彼女の不運
月村すずか。彼女はただ単に運動神経がいいだけの、普通の女だった。
唯一変わっている点といえば、その人脈のみ。魔法使いや仮面ライダー、果ては異世界人までもが彼女とは顔見知りである。
だが、それ以外は何も変わらない、前述の通りの普通の女だった。だから、こんな殺し合いには呼ばれるいわれは無いはずである。
それなのに……
「殺し合いだなんて……どうして、こんな事に……!」
彼女は今、会場南東部の森の中にいた。
なのは達から次元世界の事や次元犯罪者については聞いていたから、こんな風にいろいろな世界から人をさらうなんて芸当をやる人物も出るだろうとも予想は可能。
ただ、彼女は自分がそれに巻き込まれるとは思っていなかったらしい。狼狽が見て取れる。
おまけに、最初に見せられたスプラッタショーもその狼狽を強める一因になっていた。
辺りにはビュンビュンと音を立てて、強風が吹き荒れる。今なら周りに誰がいても気付かないだろう。
……と、その状態からある事を思い出した。最初に十代が言っていた言葉である。
『お前たちを会場へと飛ばす、こちらで用意した支給品と一緒にな』
「そ、そうだ、支給品……」
思い切り混乱しながらも、それだけ思い出したすずかはすぐに周りを見る。
そして、見つけた。自分の分とおぼしきデイバッグを。さっそく開き、中身を確認。
まず初めに出てきたのは、折りたたまれた一枚の紙。開いてみると、大量の名前が記されていた。
これだけ多くの名が書かれているという事は、これは
参加者名簿なのだろう。
出来れば自分の他に誰も来てないでほしいと願いつつ、すぐに目を通す。そして、見つけた。
「嘘……なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん……!」
よりにもよって彼女の親友が三人も呼ばれていた。最後の一人であるアリサが呼ばれていないだけまだマシなのだろうが。
そして、もうしばらく読み進めると……彼女にとって、最も呼ばれていてほしくない人物の名があった。
「え……!!??」
もはや驚愕と混乱で、言葉も出ないらしい。
先程見つけた親友の名。それだけでもショックは大きい。そしてその上に、彼女の恋人……キョウキの名が記されていたのだ。無理も無いだろう。
現在の彼女の状態は、仰天を通り越して石化といっても過言ではない程度に固まっていた。
数分後、ようやく正気に戻ったのか、再び行動が開始された。
この近くに殺し合いに乗った人物がいれば確実に死んでいたが、運良く乗った者は誰もいなかったらしい。彼女が生きているのがその証明だ。
そして、名簿を見た彼女が最初に行ったのは、その行動方針の確定。
「殺される前に、ここから逃げなきゃ……なのはちゃん達と、センパイと一緒に!」
その名簿に記された名。その主とともにこの会場から逃げるという行動方針を。
ならば、当面の目標はそのメンバーの捜索、そして自身の生存である。死んでしまっては探せるものも探せない。
ふと、自分で言った「殺される前に」という言葉を頭の中で反芻し、そして身震いする。
こんな物に自分の仲間は決して乗りはしないと信じてはいるが、何しろここには70もの参加者がいるのだ。その中の誰が乗っているとも限らないのである。
そして、その乗っている相手に見つかれば、非力な自分などすぐに殺されてしまうだろう。
そうならないためにも、自衛の必要がある。幸い手元には支給品がある。最低限の自衛に使えそうなものくらいは入っているだろう。
そう思って支給品を調べ……取り出したのは一枚の封筒。開いて中身を取り出す。
その中身である紙には、「ハズレ 残念でした」としか書かれていなかった。
「え、嘘、まさか!?」
まさかこんなものしか入っていないのか。そう思ってデイバッグの中身を穿り返す。
そしてその結果、出てきたのは地図や食料などの基本的な支給品だけであった。
実を言うと封筒にはサバイブ『烈火』と呼ばれるカードも入っているのだが、すずかはそれに気付かない。
まるで主催者が言外に「さっさと死ね」とでも言っているかのようなセレクト。それは死を確信させるには十分だった。
最初に立てた目標が真っ先に一つ否定され、それはすずかを絶望に叩き落とす。
そして自身の生存を絶望視し、泣いた。
さて、すずかにとっての不運は、実はもう一つだけあった。
それは、彼女が探そうとしていた人物の一人、八神はやてが近くにいた事である。
探したい人物が近くにいるというのは、普通なら喜ぶべきことだろう。だが、この場合は違う。
辺りには前述の通り強風が吹き荒れているので、風の音のせいで互いの存在に気付かないのだ。
そしてすずかが絶望している間に、はやてはさっさと移動を始めてしまった。それも今すずかがいる方向とは真逆の方へと。
……つまり、近くにいた探し人とは完全にニアミスしてしまったという事である。もはや不運を通り越して神に嫌われているとしか思えない。
これが永遠の別れとなるのか、それともどこかで会えるのか……それはたった今「すずかを嫌っているのではないか」と評した神ですら分からないだろう……
【一日目 AM1:22】
【現在地 I-9 森の中】
【月村すずか@リリカルなのはStrikerS+仮面ライダー】
[参戦時期]第二部平成ライダーサイド三話、キャンプ中
[状態]健康・生還を絶望視
[装備]なし
[道具]支給品一式・封筒(中に「ハズレ 残念でした」と書かれた紙と、サバイブ『烈火』@リリカルなのはStrikerS+仮面ライダーが入っている)
[思考・状況]
基本.キョウキや仲間と合流し、この会場から逃げる
1.絶望した! あまりのハズレ支給品に絶望した!
