「そんな状態じゃもうまともに動けんだろ?おとなしくお縄につきな」
ヴィータがもはや満身創痍のボス・サヴェージに最後の警告を突きつける。
なのはとヴィータは地上に立ちヴィータが少し前でグラーフアイゼンを構え、なのははその後ろでRHを構えていた。
「……」
なのははボス・サヴェージを見据えた。まだ彼はやる気だ、なのははそう感じていた。
彼女は教導官として多数の隊員を教えてきた。隊員が戦意を失っているのか、それともまだファイトを燃やしているのか?
そのような精神的・肉体的状態は必ず表面に滲み出るか、顔の表情や雰囲気に表れる。
得てきた経験が彼はまだ戦意を失っていないと囁いていた。
『第三小隊、戦死五名負傷者三名、至急後送の必要のある負傷者がいる。上層部は安全か?』
『……第一小隊は小隊長と三名戦死、他に全員が大なり小なり負傷した。……中隊長はどうした?』
『第一陸戦小隊より各隊、中隊長は負傷。だが指揮は可能。施設の外側は高町一尉が交戦中。安全が確認されるまで待て』
「スター02より増援各隊へ、急いで来い。負傷者が多数いる」
通信に耳を澄ませば戦死は少なくとも九名いる。ただの訓練、しかも半日にも満たない簡単な訓練だったはずだった。
それがどうか?二十名近い負傷者に戦死者、二十名を出す近年まれに見るテロ事件となってしまった。
どうしても彼には問いたださねばならない。
なぜ私を標的にして襲ったのかということ。
レイヴンであるなら、自己の信念でただ事件を起すことは無い。裏にいる依頼人は誰かということ。
「返答無しか?なのは、……おい、なのは!!」
「……」
「変なこと考えてんじゃねーよ!!」
「あ……、ゴメン。何?」
「何じゃねーから、バ・イ・ン・ド!!早くバインドして拘束しろよ。話を聞くのはその後だろ」
「……違うよ」
なのはの答えにヴィータが首を傾げる。紅い帽子の上には大量の?マークが浮かんでいた。
「じゃあ何だよ?」
「話を聞くんじゃないよ。お話を“聞いてもらう”んだよ」
「へいへい……」
RHを構えながら詠唱に入ったなのはの答えにがっくりと肩を落とすヴィータ。
この状態のなのはに気が触るようなことをするのは得策ではない。彼女の経験がそう教えていた。
「そーですか……。ん?何の音だ?」
がごん!!ハッチの開くような音がした思わず、なのはとヴィータが音のほうを向いた。
「何だありゃ?」
ヴィータが素っ頓狂な声を上げるた。そこに現れたのは見上げるほど巨大な機体。頭部は無く胴体に
大型のカメラアイを備え、手は無く、腕の先には爪が三本ずつ生えていた。
それにしてもでかい。見上げるような巨体とはまさにこの機体のことだった。
『こちら第二陸戦小隊、各小隊へ、超大型の二足歩行兵器が起動してる!!まだ外に出るな!!』
『こちらミル51、高町一尉!!あれは一体……』
『確認した!!一つ目の怪物!!デカイ!!』
「スター01よりミル各機!!退避して!!速く!!」
なのはが叫ぶ。
だが怪物は右腕を上げ飛行中の一機に照準を合せる。
『ミル53、逃げろ!!』
僚機が警告を発する。
怪物の右腕、正確には右手-爪が三本あるだけだが-の先から大きな紅い火球が発射された。
狙われた輸送ヘリは火球を避け様と急降下に移ったが間に合わず被弾、火球の爆発と共に機体も一瞬遅れて爆散した。
「……な!!」
「そんな!!」
ヴィータの目の色が変わり、なのはは一瞬何が起こったのかわからなくなった。。
『ミル51より各機、散開して逃げろ!!距離をとれ!!』
「早く逃げろ!!モタモタすんじゃねぇ!!」
隊長機の指示に合せるかのようにヴィータが叫んだ。
『ロックオンされた!?回避!!』
