怒りという名の強い意志
万丈目準は、怒っていた。
明日香が殺された事、そして何より、手を下したのが十代であるという事に。
もちろん十代の豹変に対する戸惑いや、明日香の死による悲しみもある。だが、それ以上に、
「おのれ……十代!」
十代に対しての怒りが勝っていた。
持っていたデッキも奪われた。支給されたはずの荷物も無い。
それでも、大切な仲間が少なくとも一人、場合によってはもっと多くここに呼び寄せられているだろう。
故に彼は、咆哮する。
「貴様の思い通りになると思うなよ……この万丈目サンダーが、貴様の目論見だけは阻んでみせる! ガボゴボ……」
自らの決意を、その声に乗せて放った……流されながら。
……そろそろ彼の現在位置を教えた方がいいだろう。
彼は現在、B-7の川をB-8方面へと流されている真っ最中である。
スタート地点が運悪くB-7の川の上だった事に加え、意外と流れが速いので、川岸に着けずに流されているのだ。
ちなみに支給品は彼と一緒に川に落ちた後、川の底で来るかどうかも分からない出番を待っている……
あ、溺れた。
一方、その流された先であるB-8の川岸。
そこでは、兜甲児が状況を飲み込むのに四苦八苦していた。
「こりゃあ……一体どうなってんだ?」
そう言いながら、自分がここに送られる前の事を思い出す。
確か管理局に保護され、協力すると伝えてから数日たった後、クロノと一緒に引越し荷物を運び込んでいたはずだ。
それが何をどうすればこんな大量の人をかき集めて殺し合いなんて状況になるのだろうか。少なくとも彼の持つ知識では全く分からない。
ふと、これは夢ではないのかと思い、自分の頬をつねってみる。
「痛てて、こりゃ夢じゃねえみてえだな」
痛かった。
となると、これは夢ではない。紛れも無い現実だ。
ならば今考えるべきは何故こうなったかではない。これからどうするべきかである。
……とはいっても、正義感の強い甲児のことだ。こんな殺し合いには乗るはずが無い。
「……覇王だかなんだか知らねえが、こんなふざけた事許せるわけねえだろッ!」
やはり、である。
先程の光景……明日香と隼人が首輪を爆破され、死んだ時の事を現実と認めた瞬間、その心に湧き上がったのは怒り。
いくらなんでも、無抵抗の相手を問答無用で爆殺とは非道にも程がある。
そしてそれは、そのままあの二人の主催者へと反抗するための力になる。古来より、強い意志は人に力を与えるものだ。
この瞬間、甲児は主催者へと抗う道を選んだ。
その頃万丈目は……
「……(ブクブク)」
流されながら溺れていた。そろそろB-8に到達する頃だろう。
(天上院君の仇も取れずに、こんな所で終わるのか……く……そ……)
溺れながらそう考え、そしてついに意識を手放した。
B-8地点には、川の他にその岸に岩場がある。
その岩陰に一人の青年の姿。見た限りでは、まだ高校生といった外見だ。
彼の名は相良宗介。極秘傭兵部隊『ミスリル』所属の兵士である。
今の彼を取り巻く状況は、一言で言うと「非常識の極み」だ。
何せいきなり拉致され、「殺し合え」だ。これが常識的ならば一体何が非常識だというのか。
ラムダ・ドライバの存在や、なのは達の一件で非常識には慣れていたつもりだった。だが、これはそれ以上である。
「……装備を確認しておくか」
そう言うと、手持ちのデイバッグを開いて支給品を確認する。
この殺し合いに乗るにしろ乗らないにしろ、自分の装備は知っておく必要があるからだ。
最初に出てきたのは名簿。かなめや上官の名があったら、すぐに合流せねばならない。そう思いながら開いた。
幸いそれらの人物の名は無い。だが、それ以上に自分の奇縁に驚く宗介だった……いや、実際に驚いているのかは謎だが。
(まさかこんな所にまで一緒だとはな……)
名簿には、なのはとヴィータの名が載っていた。
彼らには、かつてなのはが空を飛ぶ写真を見て、それをどこかの組織の兵器の類だと勘違いした挙句に拉致したという関わりがある。
その事は誤解だと分かり、謝罪と謝礼金を送ったのだが……どうやらここでも一緒だったらしい。
まあ、魔法などという芸当ができるのだ。そう簡単には死なないだろうし、それに今の所合流する理由も無い。
そう考え、名簿をしまって次の支給品を手に取る。
取り出したのは、一丁の拳銃だった。
この銃には対になるもう一丁の銃があるのだが、それは数十分後に因縁まみれの吸血鬼の少女によって使われている。
その名は『エボニー』。とある悪魔狩人によって使われた銃である。
「銃か……殺し合いをさせようと言うのなら、これは当たりの部類に入るか?」
そう言いながらエボニーを懐に忍ばせ、そして再び支給品のチェックに入った。
その頃万丈目は……
「……(ブクブク)」
未だに溺れていた。そろそろ助けないと命が危ない。
だが、どうやら神とやらは彼を見捨てなかったようだ。
「おい、大丈夫か! しっかりしろ!」
何者かが彼を助け、川岸まで運んだのだから。
もっとも、彼は意識が無いので気付いてはいないが。
時間はほんの数十秒ほど巻き戻る。
