第九話「傭兵VS魔導師」
12月12日 1940時
海鳴市 市街地のビルの屋上
「ロストロギアの不法所持、及び傷害の罪で君を逮捕する」
背後に突きつけられるミッドチルダ式のデバイス
シャマルは自分の失態に身を裂くような思いを抱いた
もっとちゃんと偽装していれば・・・
前回、自分達が握っていた主導権は今回は管理局側にある。
さらに管理局から援軍が来ており、相手には人的余裕が生まれるのは予想できたはずだ
周辺の探索に割く人員がいてもおかしくない
「・・・・」
相手の魔力量、クラールヴィントの探査を誤魔化したことを考えれば
今、自分にデバイスを突きつけている魔導師は一流だ。
荒事を得意としない自分では勝てない。
「おとなしく武装解除すれば君達には弁護の機会が与えられる」
投降を促すが今それをしてしまったら、はやてちゃんを救うことができない
それにまだ結界の中には自分の援護を待っている仲間がいる。
しかし自分には、この状況をどうすることもできない。
「答えを聞こうか?」
背後の魔導師がそう言った瞬間だった。
カラン・・・・
足元で何か、空き缶のような物が地面とぶつかる音がする。
何かが落ちたほうに目を向けると、そこにはスプレー缶ぐらいの筒のようなものが・・・
「!?」
黒衣の魔導師はそれが何か分かったらしく防御魔法を展開しながら慌てて、その場を離れる。
地面に落ちているもの―――それはハリウッド映画などでよく見かける手榴弾だった。
クロノがシャマルから離れると同時に屋上の扉から人が飛び出してきて、発砲する。
魔導師は弾丸をシールドで弾くが飛んできた銃弾はこれだけではなかった。
殺気を感じたのか、管理局の執務官は別方向にもシールドを展開し、飛来する弾丸を受け止めた。
バァン!
遅れて銃声がやって来た。
狙撃だ。
間一髪シールドの防御が間に合ったが、弾丸の威力が桁違いだったのだろう。姿勢を崩してしまう。
人影は、その隙にシャマルに向かって一直線に走ってきて、彼女の手を握り全速力で扉に向かい走った
「あなた、サガラさん!?」
全速力で引っ張られ、非常階段を走るシャマルは自分の手を掴んで離さない人物を見て叫んだ。
宗介はビルから出る非常口を開き、辺りを確認してからまた走る
「どうしてここにいるんですか!?周りは人払いの結界で封鎖されてるのに・・・
それにさっき爆弾を」
今、この辺りはシグナムたちを逃走させないための捕縛結界を覆うように人払いの結界も張られている
万が一、捕縛結界が破壊されたときに世間に事件が露呈しない為の予防策だ
それによって辺りは、あの時と同じように無人地帯と化していた。
「安全ピンは抜いていないから爆発はしない。君が八神はやてを置いてどこかへ行くようだったから
クルツと一緒につけていたが、まさかまたあの時と同じような状況になるとはな」
「クルツさんって、あの金髪の方ですか?」
「ああ、先ほどの狙撃は奴からの援護だ」
市街地の路地を走り続ける宗介とシャマル、宗介の足はとても速くシャマルは何度も転びそうになる
「あの、どこに行ってるんですか?」
「もう少し行った先に車が止めてある。それでここから離脱する」
「そんな!まだシグナム達が結界の中にいるんです。
それに自動車じゃ、管理局の追跡を振り切れません」
「結界の中はウルズ2に任せる」
どうやら、ASも来ているようだ。しかし・・・
「結界を破壊できるんですか!?」
「・・・・・」
宗介は答えない。ASの武装で結界を破壊することが出来るかなど全くわからないのだ
魔法というものを、つい先日知ったばかりなので当然と言えば当然だが・・・
答えが返って来ずシャマルは宗介の手を振り解き足を止める。
「止まるな、走れ!」
「シグナム達を置いてはいけません!結界破壊なら私が出来ます。
だから・・・・」
だからここで自分だけ逃げるわけにはいかない。
「しかし、その間に・・・ッ!」
宗介は何かを言いかけるが、言葉を急に切りシャマルを押し倒した
シャマルはキャッという声を出し宗介を引き離そうとするがさっきまで
自分達の頭があったところを光球が通り過ぎるのを見た。
「く、見つかったか!」
宗介はすばやく立ち上がり、シャマルをすぐさま立たせ物陰に隠れる。
顔を少し出すと自分達が進むはずだった先にあの黒衣の魔導師が浮いているのが見えた。
宗介はすぐさま手に持っているベルギー製の新世代短機関銃で反撃する。
相手はそれを弾いてしまうが、シャマルを救出するときに使った拳銃と違い
サブマシンガンから発射される弾丸の多さと打撃力に態勢崩してしまう。
そこに集中射撃をかけるが黒衣の魔導師は、それをかわしながら少し離れた物陰に隠れた。
