決意と覚悟


(俺は……)

小狼は、一体自分はどう動くべきなのかを考えた。
まず自分に支給されたのは、鉈と千年リングの二つ。
正直、バクラに関しては分からない事だらけなので置いておくことにする。
その後、小狼は鉈を見つめ……かつて、自分が愛刀の緋炎を手にした時の事を思い出す。
彼は元々、蹴り技を主体にここまで戦ってきた。
しかし、旅の最中でそれが通用しない相手と出会い……彼はそれを機に、新たな武器として緋炎を手にした。
その扱い方に関しては、黒鋼に師事をしてもらったが……その時に、黒鋼は小狼へとこう告げたのだ。

―――刃物はな、相手を選ばねぇ。

―――使い手が未熟なら、その未熟な切っ先のまま、斬る必要のないものまで斬っちまう。

―――例えば己自身、例えば守るべきもの。


―――お前が斬るべきものを斬れるようになるまで、それは解くな。


未熟な小狼では、まだ刀を扱いきれない。
だから、完全に力を己の物へと出来るようになるまでは、刀は抜いてはならない。
その忠告は、刀をずっと振るい続けてきた黒鋼だからこそ出来るものであった。
大切な者を守る為、守り通すための力を求めていた彼だからこそ、その言葉には説得力があった。
小狼の実力は、彼のレベルにはまだ届いていない。
しかし……それでも、その力でもやれる事はある。
守るべきものを守る事、その者の為に為すべき事……

(……そうだ)

何故今まで、迷いを抱えていたのか……答えはもう、出ているではないか。
黒鋼と共に、この殺し合いから生還する。
あの時、刀を手にした時に決めたように……生きてやると決めたことをやる為に。
守ると決めた、大切な者の元へと戻る為に。
その者のために、やり遂げなければならぬ事をやり遂げる為に。
小狼は、強く覚悟を固めた。
主催者を倒して、そして殺し合いを止めると。

「よし……!!」

すぐに小狼は地図を広げ、今後の事を考える事にした。
主催者を倒す為、その為に必要な事は何かを。







(くそ……どういう事なんだ!?)

バクラは今、予想外の事態に対して焦りを覚えていた。
それは、他ならぬ小狼の事である。
バクラは、己の持ち主の記憶を知る力がある。
彼はその力で、彼の事や黒鋼の事を知る事が出来たのだが……ここで予想外の事態が起きた。
彼の記憶をより深く探ろうとした所、その記憶には欠落があったのだ。

(記憶喪失じゃねぇ……こいつ、記憶そのものがねぇのか……!?)

小狼は、幼少時の記憶を持っていない。
本人は何かしらの理由で、自らの記憶を喪失してしまったと考えているようだが……
これは、記憶喪失などではない。
もしも記憶喪失であるのならば、それはただ記憶を『忘れている』だけ。
バクラの力なら、その忘れた記憶を知る事は出来る。
だが、彼にはその記憶その物が無い。
まるで、彼の人生はそこから始まったかのように……記憶を失う以前の記憶その物が『存在していない』のだ。

(それだけじゃねぇ……所々で、記憶が途切れてる部分がありやがる。
その点だけの記憶が、こいつの中には存在していない……?)

そして、記憶の欠落が見られたのは幼少時だけではなかった。
彼は異世界を旅している最中に、自らの意志とは関係無しに、突然体が動いてしまった事が数度あったらしい。
その時の事は、小狼は覚えてなく……そしてその記憶もまた、欠落している。
何故、この様な事態が起きてしまっているのか。
バクラは、全く見当がつかなかった。

(……こいつに聞いても、分かる訳がねぇ。
分かってたら、こんな事になる筈がねぇもんな……)
「……バクラさん?」
『あ……なんだ、呼んだか?』
「はい、これから何処に行くかを決めました」

小狼は地図を広げ、自分達が今いる地点を指さす。
そしてその後、地図の上を走らせ、ある地点へと移動させる。
それを見て、バクラは思わず声を上げてしまう。

『あん……すぐそこじゃねぇか。
街とか病院とか、人の集まる場所に行く気はねぇのかよ?』
「勿論、人の集まる場所には行くつもりです。
だけど、多分そうやって考える人は大勢いますから……」
『……ああ、成る程な。
確かに、ゲームが始まってすぐの今じゃ、そういう場所には色んな奴等が集まりすぎる。
しばらく間を開けて、落ち着いてからの方が都合はいいな』
「はい……それに、ここは多分役に立つと思います」

