夜食
突然の頭痛に、草加雅人は足を止めた。
それは硝子を引っ掻く様な甲高い幻聴を伴い、彼の意識を責め苛む。
「…………っ」
思わず右手を額に当て、顔を顰めてしまう。と、その様子に気付いたのか同行者がこちらへ振り向いた。
「雅人、どうかしたのか?」
同行者、城戸真司。
この“ゲーム”において草加が最初に出会った、自分以外の
参加者。
もう一つの言い方をするなら、草加が最初に手に入れた“駒”か。
「…いや、ちょっとめまいがしてね。気にしないでくれ」
そう言って草加はごまかしと共に笑みを返す。だがそれは“本当は大丈夫ではない”という事を匂わせる、苦笑に近いものだった。
「本当に大丈夫か? どっか部屋に入って休むか?」
思惑通り、城戸はこちらを気遣って休憩を提案してきた。その事に、相変わらず単純な奴だ、と感想を抱き、と同時に城戸が見渡した自分達の周囲を再確認する。
そこは白亜の廊下だった。
清潔さを主張する為か壁や天井が白の壁紙で包装され、床は黒のタイルが敷かれている。向かって左の壁にはスライド式の扉が、右の壁には窓硝子が並列し、施設の2階という高地故に地上を見渡せる。
典型的な病院の廊下だった。
「休む部屋には事欠かないぞ。何たってここは病院なんだからな」
励まそうとしているのか笑みを向けてくる城戸に、そうだね、と草加は相づちをうつ。
……馬鹿な男だ……
再三になる城戸への評価を草加は抱く。
参加者同士が殺し合うこの“バトルロワイヤル”、その中にあって無心に自分以外の参加者を助けようとする男。これを馬鹿と言わずして何と言うのか。
……まあ、だからこそ扱い易いんだけどな……
相づちと共に浮かんだ草加の笑み、それが嘲笑であったと城戸は気付かないだろう。
「本当に大した事じゃないんだ、気にしないでくれ」
「……本当か?」
殺し合いという状況に不安を抱き、些末な事にも過剰な対応をしてしまうのだろう。歯切れの悪い城戸の態度に、草加は内心で鬱陶しく思う。
そうして、何か話題を変えるか、と視線を上げれば丁度いいものを目に入った。
「じゃあ…城戸君、あの部屋で休まないか?」
草加が前方を指差し、城戸はその先を見る。
やや斜めに向かう指先は左手の壁、つまり並列する病室の扉を向いている。指が定めるのはその内の一つ、扉の脇に無数のネームプレート入れが張り付いた扉だ。
無数のネームプレートが必要になる病室、それは複数の病人が寝る大部屋だと言う事だ。
その扉を開いて中を見た時、草加はその予想が正しかった事を確認した。
「おお、ベットが沢山ある」
一歩後ろに立つ城戸が内装を口にする。
大部屋に置かれたベットは全部6つ、向かって左に3つと右に3つ、全て枕のある側を壁に密着させた配置だ。シーツや壁は白く、正面の壁一面に嵌められた窓硝子が夜の野外を見せている。
「ここを拠点にしよう、城戸君」
言いつつ草加は室内に歩を進めた。
「部屋は大きくベットもある。出入り口は一つだけ、窓は大きくて開放感があり、しかも2階だから敵に入られる心配もない」
まあオルフェノクみたいな化け物がこの“ゲーム”にいた場合、その限りではないだろうが。
「……ここで一休みして、それから病院内を探索しようか。それから、傷付いた参加者に出会ったらここへ連れてこよう。ここでならきっと守れる」
そんなつもりは一切無いがな、と草加は内心で付け加える。傷付いている奴がいたら始末する、そうでなくとも利用する、助けるという行動は論外だ。
「成る程な……、やっぱり雅人は頭が良いな!」
「それ程でもないよ」
……お前が馬鹿なだけさ……
城戸に背を向けているのを良い事に草加は露骨な嘲笑を浮かべる。そのまま一番奥の左側に並ぶベットへと腰を下ろし、