逃げようとした一機がロックオンされた。
「テメェ!!」
ヴィータが憤然と怪物に襲い掛かろうとするが、一瞬早く誘導弾を発射。
『欺瞞されてない!?命中するぞ!!対ショック!!』
『……畜生!!』
もう一機も被弾、機体の態勢を立て直そうと足掻いたのか機体は少しフラフラと飛ぶと次の瞬間には
錐もみ状態に陥り、墜落した。
なのはは地上で立ち尽くしたまま、ヴィータは空中で静止し墜落した方向を見た。輸送ヘリが墜落し煙を噴き上げる
場所の前には偶然にもそれを背にしたボス・サヴェージが居り、彼は無言のままそこに立っていた。
「黙ってねぇでなんか言ったらどうだテメェは!!」
ヴィータがグラーフアイゼンを振り上げ飛び掛る。
正面から突っ込もうとするヴィータに対し、ボス・サヴェージは右手の大型バズを上げた。
<ラケーテンフォルム!!>
「撃たせねぇよ!!ラケーテン・ハン……げっ!!」
彼は撃つ訳ではなかった。上げた右腕でそのまま大型バズを振り上げ突進するヴィータに投げつけた。
質量のある物体にラケーテンハンマーの出力によって加速していたヴィータは正面から衝突した。
お世辞にも体格は子供としかいえないヴィータに加速した状態での衝突は重度のダメージを与えるには十分だった。
「ヴィータちゃん!!」
大型バズとの衝突で弾き飛ばされたヴィータを助けようとなのはがチャージ無しで牽制の為、砲撃を放つ。
ボス・サヴェージは背部の誘導弾発射機をパージ、身軽になるとなのはの砲撃をかわす。
『悪いな、こうなったら俺の手には負えん。出直させてもらうぞ、じゃあな』
「なっ!!」
途中落ちていたヴィータの帽子を拾い、彼女のところまで来ていたなのはにそう吐き捨てるとボス・サヴェージは
機体を反転、離脱行動を取る。
「待って!!」
『お前の相手はそいつだ。ま、精々頑張る事だな』
桜色の光芒が何本も彼を狙った。本当に撃破寸前まで追い詰められた機体なのか疑えるほどどれも易々と回避されてしまう。
弾き飛ばされた衝撃で前後不覚状態のヴィータを抱き起すとなのはは一瞬逡巡した。
ヴィータを置いて彼を追うか。
ここに残ってヴィータと他の隊員の救護に当るか。
「……!?」
逡巡している暇は無かった。残された怪物がなのはに狙いを定め右手の砲門から発砲。
「来るぞ!!……くそ!!」
なのはの抱き起こされたヴィータが叫ぶ。
打ち出された赤い灼熱した砲弾と誘導弾が地面に降り注ぐ。
「また誘導弾!!」
今日一日でもういやというほど見ている誘導弾。
「行けよ!!あいつを追うんだよ、お前は!!」
爆音が響く中、それに負けじとヴィータが叫ぶ。彼女はシールド張るなのはの腕の中で暴れると腕を振りほどき、
グラーフアイゼンを構え、なのはもまたRHを構える。
「でもこれを止めないと!!」
「でもなんかじゃねえよ!!早く行け!!逃げられちまうぞ!!」
振り返らず、肩越しに聞こえるヴィータの声。向かい合うのは大型二足歩行兵器。
一瞬なのはには彼女の背中がその体格に似合わず、押し潰される位に多いモノを大量に背負ってるような錯覚を覚えた。
彼女もまたその中に入っているのだが彼女の生来の鈍感さからか、気付く事は無い。
なのはは意を決し、RHを構える。
「一発食らわせてから行くよ!!ヴィータちゃん、一気に抜けるからあの機体を足止めして!!」
「わぁーったよ。ちゃんとあわせて行くぞ。3……」
ヴィータがいきなりカウントを数え始める。
目の前に立つ巨大な怪物は巨体に見合わない動きでなのは達を翻弄しようとする。
「2……」
だが、所詮は大型兵器出来る機動はおのずと制限されてくる。しかも相手をする二人はオーバーSランク!!