小狼は、すぐ側のA-3にある施設―――工場を目指すつもりでいた。
彼がここを目的地にした理由は、大きく分けて二つある。
まず一つ目は、バクラも察したように、すぐに人の集まる場所へと向かうのは危険な為。
確かに、多くの参加者と接触は出来るが……同時に、殺し合いに乗った者達と出会う可能性も高い。
しばらく時間を置き、それから行くのが得策だからという為である。
そして、二つ目の理由は……首輪。
己の首に取り付けられた首輪を外すには、専門の知識と技術が必要不可欠になる。
そうなると、工場の存在はかなり大きい。
どの程度の規模のものなのかは、地図からは分からないが……行く価値はある。

『しかしそう言うって事は、ゲームには乗らないって判断していいんだよな』
「はい」

小狼は、自分は殺し合いに乗らないと言い切った。
先程は、この突然の事態に困惑し、更にバクラの存在もあったために、物事を全く冷静に考えられなかった。
だが……今は何とか平静を取り戻し、普段の彼に戻る事が出来ていた。
そして、主催者を倒すという道を即座に選んだ。
バクラはこれに対し、正直に言えば面白くないと感じた。
しかし……小狼の体を乗っ取ろうとは考えなかった。
いや、出来ないのだ。

(……こいつは、乗っ取れるかどうかちょっとやべぇかもしれねぇしな)

小狼の記憶を探った所、彼は相当に肝が据わった人間であるという事が分かった。
やろうと決めた事は、絶対にやりぬく人間である事が分かったのだ。
その最もたる例が、異世界への旅立ちを決めた時。
小狼は、自分の愛する者―――さくらを救う為に、その者と己との関係性を対価として魔女に差し出した。
普通、大切な者とこれまで培ってきた記憶が全て失われるとあれば、大抵の人間は長考してから結論を出す。
しかし、小狼は違った……対価を告げられた後に、それを払うと即答したのだ。
大切な者の命を救うため、己にとって掛替えの無いものを、迷うことなく差し出す。
それは、口で言うことこそ簡単だが……実行するには、あまりにも難しすぎる事である。
それだけではない。
これまでの旅においても、小狼は相当の真似をやらかしている。
さくらの羽根を手にするために、灼熱の炎の中に迷わず飛び込んだ事もあった。
卑劣な領主を打ち倒すため、単身で敵の本丸へと乗り込んでいった事もあった。
敵の攻撃を受けて全身を傷だらけにされながらも、決して倒れずに立ち向かった事もあった。
自らに戦う術を教えてくれた恩師を相手に、刀を向けた事もあった。
羽根が門外不出の国宝品として厳重に保管されていた時には、盗みまでも決行した。

(……幾らなんでも、ここまでやれる奴ってのはそうはいねぇぜ)

バクラは、小狼に対する評価を改めていた。
先程、出会って間も無くの時には、過小評価してしまったが……とんでもない。
自分は、相当の大物を新たな主としてしまったらしい。
これだけ強い意志を持っている相手を、果たして乗っ取れるだろうか。

(まあ……それだけじゃねぇんだがな)

それに、問題はもう一つある。
その問題こそが、彼の記憶の欠落だった。
一体、小狼がどんな謎を抱えているのかは分からないが……これを知った今となっては、迂闊に踏み込めない。
何かとてつもない事が起きるかもしれない……そう考えてしまったのだ。

(……旅に出てからの、こいつの記憶が欠落してた所。
それは全部、こいつが窮地に陥った時だったな……ここでやってんのは殺し合いだ。
もしかすると同じことが起こるかもしれねぇし、その時を待ってみっか)

バクラは時を待つ事にする。
この先、小狼が戦いに一切巻き込まれないという事は絶対に無い。
何かしらの危機が、きっと彼には訪れるだろう。
その時に、何が起こってくれるか……それを直接目にしなければ、何も出来ない。