2.なのは達やキョウキを探す
[備考]
※近くにいたはやてに気付きませんでした
※狼狽しまくっていたため、なのはとフェイトの名が二つある事に気付いていません
※サバイブ『烈火』に気付いていません
さて、今度はその今しがたニアミスした八神はやてへと目を向けてみよう。
彼女がここを立ち去るよりもほんの少し前、はやてもまた、支給品を確認していた。
最初に出てきた氷の剣アイスソード、これはまだいい。重量はあるが、両手持ちなら使えなくは無いだろう。
問題は、次に出てきた支給品である。
「な、何やこれ? 重……」
やたら重く、白い箱のようなもの。それがはやてに支給されたものである。
あまりの重さに四苦八苦しながらも何とか取り出し、そしてその正体を理解した。
「……何で冷蔵庫なんか支給されてるんやろ?」
支給された白い箱、その正体は冷蔵庫だった。なるほど、これならば重いのも納得がいく。
しかもミッドチルダに引っ越すまでの間、八神家で使っていたものと同型のもの。どこで手に入れたのだろう?
開けてみると、ちゃんと冷蔵庫としての機能も動いており、さらに色々食材も入っている。
ちなみにコンセントはささっていない。どうやったのかは知らないが、バッテリー式にでも改造したのだろう。
上段の冷凍庫にも、ちゃんと中身は入っている。何故かイチゴのカップアイスが10個も。木のヘラもセットで。
ちょうど小腹が空いていたのだろうか、アイスとヘラを一つずつ取り出し、それを口に運んだ。
「そう言えば、ヴィータはイチゴのアイス好きやったな」
アイスを食べながら、頭に思い浮かぶのは今はいない家族の顔。家族の好物を食べている事が、それを思い起こさせているのだろう。
「……あれ? 変やな、このアイス、しょっぱいわ……」
はやてはそう言いながら、アイスを食べ進める。自身の涙のかかったアイスを。
そしてアイスを食べ終わる頃、視界にとある四文字のカタカナが入る。
名簿に書かれた『ヴィータ』の四文字が。
すぐにアイスのカップを放り出し、名簿を取り出して読み進める。そしてそれが見間違いではないという事がはっきりした。
それだけではない。他にもシグナム、シャマル、ザフィーラ、そして……十年前に消えたはずの、リインフォースの名が書かれている。
他にも六課の仲間や親友の名が書かれていたが、そんなものはもはや目に入らない。
ただ、いなくなった家族がこの会場にいる。彼女にはその事実だけで十分だ。
ただ、今の彼女には多少疑わしく思っていることがある。それは――――
「リインフォース、やて……?」
――――リインフォースの存在である。
彼女は十年前に消えた、言わば今は存在しないはずの人物である。
後に同名のデバイスを作り上げたが、それはリインフォース『Ⅱ(ツヴァイ)』。もしもそちらのリインなら、Ⅱの表記があるだろう。
ところが、この名簿にはその表記が無い。となれば……十年前に消えたリインフォース本人か、同名の別人だ。
ちなみにいつもの彼女なら、リインフォースが本物かどうかもう少し考えただろうが……アイスソードの副作用「持ち主の知力を下げる」により、判断が単純化。本人だと疑っていない。
いずれにせよ、彼女の方針は決まった。冷蔵庫と名簿をデイバッグに収納し、アイスソードを手に駆ける。
(急がなあかんな……みんなが、殺される前に!)
八神はやては会場を疾駆する。全ては家族に会うために。
ちなみに他の事は……親友の事すら頭に無い。これもまた、すずかにとっての不運と言えるだろう。
【一日目 AM1:22】
【現在地 I-9 森の中】
【八神はやて@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
[参戦時期]ミッドチルダ1終了後
[状態]健康
[装備]アイスソード@リリカルなのはMS
[道具]支給品一式・冷蔵庫(中身はイチゴ味のカップアイス9個+食材)
[思考・状況]
基本.家族に会いたい
1.シグナム・ヴィータ・シャマル・ザフィーラ・リインを探す
2.それ以外は今の所度外視
[備考]
※近くにいたすずかに気付きませんでした
※アイスソードの副作用により、多少頭が悪くなっています
ここで天気予報です。
現在J-9地点を中心とした気圧性の強風が吹き荒れています。
低気圧は半径2エリアほどの小規模なものですが、風以外の音を消すには十分な強風です。
現在はまっすぐ北西に向かっており、このままのペースならば二日目の昼にはA-0地点を通過するでしょう。
夜の闇と風の音に紛れて迫るマーダーに殺られぬよう、軌道上の参加者の皆様は、十分にご注意ください――――
[備考]
※J-9地点に移動性の低気圧(半径2エリア)による強風が吹いています。
低気圧はゆっくり北西に向かっており、おそらく二日目の昼にはA-0地点を通過します。
また、強風の音でよほどの大きな音以外はかき消されるようです。
最終更新:2008年03月09日 13:23