「1……、行って!!」
カウントゼロ、同時になのはの合図、ヴィータのすぐ傍を掠めて桜色の光芒が伸びる。
「鬱憤溜まってんだよ!!ラケーテン・ハンマーー!!!!」
<Explosion!!>
なのはの放った砲撃は怪物の発生させたシールドで拡散蒸発する。それでも隙は出来る。
「後を……」
お願い、そう言ったのだろう。ヴィータには自身を抜かして行ったなのはの言葉は聞こえなかった。
「アイゼン、もう一丁!!」
<Explosion!!>
加速中のアイゼンがさらにカートリッジをロード。限界ぎりぎりまでヴィータと自身を加速させる。
「ブッ飛ばす!!」
怪物が左手を上げた。左腕前面にシールドを形成、防御の体制をとる。
「甘いんだよ!!“鉄槌の騎士”ヴィータと、“黒鉄の伯爵”グラーフアイゼン!!」
自身の直上にグラーフアイゼンを振り上げる。
「壊せない物など……」
さらに加速をつけて振り下ろす。シールドと接触、鍔迫り合いの我慢比べが始まる。
「なにもねぇんだよ!!」
さらに振り下ろした。いとも簡単にシールドを抜けたグラーフアイゼンは左腕と接触。
ばごん!!なんともいえない音と一緒に左腕が片からごっそりともげる。
(何だこいつ、脆い?)
そう考えたのもつかの間、直角に上昇、怪物の上を取る。
<ギガントフォルム!!>
「吹っ飛べーー!!!!」
再び振り下ろされるグラーフアイゼン。今度は直上から、巨大なハンマーとなって!!
再び張られるシールド、だが守りに入らせてしまえばこっちのモノ、ヴィータの口元が釣上がったように笑う。
「破れねぇ物も、守れない物も……、なんもねぇんだよ!!」
シールドが再び破られた。怪物を守るのは自身の装甲のみ……。
「ぜぇぜぇ……」
流石に魔力を馬鹿正直に注ぎ込んで威力を上げすぎた。
怪物は倒れたまま動かなくなっていた。上半身は激しく損傷しており、もし搭乗員がいれば確実に前後不覚、
若しくは死亡している筈。
「立てよ。まだやれるだろう?これで終わり……」
怪物の右腕が動く。
「そうこなくっちゃな?!さあ立てよ」
だが右腕もすぐに大地へと下ろされた。良く見ると光っていた各所のセンサーも消えていく。
「この程度で……、もう終わりかよ!!」
ヴィータのやり場の無い絶叫があたりに響いた。
それにあわせるかの用に機体を動かそうとしていた各部のモーター音も動かなくなった……。
「何でこうなんだよ……。あたしはまだ気が済んでねぇだよ!!」
「ここまで来ればいいだろう」
ボス・サヴェージは基地から大分離れた場所で立ち止まり振り返った。まだ追跡は無い。
基地の方から戦闘騒音が聞こえてきていた。巨大な機体もシルエットとなって動き回っているのが見える。
「……あいつでは足止めにしかなるまい。早く離脱するとしよう」
「遅かったじゃないか」
彼が再び基地から離れようとして振り返った先、重装級の魔導甲冑が立っていた。
右手には大型のライフルを持ち、背には多弾頭誘導弾を背負う白を基調とした機体。
「あんたか、驚かさないでくれ」
「依頼は?」
