降臨するは白き龍
シーナ=カノンが、あの悪魔と白虎の闘争――それが「闘争」と呼べるものだったのかは疑問だが――に巻き込まれなかったのは、幸いとしか言い様がない。
皮を裂き、骨を砕き、肉を食らうその音は、引き裂けかかった彼女の心を容易に四散させるだろう。
仮にそれよりも早く現場に立ち会っていたとしても、姿なき「魔王の僕」を捜す男に殺されている。
そしてそんなことは露知らず、少女はふらふらと歩いていた。
食糧とするために、コンビニからカロリーメイトをいくつか拝借。
敢えて栄養食を探したのは、フェンシング部部長というスポーツマンとしての、せめてもの矜持だったのかもしれない。
そのままおにぎりの棚が、何者かによって漁られていたことに気付く余地もなく、シーナは暗闇をさ迷う。
とりあえずは病室を探すつもりだった。
安心して休める場所が欲しかった。
敵が来ないとも限らないが、扉の鍵を閉めれば助かるだろう。
ほとんどパニックになりかけた頭で、そんな思考を巡らせているうちに――
「!」
シーナはその男に出会った。
草加雅人は廊下を歩くうちに、徐々にだが冷静さを取り戻してきていた。
同時に頭の中に浮かぶ、疑念。
(ゼロという奴は…何故仲間の存在を示した?)
白虎に食われた男の言葉が引っ掛かる。
仲間を使って密かに包囲させる場合、それを標的に知らしめるメリットは、あまりない。
相手が気付かぬうちに、文字通り「闇討ち」をさせた方が圧倒的に有利なのだから。
にもかかわらず、ゼロはその存在を教えた。
何故か?
よほど自信があるからか? 相手に粗捜しをさせて疲弊させるためか? そもそもその存在がはったりなのか?
それとも…この思案こそが最大の狙いか?
(狡猾な奴だ)
自分と同じで。
草加は哄笑する。
恐らく、そのゼロという奴は相当な切れ者だ。
仲間がいる、とその存在を示唆しただけで、こうも人の頭脳を掻き回す。
この暗闇の中に敵が潜んでいるかもしれないし、いないかもしれない。
故に、常に警戒を要求され、余裕を奪われ、戦闘を強要される。
まさに「魔王の呪術」。
しかし、草加にとってその洗脳はさしたる意味を持たない。
どの道それを受ける前から、餌を探すことに変わりはないのだから。
獰猛な僕を僕として扱うために――獲物を狩るために、階段を降りる。そしてそこで――
「?」
草加は少女に出会った。
「ひっ…!」
反射的にシーナは後ずさる。
正しい判断ではあった。草加は今まさに、自分のための贄を捜している最中だったのだから。
しかし、彼女は別にそこまで考えていたのではない。
今は単純に、他人が怖い。それだけのこと。
一方の草加の脳裏を横切ったのは、餌を見つけた喜びではなく、疑問だった。
(…こいつはゼロの手下の1人なのか?)
ひどく怯えた少女の正体を、男の視線が探る。
刺客の割にはいやに臆病だ。こんな奴に命を狙わせる理由はない。
しかし、仮に彼女の役目が、命を狙うことではなかったらどうだ。
単に人の気配を振りまいて病院をうろちょろする――それこそフェイクならば。
その場合、少女に気を取られた標的を狙う、別の手下がいる可能性がある。
あるいはそんなものは最初から存在せず、手下の1人だと仕立て上げられた偽物かもしれない。
ミラーモンスターに命を奪われたあの男にとっての、自分達のように。
まあ、いい。
今は目の前の餌が先だ。
刺客が隠れているのならば、あの白虎に襲わせればいい。
念のため、腕にデュエルディスクを嵌めておく。打撃用には使えるだろう。
「…どうしたんだい? そんなに震えて」
つとめてにこやかに、草加はシーナの元へと歩み寄った。
しばらく善人面は続けるつもりだ。その方が「狩り」もやりやすい。
しかし、それで懐柔できるシーナではなかった。
表情は優しい微笑みだったとしても、目が笑っていない。
それは事実であったのかもしれない。しかし、彼女が見ていた草加の表情は、それではなかった。
過度の恐怖と警戒が生んだ、あるはずのない、残忍な笑顔。
「そんな所でぼうっとしていると…
――俺ガ殺シチャウヨ?