「それで、バルディッシュ……お前は本当に俺の事を知らないんだな?」
『ええ。少なくとも私のメモリーには、あなたの事は記憶されていません』
甲児は自分の支給品であるバルディッシュと話していた。
最初に見た時にはただのアクセサリーかと思ったが、説明書に載っていた「フェイトのデバイス」という情報に食いつき、今は情報交換の真っ最中である。
もっとも、彼はバルディッシュを直接見た事が無い上に、バルディッシュにも甲児の事は記憶されていなかったのだが。
余談だが、フェイトがバルディッシュと話した内容にも無いというのは、甲児にとっては多少ショックだったらしい。
『甲児、あなたは話によると、どうやらサーと協力して闇の書事件に関わっていたようですが……
どれだけメモリーを漁っても、闇の書事件の時にはあなたの姿はありませんでした』
「な、何だって!?」
これには多少甲児も驚く。
バルディッシュによると、彼が関わっていたはずの事件……通称『闇の書事件』には甲児は参加していなかったという。
リンディからカイザー暴走の一件を聞かされ、その時にフェイトと戦っていたから、記憶にあってもおかしくないというのに、だ。
これは甲児に関するメモリーが抹消されたという事か、それとも……
『疑うつもりはありませんが、あなたは本当に闇の書事件に「ん? ちょっと待てバルディッシュ」
と、甲児がそこで何かに気付いた。
近くの川の上流の方から何かが流れて来る。目を凝らして見ると、どうやら人間が浮いているらしい。
動く様子は皆無。ぷかんと浮いたまま流れて来ているという事は……!
「ありゃあ……」
『どうやら溺れているようですね……甲児、一体何を!?』
甲児が流されてくる人影を見つけ、それが溺れているのだと理解する。
そして、それと同時にバルディッシュを置き、川へと飛び込んだ。
バッシャァァァァァン!
何かが勢いよく水に落ちるような音。それも距離から考えると、すぐ近くだ。
この場合、重要なのは何かが水に落ちた事ではない。水に落ちる何かがあるという事だ。
見た限りでは会場に動物はいない。ならば落ちた、もしくは落としたのが人である可能性、大である。
それを念頭に置き、宗介は岩陰からその様子を伺い始めた。
「おい、大丈夫か! しっかりしろ!」
岩陰から見えた限りでは、特徴的な髪型の男が川から一人の男を引っ張りあげている最中のようだ。
この状況下で一体何をしているのだろうか。まさか溺れていた男を救出したとでも言うのか?
……まあ、いい。どういうつもりにせよ、これから見ていれば分かる事だ。
その間に殺し合いに乗るか否かを決める時間としても十分過ぎる。そして場合によっては……
彼はそう考えながら、懐のエボニーに目を移し、そして再び甲児へと目を向けた。
【一日目 AM0:37】
【現在地 B-8 岩場】
【相良宗介@フルメタルまじかる】
[参戦時期]4ふもっふめ終了後
[状態]健康
[装備]エボニー@魔法少女リリカルなのはStylish(残弾10/10 予備カートリッジ5/5)
[道具]支給品一式・ランダム支給品0~2(本人確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗るかどうかを考える
1:殺し合いに乗るかどうかを考える
2:あの男(甲児)を見張る。場合によっては殺害
[備考]
※岩場は川や川岸が見える位置に存在します
「くそっ、駄目だ。気絶してる」
甲児は川から引き上げた男……万丈目を見てそう結論付ける。
引き上げた時は一瞬最悪の想像が浮かんだが、息があることからそれは杞憂だったらしい。
だが、先程まで溺れていた男だ。おそらくそう簡単には目を覚まさないだろう。
それを考え、ため息が漏れる。
『どうするつもりですか、甲児?』
ここでバルディッシュの声がした。
溺れていた人間を見て、それを助けることに気がいっていたせいだろうか。甲児はバルディッシュの存在を忘れていたような表情だ。というか忘れていた。
……一瞬だけ心の中で「忘れててすまねえ」と謝罪した後、甲児が答えを返す。
「ん? ああ、とりあえずこいつが目ぇ覚ますまでここで待ってようぜ」
【現在地 B-8 川岸】
【万丈目準@リリカル遊戯王GX】
[参戦時期]第5話 ゾンビ生徒との戦闘直前
[状態]気絶
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本:十代の思い通りには絶対させない
1:……(気絶中)
[備考]
※支給品はスタート地点の川に落ちた際、回収できずに終わりました。現在はB-7の川底に沈んでいます
【兜甲児@魔法少女リリカルマジンガーK's】
[参戦時期]第四話 引越しの最中
[状態]健康
[装備]バルディッシュ@マスカレード
[道具]支給品一式・ランダム支給品0~2個
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める
1:この男(万丈目)が目を覚ますまで待つ
2:バルディッシュの言い分に困惑
最終更新:2008年02月20日 23:22