Lyrical Magical Stylish
Mission 06 Hell Diver
「じゃあなシロー、モモコ、世話になった」
「いえいえ、是非またいらしてください」
「ああ、コイツが直ったら最高の一曲を弾きに来るぜ」
ダンテがネヴァンを掲げながら、見送りに来た士郎と桃子に別れを告げる。
時刻は夜八時、こんな時間に出るのもおかしな話だが、ちゃっかり晩飯は頂いたということだろうか。
「ダンテさん」
「ん?」
「……なのはを、お願いします」
「ハッ、大した親娘だよ。サイコーだぜお前等」
頭を下げる士郎と桃子。どうやら、今回もまたお見通しのようである。
「安心しろ。なのはは俺が護る」
「……頼みます」
「ああ。任せな」
ダンテはネヴァンをケースに仕舞い、バサリとコートを翻して高町家の玄関を後にした。
「遅いですよ」
「せっかちはよくないぜ」
そして、門を潜ったところでなのはと合流。既にバリアジャケットを展開している。部屋の窓から飛んで出てきたようだ。
「ちゃんと言ってきたか?」
「はい。お父さんもお母さんも、いってらっしゃいって言ってくれました」
「やれやれ、何て言ったんだかねぇ……」
「それよりも、何ですかあの恥ずかしい台詞」
「ハハハ、ダディもマミィもお前の考えてることなんざお見通しだってよ」
相変わらずのやり取りを繰り返す二人。これから魔界に行くというのに、気負いは全く感じられない。お互いがお互いを信頼しているからこそのこの空気、どうやら、楽しい旅になりそうである。
「止まれ」
「ワオ、見送りかい? ご苦労さん」
ダンテとなのはは臨海公園へ来ていた。道すがらダンテのいい加減な説明を聞いていたなのはは、ダンテがモーターボートを買ってそれで海上に魔界の門を開くということだけ理解していた。
そんな二人の前を遮るように立ち塞がったのは、最近姿を見せていなかったクロノとフェイト、そして、姿が見えないがフェイトの使い魔であるアルフもどこかにいるのだろう。
「クロノ君、フェイトちゃん……」
「なのは……」
「ヘイヘイお二人さん、見送りの割には随分しょっぱい顔してるな。そんなんじゃ景気付けにもなりゃしねぇぜ?」
「当たり前だ。見送りなどではなく、二人を止めるためにここにいるのだからな」
「ワーオめんどくせー」
ダンテは無視して歩こうとしたが、なのはが立ち止まってしまったためにしょうがなく立ち止まる。この二人を何とかしない限り、ダンテたちはボートへとはたどり着けない。
(さて、どうしたもんか……)
穏便な方法から乱暴な方法までいくつか案を出しながら、ダンテはコートの中で拳を握る。めんどうくさいのは性に合わない、説明しても無駄だろうし、とっとと突破するのが一番か。
だが、なのははフェイトのことを親友と言っていたし、気に食わないクロノはともかくフェイトまで殴って気絶させるのはさすがに気が引けた。
「なのは、何をしようとしているのかは知らないが、犯罪に加担するようなことはやめるんだ」
「……確かに、クロノ君たちから見たら私たちがやったことや、やろうとしてることはいけないことだと思う」
「だったら」
「でも、譲れないものって、あるじゃん?」
なのははレイジングハートを構える。ダンテは、そんななのはを見て嬉しそうに口笛を吹き、なのは同様握った拳をゆらりと出して構えを取る。
「……そうか」
「ゴメンね。でも、今回は諦めて」
「ああ。最も、諦めるのはそっちだが。なのはに譲れないものがあるように、こっちにも認められないことはあるんだ」
「クロノ君らしいね」
一触即発、既に導火線に火は点けられた。後は、誰かが一歩でも踏み出そうものなら、かつて友として戦った三人が敵として戦うことになる。
(あの小僧はともかく、レディにそれは酷か)
やれやれ、と心の中で一人ごち、ダンテはどうこの場を切り抜けるか決めた。
「なのは、掴まれ!!」
「……! ハイッ!!」
「ま、待て!」
ダンテはなのはを抱きかかえると、ボートへ向かって猛然と駆け出す。