それこそ被害妄想。
実際に放たれた続きの言葉――それは恐らく、「誰かに殺されるよ」といったような内容だったのだろう――は届かず、
全くの虚言に刷りかわる。
ある意味では、それが真理に近いものであったのは、皮肉でしかなかった。
「あ…ぁあああっ!」
震えるシーナの指が、カノンの引き金を引く。
鋭い銃声。しかし、当然弾は当たらず。
「警戒することはないだろう。俺は君の味方だよ?」
「嘘…嘘よそんなのっ!」
辛うじて声を絞り出し、シーナは拒絶した。
誰も信じてはいけない。顔見知りですら自分の手を切ったのだ。
こんなわけの分からない奴など、信用できるはずもない。
「大丈夫だ」
しかし草加はその反応を気にも留めず、胡散臭い笑顔をシーナの目に映し、一歩一歩歩み寄っていく。
「うわああぁぁぁぁっ!」
ぱん、ぱん、ぱん、ぱん。
黒光りする拳銃が4連発される。残弾全てを打ち切って、少女は男を威嚇した。
当たるはずもない。できれば当てたくはないのだから。
しかし、そのうちの一発が偶然、
「ッ!」
デュエルディスクのジョイントを掠め、壊した。
腕にその身を固定していた金属ベルトが外れ、ディスクもまた床に落ちる。
瞬間、シーナの思考が急激にクリアになった。
あの機械のプレートには、何かを置くスペースがあった。
そしてその大きさは、あのカードと大体一致する。
人を1人殺してしまったことで手に入れた、青白い龍の描かれたカード。
であれば、あの機械の役割は何だ? 1番不自然のない役割は?
…カードの効果を引き出す機能だ。
そこに行き着いたシーナの行動は素早かった。
無我夢中で駆け出し、デュエルディスクをかっさらう。
草加の制止の声が聞こえた気がしたが、そんなものはどうだっていい。
「…お願い…」
カードの龍に祈る。
その力がこちらの望み通りのものならば、この声に答えよ、と。
「青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)」と書かれたカードが、ディスクにセットされた。
「助けて…ッ!」
――ウオオオオオオオオオオオオォォォォォォォーンッ!!!
咆哮。
耳をつんざくような雄叫び。
自然を離れたことで人間が忘れていた、根源的な恐怖をもたらす、肉食獣の声。
否。
そこに立つのは、そんなちゃちなものではない。
龍。
誇張でも何でもない。伝承やお伽噺でしか表現されないような、龍そのもの。
極めて機械的な容姿をしたミラーモンスターとは異なる、純然たる生物。
人間の数倍はあろうかという巨体を窮屈そうに丸め、片方の翼を、シーナを守るかのように回している。
全身に纏うのは、純白の龍鱗。その目を染めるのは、青き光。それらから滲み出る、圧倒的なまでの存在感。
味方にとっては、ため息が出るほどの美しさ。
敵にとっては、思わず身震いするほどの恐怖。
まさしく、純潔にして醜悪。
青眼の白龍。
その力は神をも脅かす――古代の歴史にその名を冠した白き龍が、今この病院に姿を現した。
「何だ、これは…」
今度は草加が後ずさる。
無理もない。これほどの巨大さを誇る化け物など、自分は聞いていない。
何より、あの胡散臭いディスクが、これほどのものを呼ぶなどとは。
「!」
巨龍が開いた口元に、青白い光が収束される。
まずい。
冷や汗が頬を伝った。
自分が従えるミラーモンスターなど、比較にすらならないようなサイズのドラゴンだ。何をされるか分かったものじゃない。