「5.7mm弾でも駄目か・・・クルツ!」
『現在、移動中だぜ。・・・って、こっちにも来やがった!』
通信機の向こうから爆音が木霊し、ノイズが流れる。
どうやらクルツのほうにも敵がいったらしい。援護は期待できそうにない。
あちらの包囲の網は狭まりつつあるようだ。
実弾が入ってるマガジンは残り2つ、残りはゴム弾である。
拳銃にも実弾が装填されてるが相手の防御力を考慮すれば不意打ちでしか役に立たない。
手榴弾もまだあるにはあるのだが殺傷力を低くする為に火薬の量を少なめにしてしまった。
「結界破壊というのはすぐにできるものなのか?」
宗介はさきほどシャマルが結界を破壊すると言っていたのを思い出した
「え?」
「できるのか、できないのか聞いている!」
「は、はい!『闇の書』の魔力爆撃はすぐには撃てません。
チャージに最低でも5分はかかってしまいます。」
5分・・・サブマシンガンのマガジンが残り2個では微妙なところだ
今も相手からの攻撃をやり過ごしながら応戦しているが、いつまで持つか・・・
「シャマルと言ったな。お前は、何かヴィータやシグナムのような
相手を攻撃する魔法は使えないのか?」
「わ、私は後方支援が専門で前線には滅多にでません。
もちろん、攻撃魔法は専門外です。」
「後方支援?具体的になんだ?」
「傷を治したり、相手の通信や転送を阻害したりすることはできます。
あ、あの、相手は管理局の執務官ですよ?一般人が勝てる相手じゃありません」
「・・・敗北主義者のには結局何も出来ん。とりあえず通信妨害でもしていろ」
光球や魔力刃をやり過ごしながら宗介はシャマルに言う
負けじとこちらも撃ち返すが、まるでラムダドライバのような障壁に阻まれ決定打にならない。
「頭を働かせろ。勝機は必ずある。」
「で、でも・・・・」
「そもそも、結界を破壊した後にどうやってここから逃走するつもりだったのだ?」
「ま、魔力爆撃によって、この辺り一帯は魔力の波で一時的に覆い尽くされます。
その魔力の波が管理局のセンサーを沈黙させますから、その間に・・・」
「・・・よく分からんが、核爆発のあとに起こる電磁パルスのようなものか」
核爆発が起きた後、放出された電磁波により数千ボルトの電磁パルスが発生し
コンピューターや通信、レーダーなどが麻痺してしまう。
コンプトン効果というものをご存知だろうか?
それが魔力爆撃なるものでも似たような状況になるらしい。
「多分、そんなものです。」
「しかし、それも目の前の敵を無力化させなければならないか・・・」
それほど高威力の攻撃をするなら敵は多少無理をしてでも、こちらを制圧しにかかるだろう。
宗介はそういい、最後の実弾が入ったマガジンを装填し黒衣の魔導師に発砲する。
考えろ・・・・なにか活路はあるはずだ。
クロノにとって質量兵器を使用する敵との戦いは実に久しぶりだった
管理局の指導の下に質量兵器が禁止されてからもう140年の時が経っている。
それでも質量兵器を使用する犯罪者がいなくなったわけではないが、それ以上に魔導師やロストロギア関連の事件が多いのだ。
以前、密造組織のおおとりものに参加したときは、奇襲が成功したことから銃撃戦らしいものも起きなかった。
「魔導兵器なら慣れているんだが・・・」
魔道兵器ならば、こちらの専門分野であるため対策の1つや2つすぐさま思いつけるが
相手が使う物質を投射するデバイス―――サブマシンガンのことだが―――は放物線を描いて弾丸が飛んでくる上に
偶然性が強い跳弾にも気をつけなければならない。
それでも弱点を全く知らないわけではなかった。
「そろそろ弾切れか?」
シールドを展開してスティンガー・ブレイドを放つ
このままこうして時間を潰すだけで自分達にとって有利に事を運ぶことができる。
それを相手も気がついてるだろう。そのことに焦って相手が勝負をつけに出て来るのもいい
跳弾に気をつければ相手の火力でこちらの装甲を破るのは出来ないはずだ。
ならば、安全確実に済ます方法をクロノは取る事にした。
「君は、そこにあるものがどういうものか知っているのか」
物陰から相手に大声で疑問をぶつける。
そこにある『闇の書』がどういうものなのか知って守護騎士に味方しているのかどうかは分からないが
もし知らないのならば、真実をぶつける事で動揺が走るはずだ。
もちろんこれは他の世界にいる局員がこちらに付くまでの時間稼ぎなのだが・・・
「・・・・・」
返事は返ってこなかった。しかし銃弾も返ってこなかった。
「君は、知っているのか?そこにある『闇の書』がいくつもの文明、都市を破壊してきた危険物だということを?