「見ての通り失敗だ。管理局内部にまで手を回して演習内容の操作までやって、それなりの荒事に慣れた連中をそろえて
見たんだが……」
白い機体に向きながら左手の親指で後ろを指す、基地の方向を。
「あの基地に眠っていたあいつまで起動させて……、しくじったよ。赤字もいい所だ」
「……そうか」
「じゃ、俺は帰らせてもらう」
ボス・サヴェージが歩みを進めようとした時、白色の魔導甲冑が右手に装備された大型ライフルを彼に向けた。
WH04HL-KRSW魔力集束ライフル。威力は折り紙付。だが重量が重く他にも性能のよいライフルがあるため
普及はしていない。
だがある種のレイヴンとしてのシンボルの如く扱われており、さらに一丁一丁がまさに手工芸品のようなもので、
生産数も少なく希少性もまた高い。
「おい!!何のつもりだ!?」
「……」
投げかけられた問いに答えることも無く、ライフルの先端から青白い光が飛び出す。
銃口の先、事態の進展にさすがに頭がついて行く事が出来ず立ち竦むボス・サヴェージに命中するまでの極至近距離、
避けられるはずも無い。
「なん……」
命中後、収束された魔力が拡散し青白い爆炎をあげた後、赤い炎と黒煙を上げ炎上するスレッジ・ハマー。
そして死の間際で問い質そうとするボス・サヴェージ。
それにもまた答える事無く、もう一度引き金を絞り二発目を発砲。
止めの一撃。
「この程度のことで苦戦するようではな……」
ボス・サヴェージ=スレッジはマーの機能停止を確認後、彼は基地の方向を振り返る。巨大な影は倒れ、地上にもう一つ丘が
出来上がっていた。
「ただのイレギュラーでは手に余る……、か」
コアデバイスのCPUが接近する反応を警告。
「……少し予定を繰り上げねばならんな」
一言呟くと彼は燃え上がるスレッジ・ハマー=ボス・サヴェージをそのままに、男=ジャック・Oは
その場から立ち去って往く、後に残す物は無く……。
男=ジャック・Oが立ち去ってから遅れてなのはが到着した時、そこには可燃物はあらかた燃え上がり跡に残されたのは
黒煙を上げるスレッジ・ハマー=ボス・サヴェージだったものの残骸しかなかった。
それを見た彼女の表情は驚愕のあまり強張り、事態を呑み込めないでいるのがありありと顔に浮かんでいた。
「どうして!?何でなの!?……レイジングハート、これはデコイじゃないよね!?」
飛行状態から着地、ボス・サヴェージ-だった者-に正対した。
<……間違いありません。残留魔力はここで途絶えています>
信頼する相棒の報告を聞いてなのははその相棒をさらに力を入れて握った。
「……これで終わり?」
これでもう彼に話を聞かせる事も聞くことも出来ない。
悔しさからなのはは唇を強く噛み、左の拳が白くなるまで握り込む。
<……マスター>
RHが見かねて声をかける。被疑者が死亡したとは言え一応は鑑識にここを調べさせなければならない。
「……大丈夫。ここを荒らすような事はしないから」
<いえ、もう一つ、残留魔力が観測できます>
「え?」
<よく見てください。足跡も二つ分あります>
相棒の言う事が一瞬理解できなかった。
自分の負っていたのは彼一人、なら此処に居たのは誰か?
