拾った日
右手に浜辺を、左手に森林を眺め、そして両足は丘陵を踏みしめる。どうにもちぐはぐとした印象を受けるその環境を佐山・御言は横断していた。
……どういう事態なのだろうな、これは……?
突然の異変だった。夕日の照る中、皇居近くの橋で新庄・運とストロベリートークを交わし、彼女から贈り物を受け取る約束をして、そして学生寮に帰宅した。
なのに気がついた時には、あの暗闇の中で見ず知らずな人間達と共にいた。
そして見た。二人の人間が爆殺される光景を。
……ドッキリの類ではなかったな、あれは……
あそこで別れた大城達によって拉致され、珍妙な企画に担ぎ込まれたのかと思ったが、どうやらそうではなさそうだ。あの爆音や四散した頭部は、そして周囲の悲鳴は狂言で作れるものではない。
だとすればこの状況は、自分達と敵対する何者かの工作という事か。
……それも否、か……?
断定はしないが、その線も薄いと佐山は考えている。もしも自分達の殺害が目的ならあの場で殺されていた筈だ。あの男達が言った様に、自分達の同士討ちを狙ったという可能性もあるが。
……まるでゲームだな……
だとすれば悪趣味この上ないが、と佐山は続けて思う。まあ少なくとも、ゲームに似た仕組みがあるのは事実であるようだった。
背負ったデイバック、この丘陵地帯に飛ばされた時には持っていた物。これが恐らく、“覇王”や“神崎”と名乗った男達のいう支給品なのだろう。
先ほど確認すれば、食糧や地図といった、こうしたゲームには必要な物品が入っていた。中には用途の理解出来ない珍品もあったが、しかし佐山はそれ以上に重要な物を見つけた。
名簿だ。
このゲームに参加した者達なのだろう、数十人の名前が羅列する紙片。その中には幾つかの知人の名もあった。
……高町、八神、Sf君、ブレンヒルト・シルト……
ハラオウンの名前が二つあったが、おそらく細胞分裂でもしたのだろう、と片付ける事にした。事実、そんな事よりも重要な案件があったからだ。
「――新庄君」
名簿にあった名前、新庄・運切。
自分と正しく対極にある女性と、酷似した名前だ。他人のそら似と片付ける事も出来るが、この状況にあって、その楽観視は危険だった。
「ひょっとしたら、誤認されたのかもしれないな」
或はこちらが本当の名前なのか。
まあそれはさておき、もしもこれが自分の知る新庄であった場合、彼女は非常に危険な立ち場にある。死ぬかもしれない、この状況に。
……彼女は、引き金を引けない人間だ……
初めて会った時、そして二度目に会った時、どちらも1stーGの勢力と交戦したが、どちらも新庄は武器の引き金を引く事が出来なかった。この状況でそれは、非常に危険だ。
「助けなければ」
そう思う。彼女には助力が必要だ、と。この才色兼備豪華絢爛完全無欠の代名詞、佐山・御言が。
「待っていたまえ、新庄君……!!」
その意気込みと共に佐山は立ち上がった。デイバックを背負い直し、健脚を立て、丘陵を闊歩する。が、
……どこへ行ったものか……
行き先に目星がなかった。ぶっちゃけ新庄の居場所が解らない以上、どこにも目指す場所が無い。
取り合えず遠目に見える市街地を目指して歩き続けてみたのだが、
「……川、か」
丘陵側と市街地側を区切る様に、一本の河川があった。大河という程ではないが、体一つで渡るにしては大きく、また底も深そうだ。横断は断念しざるを得ない。
「何処か、地続きな場所はないものか」
川の一歩手前に立ち、佐山は周囲を見渡してみる。
と、一つの物体を見つけた。
だが生憎とそれは橋でもなければ船でもなく、ましてや浅瀬でもなかった。
「――少年、か」
それは右腕の欠損した少年だった。
●
その少年は、半身を水に浸す様にして倒れていた。
意識が無いのか両の瞼は閉じられ、四肢は脱力した様に伸びきっている。
「否、右腕が無い状態では“三肢”か」
川から引き上げてみた少年は重く、また体温や肌色も芳しくなかった。なにより、右腕の断面からの流血が止まらない。
「出血と痛み、それに疲労、か?」
状況から少年が倒れた原因を類推し、だがすぐに無意味な事だと頭を振る。
……今考えるべきは、如何にして傷を負ったかではなく、如何にして助けるか、だ……
佐山にはこの少年を助ける理由は無い。だがそれ以上に、助けない理由が無い。
……出来る範囲で助かるのならば、それに越した事はないからな……
とはいっても佐山は医師ではない。応急処置程度ならばともかく、右腕の欠損という重傷が相手では、それこそ肩口辺りを縛って出血を抑える程度の事しか出来ない。