『よし、それじゃあ工場に行くか?』
「はい……ですが、その前に」
『ん?』

小狼はデイバッグからメモ帳とペンを取り出し、何かを書き始めた。
まだ何か、やる事があるのか。
バクラは興味深げに、メモ帳を眺めてみる。
すると……メモの文面を見た瞬間に、バクラの顔から笑みが消えた。

『ここから先、重要な事に関しては筆談で行きます。
主催者は間違いなく、俺達の会話を聞いています』
『何だと……!?』

小狼は「やっぱり何でもありませんでした」と口で言いながらも、さらに筆記を続けた。
バクラは、自分達の会話が盗聴されている可能性に、今の今まで気付けていなかった。
しかし、考えてみれば当然の事である。
主催者達が、何らかの方法で自分達を監視しているのは確実。
そして、一番に考えられるのは……首輪からの盗聴。

『……分かった。
だが、俺との会話なら別に筆談の必要はねぇ。
普通に、話したい事を頭ん中で考えてみろ』
『……こう、ですか?』
『そうそう、そういう感じだ』

バクラは、小狼に心底驚かされていた。
確かに彼の記憶には、その頭脳を活かして危機を乗り越えた場面が幾つかある。
この若さで一人前の考古学者なのだから、常人よりも頭が回るのは当然といえば当然なのだろうが……
もしかすると、自分以上なのではなかろうか。

『全く、大した奴……』
「っ!!」

バクラが声をかけようとした、その時。
小狼が突然、地を強く蹴って横へと跳んだ。
一体何事かと思ったが、この直後。
それまで小狼が立っていた場所に、一発の銃弾が飛んできたのだ。

『はっ……早速お出ましかよ!!』
「誰だ!!」

二人は同時に、銃弾が飛んできた方向へと視線を向ける。
そこに立っていたのは……何とも、奇妙な男であった。
まるでラッキョウの様な末広がりの珍妙な体型をした、謎の巨漢。
そもそも、人間であるかどうかですら怪しい。
小狼とバクラは、その相手―――ゲッコー・モリアに対して、その様な感想を抱いていた。

「キシシシ……外しちまったか」
『こいつ……なんか、結構やばい感じがしやがるぜ』
「……あなたは、このゲームに乗っているんですね?」
「当たり前だ。
そうじゃなきゃ……こうして、狙わねぇよっと!!」

モリアは454カスールの銃口を小狼へと向け、その引き金を引く。
小狼は素早く横へと跳び、再び回避。
銃弾は、それまで彼が立っていた場所の背後にあった木に命中し、大きな風穴を開けた。
その破壊力を目にし、小狼は驚きを隠せない。

「何て威力だ……!!」
『ありゃ、流石に当たるとやべぇな』
「けど、近寄らないことには……!!」

小狼は、モリア目掛けてジグザグに動きながら、直進していく。
銃弾の攻撃は強力だが、その軌道は直線的なものである。
こうして横移動を軸にすれば、途中でペースを落としでもしない限り、何とか攻撃を避けられる。
遠距離から攻撃する手段が自分には無い以上、こうして距離を詰めるしか手はない。

「ちょこまかと動く奴だぜ。
やっぱ、なれねぇ武器は使うもんじゃねぇなぁ……なら!!」
『他にも何か、隠し持って……なっ!?』

直後、バクラは信じられないものを見た。
なんと、モリアの影がバラバラになったのだ。
とっさに上空を見上げるが、月明かりを遮るようなものは見当たらない。
そういう、光の問題で影が形を変えた訳ではなさそうである。
ならばこれは……魔法か、もしくは何かしらの能力。

「欠片蝙蝠(ブリックバット)!!」

予感は的中した。
バラバラになったモリアの影が、無数の蝙蝠となり……実体化したのだ。
モリアの力とは、影を支配する能力。
彼は『カゲカゲの実』を食べ、その力を手に入れた悪魔の実の能力者であった。
その能力により、彼は自分の影を立体化して操っているのだ。
蝙蝠達が牙を立て、小狼目掛けて一斉に襲い掛かってくる。