<私達が居て、何かすればそれだけ足取りが終えなくなります。かなりのダメージを追っていた彼と違ってもう一つの
残留魔力はひどく微弱です。さすがは人に言える様な事もやるレイヴン、“立つ鳥跡を濁さず”でしょうか?>
「つまり何かすれば証拠がそれだけ拡散する?」
<はい。此処は封鎖処置を行い、基地跡の増援等と合流するべきかと>
何時に無く饒舌なRH。すべてはマスターたるなのはを考えての事。
ヴィータといいRHといい、自分周囲の人材に恵まれている。なのはは改めてそう思った。
「結界による封印処置、周囲を大体20m程度でいいかな?」
<はい、十分かと>
ボス・サヴェージと正対していた場所から徒歩で離れた場所へと移動した。
「簡単な結界だけど大丈夫かな?」
<逃しさえしなければ問題は無いでしょう>
なのはは戦技の訓練に関して教えるだけでなく新しい技能の習得にも力を入れており、その際必要となる
教師役は周りに事欠く事は居るので苦労する事は無い。
結界・拘束魔法関係は無限書庫司書長:ユーノ・スクライアに習いさえすれば事が足りる。
簡単に張られた結界。それを一瞥すると基地跡の方に向きなおす。
増援と退避していた生き残りの二機の輸送ヘリのローターの空気を裂く音が微かだが此処まで聞こえていた。
「行こうか?」
<Yes My Master>
この件には一生掛かっても追い続ける。
いつか日の当たる所にこの黒幕を引きずり出してやる。
なのはは固く決心した。いつかチャンスはある……。
「で、査問会はどうだった?」
「毎回同じだよ。査察部とか特別捜査部とか執行部の偉い人達が取替え引替え質問を繰り返すんだもん。いやになっちゃう」
戦技教導隊教導官事務室。なのはは事件後毎日のように行われていた査問会の今日の分が閉会し、
やっと自身のデスクに戻り今回の事件に関する報告書を書く時間が出来たのだ。
しかし事件後毎日のように泊り込みで業務をこなしており肉体的精神的にも辛い状態にあるはずである。まだ暫くは
このような生活が続くのは目に見えていた
ヴィータの心配もそれだった。
「体の方は大丈夫だよ。私が丈夫なの、ヴィータちゃんも知ってるでしょ?」
ヴィータが差し出したカップを受け取りながら疲れた顔に努めて笑顔を作りながら話す。
(そんな時のお前が一番あぶねぇんだよ……)
手近な主人不在のデスクから椅子を奪いパーテーションで区切られたなのはの良く整頓されたスペースに割り込む。
かつて見た雪が舞い落ちる遺跡の中で、重傷を負ったなのはを抱きかかえ必死に衛生班を呼んだ記憶。
強襲してきたUnkwonは多脚無人機が二機。だが一機ずつ、同時に襲っては来なかった。
最初の一機、茶色の塗装に青白く光る魔力を高効率で変換できる素材、そして昆虫の複眼の如く大きな目を頭部に持った
細身の胴と腕を持つ四脚の一機。結局このUnkwonは何か分らなかった。
所属不明機を打ち落とした時点で警戒を解いたなのはを襲った一機、その後の事件で正体がわかったガジェット四型だった。
(守ってやれなかった……。アタシがあん時目離さなけりゃ……)
あの日から誓った。主たるはやてと同じ様に、なのはの事を絶対に守る、と。
「……ヴィータちゃん?」
(結局、茶色い奴はなんだったんだろ?)
調査結果は結局目を通していなかった。
(今度見てみるか……)
「何か考え事?」
なのはの声にヴィータは回想から現実へと引き戻される。
「い、いや、何でもねーよ!!」
慌てて否定する。何とか話を逸らそうと報告書の話へと移す。
「で、残留魔力の鑑定はどーなったんだよ?書くのか?」
「書くよ。鑑識から報告は近い内に着くからそれから考えてもいいと思うよ」
「ふーん……。しかし酷くやられちまったな……」
「……そうだね」
ヴィータが自分となのはとの連名で出した初動報告書を表示した。
死者十九名・重軽傷者十一名、ヘリ二機も撃墜された。さらに最近判明した事だが管理局内から手引きしていた者さえ
居る事が分っており、管理局内の秘密警察的役割を負う査察部さえ出張って来ていた。
「あの化け物は?」
「大型機に関してはユーノ君に調べてもらって……」
「デヴァステイター、それが名称だよ」
「へー、そうなんだ」
