すれ違い、その結果


 ティアナ=ランスターは思案する。

(こいつ、何であたしの名前を……?)

 思案の内容は、眼前にいる謎の男。確か先程まで読んでいた詳細名簿には「キリヤ=カイト」とあったか。
 この男は、ティアナの名を知っていた。間違いなく初対面のはずなのに。
 ただのストーカーとかならばまだいいが、友人と話すような口ぶりからしてそれは無いだろう。
 ならばこの男は一体何者だ? ……いや、考えたところで答えなど出まい。
 ……と、眼前の男が一歩前へと踏み出した。先程近寄るなと言ったのを忘れたのか?
 危険人物かもしれない相手が接近してきても、今の自分なら素手でも倒せるだろう……並の相手であれば。
 だが、詳細名簿によるとこの男は「心剣士」なる特異能力の持ち主。能力の詳細は書かれていなかったが、近付けてはまずいかもしれない。
 故に、キリヤの足元を狙い、威嚇のために銃弾を放った。


 キリヤ=カイトは思案する。

(ティアナ……?)

 思案の内容は、眼前に在る理解不可能な状況。
 自身のパートナーであるはずの少女が、こちらに銃を向けているという状況に。
 おまけにその少女は、こちらのことを一切知らないような口ぶりである。
 故に、キリヤは困惑する。
 何故? どうして? 俺が分からないのか?
 キリヤの心の中を疑問符が埋め尽くすが、それでも足は前へと進む。
 こんな状況ではあるが、それでも話せば分かってくれると信じて。
 ……だが、それは足元への銃弾で破られた。


「近寄るなって言ったはずよ」

 ティアナの放つ言葉は拒絶。眼前にいる男が何者かほとんど分からない以上、この状況では当然だろう。
 もしかしたら、(あるとは思えないが)知り合いを装って殺しにきたマーダーの可能性もある。
 威嚇射撃で怯んだのか、キリヤが一度停止した。今度こそ止まって真相を話すだろうか。
 そして、その内容はティアナがキリヤを敵とみなすには十分だった。

「憶えてないのか? 俺達は仲間のはずだろ?」

 BANG!
 アイボリーから放たれた弾丸が、キリヤめがけて飛んだ。
 狙いがそれたのか、それとも意図的に狙いをはずしたのか、その弾丸はキリヤの顔の横を通り抜け、そのまま近くのビルのガラスを割る。
 ティアナが自分を倒しにかかってきた事に驚き、さらに混乱するキリヤ。だが、次のティアナの一言で、その理由を理解した。

「生憎ね、知り合いのふりをして騙そうとしても、そうはいかないわ」

 ああ、そういう事か。
 つまり、このティアナはキリヤの事を「知らない」のだ。
 何故知らないのか、それはさすがに分からない。もしかしたら、一部の……もしくは、全ての参加者が記憶を弄られているのかもしれない。
 だとすれば、自分も……? いや、それは今は保留だ。
 とにかく今は、自分の敵となってしまったティアナを止め、それからゆっくり話す必要がある。
 キリヤはそう考え、つるはしを正眼に構えた。
 戦闘開始だ。


 最初に動いたのはティアナ。殺さず無力化できれば最良だと思ったのか、致命傷になり得ない部位を狙って発砲。
 だが、いつも扱っているデバイスとは違い、アイボリーには非殺傷設定などというものは無い。当たれば穴が開くし、そこから血も流れる。最悪の場合死にかねない。
 いつもの吸血鬼やグール相手ではないせいか、デバイスではない本物の銃で人を撃つのは抵抗があるのだろうか、弾が当たらない。
 もちろん、これで怖気づいて去ってくれればいいが、残念ながらキリヤはその程度では退かない。
 それを理解したティアナは、弾切れになったアイボリーに予備マガジンを装填して再び発砲。

「ぐっ!?」

 一発左腕に当たり、痛みが走る。
 だが、キリヤはそれをものともせずに接近。そのままつるはしをブンと振るい、攻撃を仕掛ける。狙うはティアナの右腕だ。
 もちろん殺すつもりは無いので、つるはしは単なるフェイントでしかない。
 対するティアナは、そうとは知らずにつるはしの持ち手の方を受け止めようとするが、その前につるはしの方が止まった。
 これはフェイント。それを理解した時にはすでに遅し。ティアナの腹めがけてキリヤの拳が飛ぶ。
 命中。気絶させるために放ったのでそれなりに威力はあったが、それでもティアナを止めるには至らない。
 むしろティアナにとっては殴りやすい位置に来たも同然である。左拳を振りかぶり、キリヤへと振り下ろす。
 振り下ろすより一瞬早くキリヤがそれに気付き、慌てて後方へと下がって回避。
 拳が当たったアスファルトの地面には、轟音とともにヒビが入っていた。