当然攻撃してくるものだと思っていたため反応が一瞬遅れたクロノは、咄嗟に服を掴もうとするも後一歩届かず、スルリと抜けたダンテが既に発進準備の出来ている「Devil May Cry」号に向かって猛ダッシュ。
「フェイト、追うぞ!」
「う、うん!」
すぐさま全力で後を追うが、ダンテの常人離れした脚力に魔力で底上げする暇のなかった二人が追いつけるはずがない。
「待ってたぜオーナー!」
「おおっと、コイツは随分ド派手になったじゃねーか!」
「うわ……悪趣味」
「なーに、このぐらいのほうがいいんだろう?」
「マジサイコー!」
「でも確かに、今の場にはふさわしいですね」
ダンテが買ったステレオタイプのモーターボートは、この一晩でなぜか激烈にロックな船になっていた。
船体の横に華麗に踊る「Devil May Cry」の文字も、ダンテの事務所に掲げてあるのと同レベルでダンテ曰くイカしている。
なのはもまた、暴走族が乗るバイクのようにセンスのカケラも感じられない船だと思ったが、景気付けという意味ではこれ以上ないというダンテの意見に内心賛成だった。
やはり、テンションは高くいきたい。
「突貫で仕上げたんだ。なーに、アフターサービスだよ」
「超グッジョブだ。帰ってきたら上乗せで払ってやるぜ!」
ボート屋の主人とハイタッチ。そのまま走る勢いを緩めず、ダンテはなのはを抱えたまま船に飛び乗る。
その勢いのままアクセルを踏みつけ、それに呼応したボートは水飛沫を吹き上げながら最初から全速でカッ飛んでいく。
「「Let's get crazy yeah!!」」
なのはとダンテの叫びがハモる。レッドゾーンを振り切ったテンションが乗り移ったかのようなスピードで、ボートもまた限界を超えて加速していく。
「くそっ!」
「クロノ、どうする?」
「追うに決まってる!!」
「あんたがたゲフッ!」
クロノはボート屋の主人に当身を叩き込み、その場に昏倒させる。それを見たフェイトが顔を青ざめるが、怒りで我を忘れたクロノは知ったことではないとばかりに主人に変わって命令する。
「アルフ! 結界を張れ! フェイト、飛ぶぞ!!」
「あ、ああ」
「うん……」
アルフの結界が構築されるのと同時に、クロノはフェイトと宙に舞う。ボートで全力疾走を続ける二人を何としても止めなければならない。
「待てー!!」
「ワオ、今日は随分頑張るじゃないの!」
「ダンテさん、どうします?」
ダンテのテンションが乗り移ったかのようにノリノリのなのは。ダンテが見た中でも最高の笑顔を見せている。
「振り切ると叩き落すの二択。どっちがいい?」
「諦めてもらいましょう」
「ハッハー! そーこなくっちゃなぁ!!」
ダンテはなのはに操舵を任すと、ギターケースからあの紫電を放つギター、ネヴァンを取り出し、振り回す。
それと時を同じくして、封鎖された空間内に悪魔が出現する。当然、進路を邪魔するように動くものも多数。
「進路はこのまま全速前進、雑魚は無視、それでも邪魔なやつは吹き飛ばせ!!」
「Alright!」
船の操舵なんて知識としてすら持ってないなのはだが、車と同じだろうということで舵さえ持たずアクセルを限界まで踏みつける。
沖へ向かって一直線に突き進む”悪魔も泣き出す”二人の船は単純な勢いで追いすがる悪魔を振り切り、迫り来る悪魔は周囲を舞う風が無慈悲に吹き飛ばす。
「Welcome you(ボクヲミロー)!!!」
ネヴァンのチューンアップを終えたダンテが、勢いよくデタラメに掻き鳴らす。迸るサウンドと、それに纏う強烈な紫電がダンテを中心とした周囲一体に降り注ぐ。
「Let's Rock!! Jam Session!!!!」
滅茶苦茶に響き渡るギターサウンドと、ダンテの掻き鳴らすスピードに応じて範囲を拡大する雷のドームはその中にいるもの全てに牙を剥く。
当然、二人を追っていたフェイトとクロノも例外ではない。紫電が蝙蝠を形取り、パフォーマンスを邪魔しようとするものに向かって飛んでいく。