「装甲を犠牲にして大火力と機動性を得た機体でね、一機しか建造されずに試験機のみだけで終わったんだよ」
「へー……」
「でもなにぶん古いものだったみたいだからね、経年劣化が進んでヴィータの強力な打撃に耐えられなかったんだ」
「ふーん……、詳しいなお前。……おい、ユーノ!!何時の間に!?」
「そうだよ!!何時からここに?そもそも一体どうやって此処に?」
「ついさっきさ。今回の事件では大変だったね、なのは」
いけしゃあしゃあと答えるのはユーノ・スクライア。
「無限書庫司書長の機密保持レベルは高いから余程の所以外は大抵は入れるよ」
いつの間にか向かいの主不在の席から身を乗り出しなのはのスペースに上半身のみ乗り出す。
「ヴィータもありがとう。なのはの事、守ってくれたんでしょ?」
「……そ、そんな事、知らねーよ!!」
なのはもユーノも顔を真っ赤にしてプイッと横に向いてしまったヴィータを見て笑った。
(でも……、久しぶりに見たな、なのはのこんな笑顔……)
なのはは仕事場では顔で笑っていても心までは笑っていない事が多かった。
(なのはに一番効くクスリはやっぱりこいつか……)
流石はなのはの魔法の先生、ヴィータは少しだけユーノの事を見直した。
「なのは、少し外の空気を吸いに行こうよ。色々と思い詰めてる事もあるんだろう?」
「でも……、仕事は溜まってるし……」
「お前はユーノと一緒にデートにでも言って来い。お前の分も仕事しといてやるよ」
「ヴィータ?」
「ヴィータちゃん?」
意外な助け舟が出た。なのはもユーノも少し驚いてヴィータの方を見る。
「何がおかしかったのか、二人で話してみろよ。お前達はまぁ……」
「何?」
最後の方を聞き取れなかったなのはが聞き返す。
「いいから行け!!早くいかねーと二人ともアイゼンの頑固なシミにすっぞ!!」
「は、はい!!ユ、ユーノ君、着替えてくるからフロアの入り口で待っていて!!」
「う、うん!!」
強く出たヴィータにユーノは回れ右をして退散する。なのはも急いでデスクの周囲の私物を集める。
「ごめん、ヴィータちゃん。気を使わせちゃって……」
「礼は後で……うぷ!!」
「これが最初の私からのお礼。利子の分は後で返すから」
笑顔と一緒に捨て台詞を残しなのはは更衣室へと消えていった。
後に残されたのは……。
「えーと……、今のは……」
ほんの一瞬だが触れたのはなのはと自分の唇。その時の感触をヴィータは反芻していた。
「畜生……。卑怯だぞ、なーのーはー!!」
殆んど人の居ない事務室にヴィータの絶叫が響いた。
宛:高町なのは一等空尉
発:特別捜査部第一鑑識班
用件
残留魔力の検査に関する件
内容
本案件において使用された物は鑑定の結果、WH04HL-KRSWである可能性は極めて高いと
思われます。武器の詳細は添付した資料を参考にして下さい。
なお採取された残留魔力の量では個人を特定するに到りませんでした。添付した資料には今のところ
判明している使用者をリストアップしておきました。・・・…
添付資料
WH04HL-KRSWは旧モデルであるWG-1-KARASAWAを改良したものであり、……両モデルは機能的には
変らないが、WH04HL-KRSWでは炸裂設定が追加されている。しかし炸裂設定以外の機能は同じため
外見で区別するしかない。……
添付資料
ヴォルテックス:消息不明
ヴィントゲーエン:死亡
……
レオス・クライン:死亡
メイトヒース:消息不明
……
テラ:消息不明
……
ジャック・O:消息不明
「あんだよ、殆んど死んでるか消息不明じゃねーか……」
カップの底に残った一口を乱暴にあおるとカップをデスクにこれまた乱暴に置いた。
「やれやれ・・・、これじゃ誰がやったかわからねーし、手掛りにもならねーよ」
ヴィータは鑑識からの報告書を閉じる。
「やめだやめだ。後はなのはに確認させて連名で提出すれば……、ふわぁ……」
子供のような駄々をこね、少女とは思えないくらいの大あくびを一つ。
「……あたしは大人だ……」
ぼそりと一言。
「今から帰れば帰ってはやての飯と温かいお風呂にありつけるな……」
そう言うと自身も更衣室へと消えていった。
それで機嫌が直る、やはり長く生きるヴォルケンリッターの一員といえど精神的はまだまだ子供のようである。
最終更新:2008年04月12日 19:20