そして今の自分は包帯も無ければ糸の類も無い。自分の衣服は繊維の固い制服なので裂く事は出来ない。対抗手段がまるで無かった。
「どうしたものか、な」
末期を見取ってやるか、と佐山は思う。それとも解釈をしてやるか? とも考えて、
「……そういえば」
佐山は、先ほど漁ったデイバックの中にあった物を思い出す。思い至ってすぐにデイバックを下ろし、中を僅かに漁ればそれはすぐに見つかった。
取り出された物、それは右腕の形をした大きな手袋だった。が、その中には機械が詰まっており、腕を入れる事は出来ない。義手の類か? とその時はデイバックに戻したが、
「何か、効果はないものか」
失われた少年の右腕、そして右腕までしかない機械の手袋、この符号で何らかの機能は発揮されないものか。
佐山は手袋と少年の右腕、双方の断面を近づける。その瞬間、
「――っ!?」
突如として、手袋の断面から無数の触手が伸びてきた。否、それは触手ではなく、コードや端子だ。それらが右腕の断面へと群がる。
「ぁ……っ!」
断面から体内に侵入される感覚、それによって少年の表情が苦悶に歪む。そして佐山が手袋を引き抜く、その間もなく手袋は佐山の手から抜け出し、そして少年の右腕と完全に接合した。
「……これは………」
そうして完成したのは、機械の右腕が移植された一人の少年だった。接合が功を成したのか出血は収まっている。
「瞬間移植、という事なのか? IAIの……否、UCATの技術か……?」
突如目の前で起きた怪現象に佐山は類推を巡らせる。以前聞いた話によれば、Gの中には機械に生命を与える概念もあるらしい。それを用いた物か、と。
だが悠長に推測している場合ではなさそうだ、と佐山は思考を断った。
「怪我は腕だけではないのか」
右腕の欠損に気を取られて気付かなかったが、少年の胸部にも異常が見られた。肋骨の損傷、過去に修行と称して与えられた怪我は、佐山にとって馴染み深いものだ。
「――治療が必要だな」
胸部の内臓を守る肋骨、だがそれが折れれば、逆に内臓を傷付ける爪となる。今日明日で治る様な傷ではないが、処置は早い方が良い。
「それにおあつらえ向きの場所もある事だし、な」
面を上げる佐山、その両眼が見るのは一つの施設だ。丁度浜辺が終わった辺りに建つそれは、どうやら病院の様に見えた。
……仮に病院ではなかったとしても、ある程度の処置を施して安静にする事は出来る……
右腕に取り付いた義手の事もあるし、と理由を付随させ、佐山は立ち上がる。背にはデイバック、両腕には少年の小さな体躯を抱えて。
「行くぞ、少年」
未だ意識を取り戻さぬ少年に呼びかけ、佐山・御言は病院を目指す。――相手を横抱きにした、いわゆる“お姫様抱っこ”で少年を抱えながら。
【一日目 現時刻AM01:45】
【現在地 H-5 川沿い】
【佐山・御言@なのは×終わクロ】
[状態]健康・少年(ユーノ)をお姫様抱っこ
[装備]特に無し
[道具]支給品一式・不明支給品0~2個
[思考・状況]
基本 新庄・運切と合流。他の事は後で考える
1.さて、あの病院を目指すか
2.この少年は誰だろうな……?
備考
※カセットアーム@リリカルなのはStrikerS+仮面ライダーの機能は“瞬間移植”だと思っています
※ユーノ=スクライアの素性は全く知りません
【ユーノ=スクライア@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】
[状態]肋骨二本骨折・衰弱・昏睡・カセットアーム@リリカルなのはStrikerS+仮面ライダー(欠損した右腕に移植されています)
[装備]無し
[道具]無し
[思考・状況]
基本 主催者を倒し、この殺し合いを止める
1.………うぅ(魘されている)
備考
※沖田のバズーカ砲@なの魂が、ユーノの右腕と共にI-6に落ちています。
※この会場にいるフェイトは、未来から呼ばれたのではないかと考えています。
※フェイトが二人いる事に気付きました。
※モロボシ=ダンの名前は知っていますが、どんな人物かは知りません。
※己の魔力と魔法に、制限がかけられている事に気がつきました
※カセットアーム@リリカルなのはStrikerS+仮面ライダーの移植に気付いていません
【カセットアーム@リリカルなのはStrikerS+仮面ライダーについて】
※バトルロワイヤルでの支給品化に際して、右腕に限り、双方の断面を向き会わせれば一瞬で移植出来る様に改造されています。尚、カセットは一切装填されていません。単体での性能は、平均よりも多少腕力と握力が強い程度です。
最終更新:2008年02月19日 21:44