「うわっ!」
「きゃっ!」
咄嗟のことで避ける暇もなかった二人はネヴァンの一撃を直で受け、追撃の手を止めざるを得ない。
その間にも、エンジンの限界を無視した加速を続けるモーターボートはあっという間に小さくなっていく。
「くそっ!!」
「クロノ、敵が!」
「わかってるっ!! アルフ、隔離結界はこのまま維持! 提督! 武装局員を直ちにこちらに回してください!!」
このまま二人を追い続けては、いずれ結界を破った悪魔たちが海鳴を蹂躙する。即座に判断したクロノは追撃を止め、ここで悪魔を殲滅する道を選ばざるを得なかった。
「Yeaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaah!!!」
「イィィヤッホォォォォオ!!」
狂ったようなダンテとなのはの叫び声が徐々に遠くなっていく。耳を劈くギターサウンドもそれに応じて徐々に遠くなり、それでもボートを覆う雷の結界と、それに触れた悪魔が消滅するのははっきりと見えた。
「ハッハァ!」
その頃、ひとしきり演奏を終えて絶頂のダンテはもう満足と言いたげな表情でボートに倒れこむ。
「ちょっと! 倒れるの早すぎですよ!!」
「ヘイヘイ落ち着け。Slow down bebe?」
さすがに焦ったなのはの声に、ダンテはネヴァンをギターケースに戻しつつ起き上がる。
演奏をしていた艇尾から悠然と艇首に向かって歩きつつ、次に取り出したのは、リベリオンより一回り細い、それでもなのはには到底扱えないであろう大剣。
そして、胸から下げてたアミュレットとコートのポケットから無造作に取り出したアミュレットを併せて持つ。
「さーて……オヤジ、兄貴、力借りるぜ」
取り出した剣は力の剣、フォースエッジ。そして、ダンテと亡き兄バージルへ託されたアミュレット。この三つが揃ったとき、フォースエッジは真の力を解放する。
かつて、たった一人で魔帝と魔界を封じ、その後二千年の永きに渡って人間界を護り続けた、伝説の悪魔の力が蘇る。
「切り裂け……スパーダ!!!」
赤光とともに、ダンテの手にした剣がありえないレベルまで巨大化する。それもそのはず、この剣は”使い手の望む姿形に変貌する”という特性がある。
さらに、かつてスパーダが魔界を封じるのに使った武器でもある。封じることが出来るなら、こじ開けることも可能というのも、テメンニグルにおいて実証されている。
「Stylish!!」
「ダンテさん、やるぅ!」
何もない空間に突き刺さったスパーダの切っ先は、空間そのものを易々と縦に引き裂いた。その瞬間、結界内に溢れかえる濃密な瘴気。魔界と人間界は、今ここに繋がった。
「「Let's start the most crazy Party!!!!」」
さあ、イカれてとち狂ったパーティの始まりだ。得物を天にかざし、心底楽しそうに叫ぶ二人は、門から溢れ出る悪魔にまるで関心を見せず、開いたパーティ会場の入り口へとカッ飛んでいく。
「I'm abusolutely crazy about it!!!」
楽しすぎて狂っちまいそうだぜ。ダンテの最高に楽しんだ叫びが、門を潜る二人がこの場に残した最後の言葉となった。
次々と悪魔が飛び出してくる門へと一片の躊躇もなくボートは突っ込んでいき、そしてこの世界から消失した。
「イーヤッハァ!」
「あー、モーターボートって最高ですねー」
「だろう? 今度デートで使おうぜ」
「それは遠慮します」
桟橋にボートを乗りつけ、相変わらずの会話を交わしながら二人は魔界の地に降り立つ。
見上げた先に聳え立つ古城、中世のお話に出てきそうな朽ちてなお荘厳な雰囲気を醸し出す城に、なのはが驚嘆する。
だが、ダンテは険しい目つきでダンテにとっては二回目の訪問となる忌まわしき城を見上げていた。
「なんだ、魔帝のやつは相変わらず芸のないこって」
「知ってるんですか?」
「……マレット島、あのときの城そっくりだぜ。中身まではしらねーけどな」
ダンテはやれやれとばかりにギターケースを開け、中から得物を取り出していく。
