割り込み着信
「あ゛あ~、もうどうなってるザウルス!?」
浅黒い肌をした1人の少年が、不機嫌そうな声を上げてバンダナの頭をかきむしった。
ティラノ剣山という名前のこの少年は、今デイバックを担いで、1人開けた場所を歩いている。
夜の闇の中でこうもだだっ広いと、広大さよりも殺風景さが目についた。
身内が目の前で殺されるという凄惨な出来事が起こったとはいえ、せっかくまともな場所に来れたと思ったのだが、
これではあの砂漠と同じようなものではないか。悪いことずくめもいいところだ。
「大体、兄貴は一体どうしちゃったんだドン!? あの兄貴が、あんな風に明日香先輩達を殺すはずがないザウルス!」
独り言を呟きながら、剣山はその足を進めていく。
否、前言撤回。叫びながら、だ。
「おまけに俺達にも殺し合えだなんて…ああーっ、もうわけが分からないザウルス!」
よほど単純なタイプなのか、いちいち大声を張り上げて胸のうちをぶちまける。
しかし、彼の苛立ちだけはまっとうな反応だ。
あの漆黒の鎧を身に纏いし覇王――遊城十代は、本来は強い正義感と優しさを持った熱血漢である。
そしてその人柄に触れ、強烈なシンパぶりを見せる剣山だからこそ、この突然の変化に戸惑うのも、無理はなかった。
「とにかく、兄貴がおかしくなったのには何か理由があるはずだドン! でもってそれがあるからには、きっと元に戻す方法もあるはずザウルス!」
剣山は意気込む。
わけも分からぬうちに兄貴分が様変わりし、わけも分からぬうちに先輩が殺されたバトルロワイアル。
この瞬間、彼が取るべき道は決した。
「まずは兄貴を元に戻す! そうすれば、兄貴がこの馬鹿みたいな殺し合いを終わらせてくれるはずザウルス!」
あまりにも短絡的な答え。
事実、どうやって十代を正気に戻す方法を探すかすら、未だ考えていない。
しかしその一方で、彼の選んだ道は、このゲームの核心を突いてはいた。
そう、このバトルロワイアル、主催者が中止するという手段こそが、最も安全確実な中断方法なのだ。
主催者を倒すという方法もある。だが、相手の方が強かった場合はどうしようもない。
ならば主催自らに止めさせるのが、一番安全なのである。
もっとも、それが可能か否かは別問題なのだが。
「…お?」
ふと剣山は、自分の目の前の地面が途切れていることに気付く。
その先に見える大地を見る限りでは、どうやらこの場所は、小規模な丘になっているようだ。
切れ目へと駆け出し、その下を覗き込む。
5~6メートルほど下に続く地面に、1人の女性が立っていた。
若干長めの金髪に、穏やかな目付きをした青い瞳。
基本的に異性には滅多に興味を持たない(一時期、例外あり)剣山だったが、少なくとも可愛い部類に入るであろうことは理解していた。
そしてその視線が女性の姿を探り――耳元で止まる。
(あれ…ひょっとして、携帯電話ザウルス!?)
目が見開かれた。
自分のデイバックに入っていたのは、食料と地図にコンパス、あとは武器になりそうなものくらい。
外界との通信手段となる物などはもちろん入っていなかったし、恐らく他の
参加者も持っていないと思われた。
それがどうだ。眼下の女は、携帯電話などという便利な代物を持ち、しかも通話している。
誰と話しているんだ? そして何を話している?