「俺はこのベットを使わせてもらうよ。城戸君も、好きな所を使うと良い」
城戸に行動を促す。
言われた城戸はどこか嬉しげに室内へと足を踏み入れ、
「そうだな、俺はどのベットを使わせてもらおうか――」
た瞬間、盛大にずっこけた。
「……………………」
その結果に草加は呆然とする。それ程までに見事な転倒ぶりだったのだ。
一切の受身を取る事無く、全身の全面を大振りにして床へと叩き付けられる。その遠心力のせいなのか両腕は上に伸びきり、城戸は一直線の姿勢で床に倒れている。
……馬鹿の上に、阿呆だったのか……
その感想を内心に収めるのは、非常な労力が必要となった。あらゆる嘲笑の動作を殺し終えた所で、草加は口を開く。
「……大丈夫か、城戸君?」
心配する振りをして草加はベットから腰を浮かせる。直後、
「っ!?」
何かが病室の床に飛来した。飛来物は衝突の衝撃に砕け散り、甲高い音を立てて破片を周囲に散らす。
突然の異変に草加は両腕で頭を庇い、腰を引かせた。それを解除するのは、破砕発生から数拍後だ。
「一体、何が」
恐る恐ると腕を下ろし、飛来した何かを草加は見る。
衝突によって砕け散ったそれは、原型を影も形も留めていない。だが霧散した破片からそれを予想する事は出来る。
透明度の高い硬質な破片、大多数は粒子と呼べる程に細分化されている。そこから草加が想像する原型は、
「……瓶?」
それは瓶だったのだろう。辛うじて残っていた大きな破片、それが円柱を象っていた事からそう思う。
しかし何故そんなものがここにある、否、飛来したのか。
考えようとした草加は面を上げた。
「――!?」
そして見た。
視線の先、倒れた城戸の背を踏みつける人物を。巨大な鉄槌を右手に持ったその男を。
「動くな」
男は城戸を踏みにじり、軽く苦悶を上げさせる。
その事で草加は、新たに現れた事が敵にしかなりえない事を悟った。
そしてその男が三度目の言葉を放つ。
「――お前らが“ゼロ”の手下か?」
放たれた声色は、まるで悪魔の様だ、と草加は思った。
●
はんたがその男達を見つけたのは、丁度そいつ等が病室に入っていく所だった。
……奴らか……?
二人組の男、その後ろ姿にはんたは疑惑を抱く。つい先ほど、自分をこけにしたゼロなる男の手下なのだろうか、という疑惑を。
ゼロ、思い起こすのも忌々しい男。それを思い起こしてはんたの内心が荒れる。
……借りは必ず返してやる……
この自分を相手にし、小細工で逃げ延びた口の達者な男だった。奴に曰く、この病院には“黒き騎士達”なる手下が潜んでいるらしい。ゼロが病院に仕込まれた爆薬を操る以上、奴の手下を狙うしかない。
目の前の2人が“黒き騎士達”なのか、それとも違うのか。
……どちらでも構わないがな……
その思いによってはんたは考察を断ち切る。
はんたがこの殺し合いにおいて選んだスタンスは“皆殺し”だ。
自分を除く全ての参加者、その末には主催者である2人の男も殺す。そうやって全てを終わらせる。
それこそがはんたの選んだ道だった。
故にはんたは、二人組の男を強襲する事にした。
「成る程な……、やっぱり雅人は頭が良いな!」
「それ程でもないよ」
二人組の片割、“雅人”なる男はすでに部屋の奥だ。もう一人の方は出入り口の辺りに立っている。
通路の暗がりによって身を隠したはんたは息を殺し、もう一人が動くのを待つ。そして、
「俺はこのベットを使わせてもらうよ。城戸君も、好きな所を使うと良い」
部屋の奥から響いた“雅人”の声、それによって動作を作った。
「そうだな」
“雅人”の言葉にもう一人が歩を進め、
「俺はどのベットを」
通路がもう一人の男の死角になった所で走り込み、