銃の調子を確かめ、最後にリベリオンを肩に担ぐと、ギターケースをボートの中に放り込んだ。
「便利ですねー」
「お前さんも人のこと言えないだろ」
ネヴァンやアグニ&ルドラといった武器はどういうわけか小さく姿を変え、懐に収まっている。
もっとも、なのはのベオウルフもまたそうやって普段は装着しないでいた。どういう理屈かは知らないが、ダンテ曰く「便利だろ?」とのことなので、既に追求は諦めている。
「でも意外ですね。外にあれだけ出てくるからには、中はそりゃもう大変なことになってると思ってたんですけど」
「あー……まぁ、その気持ちも分からんでもないが。人間界だって歩けないほど人間溢れかえってるか? んなことねーだろ。魔界も一緒ってことだ」
分かるような分からないような話である。もっとも、なのはにしてみれば魔界とは文字通り地獄のようなところを想像していたわけで、意外と普通なんだなと拍子抜けしていたりもする。
といっても、周囲に立ち込める瘴気は未だかつて感じたことのないほど濃密で、ここが魔界だということをイヤでも認識させられていたが。
「だが、ここは間違いなく魔界の入り口さ。この奥に、魔帝がいる」
「入り口?」
「ゲームだってそうだろ? ボスは奥にいるものさ。いつ出てきても同じなのによ」
俺たちが勝つんだからな、と最後にいつもの笑顔で締めくくり、ダンテは城に向かって歩き出す。なのはも肩をすくめそれに続く。
「ちなみに、魔帝の名前は?」
「ムンドゥスだ。覚えときな」
「ムンドゥス……」
「アホみたいにでかい図体に、らっきょみたいな目をしてる」
「らっきょて……」
「残念ながら、食べても変身できないがな」
「そのネタは禁止」
二人は古城の門を蹴り開けた。さあ、パーティの始まりだ。悪魔と踊ろう。
「……中も意外と普通なんですね」
城の中に入ったなのはの第一声。重厚な門を蹴破って入った先は、これといって何もなく、ただ吹き抜けのホールであった。
敵もいないし、罠がありそうな気配もない。多少肩透かしを食らった気分である。
「まあ落ち着けよ。序盤からそんなに飛ばしたっていいことないぜ。そのうちイヤでも戦うんだからな」
「分かってますって」
ダンテは周囲を見回しながら気楽に言う。だが、その内心ホールの構造にかなりの違和感を感じていた。
(成る程ね……)
なんのことはない。そりゃ、違和感を感じて当たり前である。なにせここは、古城ではなくテメンニグルのホールだったのだから。
(さすがにそこまで馬鹿じゃない、ってか)
楽しみだ、と口の中で小さく呟き、ダンテはとりあえず目に付いた扉に入ることにした。
「いいんですか、そんな適当に入って」
「心配ない。ここの連中は律儀でね、先に進もうと思ったら必ず何らかの仕掛けを解かなきゃいけないのさ」
「仕掛け、ですか」
「ああ。多くの場合は扉や道が封印されている。それを解除する鍵は必ずどっかに転がってる。だから、とりあえず目に付いた場所に行けば問題ないのさ」
「成る程」
「試験に出るから覚えとけよ?」
「何言ってるんですか……」
器用にウインクを飛ばすダンテと、げんなりしながら続くなのは。二人は重そうな扉を開け、その中に入る。
「…………」
「……ダンテさん?」
「この通路……」
ダンテは覚えがある。これは間違いなく、古城の一角。テメンニグルと古城が融合しているこの場所だ、何が起こるかまではわからないのだが、この場所には嫌な思い出があった。
「走るぞ!」
「え?」
ダンテは突然の言葉に惚けるなのはを置いて全力で駆け出した。ここはそう、かつて巨大な重戦車に追い回された忌まわしき回廊。
駆け出したダンテに合わせるかのようになのはの背後の壁が粉砕、この世のものとは思えない邪悪な咆哮が回廊を揺るがす。
「HAHAHAHAHA―――――!!! また会ったな坊や!!!」
「え、ええええええ!!?」
背後の壁を破壊して現れたのは、灼熱の魔獣ファントム。かつてダンテを散々苦しめた稀有な悪魔の一体である。