よけの姿勢を整える。
滅びのバーストストリームが吹き荒れた。
間一髪で横っ飛びで回避。同時に背後の壁が、爆発。
恐るべき破壊力は、わざわざ後ろを見て確認するまでもない。大量の爆薬にも匹敵する破壊の光だ。
草加の眼前に、白い塊が現れたのはその時で、
「がふっ…!」
それが青眼の巨大な尾であったのを知った時には、身体は壁に打ち付けられていた。
生暖かい液体が額から流れる。
胸の激痛は、肋骨が数本持っていかれたことを訴えていた。
やばい。
掛け値なしにあの龍はやばすぎる。
異常事態の中、しかし草加は冷静に判断した。
「えっ…?」
シーナが状況を飲み込んだのは、この時だ。
眩い光と共に物凄い雄叫びが上がり、気付けば自分は巨大な青眼の懐にいた。
そして、それを理解した時には、吹っ飛ばされた男が頭から血を流していた。
「…!」
呆然としていた少女を再び襲う、恐慌。
殺されたくはなかった。だから草加を威嚇した。
しかし、殺すのも真っ平御免だった。あんな気分は味わいたくなかった。
(…違う…)
そう、こんなつもりじゃない。
自分の身を守ってほしかったが、それは自分を庇えという意味だ。
敵対者を殺せ、というわけではない。
「ま、待って…違…!」
『ウオオオオオオオオオオオオォォォォォォォーンッ!!!』
震える声でのか細い制止は、しかし強烈な咆哮にかき消された。
青眼は尚も草加を睨む。
所有者の身を庇うだけでいいならば、シーナはカードを横向きに置くべきだった。
しかし、青眼のカードは縦向きにセットされている。
すなわち、
【 攻 撃 表 示 】
攻撃を指示されたモンスターは、主を守るという命令をどう解釈するか。
答えは簡単。
「主を害する者を、1匹残らず皆殺しにせよ」。
無論、シーナの真の意図はそれではない。
されど龍は、その命令を忠実に実行する。
汝我が主のために死にたまえ。
青い瞳が冷たい殺意と共に、男を見据えていた。
【一日目 現時刻AM2:40】
【H-1 病院】
【シーナ=カノン@SHINING WIND CROSS LYRICAL】
[状態]健康・恐慌
[装備]カノン(残弾ゼロ)@キノの旅 第X話「魔法使いの国(前編)」
[道具]支給品一式、地面に落ちているデュエルディスク(「青眼の白龍」を攻撃表示でセット)@リリカル遊戯王GX、
ウィルナイフ@リリカルガオガイガー、カロリーメイト4箱
[思考・状況]
基本 死にたくない。キリヤに会いたい
1.待って…お願い、止まって!
[備考]
※極度の人間不信に陥りました。誰に何を言われようと、キリヤ以外は敵としか認識できません
※「青眼の白龍」は攻撃態勢を取っています。召喚時間制限が来るかシーナの声が届くまで、全ての敵を殺そうとします
【草加雅人@マスカレード】
[状態]額から出血・肋骨3本骨折
[装備]カードデッキ(タイガ)@
リリカル龍騎
[道具]支給品一式、拡声器(メガホン)、ウェットティッシュ、城戸のデイバック
[思考・状況]
基本 利用できるものは全て利用し、最後の一人になる
1.何だこの化け物は!?
2.冗談じゃない…こんな所で死ねるか!
3.北崎は俺が殺す
[備考]
※ゲーム中盤くらいまでは演技を続けるつもりです
※名前は知りませんが地獄兄弟、特に「影山瞬」を怨んでいます。天道総司も同様です
※ウェットティッシュは元からの草加の持ち物です。没収漏れです
最終更新:2008年02月24日 20:12