「使わせてもらおう」
扉の縁に背を付け、そして後ろ手に一つの物品を室内に投げた。
投げ入れたのは院内で手に入れた空の酒瓶。円柱型のそれは室内を転がり、もう一人の男が持ち上げた男の片足を潜り、下ろされた足裏と床の間に割り込んだ。
それによって生じるのは、円柱を踏んだ事による着地の不安定、
「か――」
そして転倒だ。
男は豪快にも前のめりに倒れ、その前面を床に叩き付ける。
「……大丈夫か、城戸君?」
どうやら“城戸”というらしい転倒した男、それを気遣ってか“草加”が動いたのをはんたは悟る。
しかし“城戸”を転倒させ、宙へと跳び上がった酒瓶がそれを止める。
「っ!?」
中空を下る酒瓶が床に落ち、その衝撃によって炸裂した。破片を室内にまき散らし、“雅人”を驚愕によって停止させる。
その隙をついて、はんたは動く。
起立と疾走は同時に発生、扉を回り込んで室内に入り、左足を持って転倒する“城戸”の背を踏みつける。
「――!?」
「動くな」
“城戸”は踏みつけられた事によって、“雅人”は視界を広げた事によって、はんたに気付く。
だがはんたはそれを無視して問う。殺すべき相手に、気遣う必要などない。
「――お前らが“ゼロ”の手下か?」
●
「……ゼロ? 誰の事だ?」
突如現れ、城戸を踏みつけた男の問い。それに対して草加は率直な感想を口にする。
……人の名前か?
しかし名簿を見た限りでは“ゼロ”という名前の参加者はいなかった筈だ。ならば偽名という事か。そしてこの男は“ゼロ”と敵対関係にあるという事か。
……まさか、もう衝突が始まっているのか?
“ゲーム”が始まって2時間が過ぎた。
自分や、おそらく目の前の男の様に“ゲーム”に乗った者達が既に争い始めていても可笑しくはない。
ただ、今ここで襲われる、というのは想定外だった。
「質問に質問で返すな。訊いているのは俺だ」
現状の主導権は男が握っている。どうやら男は、こちらのあらゆる行動を許すつもりはなさそうだ。
「お前は“ゼロ”の手下か? 違うのか?」
再度の問い。
もしここで男の意にそぐわぬ事をすれば、どうなるか。
城戸にそれが行けば良いが、自分に来る可能性もある。よしんば城戸に行ったとしても、次に来るのは草加だろう。
故に草加は正直に答える事にした。
「……違う」
「そ、そうだそうだ! 俺達はゼロなんて奴、知らないぞ!?」
男に踏みつけられた城戸が便乗して喚く。が、黙れ、という男の一言と共に踏みにじられて押し黙った。
「とぼけているのか? それとも、本当にそうなのか?」
まあどちらでも良いが、と男は区切る。そして、
「――お前らを殺す事に変わりは無い」
断言した。
……頭おかしいんじゃないか!? この殺人鬼が!!
自身の指針を棚上げして草加は内心罵倒する。
殺人という行動に耐える方法は、主に二つある。
誤摩化すか、軽視するか、だ。
自分はこうした理由があったから人を殺した、という理由付けが“誤摩化し”。
人を殺す程度の事が一体なんだというのか、という理由付けが“軽視”。
自分は前者だが、この男は恐らく後者にあたるのだろう。
……こんな糞野郎を相手にしてやれるか! 何か、何か対応策を……
最初から城戸の救出という行いを除外し、草加の思考は巡る。
「お前の支給品を寄越せ。さもなければ、この男の脚を砕く」
「……雅人! 俺に構わず逃げろ!!」
……当たり前だ! 誰がお前を助けるか!!
城戸を踏みつける男の要求、踏みつけられた城戸の言葉、そのどちらも草加は罵倒する。城戸の救出を最初から考えない草加にとって、それはどれ程の価値も無いからだ。
……糞野郎……俺を殺す前に、こっちの全てを奪い取ろうという判断か!