知らなかったなら、今すぐ抵抗を止めろ。君達が行った捜査妨害は不問にすると確約する。」
攻撃の手が止んだ。相手はこちらの話に興味を持ったようだ。
そして、相手にも反応があった。
「続けろ」
宗介は相手がこちらに声をかけてきたのを機に一時的に反撃を止めた。
そうして今、自分の手元にある装備品の確認をする。
実弾が入ったマガジンは残り三分の一になっている。後はゴム弾が装填されたマガジンだけだ。
他には手榴弾が2つ、フラッシュバンが2つ、アーミーナイフ、投げナイフ・・・・
少し先にある車には装備があるがここを突破しない限り補給は無理だ。
「あの、聞いてあげないんですか?」
「まず間違いなく時間稼ぎだろうが、相手が話に集中している間は攻撃の手は止む。
その間に奴を倒す作戦を立てる。」
どうやら宗介には『闇の書』がどういうものかについて話を聞く気はないようだ。
時間は管理局の味方だが、こちらにも時間が必要だった。
「もう一度聞くが、お前は本当に攻撃魔法とやらは使えないんだな?」
「はい、すいません」
シャマルは気落ちし、うな垂れる。
専門分野以外は、ほとんど無力の自分が前線にしゃしゃり出てきたせいで
現在こんな状況になっていると思っているようだ。
「士気を下げるな。タマを落としたいのか!」
「私そんなものついてません!」
「それにその不足分を補う為に俺達はここにいる。
・・・しかし、こうなるとこちらの火力で相手の装甲を正面から破るのは難しいな」
こちらの攻撃を弾く障壁、シャマルが言うにはシールドやプロテクションと呼ばれる防御魔法らしい
対戦車ミサイルや対物用の50口径ライフルならば破ることも出来るかもしれないが、今ここにそんなものは無い。
唯一、今の装備で可能性があるのは手榴弾だが火薬を少なめにして持ってきたことが仇となった。
あの障壁をどうにかしなければならない。
「・・・・シャマルといったな。二つほど質問がある。」
クロノは、これまで『闇の書』が引き起こした災害を覚えてるだけ話した。
反応は返ってこないが、相手は一応聞いているようだ。
これであちらに動揺が走れば、しめたものである
他にも自分を狙撃した奴がいるがそちらは他の武装局員が相手をしているはずだ
「話はこれで終わりだ。さっきも言ったように抵抗は無駄だ。包囲は狭まりつつある。
武装を解除して大人しく出てくるんだ!」
「・・・任務を放棄する気はない」
「任務?目的は何だ?」
「知らん。仮に知っていても言うわけなかろう。」
「そうか目的は、おいおい追求しよう。もう一度言う、大人しく投降しろ。
君達では僕には勝てない。」
「そうでも・・・・・ない!」
その言葉と共にサブマシンガンで武装した男が物陰から飛び出してきて、こちらに発砲する
クロノは物陰に隠れ銃弾をやり過ごす。
焦って勝負を仕掛けてきたのか?それともまだこちらの装甲を破るような武器がある?