「GAHAHAHAHAHA!!! ペシャンコにしてやるぜ!!」
「じょ、冗談じゃないよっ!!」
ものすごい勢いで迫ってくるファントムに度肝を抜かれたなのはだが、来たばっかりでミンチにされてはたまらないとフライヤーフィンを全力で発動。狭い回廊をものともせずに飛行する。
「ヘイ、急ぎな!」
「ダンテさんの馬鹿ああああああ!!」
すでにゴール地点へたどり着いていたダンテにありったけの罵声を浴びせ、文字通り扉の中へ転がり込む。
なのはが飛び込むのを確認するのと同時にダンテは扉を閉め、イフリートで扉上の壁を破壊し簡易のバリケードを作る。
その後も唸るような地響きがしばらく続いていたが、どうやら諦めたのか魔獣の気配は消えていった。それを確認したなのはは、思わず壁に寄りかかったままへたり込む。
「はぁっ……はぁっ……」
「なんだ、もう息が上がったのか? 運動不足だな」
「あんなの! ビックリするに! 決まってるじゃないですか!!」
「ハッハッハ、ここは魔界だぜ? あんなの日常茶飯事さ」
「うう……だからって置いていくなんて」
はぁ、と大きく息を吐いて呼吸を整え、ジャケットについた砂埃を払い落としながら立ち上がる。
今まで戦ったことのある連中ならばいざ知らず、あんな常識外れの巨体が突然出てきて、冷静に対応しろというのも酷な話だが。
もっとも、なのはを放置して逃げ出したダンテは涼しい表情をしている。
「まあいいじゃねえか、いずれ戦う相手なんだしよ。心の準備が出来ただろ」
「そりゃそうかも知れないですけど」
戦う前に挽き肉されてはたまったものではない。
「……でも、なんで出てくるってわかったんですか?」
「以前同じことがあってね。まさかあのファントムが復活してるとは思わなかったけどよ」
「ファントム?」
「あの蜘蛛お化けの名前さ。前に一度ぶっ飛ばしたんだが……」
だとすると、ダンテにとってあまり会いたくない相手もまた復活しているのかもしれない。
面倒なことになったな、と内心ぼやくダンテだが、なのはは全く気付かず、半眼になってダンテに突っ込む。一度倒した相手からああも完璧に逃げ出すとはどういうことかと。
「だったらなんで逃げ出したんです」
「あのなぁ、あんな狭い場所であんな馬鹿でかいやつと戦えるかよ。体当たりされたらどうしようもねーだろーが」
「そりゃそうですけど……」
なのはの言葉にダンテは当然だといわんばかりの表情で返す。ダンテもまた、ファントムに決定的な止めを刺したことがあるわけではないのだ。確かにあの時は大分ダンテ優勢だったけれど。
「それよか、先に進もうぜ」
「ダンテさんに言われるなんて……」
いつもいつも自分がどれだけ必死になって話しを進めようとしていたのを気付いていないのだろうか。
だが、それをダンテの性分だといやと言うほど理解しているなのはにはこれ以上突っ込む気力もなく、言われるままに周囲を見回す。
「……上のほうにドアがありますね」
「で、近くにはあからさまな彫像、と」
「破壊すればいいんですか?」
「そうだな。鍵はなにも、動かせるものとは限らない。覚えときな?」
「試験に出るんですよね」
「ハッハッハ」
ダンテは肩を回しながら彫像へと近付き―――
「Yeah!!」
渾身の右ストレートが、獅子を象った彫像を一撃で爆砕する。石像を一撃で破壊するダンテの拳も、最初の頃こそ随分驚いたが、今になっては見慣れたものである。
「あれ? 何か扉が赤くなってますよ?」
「ああ、そりゃ敵が出てくるって合図だ。全滅させなきゃ進めない」
「だから、そーいうことは先に言ってください!」
なのははダンテの言葉に慌てて戦闘体勢を取る。フライヤーで浮き、ダンテの背後を見るようにして死角を消した体勢だ。
「……影、が」
そんななのはの視線の先で、影がひとりでに揺らめくように動き出し、獣の姿へと変貌していく。中級眷属、シャドウである。
なのはとダンテを囲むように現れたシャドウは三体、獰猛な唸りを発しながら二人を窺っている。