考える。
何とか自分だけでも生き残る方法は無いか、と。しかし男はその猶予を与えるつもりはない様だ。
「俺がやらない、と思っているのか?」
こちらの不動に痺れを切らして男は動く。
背に置いていた足を城戸の右足首に移し、右手に持った巨大な鉄槌を高々と振り上げ、そして、
城戸の右膝を粉砕した。
「――――――――――――――――――――――――――っッっ!!!」
城戸の口から溢れるのは獣声。大き過ぎる痛みが、本能としての反応が、城戸の声から人間らしさを消失させた。
そして男が鉄槌を持ち上げた時、そこに城戸の膝は無かった。否、“膝だったもの”ならばあった。
圧倒的な腕力と重量によって振り落とされた一撃によって平たく潰れ、さながら薄いハンバークのとなった肉体を“膝”と定義出来るならば、の話だが。
圧縮されたのが原因か、皮膚から血液が噴出し、平面化した肉皮に砕かれた骨の輪郭が浮き出ている。
「お前が望むなら、或は遅いなら、あと三回は繰り返せるな」
男の言葉は忠告だ。仲間の四肢を守りたければさっさと言う事をきけ、と。
……下らない、俺が言う事を聞いたらまとめて殺す気だろうが!?
だが男にとって、そして城戸にとって不幸な事は、“草加が城戸をどれ程も助けたいとは思っていない”という事だった。
男の忠告は草加にとっては幸運、“あと3回分の猶予が出来た”と思うだけだ。
だから、
……何か、何か考えなければ……
「――左脚」
……早く考えろ……生き残る術を……!
「――右腕」
……ああ時間が無い、早く早く早く早く……ッ!!
「――左腕」
城戸の四肢が全て粉砕されても、草加の思考に乱れは無かった。焦りもあって良案は浮かばなかったが。
「……っ……ぁ…………」
四肢の関節を平たい肉片に変えられた城戸は、陸に上げられた魚の様に喘いでいた。目は血走り、脂汗に濡れ、全身を浮かせて呼吸し、喉を傷付けたのか僅かな血痕が周囲に散っていた。
そして男は、最早城戸に価値は無しと見たのか、足を退けてこちらを見やる。
「何だ、お前そうだったのか。……だったら最初から言え、無駄な労力を使った」
そうして男は、草加に対する感想を一言にした。
「――お前は、誰がどんな目に遭っても無視出来る糞野郎か」
それと共に男はこちらへと歩んできた。
「糞野郎相手じゃあ、この手は通じないな」
城戸の四肢を肉片に変えた鉄槌を下げて。
「鎮圧する手間を避けようと思ったが……結局二度手間か」
後退りする草加だったが、その背中は直ぐに窓に衝突する。逃げ場は無い。
「――糞野郎の相手は、本当に面倒だ」
そして男は鉄槌を振り上げた。今度は時間をかけるつもりは無いのだろう。鉄槌は、草加の額を狙っている。
……死、ぬ……
逃げ場を失い、致死の攻撃に迫られ、草加から一切の感情が消えた。
冷えきった脳髄と意思。そして、
「――死ね」
「うああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!! 真理いぃぃぃぃっっ!!!」
鉄槌は振り下ろされた。
●
どうやら気絶していたらしい。
四肢に感じる激痛、それによって城戸は目を覚ました。
「……ぎ、…っ、………ぐぅ……」
それぞれの関節が全て叩き潰されていた。血管、骨格、神経、筋肉、その全てがただの肉屑となり、手足は全く動かない。
まるで虫けらにでもなった様な感覚、それに城戸の感情は波打つ。