好奇心のままに剣山は駆け出した。
手頃な斜面を見つけ、そこを一気に下り降りる。
全力疾走の後に息も切らすことなく、剣山は声を張り上げた。
「おおぉーい! そこの人ぉぉぉー!」
「っ!?」
当然のごとく女性はそれに気付き、反射的に身構えた。
「何者だ? 返答によっては…」
「わっ…とと、落ち着くザウルス! 怪しいもんじゃないドン!」
視線を鋭く尖らせて警戒する女性を身振りで宥めながら、剣山はそちらへと歩み寄っていく。
何となく明日香先輩みたいな人だ、と内心で冷や汗をかいた。髪も金色だし、声音も似ている。
実際、これはかなり危ない手段だった。相手が丸腰で、今後の方針を模索している最中だったからよかったものの、
これが武装した殺人者ならば、あっという間に殺されている。
「…ああ、気にするな。人が来ただけ…」
反応から、ひとまず即座に命を奪われることはないと判断したのか、女は冷静に電話に応じる。
しかし次の瞬間、その表情に驚きの色が宿った。
「…何だって?」
「もしもし、聞こえるか?」
剣山が女――リインフォースの元に姿を現す数分前、ヨハン=アンデルセンは、ようやく通じた電話に向けて問いかけていた。
『聞こえている。…お前は何者だ?』
返ってきたのは、リインフォースの冷静な声。
ぶしつけにかけられた誰何の言葉に、ヨハンは律儀に答える。そもそも、話しかけた側から名乗るのは礼儀というものだ。
「ヨハン=アンデルセンだ。あんたは?」
『…リインフォースという』
思ったよりも簡単に名乗りに応じてくれたことに、ヨハンは安堵していた。
こういう便利な物を持っている者は、優先的に狙われてもおかしくない。
よって警戒して名乗ってくれないのではと懸念していたのだが、どうやら自分が先に名前を言ったのが功を奏したようだ。
よって、そのまま質問に入る。
「参加者の中に知り合いはいるか?」
これだけの数だ。何人か見知った顔がいてもおかしい話ではない。
例えば、自分のデュエルアカデミアから、多数の参加者が出ているように。
それらの人員とその特徴を把握しておけば、今後の行動もある程度は楽になる。
『八神はやて、高町なのは、フェイト=T=ハラオウン、マサキ=アンドー…』
読み上げられていく名前に、ぴくりとヨハンの眉が動いた。
「高町なのはとフェイト=T=ハラオウンの2人には、俺も会ってる」
聞き覚えのある名前があったのである。
なのはとフェイトの2人は、あの砂漠の広がる世界の調査に来た、時空管理局なる組織の人間だ。
『そうなのか?』
「ああ、魔法を使う若い女性で…」
『若い…女性?』
リインフォースの怪訝そうな声が、ヨハンの言葉を遮る。
何かおかしなことでも言ったのだろうか、という疑念を浮かべるヨハンだったが、
『彼女らはまだ、幼い少女のはずだぞ?』
まさかそんなことを言われるとは、夢にも思わなかっただろう。
「は!?」
思わず間抜けな声を上げるヨハン。
自分の聞き間違いであると思いたかった。
何せ彼女らは、明らかに20代前半はいっているはず。それが「幼い」とは一体どういうことだ。
確認のためにも、再び彼は口を開く。
今の言葉が、何かの聞き間違いであることを願いつつ。
「えっと…あの人達は、時空管理局の実働部隊・機動六課の分隊長クラスで間違いないよな?」
『彼女らはまだ管理局に関わって、1年も経っていないと聞いている。本局の実働部隊も、五課までしかないはずだ』
祈りは届かなかった。
全くもって、お互いの会話が噛み合わない。
ヨハンは思わず頭を抱え込んでしまいたい衝動に駆られる。
どうやらお互いの知るなのはとフェイトは、全く異なる立場の人間のようだ。
同姓同名の別人だったのかもしれないが、2人も同時にそうなるとは考えがたい。
「…待てよ?」
その時、不意にヨハンの脳裏に浮かぶものがあった。
思い出すのは支給品の名簿。確かあれには…
「今の2人の名前…確か、なのはさん達の名前が2つあったよな?」
そうだ。
名簿には、なのはとフェイトの名前が2つ載っていたのだ。
当初は誤植かと思って無視していたのだが、今になって、ヨハンの中にある可能性が浮かぶ。
『確かにそうだが…』