だがその考えも手榴弾が投げ込まれたことで中断せざる得なかった。
さっきほどのようにフェイクかと思ったが今度はしっかりと安全ピンが外れている。
「くっ!」
それを確認したクロノは物陰から全力で飛び出し、その場を離れる。
直後、クロノが隠れていた物陰で爆発が起こる。
しかし思っていたよりも、威力はない。
あの程度の威力なら自分の防御魔法でも防げそうだ。
「功を焦ったみたいだな!」
相手が不用意に姿を現したのならチャンスだ。
このまま正面から相手を無力化する。
『スティンガーブレイド』
クロノは空中に5つの青白い魔力刃を発現させ宗介に向かって発射する
宗介は、それをジグザグ走りで回避し、手に持ったサブマシンガンの弾装を交換して反撃に出る
目まぐるしく立ち位置を変え、飛び交う銃弾と魔法・・・
だが、宗介が放つ弾丸は先ほどから実弾ではなくなっていた。
実弾はとうにきれ、今はゴム弾を発砲している。
ゴム弾もそれなりに威力はあるのだが武装した魔導師相手では力不足としか言いようがなかった。
『スティンガーレイ』
対人戦なら速度と貫通力が高いことから重宝する魔法をばら撒き、辺りに土煙を立たせる
巻き上がった土煙に乗じ、クロノは宗介に接近する
宗介も負けじとサブマシンガンを乱射するがクロノに当たることはなかった
「はああ!」
宗介の脳天にクロノはS2Uを振り下ろす
宗介はサブマシンガンを盾にして受け止めるが、それを読んでいたクロノは先手を打った。
『ブレイクインパルス』
その声を聞いた宗介は、銃から手を離し後方に逃れるが
S2Uから振動エネルギーが送り込まれサブマシンガンは粉々になってしまう。
衝撃で暴発したゴム弾が宗介、クロノを襲う。しかし防御壁を展開していたクロノは無傷だ。
宗介は痛みに耐え腰の拳銃を抜いてクロノに発砲しようとしたが、クロノの魔法はすでに完成させていた。
『ディレイドバインド』
宣言と共に設置型のバインド魔法が発動し、宗介の足元から光を放つが現れ足を縛り上げてしまう
「くっ」
クロノは、急に足を縛られたせいで倒れた宗介にS2Uを突きつけ
相手が地面に落とした拳銃を蹴飛ばす。
「言っただろう。君達では僕には勝てないと。
さて、君達は捜査妨害とロストロギアの不法所持及び傷害の容疑で逮捕される。
何か弁明することは?」
「――――――――――だ」
「なんだって?」
「獲物を前に舌なめずり三流のすることだ」
宗介がそう言った瞬間辺りは真っ白な光に覆われた。
宗介がなにやら言った後に辺りが白色光に包まれクロノは一瞬だけ視力を失った。
だが、目くらましをしても相手にもこちらは見えないはずだ。
それに何度も言うようだが相手の火力では自分の防御魔法を抜くことは不可能のはずだ。
クロノはプロテクションを展開しながら後ろに下がろうとした。
「今だ!」
宗介が大声で物陰に隠れているシャマルに合図を出した。
* * * *
シャマルは宗介が自分にした質問を思い出していた
「まず一つ目だ。お前は奴のように障壁を張れるのか?それも複数同時に」
Yes―――後方支援専門だが流れ弾対策にフィールド、シールド、バリアなどの防御魔法は人並み以上に使える。
「では次だ。もし閃光手榴弾を使っても相手の正確な位置を探知できるか?」
Yes―――先ほどは油断して背後を取られたがクラールヴィントの能力ならば
この近距離で、しかもジャミングしていない相手の位置を見失うことはない。
「よし。では俺の合図と共に奴の周りを、その防御魔法で囲め。上下左右、全方向、隙間無くだ。
だが時間差を持たせろ最初は奴の背後からだ。」
宗介は頷き、指示を出しながら自分の装備の確認をしている。
そんな宗介を見てシャマルは疑問を投げかけた。
「あの、そんなことして何になるんですか?執務官相手では足止めにもなりませんよ?」
「発想の転換というやつだ。いいか?これはタイミングが一番重要だ。
早過ぎても遅すぎても駄目だ。分かったな!」
「は、はい!」
宗介の有無を言わさない態度にシャマルは反射的に返事をしてしまうがあまり納得してないようである。
サブマシンガンの残り弾数を確認してから、宗介はシャマルの肩を叩き物陰から飛び出ていった。
* * * *
ドッ・・・
後方に下がろうとしたクロノは唐突に背後にある何かにぶつかってしまう。
これは・・・・シールド系の防御魔法!?