『影を操る力か……厄介なのを持ってやがんな。
どうするんだよ、おい?』
「大丈夫です、この距離ならギリギリ……!!」

小狼は、バクラに落ち着いて答えた。
そして、強く地を蹴って跳躍し……蝙蝠の群れ目掛けて、自分から突っ込んで行ったのだ。
バクラはそれを見て驚くも、確かにそれが正解であると感じた。
ここは蝙蝠を相手にどうこうするより、その大元を叩いた方が早いから。
今は両者の距離が、それなりに詰められている……攻撃が十分に届く範囲にあるからだ。
蝙蝠の牙が、小狼の身を掠めていく。
しかし、小狼はその勢いを落とさず……そのまま真っ直ぐに、モリアへと蹴りかかっていった。

「うおっ!?」

モリアはその一撃を、とっさに両腕で防御した。
直後、彼の腕に痺れが走る……予想していたよりも、小狼の蹴りは強烈であった。
しかし……それでも、耐え切れないという訳でもなかった。
モリアは、倒れる事無く踏ん張りきり……そして、力強く両腕を振るい上げた。

「くっ……!?」

小狼の体が、空へと投げ出される。
モリアはそこへ目掛け、カスールの銃口を向けた。
命中すれば、重傷は免れないだろうが……小狼も、この程度では終わらない。
彼はとっさに、鉈をモリア目掛けて投げつけたのだ。
刃物が飛んできたとあらば、流石にモリアとて避けざるをえない。
銃を降ろし、横へと跳んだ。
それとほぼ同時に、小狼も地面へと着地する。

(間を空けたら駄目だ……すぐに、攻撃に!!)

小狼は、再びモリアへと向かっていった。
ここまでの様子を見る限り、モリアは中・遠距離戦を得意としている。
ならばここは、至近距離で一気に行くべきである。
小狼は力強く地を蹴り、跳躍する。
そして、モリアの胴体目掛けて再び一撃を叩き込みにかかる……が。

「キシシシシ……残念だったな」
「これは……影……!?」

小狼の蹴りは、モリアをすり抜けた。
影法師(ドッペルマン)。
一体化させた影と自分自身とを即座に入れ替える、モリアの能力の一つである。
彼はそれを使って、小狼の攻撃を回避していた。
そして……小狼の背後を、取っていたのだ。
カスールの銃口が、小狼の脳天へと向けられる。

「くっ……!!」
『クソ……この野郎!!』

最悪の状況だった。
距離が近すぎるから、回避はまず間に合わない。
バクラが彼の体を乗っ取ったとしても、これではどうしようもない。
モリアが、引き金を引こうとする。
もはやここまでか。
小狼が、そう感じた……その時だった。

「なっ……何だ、こりゃ!?」
「え……?」

突然、モリアの体に異変が起きた。
引き金を引くことが出来ない……体が、全く動かないのだ。
まるで金縛りにあったかの様に、指一本動かす事が出来ない。
小狼は、その光景を見て唖然とするが……その直後。
彼の背後から、何者かが大声で叫んだ。

「今だ、早くこっちに!!」

小狼へと声をかけたのは、バイクに跨りカウボーイハットを被った中年の男。
モリアの動きを封じている張本人―――ウルトラセブンこと、モロボシ=ダンだった。
小狼は彼の言葉を聞くと、すぐに踵を返して彼の元へと走る。
そしてその意を察し、彼が跨っているバイク―――サイクロン号に飛び乗った。

「よしっ……しっかり、掴まっているんだ!!」

小狼が飛び乗ったのを確認し、ダンは金縛り―――ウルトラ念力を解いた。
ようやく、モリアは身動きが取れるようになるも……遅かった。
既に二人は、彼の射程範囲外に逃れていたのだ。

