ソードマスターは復讐のために
丘の上を1つの影が歩く。
闇の中に桃色のポニーテールを揺らすのは、気高き美貌を持った烈火の将。
右手に地図を、左手にコンパスを持ち、西へ西へとシグナムは進む。
(…頭の痛くなる思いだな)
ため息をついた。
彼女を悩ます頭痛の種は3つ。
1つは当然、この狂った殺人ゲームだ。
訳も分からぬうちに妙な部屋へと連れ込まれ、何もできぬうちに人を2人も殺されて、そして今度は自分達にも殺し合いを強要してきた。
無論、仲間意識が戦意を鈍らせたわけではない。
あの室内の一角に垣間見たはやてを生かすためならば、誰が相手だろうと戦い抜いてみせよう。
フェイトやなのはに内心で短く謝罪し、覚悟を決めて名簿を見たのだが、そこには第2の頭痛の種が待ち受けていた。
(まさかテスタロッサまで増えていたとはな…)
そこには、高町なのはとフェイト=T=ハラオウンの名前が2つずつ載っていたのだ。
百歩譲って、なのははよしとしよう。今機動六課には、10年前から飛ばされてきた過去の幼い彼女がいる。
問題はフェイトだった。なのはの場合に当てはめるとするならば、過去の彼女までもが現れたことになるのだから。
否、もしかすると、まだ見ぬ未来のフェイトが来た可能性もある。
しかしそれがアリならば、なのはの方も未来人かもしれない。
そう考えているうちに訳が分からなくなって、シグナムは考えることをやめた。
とりあえず、「増えた」と認識することで己を納得させて。
そして今は、地図上に示されたアヴァロンなる施設を目指している。
夜を明かすならば市街地や病院の方が好ましいとも考えたが、
何分そこは便利な地点なだけあり、必然的に人が集まるであろうことを考慮して避けた。
もちろん、数百年の時を闘争の中で過ごしたシグナムには、夜戦であろうと問題なくこなせる能力はある。
しかし、それは平時の装備の場合だ。
今、彼女の腰には1つのナイフが収められている。
シグナムに与えられた支給品の中で、今すぐに使うことができる武器はこの短刀のみ。
当然、不慣れな得物で戦うのは危険だ。それを彼女はわきまえている。
故に、更に戦いづらい要素となる夜を避け、こうして寝床へと向かっているのだ。
ちなみに、他に用意された支給品は二種類。
1つは、デュエルディスクなるアイテムによって使用可能となる紙製のカード。
恐らく傷を癒すためのものであろう「ホーリー・エルフの祝福」に、
「ジャイロイド」と「幻獣王ガゼル」の2枚のモンスターが書かれたカードもあったが、その中で注目したのは「稲妻の剣」の存在だ。
長剣ならば、最も慣れ親しんだ武器として使いこなせる自信がある。
朝になったら、まずはデュエルディスクを探すのも悪くない、とシグナムは認識していた。
(…しかし…)
だが、残る支給品は――そう、現在進行形でシグナムを悩ませている第3の頭痛の種だった。
(…あれは私をおちょくっているのか?)
最後の支給品はシールが3枚。それも絵柄は全て、微妙に残念そうな表情のヴィータ。
このシールを支給品として受け取った人間の顔…とでも言いたかったのだろうか。気分が悪かったので捨てた。
(…うん?)
