数ある次元世界の中でも、とりわけ高位の魔法文化、技術を有する世界ミッドチルダ。
時空管理局発祥の地でもあり、その2大勢力のひとつ、地上部隊の本拠地が置かれる地である。
中央部の首都クラナガンにこそ無機質なビルディングが林立するものの
都市部からすこし離れれば、美しく豊かな自然がその姿を保たれている。
まさしく秩序を保ち、司法をつかさどる象徴として相応しい世界。
だが、それも今となっては遠い過去の記憶であった。
新暦68年にクラナガン南東を襲った大規模次元災害によって、大地は切り裂き焼かれ、多くの人々の命が失われた。
かつての質量兵器の比ではない甚大な被害をもたらしたこの事変は、今からちょうど7年前の出来事だ。
未曾有の大災害を未然に予知し、防ぐことのできなかった管理局は責任を問われ、総力を上げ事後処理に当たった。
一説には遺失物(ロストロギア)の暴走とも噂されたこの災害は、後に管理局から正式に巨大隕石の落下と公表され、死傷者数のべ3000人以上。
なにより森林部がうけた被害はすさまじく、落下地点から周囲4キロ四方は完全に消失した。
その後、被災地周辺は通信、通交、航空規制が布かれ、隕石によってもたらされた落下中心点の巨大クレーターは特殊金属と魔法によって厳重に封印されることになった。
何十にも封印されたそこは、局でもそれなりの地位を持つ者、あるいは研究者しか立ち入りを許されていない。
その巨大な鉄の城は「地獄の棺桶」と人々に揶揄され、皮肉にも復興の兆しを見せる街や人に過去の災害に対するフラストレーションを否応にも思い起こさせる象徴となっていた……
地獄の棺桶・・・災害の象徴。
けれどわたしは、あの鉄の城を見るたびに他人とは違う、ある種の感慨を抱く。
7年前。父や姉とはぐれ、ただ泣くことしかできなかった幼いわたしの前に現れたあたたかい光
そう。あの時の光景は忘れようにも忘れられない。
あの日わたしは天使を見た。
魔法少女リリカルなのはsts masked rider kabuto
「スバル、ちょっと聞いてるの?」
「へ?あ、うん!聞いてるよ!」
はるか地平の彼方にうっすらと浮かぶ「地獄の棺桶」をぼんやり眺めていたスバルは
少し語調を荒げたティアナの声によって現実に引き戻された。
人当たりもよく快活な彼女だが、ふとした拍子で物思いにふける癖が玉に瑕だった。
「あんたね、いい加減その癖治しなさいよ……相手はそれなりに気を悪くするんだから」
「ご、ごめんティア~ それで、何の話だっけ……?」
「……はぁ、試験前だってのに大丈夫なのかしら」
呆れてため息をもらすティアナに申し訳なく思いつつ、スバルは目前に迫る魔導師ランク昇進試験に集中するため、大きく深呼吸した。
右腕に感じるアームドデバイス、リボルバーナックルの重みが心地よい。
「よし!」
強くなる。決めたからには迷いはない。
あの日、そう誓ったのだから。
「リインもちゃんと試験官やれてるようやな。関心関心」
そんな二人の上空に滞空するヘリの中に八神はやてとフェイト・T・ハラオウンはいた。
はやては、機内に浮かび上がったモニターを見つめながら、守護騎士の中でも末っ子であるリインフォースⅡの働きを嬉しく思いつつ、右隣のシートに深く腰掛けているフェイトに目をやる。
「どないやろフェイトちゃん、改めて見た二人の印象は?」
「青い髪の、スバル・ナカジマ二等陸士ですか……彼女は問題ないのですが
もう一人の、ティアナ・ランスター二等陸士の方は、肩に力がはいり過ぎているような気がします。ああいう時はミスをしやすい」
「ふふ、うちもおんなじ事を考えとったところや」
フェイトの答えに満足したはやては、ひじ掛けのタッチパネルを操作し、2,3新たにモニターを出した。
画面にはスバルの全身が映し出される。
「いい目をしています」
なにかしら意見を求めているのであろう、はやての意思を察したフェイトが付け加えるように答えた。
またもニコリと笑ったはやてはさらに画面をズームアップする。
まだなにかあるのだろうか?フェイトは、やけにスバルを推す彼女に少々違和感をおぼえた、が……