「くそっ……!!」

モリアは舌打ちし、銃を降ろす。
あの乱入者さえいなければ、確実にあの小僧を殺せた。
質の良さそうな素材を一人、早速手に入れられたというのに……実に惜しい。

「……まさかこの殺し合いも、世界政府のクソ爺共が仕組んだってか?」

モリアがこの殺し合いの場へと呼ばれたのは、世界政府から時空管理局への派遣要請を下された直後だった。
彼は最初の内は、その要請を快く思っていなかったが……部下からのある提言により、考えを改めた。
その内容は、異世界に潜む実力者達を確保すれば、更なる戦力の増強が図れるという事であった。
モリアにとって、戦いにおいて最も重要である要素とは、優秀な部下の存在。
かつて四皇の一人カイドウに敗れた時も、部下の質が違ったからこそ自分は敗北したのだ。
だから、時空管理局へと出向く事を決めたのだが……気がつけば、何故かここにいた。
こんな面倒な真似を、何故自分がしなければならないのか。
最初はそう思っていたが……広場での光景は、中々興味深いものがあった。
自分の見知らぬ力を持つ、謎の能力者達。
あの様な者達が、この会場には多く集まっているというのであれば……中々、強力な部下を作れそうである。
だからモリアは、この殺し合いに乗った。
この場で新たな部下を作り、元の世界へと帰還するために。

「まあ、考えてても仕方ねぇか……早いところ、次の相手を見つけねぇとなぁ」

その為にも、成さねばならぬ事がある。
一つ目は、部下の器となる優れた死体を手に入れる事。
二つ目は、その器に入れる実力者の『影』を手に入れる事。
モリアはこの二つの目的を為すべく、更なる獲物を目指して歩き始めた……



【一日目 現時刻AM0:55】
【現在地:B-2 丘】


【ゲッコー・モリア@小話メドレー】
[参戦時期]小話メドレー開始時
[状態]健康
[装備]454カスール@NANOSING
[道具]支給品一式、レナの鉈@なのはStrikers-NEXT
[思考・状況]
基本:優秀な部下を作り、ゲームに優勝する
1.強い人物の『影』を奪い取る。
2.奪い取った影を入れる為の器として、死体を手に入れる



「すみません、助かりました……俺は小狼って言います。
貴方は?」
「モロボシ=ダンだ。
まあ、無事で良かったよ」

それから、暫くした後。
二人はモリアからの追撃が無いのを確認して、サイクロン号から一度降りた。
互いの情報を交換する為、ゆっくりと話をしたかったからだ。
まずは簡単な自己紹介をした後、ダンは小狼へと手を差し出した。
小狼はそれに答え、彼と握手を交わす。
良い人だと、小狼はそう感じたが……この直後。
彼にとって……いや、彼とバクラにとって、少し予想外の事態が起こった。

「それと……後ろの君は?
見たところ、人間というわけでは無いみたいだが……」
「え……?」
『なっ!?
ちょ、ちょっと待て……お前、俺が見えているのか!!』

何とダンは、バクラが見えていたのだ。
驚き、小狼と二人で顔を見合わせる。
もしかして、殺し合いをするに当たり、バクラの姿は誰にでも見えるようになっているのではないだろうか。
そんな考えが、二人の頭によぎるが……すぐに二人は、それを否定した。
先程遭遇したあの男は、自分の事が見えている様子ではなかったからだ。
ならば、何故ダンにはバクラの姿が見えているのか。
二人はしばし、考え込み……すぐさまその答えを、導き出した。

『……お前んとこの姫さんと、同じ様な力があるって事か?』
『……かも、しれません』

さくらには、目に見えぬ存在―――幽霊などを見る事が出来る力があった。
そして彼女は、他にも様々な力を幾らか持っている。
思い出してみれば、ダンは先程不思議な力であの男を押さえ込んでいた。
もしかすると……彼は、同じ様に特殊な力を持っている存在なのかもしれない。

「見えるのか、か……つまり君は、本当なら小狼君にしか見えない存在という事でいいんだな?」
『……ああ。
俺はバクラ、こいつが持ってる千年リングに宿ってる魂だ。
お前……一体、何者なんだ?
ただの人間なら、俺の姿が見えるわけがねぇ……!!』
「……ただの人間なら、か」

ダンはしばし考えた。
彼が先程小狼を助けたのは、彼が殺し合いに乗っている人物には見えなかったから。
その瞳に宿った、確かな正義の光を見たからであった。
出来る事ならば、あの奇妙な男も倒しておきたかったが……ウルトラアイが無い今、それは出来なかった。
あの場では、ウルトラ念力で動きを封じるのが精一杯であった。
それでも、小狼を無事に助けられたから良かったが……しかし。
彼と違ってこのバクラという人物には、どこか得体の知れない所がある。
果たして、自分の正体を話していいものか。
そんな不安が、頭を過ぎるが……