(……忘れるところだったわ。吸血鬼には怪力があったのよね)
(ティアナってこんなに腕力あったのか……)

 互いに思う事は、ティアナの発揮した怪力についてである。
 ティアナは使う機会が無かったせいか、吸血鬼特有の怪力のことを忘れていたようだ。
 キリヤはただ純粋に驚いていた。ティアナが見せた怪力に。
 もっとも、彼はティアナが吸血鬼と化した事実を知らない上に、ティアナが格闘戦をしているのを見たことがないせいで「人間」ティアナ=ランスターの腕力だと勘違いしているようだが。
 ……とにかく、これで間合いは再び離れた。仕切り直しである……
 いや、二人の視界にスザクの姿が入ったため、一度戦闘は中断された。


 枢木スザクがこの戦闘を見たのは、この一連の攻防が中頃に達した時だった。
 彼がここに来た切欠は、かがみとともにDevil May Cryに潜伏していた時に聞きつけた銃声。
 彼はそれが戦闘音だと思い、回式・芥骨を手に音の方向へと駆けた。
 そしてそこに着くと同時に、キリヤの呻き声。アイボリーの銃弾が当たったのだ。
 止めるべきかと思い、足を前へと進めるが、それは一度中断されることになる。
 その理由は無論、ティアナの見せた怪力である。その時の音が一瞬、スザクの足が止まった。
 そして、その時に離れた二人がこちらを見ていることに気付く。どうやら気付かれたようだ。
 さて……どうする?


 キリヤとティアナは、突如現れた相手に面食らっているようだ。
 何故こんなところにいたのだろうか。いや、それ以前にいつからいた?
 スザクの出現が戦闘を止めた事にも気付かず、この状況について少し考える。
 そして、彼らが脳内で導き出した結論は、互いの相手とは全く逆のものだった。

(あの人……もしかして、この戦いを止めに来たのか?)
(まさか……漁夫の利を狙って最初から?)

 この場合、正解はキリヤの方なのだが、それはどうでもいいだろう。
 ここで重要なのは、スザクの思惑よりもこの二人がどう思ったかなのだから。


 キリヤ=カイトは仲間だと思っていた相手に撃たれた。
 ティアナ=ランスターは疑い深くなり、平行世界での仲間へと銃を向けた。
 枢木スザクはこの両者の戦いに介入した。
 それらの要素が何をもたらすかは、未だ分かってはいない。
 ただ、一つだけ言える事があるとしたら……このままではろくな結果にならないという事。
 この結末がどうなるか、それはスザクの手にかかっている……


【一日目 現時刻AM1:25】
【E-6 市街地】

【キリヤ=カイト@SHINING WIND CROSS LYRICAL】
[状態]健康・左腕に銃創
[装備]破壊神のつるはし@なのはのくせになまいきだ
[道具]支給品一式
[思考・状況]
基本 このゲームを止める。
1.あの人、もしかして戦いを止めに……?
2.ティアナを止め、話を聞いてもらう
3.夜を街で明かして、朝になったらシーナを捜しに行く
[備考]
※心剣は抜けます
※参加者の記憶が改竄されていると思っています


【ティアナ=ランスター@NANOSING】
[状態]健康・多少疑い深くなっている
[装備]アイボリー(予備マガジン数:4/5)@魔法少女リリカルなのはStylish
[道具]支給品一式、詳細名簿、ランダム支給品0~1個
[思考・状況]
基本 仲間達と合流し、今後の方針を練る
1.あの男、まさか……!
2.正面の相手(キリヤ)を無力化する
3.夜を街で明かして、朝になったら仲間達を捜しに行く
4.捜索はまずマスターから。残りは二の次
[備考]
※詳細名簿には以下の情報が載っています
  • 参加者名(顔写真付き)
  • 参加者の能力(但し特殊能力の詳細は載っていない)


【枢木スザク@コードギアス 反目のスバル】
[状態]健康
[装備]回式・芥骨@リリカルスクライド//G.U.
[道具]支給品一式、ランダム支給品0~2個
[思考・状況]
基本 誰にも人殺しをさせず、このゲームを終わらせたい
1.見つかったか……さて、どうする?
2.もう迷わない。たとえ偽善だろうと…僕は、自分の信念を貫く!

041 本編投下順 043

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最終更新:2008年03月02日 15:42