「それに引き締まったええ身体しとるわぁ……尚且つ自己主張を忘れへん豊満なバスト!たまらんわ~」
「……」
一部隊を率いる要職に就いても尚、彼女のこの癖は治るどころか悪化の一途を辿っている……
「治らへんから癖って言うねんで」とは本人の談である。
軽く頭痛を催したフェイトは、今この場にいない二人の子供達を思った。
今後のためにとスバル、ティアナの昇進試験を見学させるつもりで連れて来たはいいが
都合、自分ははやてとヘリに同乗だったが為に地上に置いてきてしまっている。
本来ならば二人に色々と解説しながら試験を見届けたかったのだが、命令ならば致し方あるまい。
しかし、二人だけにさせるのは少々心配である。
「フェイトちゃんはちょお過保護や」などと、今現在となりでニヤニヤしているはやてに言われてしまったのが少しばかり心外だったが。
『それでは!ゴール地点でお会いできることを期待してますですよー!』
「「はい!」」
試験官のリインとの通信が終わると、スタートの合図を示すモニターが中空に現れた。
3つのゲージがひとつ、またひとつと消えてゆく・・・
「レディ……」
「ゴーッ!」
スバルとティアナは、息の合った掛け声を開始の合図が鳴ると同時に上げ、スタートダッシュをきった。
ローラーブレードを身につけているスバルが先行し、ティアナも持ち前の脚力でそれに続く。
もっとも、この試験方式は二人一組になって受ける「ツーマンセル」という形式であり
二人協力し合いダミーを守るスフィアとダミーを破砕しつつ、悪路を駆け抜けゴールを目指すというものであるので、二人の速力差はあまり関係ない。
余談になるが、どちらか一方が受かり、一方が落ちるなどというケースも稀にある。
「スバル!」
「うん!」
さっそく第一関門が二人を迎えうつ。
そびえ立つビルに侵入し、内部に設置されたダミーを破壊する、と口にするだけならば簡単そうだが、制限時間内にそれをしようものならば、高所から高所へ飛び移り、窓から侵入、一網打尽にするほかない。
ここにきてティアナの出番である。
「しっかりつかまってなさいよ!」
「わかった!中のダミーはわたしに任せて!」
ティアナがスバルを抱きかかえながら檄を飛ばす。
彼女の銃型のデバイスからアンカーが撃ちだされ、ビルの外壁に魔方陣を描きながらしっかりと固定される。
あとはワイヤーを巻き取りながら、ターザンの要領である。
「でぃやぁぁぁ!!」
窓ガラスを突き破り、ビル内部へ侵攻したスバルは、雄叫びを上げ、自動攻撃してくるスフィアを得意の近接格闘で破壊していき、ものの数秒で全機撃破してみせた。
「なかなかのコンビネーションやね」
上々のタイムで第一関門を突破し、合流する二人の様子を見ながらはやてが呟く。
「ええ。ですが、この先に例の篩いがありますからね。油断は禁物です」
「中距離自動攻撃型のスフィア……あそこで毎年半分以上が脱落やもんなぁ」
はやてはフェイトの釘をさすような言葉に苦笑いを浮かべながら同調し、試験内容を
見直した方がええんとちゃうか、などと思いながら再びモニターに目を落とす。
「こっからお手並み拝見や」
コースに設置された瓦礫を盾にしながら、すばやくカートリッジの補充を済ませたティアナは先ほどより攻撃の頻度が増したスフィアに発砲する。
一方、スバルは地の利を生かし、ローラーブレードで縦横無尽にあたりを駆け回り、攻撃をかわしつつ確実にスフィアに拳を打ち込んでいる。
「よし、全部クリア!」
「次は、このまま上よ。上がったら集中砲火は確実!切り抜けるには・・・」
「クロスシフトだね、ティア!」
「上等!行くわよ!」
阿吽の呼吸で頷きあった二人は、クロスシフトを実行すべく行動を開始する。
即ち、自動でワイヤーを回収するアンカーガンを機能を応用し、それを囮に、単純に動く目標としてアンカーガンめがけて集中砲火をはじめるスフィアの隙を突き、ティアナの幻術、オプティクハイドによって透明化したスバルと挟み撃ちの形で目標を撃破する、という作戦である。
「クロスファイヤー……」
「リボルバー……」
予想通りに主不在のアンカーガンめがけて攻撃を続けるスフィア。