だが、この“ゲーム”においても助け合いを望んだ城戸の意思は、喚く事よりも心配する事を望んだ。
「――雅人!? 草加はどうした!?」
唯一動く首を回して城戸は周囲を確認する。自分の体をここまで痛めつけた犯人、そいつが残る草加雅人を狙わない筈が無い。
必死になって首を回し、そして城戸は雅人を発見した。
「……雅人! 雅人、大丈夫か!?」
雅人は床に尻をつき、その背をベットの格子に預けていた。その表情は驚愕と恐怖、双眸を最大限に剥き出し、一つ所を凝視している。
「雅人っ! おい、雅人、どうしたんだよ!?」
「……ば、ばけものが……ばけものが……っ!!」
震える声を漏らし、雅人は凝視する方向を指差した。一体何を、と思い見たものは、
背から4対の三角の突起を生やした、男の後ろ姿だった。
「……な、何だよ、これ」
男は、確かに城戸の四肢を粉々に砕いた男だった。
その男が何故、体内から三角の突起を、爪を生やしているのか。
「――ぉ」
とその時、男が僅かに苦悶した。身じろぎし、今まで隠れていたその向こう側が見える。
そこにあったのは、窓硝子から両腕を生やす人型の虎だった。太い両腕に生えた4対の爪が男の胴を貫き、その先端を背から露出させていたのだ。
そして城戸には、その怪物を見た事があった。
「――ミラーモンスター」
白に青で彩られた、虎型のミラーモンスターがそこにいる。獰猛な双眸は両腕によって貫いた男を凝視し、獰猛な気配が硝子越しにでも伝わってきた。
……なんでコイツがここに……!?
「ぐ……ぉ…」
男は首をもたげ、窓硝子に移るモンスターを睨む。
その表情は城戸から見る事は出来ない。しかし、そこに込められた感情の強さは解る。何故なら、有り余る怒気が男の背から滲み出していたのだから。
「……おま、えぇ…っ!!」
強靭な両腕がモンスターの両腕を掴む。強靭な握力が強固な腕を握り締め、圧壊させようとする。しかし、臓腑を貫かれたその状態でどれ程の力が入る筈も無く、男はそのまま、窓硝子に引きずり込まれた。
窓硝子は割れる事も無く、まるで水面の様に男を引きずり込む。そして響くのは、猛獣が獣を補食する生々しい音。城戸にとって、疎みながらも聞き覚えてしまった音だった。
皮を裂き、肉を喰らい、血を啜り、骨を咀嚼し、命というものを一滴残らず摂取する音が響く。
それが途絶えた後に、ようやく病室へと静寂が戻ってきた。
残されたのは、四肢を潰された城戸と、未だ抜けきらない恐慌に呆然とする草加、そして散乱した男の所持品。
「――一体、何だったんだ」
雅人の呟きが、やけに大きく聞こえた。
「あの化け物は一体何なんだ……? どうして窓硝子の中にいた……?」
『――教えて欲しいか』
その瞬間、声がした。
城戸のものでも雅人のものでもなく、ましてや喰われた男のものでもない、新たな声。それが強い耳鳴りを引き連れて、窓硝子に現れた。
モンスターと同様に、病室の窓硝子に現れた男。
「――神崎!!」
城戸にとっては馴染み深く、雅人にとってはこの“ゲーム”に巻き込まれた元凶とも言える存在。そんな男が、突如として城戸達の前に出現した。
『いい様だな、城戸真司』
「うるせぇ! それより何なんだ、このゲームは!? これも……ライダー同士の戦いの戦いだっていうのか!?」
こちらを見下す神崎に城戸は吠え、しかし神崎の興味は城戸に向かなかった。おそらくその一言だけが言いたかったのだろう。
神崎が視線を向けた相手は、草加雅人だ。