「なら、俺の知ってるなのはさん達と、あんたの知ってるなのはさん達…両方が参加してる可能性があるよな?」
『…つまり、私の知らない、未来の高町なのはがここにいると言うのか?』
その言葉に、ヨハンはより一層自身の説に対する確証を強める。
自分が知らず、リインフォースが知っている「もう1人のなのはとフェイト」の存在を計りかねていた彼だったが、
なるほど確かに、彼女らがまだ幼かった頃の過去から来た存在と見なすのがアリならば、全ての疑問はクリアーだ。
恐らくこのリインフォースなる女も、過去から来た人なのだろう。
「そう考えるのが、一番しっくり来るだろうな」
『しかし、どうやってだ? どうやって奴らは時間を超えるなどという真似を?』
もっとも、新たな問題はある。
リインフォースの言った通り、過去から人間を連れてくることが、本当に可能なのかということだ。
「分からない。ただ、これだけの人間を一度にワープさせるだけの力量を考えると…」
『…ぉぉぉーい…ぉぉ…』
『ッ!?』
電話の向こうリインフォースが、遠くから聞こえた声に反応したのは、この時だった。
「? おい、どうし…」
『何者だ』
厳しい誰何の声。それだけならまだいいだろう。
しかし、次の瞬間に聞こえてきた声は、ヨハンに新たな驚きをもたらすには十分だった。
『わっ…とと、落ち着くザウルス! 怪しいもんじゃないドン!』
先ほど以上の驚愕がヨハンの表情を彩る。危うくカイザフォンを落とすところだった。
あまりに特徴的すぎる、「ザウルス」「ドン」という語尾。いくら何でもこれを聞き間違えるはずはない。
であれば、「本人」だ。まず間違いないだろう。
まさかこんなにも早く「仲間」と接触できるとは、思いもよらなかった。
「おいあんた! 今の声は…!」
電話に向かって叫ぶ。今は一分一秒が惜しい。
『…ああ、気にするな。人が来ただけ…』
「そいつに代わってくれっ!」
『…何だって?』
怪訝そうなリインフォースの声が返ってきた。
無理もないだろう。いきなり正体も知らぬ相手に代われなどと言うのだから。
しかし、ヨハンにはそれを気にしている暇はなかった。
「――そいつは俺の仲間だ!」
【一日目 AM1:28】
【現在地 B-2 平地】
【ティラノ剣山@リリカル遊戯王GX】
[参戦時期]第九話 食事中
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本 十代を元に戻し、ゲームを中断させてもらう。
1.殺し合いは断固反対
2.兄貴…明日香先輩達を殺すなんて、一体どうしたんだドン…
3.おお、怖…明日香先輩みたいザウルス、この人…
【リインフォース@スーパーリリカル大戦(!?)外伝 魔装機神 THE BELKA OF MAZIKAL】
[状態]健康、パイの姿
[装備]なし
[道具]支給品一式、カイザフォン@マスカレード、リンディ茶スペシャルブレンド(砂糖40倍)@仮面ライダーリリカル電王sts、首領パッチソード@ナナナーナ・ナーノハ
[思考・状況]
基本 はやてを生還させる(手段は問わず)
1.この男…ヨハンの仲間と聞いたが…?
2.なのはとフェイトが2人…しかも向こうは未来人だと?
3.はやて生還のために、あらゆる手段をとる。必要とあらば殺しも辞さない
[備考]
※首領パッチソードの詳細を知りません
【現在地 J-6 森】
【ヨハン=アンデルセン@リリカル遊戯王GX】
[参戦時期]第九話 食事中
[状態]健康
[装備]ライサンダーZ@魔法少女リリカルなのはStrikerS――legend of EDF――
[道具]支給品一式、ファイズフォン@マスカレード、ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本 十代を止める
1.十代の豹変の理由など、情報を集める
2.まさか、剣山をこんなに早く見つけられるなんてな…
3.過去のなのはさん達を連れてくるなんて真似…本当にできるのか?
4.ライサンダーをマーダーに渡さない
[備考]
※自分の知らない方のなのはとフェイトが、過去の人間であることに気付きました
最終更新:2008年03月05日 21:06