(……だが、今は状況が状況だな)

しかし、現状を考えればそうも言ってられない。
折角、同じ志を持つ仲間と出会えたのだから。
それに、二人は薄々自分の正体に気づいているようである。
ここはやはり、素直に話すべきだろう。

「……君の言うとおりだよ。
俺は、人間じゃないんだ。」
『人間じゃない……?』
「君達は、ウルトラマンは知っているか?」
「ウルトラマン、ですか……?
いえ、俺は知りませんが」
「そうか……なら、一から説明しないとな」

ダンは小狼とバクラに、全てを説明し始める。
ウルトラマンの事、光の国の事、M87星雲の事。
異次元に生きる悪魔ヤプールの事、ヤプールが狙っているであろう闇の書の事。
そして……自分自身、ウルトラセブンの事を。
小狼とバクラは、ただ驚くしかなかった。
異世界の存在であるとはいえ、話のスケールを考えればそれも無理はない。
しかし……バクラはここで、ある違和感を覚えた。
彼の話には、一つだけ奇妙な点があったからだ。

『……モロボシさんよ。
あんたの協力者って……もう一度、よかったら言ってくれねぇか?』
「ああ、分かった。
ヒビノ=ミライ、高町なのは、フェイト=テスタロッサ、ユーノ=スクライア、クロノ=ハラオウン。
尤も、俺はメビウスから話を聞いただけで、直接の面識は誰とも無いんだが……」
『……やっぱりな』
「バクラさん……やっぱりって?」
『俺は、フェイトとユーノって奴には一回会ったことがあるんだ。
んで、その時……ユーノは、遺跡で発掘調査をしてた。
どう考えたって、闇の書の捜査なんてのとは無縁のな』
「何……!?」
『どう考えても、おかしな話だよなぁこりゃ……』

バクラの感じていた違和感。
それは、ユーノ=スクライアの事であった。
ダンの言う話では、彼は仲間と共に闇の書の捜索をしていると言う。
しかし自分が出会った彼は、それとは到底関係が無いと思われる遺跡の調査を行っていた。
闇の書とやらの危険性を考えれば、他所で遺跡を調査する余裕があるとは思えない。

『……相棒、モロボシ。
メモとペンをすぐに出しな……こいつは、ちょっと状況を整理した方がいい。
俺達三人の間には、何か妙な行き違いがあるぜ……』



【一日目 現時刻AM0:55】
【現在地:A-2とA-3の境界線上 丘】

【小狼@ツバサ~ミッドチルダ編】
[参戦時期]1話終了後
[状態]健康
[装備]無し
[道具]支給品一式、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです
[思考・状況]
基本:主催者を倒して、このゲームを止める
1.ダンとバクラと、情報を整理する。
2.A-4の工場を目指し、首輪の解除に使えるものがあるかどうかを確認する。
3.黒鋼やなのは達と合流する。
4.ダンのウルトラアイを探す。
5.影を操る男(モリア)に注意する。
[備考]
※千年リングにはバクラの人格が宿っています。死霊の召喚は不可。
※ダンから、ウルトラマンに関しての情報を得ました。
※自分達の情報に差異があることに気付きました。
 [バクラ思考・状況]
 基本:暫くの間は、小狼に任せて様子を見る。
 1.ダンと小狼と、情報を交換する。
 2.小狼の記憶が欠落している理由を知りたい

【モロボシ=ダン@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】
[参戦時期]14話終了後
[状態]健康
[装備]無し
[道具]支給品一式、サイクロン号@リリカルなのはStrikerS+仮面ライダー
[思考・状況]
基本:主催者を倒して、このゲームを止める
1.ダンとバクラと、情報を交換する。
2.ミライ達と合流する。
3.A-4の工場を目指し、首輪の解除に使えるものがあるかどうかを確認する。
4.ウルトラアイを探す。
[備考]
※バクラの姿が見えています。
※ウルトラ念力は、暫くの間相手の動きを封じる程度の効果しかありません
※自分達の情報に差異があることに気付きました。

030 本編投下順 032

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最終更新:2008年02月28日 23:39