「ワンちゃんパーティってやつだな」
三体のシャドウが発する凄まじい殺気にも、ダンテは平然としている。そればかりか、犬扱いだ。
なのはは驚いたが、先のファントムの例もある。このぐらい太い神経をしていないと、魔界ではやっていけないのかもしれない。
「人様を驚かせるなんて、教育のなってない犬ですね」
いい加減驚くのにも疲れたなのはもまた、嘲笑を浮かべてシャドウたちにレイジングハートを突きつける。パーティはまだ始まったばかり、こんなところで一々立ち止まってなどいられない。
「ハッハー! せっかくの幕開けだ、派手に行こうぜ!!」
ダンテの銃が怒涛の勢いで銃弾を吐き出す。なのはもまた、ディバインシューターを駆り、シャドウの動きを的確に封じ、そしてダメージを与えていく。
古来より存在する悪魔であるシャドウは、自身が一度受けた攻撃を覚え、そしてそれに類似する攻撃を自動で防ぐという特性を持っていた。
それゆえに銃などの比較的新しい武器でまずコアを晒させる必要があるのだが、なのはの操る魔法もまたシャドウにとっては未知のものだったらしく、防がれる様子もなく襲い掛かる影の獣を吹き飛ばしている。
「グルアァァ!!」
「おっと」
「残念、威力が足りないよ」
地中に潜った一体が、槍と化して二人を地中より攻撃する。だが、なのはの展開するシールドはそんな槍では貫けない。
ダンテもまた、槍が自分を貫く直前にかわしており、動きの止まったシャドウに銃弾の嵐をお見舞いする。
「GYAAAAAA!!」
そして遂に一体目がコアを晒す。ダンテはその瞬間、残る二体の相手をなのはに任せ、銃を仕舞うと、神速で抜き放たれたリベリオンを怒涛の勢いでコアに叩き込む。
「自爆か? 相変わらずだな!」
限界を超えて赤く染まったコアがシャドウの形を取り戻し、ダンテ目掛けて飛び掛る。シャドウ最後の攻撃、噛み付いての自爆だ。
ダンテはコートからショットガンを取り出すと、目前に迫った顎目掛けてぶっ放した。あまりの衝撃に吹っ飛ぶシャドウ、その先にはなのはによって上手く誘導された二体がいる。
「バインド!!」
その機を逃さず、動ける二体をなのはの操る光の縄が縛り上げる。その横から飛んできたディバインシューターが二体の獣を同時に撃ちぬき、無防備なコアが晒される。
「ナイスタイミングだ」
吹き飛んだシャドウが、晒されたコアに直撃した瞬間、ダンテの持つエボニーが止めの銃弾を打ち込んだ。一体の自爆に巻き込まれる形で残るシャドウも吹き飛んでいく。
強烈な爆風が周囲を襲うが、ダンテもなのはも髪が風に踊るのを気にしたふうもなく、戦闘体勢を解いていた。
「あ、扉が」
「な、言ったとおりだろ?」
シャドウが断末魔の悲鳴を上げて消滅していく中、なのはは先ほど赤く染まった扉を見る。すると、不規則に波打っていた赤い封印は粉々に砕け散るとともに消え失せていった。
「さて、行こうか」
そんななのはに、ダンテはしたから手を差し伸べつつ言う。高いところにあるから自分も連れて行けということだろうが、なのはは冷たく突き放す。飛ぶのだってタダじゃないのだ。
「頑張って登ってください」
「……やれやれ」
「ダンテさん重いんですもん」
こうして、二人の魔界での初戦は無傷の上に三体同時撃破というこの上ない完勝で幕を下ろした。もっとも、この先待ち受けるであろう強大な連中のことを考えれば、この程度はむしろ当たり前なのかもしれない。
二人は再度扉を潜る。扉の向こうは開けた闘技場のようになっていた。明らかに建物の中のはずなのに、外が見えたりする場所に飛んだりするのはやはり魔界だからだろう。
物理法則が捻じ曲げられていてもおかしくはない。
「……やれやれ、もうか」
「へ?」
闘技場の姿を見た途端、ダンテはやれやれと溜息を付く。その理由が分からないなのははダンテに聞こうとして―――
「GAHAHAHAHA―――!!! さあ、今度こそ捻り潰してやるぜ―――!!!」
最終更新:2008年03月10日 18:04