チャンスは今しかない。
すでに透明化の解けかかっているスバルと、前方に控えるティアナがタイミングを合わせる。
「「シュートッ!!」」
二人の思惑に気づいたスフィアの反撃もむなしく、前後より撃ちだされた砲撃によって次々と粉砕されてゆく。
その場に残ったものはダミーだけとなった。
「へぇ」
はやては二人のコンビネーションを見、感嘆の声を上げる。
隣のフェイトもモニターに見入り、めずらしく感心している様子だ。
「よう洗練された陣形やないの。おもしろぅなってきた」
「この先の最終関門。この二人ならあるいは……」
「いけるかもしれんね」
自分の目にくるいはなかったとご満悦のはやてと、うなずくフェイト。
二人が期待の目でモニターに映るスバルとティアナを見つめた刹那、眼前に展開されているモニターの映像が乱れ、消える。
「なんや?サーチャーの故障か?」
「確認させます」
フェイトは手早くパネルを操作し、管制室を呼び出す。
計器のトラブルだろうか……どうにもいやな予感がする。
表情にこそ出さないがフェイトは心の中で冷や汗たらした。
ティアナ・ランスターは現状を把握するのに必死だった。
わかっているのは、第一に自分を背後から攻撃したものはスフィアでないこと。
そして、どうやら人間でもないことぐらいだ。
咄嗟に防御の姿勢をとったがいいものの、背中を強く打ったようで、身体が言うことを聞かない。
「ティア!大丈― ぐぁっ!」
吹き飛ばされたままぐったりとしているティアナに、慌てて駆け寄ろうとするスバルだが
何者かの攻撃によって阻まれ地面に打ち付けられてしまう。
(スバル……!)
ティアナは、かすむ目で地面に叩きつけられるスバルを見た。
身動きの取れない己が歯がゆくて仕方がない。
(こいつら……いったい……!)
まるで蟻のように地面から次々と現れる「それ」は明確にこちらへ敵意を持っているように感じられた。
(ティーダ……にいさん・・・)
ゆっくりとこちらを向くその異形の姿を見た瞬間、ティアナの意識は暗い海の底へと沈んでいった。
「っ……!」
なんとか体勢を立て直し、踏ん張るように立ち上がったスバルが見たものは、不気味なうなり声を上げながらこちらに近寄る怪物の影。
晴天だった空に、わずかに灰色の雲がかかろうとしていた。
「アホ!!そろいもそろって居眠りでもしとったんか!!」
『も、申し訳ありません!直前のコースサーチの際には異常は発見できなくて・・・!』
「もうええわ!!」
涙目になって弁解する女性局員に業を煮やし、乱暴に通信を切るはやて。
先ほどまでの様子とは打って変わっての激昂ぶりに、ヘリのパイロットも身体をびくつかせる。
「……フェイトちゃん、お願いするわ」
「了解しました」
はやては、状況が読めない苛立ちを沈めようと、眉間をしばらく押さえると
背後に待機するフェイトに顔を向けず、言った。
命令だ。
そんな上官に小さく一礼したフェイトは、素早くヘリの後部に移動すると、機材搬入用のハッチを開ける。
途端に機内に突風が吹き荒れ、フェイトのブロンドの髪を乱す。
「いくよ、バルディッシュ」
いつのまにか右腕に握られたデバイスに一言そう告げると、左腕を口元にかざし
腕首に巻かれたブレスにバルディッシュを装着する。
「変身!」
〈〈HENSHIN〉〉
バルディッシュが音声コードを復唱した瞬間、ヘリ全体がまばゆい黄金の光に包まれた。
蜂の巣にも似た六角形のブロックが、フェイトの身体を包み込んでいく。
光が消えたそこには、フェイトではなく無骨なシルエットの戦士が立っていた。
バリアジャケットと呼ぶにはあまりにも機械的であるその姿。
それこそが仮面ライダーザビー〈マスクドフォーム〉である。
変身が完了すると、そのまま助走をつけ、後部ハッチから外へ飛び出すマスクドフォーム。その鈍重な外見とは裏腹に、猛スピードで風を切り裂き空を駆けぬけてゆく。
その姿はまさに雷光と呼ぶにふさわしい。
「ワーム……ついにここにまで現れたか」
大空へ飛び出していくザビーの姿を窓から横目で追っていたはやては、ポツリとそう呟いた。
最終更新:2008年02月25日 19:42