急いで別方向に脱出しようとしたが、シュッという風を斬る音と共にナイフが自分の進路を阻む。
突然の光によって集中が途切れたことで相手を拘束していたバインドも解けてしまったようだ
足を止めてしまったことで、ドームは完全に閉じてしまった。
「こんなことをしても」
クロノは相手が張ったシールドを破壊する為にS2Uに魔力を集中させる、だが・・・・・・
カラン、カラン、カラカラ・・・
先ほどから良く聞く音がして、クロノは顔面蒼白になりながら
音のした方向にまだ少し眩んでいる目を向ける。
「こちらの戦力を過小評価しないことだな」
宗介がそういった瞬間、クロノを囲い込むドームの中で手榴弾が爆発した。
通常、手榴弾などが爆発すると発生する爆風や熱はすぐに拡散してしまう。
しかし、そうならない状況も存在する。
それが閉鎖空間での爆発である。
爆発で発生したインパルスは壁にぶつかり反射して何度でも相手を襲うのだ。
その威力は開放空間で爆発したときと比べ数倍以上にも跳ね上がる。
「こんな使い方、普通の騎士や魔導師ならしませんよ・・・」
物陰から目をこすりながらシャマルが出てきた。
どうやら閃光弾の衝撃が残っているようだ。
「まだ下がっていろ。これで倒したか、まだ分からん。」
宗介は地面に落ちた9ミリ拳銃を拾い油断なく構えた。
シャマルが張ったシールド魔法のドームのあちこちにひびが入っている。
僅かにドームの展開が遅れたが即席のコンビネーションにしては、上出来だった。
「もういいぞ」
宗介はそう言って、シャマルにシールドを解除させる。
ドームの中の煙が次第に晴れていき、ボロボロのS2Uを杖にして立っているクロノが現れた。
爆発直前に防御はしたようだ。でなければこの魔導師は今頃この世の人ではない
しかしそれでも完全に防ぐことは出来なかったようだ。脳も揺れたらしく立つことすらままならない。
「くそっ・・・」
黒衣の魔導師はそう言って意識を失い地面に倒れる。
それと同時に地面に魔法陣が浮かび上がりクロノの姿は薄れて消えてしまった。
「今のはなんだ?」
「多分転送魔法だと思います。それも短距離の緊急脱出用・・・」
「では、一応退けたと言うことか・・・」
宗介はため息をつきながら、辺りの気配を探る
もしも伏兵がいるならば戦闘が終了した今このときが一番危険なときだからだ。
30秒待っても敵襲が来ないことから宗介はようやく警戒を緩めた。
「それで、今なら魔力爆撃とやらはできそうか?」
「え、あ、はい。周りには魔導師の反応はありませんし
今は転送魔法も私が妨害してますし・・・」
今の今まで転送妨害するのを忘れていたらしい。
「では、早く撃て。敵に邪魔されたら厄介だ。」
宗介はいいながらクルツに通信を入れる
しばらくノイズが流れてたが、なんとか繋がった。
「ウルズ6無事か?」
『ああ、何とかなった。なんか変な奴に助けられたけど』
「変な奴?」
怪訝そうに聞き返す宗介、その横ではシャマルがなにやらブツブツ呪文を唱えているが
宗介はそれを横目に通信を続けた。
『それがいきなり空飛ぶ男が現れて徒手空拳で格闘を始めたんだぜ?
しかも今時、仮面被ってるんだぜ?』
「怪しい所の騒ぎではないな。」
などと自分もきぐるみを来て変質者を捕まえたり
暴力団を壊滅させたりすることを棚上げして好き放題言う宗介
「何者なんだ?」
『わかんねー、戦闘が終わったらいつの間にか消えてた。』
「そうか、それで今どこだ?」
『もうすぐそっちにつくぜ?っていうか、こっちからもう見える。
お前から見て8時の方向だ』
そう言われ8時の方向を向くと狙撃銃を背負ったクルツがこちらに走ってくるのが見えた。
やはり通信で話した仮面の男はどこにも姿がなかった。クルツ一人のようだ。
「クルツ」
「おめーも無事だったか。・・・いや、そうでもねーな。」
暴発したゴム弾を受けた事と閃光弾を至近距離で使った事で
宗介の体はあっちこっちでボロボロになっている。
「しっかし割り切ったとはいえ、ありえんほど非常識な連中だな。
ライフル弾で姿勢を崩す程度の効果しかないなんてよ。ほんと反則臭いぜ。」
「だが、決して倒せない相手ではない。」
「ああ」
宗介の言葉に同意するクルツ