『草加雅人。城戸や浅倉とは違う種の仮面ライダーに変身する男。……お前には、カードデッキを預けた』
「……な、何!?」
城戸の驚愕、だが目前の二人はそれを無視して話を進める。
草加は震えつつも自身のデイバックを開き、中から支給品を取り出す。取り出されたそれは、深い青をした長方形の箱、中央には虎を模した紋章があった。
城戸は見た事のない物だったが、カードデッキの一つである事はすぐに解った。
……雅人に…カードデッキが支給されてたのか……
予想だにしなかった事実だが、それならば先ほどの出来事も納得出来る。
カードデッキの持ち主、契約者の危機に契約モンスターが防衛行動をとったのだ。
「これが、何だと言うんだ」
タイガのカードデッキを片手にし、草加は神崎へと問い掛ける。
『それがカードデッキ。お前の知るライダーベルトとは完全に機構の異なる……俺が造ったライダーベルトの様なものだ。鏡や硝子にかざす事で、仮面ライダーに変身する事が出来る』
神崎の言葉に雅人が押し黙る。
話しているうちに頭が冷えてきたのか、値踏みする様な目で神崎を見返し、
「……どうして俺にそれを教える? 参加者同士を殺し合わせる事が、お前の目的じゃないのか?」
『そうだ。故にこの戦いにおいて、カードデッキには戦いを促す機能を持たせた』
何、と問い掛ける雅人に神崎は語る。
『カードデッキには、持ち主に力を貸す契約モンスターがついている。だが契約モンスターに長期間人間を喰わせないと、契約違反となってそのモンスターは持ち主を襲う』
そして、
『――この戦いで配るにあたり、カードデッキにはその猶予期間を12時間にまで短縮しておいた』
「な、何だと!!?」
城戸と雅人が同時に驚愕する。
それはつまり、12時間に1人、契約モンスターに喰わせなければ自分が喰われるという事だ。
『加えて言えば、変身や契約モンスターへの命令を1分持続する毎に、その猶予時間は10分消耗される。つまり最長でも……変身や命令は1時間12分しか維持出来ない』
もしもそれ以上行い続ければ、その瞬間に変身が解けて契約モンスターに襲われる。
「だ、だったらカードデッキなんか捨てれば良い!」
『それも無駄だ。カードデッキを捨てた場合も、契約モンスターは持ち主を襲うようにしてある』
「……そんな」
それでは八方ふさがりではないか。
自分が生き残る為には、自分以外を殺さなければならないではないか。
『そうだ。生き残りたければ殺せ、自分以外の参加者を。それ以外にお前が生き残る術は無い』
窓硝子の向こうで、神崎が雅人を指差す。
『――戦え、戦わなければ生き残れない』
戦え、戦え、戦え、戦え。
その言葉だけを反響させ、神崎の姿は窓硝子から遠のいていった。
●
神崎が消えた病室、そこには静寂だけが残された。
城戸は部屋の出入り口辺りに倒れ、そして草加は俯いてしゃがみ込んでいた。
……神崎……この戦いを仕組んだ、“主催者”の片割……
とんだ糞野郎だ、と草加は毒気づく。
自分をこんな場所に連れ込み、人間の四肢をああも無惨に潰せる男と戦わせ、その果てには、窓硝子に潜む化け物の飼い主に仕立て上げた。
……それも、時限爆弾付きとはな……
成る程、よく出来た仕組みだ。
1日に1人を喰わせろ、さもなくば自分が喰われる。使用すればその分だけ猶予が減るから確実に相手を喰わせる必要がある。そして、カードデッキとやらを捨てても自分は喰われる。
成る程、これまで徹底されては、
……殺し合うしか、無いよなぁ……?