と、シグナムはここで、遠くに何かの影を見つける。
そこにあった2つの物体のうち、片方は地面に刺さった巨大なくの字状の物体。恐らくブーメランブレードというやつだろう。
そして、暗い中で目を凝らしてよく見てみると、どうやらもう片方は人間の下半身のようだ。
少なくとも1人、既に死人が出たらしい。
思ったよりも若干早かった人死にに僅かに驚き、彼女はその屍に向かって歩いていく。
しかし、ある程度近づいた瞬間、余裕綽々な表情はたちどころに消え失せた。
その死体が穿いていたスカートに見覚えがあったから。
慌てようが傍目にも分かるスピードで、管理局の制服を着た下半身へとシグナムは走り出す。
まさか死んだのが身内だとは思わなかった。頭の中を、猛スピードで思考が駆け巡る。
(やられたのは誰だ? シャマルか? まさか主はやてか? もしや…)
そして、立ち止まった。
目と鼻の先へと到達したことで、ようやくシグナムは理解したのだから。
下半身だけの死体が、その鍛えられた美脚を黒いストッキングで覆っていたことに。
そしてそれが、自分が好敵手として認めた戦友のものであることに。
「…テスタロッサ…だったのか…?」
瞳が色を失う。
力なく呟くと、シグナムはその場にふらふらとへたりこんだ。
目の前のフェイト――見たところ、どうやら自分の知っている方のフェイトのようだ――は、見るも無惨な姿へと変わり果てていた。
胸から上あたりをすっぱりと斬られ、その上半身は跡形もなく消え失せている。
固まりかけた血液によって汚れた制服を身に付けた下半身だけが、ごろりと無造作に捨てられていたのだ。
「テスタロッサ…」
震える手を、屍へと伸ばす。赤黒く変色した、形のよいウエストを両手に抱いた。
殺したくなかったわけじゃない。
守るべき主を生かすためには、いずれ戦わなければならない相手だ。
その果てに、フェイトの命が失われることになるということも分かっていた。
しかし、
「…こんなにも早く…逝ったというのか…ッ!」
こんな形で死ぬことは望んでいない。
我知らず、涙が流れた。
闇の書事件の際に巡り会った、自身の闘争心を満たすに値しうる強敵。それから10年もの間、互いに高め合い、認め合った。
いつしか背丈が自分と並ぶようになった少女との10年は、これまでの数百年よりも遥かに勝る、長く、そして有意義な時間だったろう。
故に、叶うことならば、引導は自分が渡したかった。
永遠にも等しき生涯における最大のライバルへの敬意として、全力の闘争をはなむけとする。それがシグナムの望みだった。
それが、顔を見ることすら叶わぬうちに殺されたとは。
絹のような美しい金髪、愛らしさと大人っぽさの共存するあの笑顔――それらが跡形も残らず、無惨に消し去られたとは。
しばらくの間、シグナムはフェイトの亡骸に顔をうずめ、赤子のように泣きじゃくった。
「………」
ひとしきり泣きはらした後、シグナムはゆらりと立ち上がる。
強く凛々しき烈火の将が、普段ならば絶対に見せないしおらしい表情で、最後にじっとフェイトだったものを見つめた。
「…誰だ」
そして一転。
次の瞬間には、その瞳には凄絶なまでの眼光が宿る。
戦友の残酷な死を目の当たりにした彼女の悲しみは、新たな形をなして新たな矛先へと向かう。
すなわち、怒り。
テスタロッサを殺したのは誰だ。
そこに刺さった刃で彼女を真っ二つにしたのは誰だ。
その上半身を容赦なく蒸発させた外道は誰だ。
震えるような悲哀は怒りに。沸々と湧き上がる憤怒は憎しみに。そして、轟々と渦巻く憎悪は――
「待っていろ、テスタロッサ」
顔に残った涙すら拭わず、シグナムは遥か彼方を睨む。
ブーメランブレードを右腕で引き抜き、巨大な刃を肩へと預ける
まともに戦えるような時間になるまで、アヴァロンでやりすごすつもりだったが、気が変わった。
まどろっこしい方法はもうやめだ。
殺した奴を探し出す。テスタロッサの仇を、何が何でも見つけ出してやる。
そして一分一秒でも早く、それこそ自分が戦う相手の中で、1番最初に■してやる。
彼女の受けた痛みそのままでは足りない。その何倍もの苦痛と恐怖を身体に叩き込み、その上で■す。
そうとも――この命に代えてでも、必ず■してやる。
■してやる。
■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる
■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる
■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる
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■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる■してやる
そう――
「――私が殺してやる」
桃色の髪の復讐鬼が流した雫が、今は血の涙を思わせていた。
【一日目 現時刻AM2:32】
【D-1 丘】
【シグナム@エーストライカーズ】
[時間軸]一話終了後
[状態]健康・憎悪
[装備]ブーメランブレード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]支給品一式、剥ぎ取りナイフ@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
遊戯王カード(「ホーリー・エルフの祝福」「ジャイロイド」「幻獣王ガゼル」「稲妻の剣」)@リリカル遊戯王GX
[思考・状況]
基本 フェイトの仇を殺す
1.待っていろ…テスタロッサ…
2.アヴァロンにこもるのはやめた
[備考]
※強い殺意によって、はやてを守るという使命を半ば忘れかけています。
※自分の知らないなのはとフェイトが、別の時間から来た彼女達であることに気付きました。
※D-1に、フェイト=T=ハラオウン(StS)の死体(下半身のみ)があります。
※シグナムのスタート地点であるG-2に、フォワードチョコおまけシール×3@シール(題字:都築真紀)が落ちています。
最終更新:2008年03月07日 21:48