新しい遊び
ゆらりゆらりと、この平原を歩く青年が一人。
一歩一歩の速度が不自然なまでに遅い。
フラフラと、正気を保っているのかさえ怪しい足取りで、青年は歩き続けていた。
その顔には何の表情も有りはしない。ただ、ぼーっと、前だけを見て歩いている。
何を考えているのか解らない……と言うよりも、何も考えていないのではないか? とさえ思える程の無表情さで。
外見からして、歳は恐らく16歳程度だろう。歳の割には童顔な顔つきだが、逆にそれが一層不気味さを掻き立てている。
彼の名は「北崎」。
「北崎」という名前だけで十分だ。それ以外の呼び方等存在しない。
北崎の服装は、薄い半袖のシャツを1枚着ただけといういかにも真夏的なスタイル。
それも、肩部分はこれまた随分とアンニュイにずり落ち、襟が大きく広がっている。
見た感じ、だらしない子供が少し大きめのシャツを着ている……というような印象だ。
そこまではまだ普通と言えるだろう。
北崎のスタイルにおいて、最も不自然な点は、その腹にある。
何が可笑しいかと言われれば、それは誰の目にも一目で見当がつくだろう。
北崎の腹には、明らかに不自然で、機械的で、それでいてスタイリッシュなベルトが巻かれているのだ。
黒地に、白のラインが入った無機質なベルトは、細身な青年には似つかわしく無い、異様な存在感を放っていた。
「ねぇ……誰かいないの……?」
北崎は呼びかける。
誰か、遊んでくれる相手を探し求めて。
だが、返事は返って来ない。仮に誰かが居たとしても、そんな迂闊に飛び出しはしないだろうが。
「……つまらないなぁ……せっかく、こーんなに楽しい楽しいゲームが始まったっていうのにさ……」
ゆったりとした口調で呟く北崎。
彼は今なんと言った? そう、“ゲーム”だ。
この殺し合いは、北崎にとって単なる楽しいゲームでしか無いのだ。
そもそも、北崎からすれば自分が負ける事など有り得ない。
勝って当然。負ける方が例外。
以前、一度負けた事があるが、それでも死に至りはしなかった。
パンチホッパーのライダーパンチを受け、ベノスネーカーの毒液に身体を溶かされても……。
その直後、キックホッパーの連続ライダーキックをピンポイントで受け続けても……。
そのまま王蛇・ブレイド・カリスのトリプルライダーキックを正面から受け止めても……。
最後に、二人の魔導師が放つ桜色の砲撃と、金色の雷撃の直撃を喰らっても……。
北崎にトドメを刺すには至らなかった。
逆に言えば、それだけの攻撃を与えても、北崎を倒す事は出来なかったのだ。
それはむしろ、北崎という危険な男に、無邪気な復習心を植え付けただけでしか無い。
次は負けない……次は殺す……。
それが北崎の単純な思考だった。
それに、運命の悪戯か、あの日北崎に敗北という屈辱を合わせたアイツらは、一人を除いて全員がこのゲームに参加している。
北崎はまだそれを知らない。……いや、知る必要も無いのだが。
どうせ会った奴は全員壊れるまで“遊ぶ”つもりだからだ。
「ん……なんだ……?」
暫く歩き続けた北崎は、目の前に広がる異様な後継に立ち止まる。
それは、上半身から上を切断された女性の死体。周囲を赤黒く染め上げる程に血を噴き出し、死亡した女性の死体。
「なぁんだ……もう終わっちゃったのかぁ……」
呟きながら、女性の死体……つい先刻まで、フェイト=T=ハラオウンであった筈のそれに近寄る。
その口調からは、まるで自分だけ仲間外れにされた子供の様な……まるで自分も一緒に遊びたかった、という様な意思が感じられる。
戦う事自体を楽しむ北崎にとっては、この戦いに参加出来なかった事がよっぽど残念だったのだろう。
「あーあ、可哀相に……僕ならもっと綺麗に始末してあげるのになぁ……」
極めてゆったりと、囁く様に言いながら、フェイトの死体を見下ろす北崎。
綺麗にと言うのは少し正確では無いかも知れない。
そもそも北崎に殺されれば死体すら残りはしないのだ。何しろ、北崎は『オルフェノク』なのだから。
それも、最強クラスのオルフェノク。事実、北崎を越えるオルフェノクは、滅多に存在しない。
上の上のオルフェノクだけで構成されたラッキークローバーを、実質的に牛耳っているのは他ならぬ彼なのだから。
北崎は表情一つ変えずに、地面に横たわったフェイトの、長い金色の髪を掴み、持ち上げた。
ちなみに上半身だけとは言え、片手で大人の体を持ち上げようとすればかなりの腕力が必要になるが……。
まぁオルフェノクである北崎にはそれくらいは簡単な事なのだろう。
「あーあー……嫌だなぁ……」
既に光を失ったフェイトの目を見た北崎は、独特の口調で愚痴を零す。
自分がやりたかった。自分が遊んで欲しかった。出来る事なら、楽しいゲームがしたかった。
北崎は、つい先程までフェイトであった上半身を、地面に投げ捨てた。
同時に、その上半身は色を失う。赤い目の色も、金の髪の毛も、美しい色白な肌も。
それら全てが灰色一色に変色した身体は、そのまま表面から崩れ落ちて行く。サラサラと、零れ落ちる砂の様に。
これが北崎の能力。触れた物全てを灰化させてしまうという、極めて悪質な能力だ。