二人とも何かしらの助けがあったとはいえ魔導師を退けることができた。
それは大きな収穫だった。
「それでお前ら、なにしてるんだ?」
「仲間を閉じ込めている結界を破壊するそうだ。
破壊してしばらくは相手のセンサーが沈黙するらしいから、その隙に逃げる算段だ」
「ふーん、で?具体的にどうやって逃げるんだよ?」
「彼女が何か用意してるみたいだが」
二人は『闇の書』に向かって呪文を呟くシャマルを見る。
足元には巨大な緑のベルカ式魔法陣が浮かび上がり、なにやら辺りに黒い雷光がほとばしっている。
次第にその密度が濃くなっていき、最高潮になると同時にシャマルが『闇の書』に命令する
「『闇の書』よ。守護者シャマルが命じます。眼下の敵を打ち砕く力を今ここに!」
その宣言と共に結界上空に闇色の球体が現れ、だんだんと肥大化してゆく
「撃って、『破壊の雷』!」
『Geschrieben. 』
闇色の球体が突如、形を変え結界に向かって堕ちて行く
その光景はまさしく魔力爆撃の名にふさわしいものだった。
普段なら不可視である結界も魔力爆撃の負荷によって発光し一般人にも見えるようになっていた
次第にその負荷に耐え切れなくなり、結界にひびが入っていき
限界を超えた結界は凄まじい音と共に破壊されてしまった。
クルツはその光景を見てヒューっと口笛を吹き、宗介は目を細めた。
「それじゃ相良さんにクルツさん。ちょっとこっちまで来てください」
言われたとおり、シャマルに近づく宗介とクルツ
シャマルが何かしら呟き、ベルカ式魔法陣が現れると当時に二人の視界は暗転した。
【おまけ】
12月12日 1940時
海鳴市 市街地のビルの屋上
※注意:これは本編とは似て非なる平行世界でのお話です。
「ロストロギアの不法所持、及び傷害の罪で君を逮捕する」
―――――――――省略
「答えを聞こうか?」
「ふもっふ!」
「「!?」」
その鳴き声とともにクロノは何かにドロップキックをくらい吹き飛ばされる。
ドロップキックのせいで倒れた何かは、ぐるぐる回転して起き上がり
未だ衝撃から立ち直っていないクロノに追撃をかける
「ふもふもふもふもふもふもふもふもふも!!」
起き上がった愛らしいが、鼠なのか熊なのかよく分からないぬいぐるみ―――ボン太くんは無数の拳を放つ。
ドドドドドという音と共にクロノの鳩尾に幾打もの拳がめり込む。
クロノはすでにグロッキー状態である。そのままボン太くんはクロノを突き飛ばしフェンスにぶつける。
「ふぅもっふ!」
フェンスにぶつかって帰ってくるクロノの膝に足をかけ膝蹴りをお見舞いする
「ああっと!?これは・・・シャイニングウィザード!?これは痛い、痛いです!」
状況についてはいけないが、なぜかプロレス技を知ってる泉の騎士が絶叫する。
ちなみにプロレスラー武藤啓二が開発したこの独創的な技の和名は 閃 光 魔 術 である。
「がはッ!」
あまりの衝撃に地面とキスするクロノ
だが・・・だが、それでもボン太くんの濁流のごとき猛攻は終わらなかった
「もっふる!」
「アルゼンチンバックブリーカー!?」
マディソン・スクエア・ガーデンの帝王アントニオロッカが発明した関節締め技を大声で叫ぶシャマル
「ふも、ふもっふ!!」
「そのまま流れるようにバーニングハンマー!?・・・決まったぁぁぁぁ!」
アルゼンチンバックブリーカーの状態から相手の後頭部を地面に叩きつけるという超危険技をかますボン太くん
それを見てシャマルは興奮最高潮に達した。しかし、よい子のみんなはバーニングハンマーを真似しては駄目だぞ?
マジで死ねるから・・・
「ふもっふぅぅぅぅぅぅ!」
カンカンカン!
高らかに鳴り響くゴングがぬいぐるみの勝利を告げる。
倒れて動かなくなるクロノに片足を乗せ、勝利の雄叫びを上げガッツポーズをとるボン太くん。
ボン太くんの周りで大量のカメラのフラッシュが一斉に瞬いた光景をシャマルは確かに見た・・・・気がする。
「・・・あれ?あれ?」
冷静になったシャマルがオロオロと辺りを見回す。
ボン太君はシャマルの行動を見て不思議そうに
「ふも?」
とだけ呟いた。
お後がよろしい様で(了)
最終更新:2007年08月14日 12:18