自分が生き残る為、自分が帰還する為、その為に他の参加者を犠牲にするしかない。
「おい、雅人……雅人!」
と、城戸の呼びかけに草加は思考の奥に沈んでいた意識を取り戻した。
「大丈夫か…?」
四肢の関節を潰され、床に這いつくばる城戸。頭だけを持ち上げてこちらを心配そうに見る。
「神崎の口車なんか気になよ。大丈夫、何か方法はあるって!」
城戸はこちらへと励ましを送る。
這いつくばったまま励ますその姿を、草加はまじまじと見つめた。
「ど、どうした?」
……あぁ、何だ……
どうやら当面、あの虎型の化け物に喰われる心配はなさそうだ。何故なら、
……こんな所に、都合の良い“餌”があったじゃないか……
四肢を潰されて身動き出来ない、格好の獲物が。
「お、おい雅人?」
城戸の窺いを無視して草加は立ち上がり、城戸へと歩み寄る。そして城戸の胴を担ぎ上げ、近場のベットへと投げ捨てた。
「…ぎ、ぐぁ……っ!!」
粉砕された四肢が刺激されて城戸が悲鳴を上げる。
だがそれさえも草加は無視し、隣のベットから剥がしたシーツで城戸の体をベットに縛りつけた。
「――雅人! 一体何のつもりだ!?」
驚きに問い詰める城戸を、そこに至ってようやく草加は応対する。
「……“餌”だよ」
暗く残忍な笑みを浮かべて、草加は呟く。
「時間になったらモンスターに喰わせる……“餌”が無いとヤバいだろ? それを保存してるのさ」
「“餌”って……俺の事か!?」
その言葉は無視する。当然の事を改めて言う無駄を草加は好まない。
だから草加は城戸に背を向け、病室を後にした。新たな“餌”を捕獲する為に。
廊下に出れば、並列した窓硝子がある。そしてそこには、獰猛な両眼でこちらを見る虎型の怪物もいた。
「――待っていろ化け物、すぐに“餌”を捕まえてやる」
期間限定の下僕となったその化け物に笑いかけ、草加は病院の廊下を行く。
「――雅人っ!! 雅人おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」
背後に響く城戸の叫びを、やはり無視しながら。
草加雅人、残る猶予は――11時間59分。
【緑の悪魔はんた@メタルサーガStS 死亡】
【一日目 AM2:33】
【現在地 H-4 病院内】
【草加雅人@マスカレード】
[参戦時間軸]ACT.14終了後くらい。
[状態]健康
[装備]カードデッキ(タイガ)@
リリカル龍騎
[道具]支給品一式・デュエルディスク@リリカル遊戯王GX・拡声器(メガホン)・ウェットティッシュ・城戸のデイバック
[思考・状況]
基本 利用出来る物は全て利用し、最後の一人になる
1.病院に来た奴は全員“餌”だ……
2.早く参加者を捕まえないとな
4.カイザギアも探さないとなぁ
5.北崎は俺が殺す
備考
※病院を拠点兼“食料庫”と定義しました
※城戸真司に対する認識が“馬鹿”から“餌”に変わりました
※ゲーム中盤くらいまでは演技を続けるつもりです
※名前は知りませんが地獄兄弟、特に「影山瞬」を怨んでいます。天道総司も同様です
※ウェットティッシュは元からの草加の持ち物です。没収漏れです
【城戸真司@リリカル龍騎】
[参戦時間軸]第二十話~第二十一話あたり。オーディンを殴った後
[状態]両肘・両膝部が粉砕・ベットの上に拘束
[装備]無し
[道具]無し
[思考・状況]
基本 神崎の思い通りにはさせない。絶対にこんな戦い止めさせてやる!
1.雅人、正気に戻ってくれ!!
2.体中が痛ぇ……っ!
3.なのはちゃん達と合流したい
備考
※名簿のなのはやフェイトを自分の良く知るなのはやフェイトだと勘違いしてます。
共通の備考
※まだ草加は、自分がなのは達の知り合いである事は明かしていません。 故に真司は、草加がなのは達の知り合いである事は知りません
※病院の2階にある大部屋病室に、“四肢を砕かれた城戸真司”が拘束されています。また同室に、“はんたが持っていた全ての所持品”が散乱しています
【カードデッキについて】
支給品化に際しての制限は以下の5つです
・12時間毎に1人、契約モンスターに“生きた参加者”を喰わせないと所有者が襲われるようになります
・参加者を1人喰わせると、猶予が12時間に補充されます。猶予は12時間より増えません
・変身や契約モンスターへの命令を1分継続させる毎に、10分の猶予を消費します。つまり変身・命令は最長で1時間12分間維持出来ます
・猶予を使い切るとその瞬間に変身が解除され、契約モンスターに襲われるようになります
・所有者が自らの意思でカードデッキを捨てた場合、その所有者は契約モンスターに喰われます。無意識・譲渡・強奪の場合は適用されません
最終更新:2008年03月02日 15:47