そこには既に、フェイトと呼べる物は存在しない。ただ、灰色に煌めく灰が、小さな山を作っているだけだった。
……いや、一つだけ残っている。
今さっき、フェイトが灰化する寸前までその首に巻かれていた、無機質な首輪だ。
「そっかぁ……そういえばこれは灰にならないんだったね……」
北崎の瞳に、楽しそうな輝きが宿った。
自分が触れば何でも灰になってしまう。紙飛行機も、ワイングラスも。嫌でも、北崎の意思に関係無く灰化してしまうのだ。
そんな北崎にとって、灰化しないデイバッグや、一部の支給品……それから、自分にも装着されたこの首輪は、本当に面白い物だった。
北崎は、一切の傷を付けずに取り外す事が出来た首輪を、嬉しそうに手に取った。
触っても触っても、いくら触っても灰になる事はない。北崎は嬉しそうに、フェイトの首輪を自分のデイバッグに放り込んだ。
この首輪は記念に貰っておこう……。と、そんなところだろう。
まだフェイトの下半身がそこには残されていたが、北崎にとって、もはやそれには何の用も無かった。
次に、フェイトに支給されたデイバッグを見付けた北崎は、まるで新しい玩具を見付けた子供のように、瞳を輝かせた。
北崎の目の前に転がる邪魔な下半身を蹴飛ばし、フラフラと歩いて行く。目的は、その先に落ちているデイバッグ。
その中に入っていたものは、北崎が探し求めていた物だった。
それは、グレーと黒のカラーリングのグリップ。特殊な形ではあるが、携帯電話としても使える。
「見ぃ付けたぁ……」
笑う北崎。グリップに書かれた文字は、「SB-333P」。
それは、北崎が探していた力。北崎が、今最も欲していた力。
今、北崎が腰に巻いているベルトに対応するトランスジェネレーターデバイス……『デルタフォン』だ。
デルタドライバーとデルタムーバーは北崎に、デルタフォンはフェイトに支給されていたらしい。
自分に支給されていたのは、ムーバーとドライバーがセットになったデルタギアと、訳の解らないカブトムシ型の機械だけ。
そしてこのデイバッグに入っていたのが、デルタフォンと1枚のカード。
カードが何なのかは北崎には解らない。だが、綺麗な絵柄をしていることは確かだ。
それが特に北崎の欲しかった物という訳では無いが、それだけでも北崎がこのカードを貰うには十分な理由だった。
カードをポケットに押し込んだ北崎は、今さっき手に入れたデルタフォンを指先でくるくると回転させながら立ち上がった。
一回転させては掴み、また一回転させては掴み。デルタフォンを回す北崎の表情は、先程までとは違っていた。
「新しい玩具を手にいれた。」「早く遊んでみたい。」そんな期待に満ち溢れた表情で、北崎は微笑んだ。
さて暗黒の四葉の頂点に君臨する龍人は今、こうして新たな力を手に入れた。
持ち主の闘争本能を掻き立て、凶暴化させる、Δ―デルタ―のベルトを。
いや、装着者が北崎では凶暴化等という副作用は意味を成さないだろう。
そんな副作用が無くとも、この男程に凶暴な奴はいない。戦いそのものを楽しむ、言わば戦う為に戦うような男なのだから。
デルタギアはこの男にだけは渡してはならない、最悪の力だ。
いや、今更歎いてももう遅い。事実、デルタギアは北崎の手に渡ってしまったのだから。
もう引き返せはしない。北崎は、飽きるか死ぬまでデルタギアを手放す事は無いだろう。
積まれた灰の山が風に舞う。
フェイト=T=ハラオウンという人間であった名残は既に無く、ただキラキラと、灰は風に飛ばされて行く。
いつしか、山は消えていた。軽い灰は、優しく吹く風に乗り、いずこかへと霧散したのだ。
そんな光景には目も暮れず、北崎は再び歩き出した。
自分を楽しませてくれる、「面白い」遊び相手を求めて。
「ねぇ……誰か僕と遊ぼうよ……」
【一日目 AM2:12】
【現在地 D-1】
【北崎@マスカレード】
[時間軸]なのは達に敗北以降。正確な時間軸は後続の書き手さんに任せます。
[状態]健康・上機嫌
[装備]デルタドライバー、デルタムーバー@マスカレード
デルタフォン@なのはStrikerS+仮面ライダー
首輪
[道具]支給品一式
ハイパーゼクター@マスカレード
アドベントカード(疾風のサバイブ)@
リリカル龍騎
[思考・状況]
基本 この楽しいゲームに乗って、遊ぶ。
1、僕も遊びたいなぁ……
[備考]
※灰化出来る物と出来ない物があります。武器等、主催側が用意したアイテムは灰化しません。
生きた人間に触った場合は、すぐには灰化せず、触った部分から少しずつ灰になって行きます。
※名前は知りませんが、影山瞬・矢車想・浅倉威・高町なのは(A's)・フェイト=T=ハラオウン(A's)・仮面ライダーカリス(相川始)の6人は北崎の獲物という認識です。
見かけた際にはすぐにリベンジゲームを始めるつもりです。
※相川始だけは、素顔を見ていない為に仮面ライダーカリスとしての姿しか知りません。
※地図を見て居ないので、行く宛はありません。相手が現れるまで、ただ歩き続けます。
※D-1には“フェイト=T=ハラオウンの切断死体(下半身のみ)”“フェイトのデイバッグ(中身は支給品のみ)”“ブーメランブレード(片方)”が放置されています。
最終更新:2008年02月25日 20:06