Lyrical Magical Stylish
Mission 07 Magma Tank
「GAHAHAHAHA―――!!! さあ、今度こそ捻り潰してやるぜ―――!!!」
吹き荒れる暴力じみた殺気と、側にいるだけで服が発火しそうな熱気。二人の前に立ち塞がったのは先ほど邂逅したばかりの魔獣、ファントム。
圧倒的な存在感に、なのはは知らずレイジングハートを強く握り締める。
「やれやれ、シツコイやつは嫌われるぜ?」
だが、吹き付ける死の気配をものともせず、ダンテはリベリオンに手を掛けながら悠然と歩を進める。
「ハハハハハハ―――!! その余裕がいつまで続くかな!!!」
「ずっと続くさ。そら、行くぜ!!」
互いの間合いに入った二人は、展開についていけず未だ闘技場の中へと踏み出せないなのはを置いてぶつかり合う。
ファントムの振るう前肢と、ダンテの振るうリベリオンが衝突し、発する衝撃が周囲にある瓦礫を吹き飛ばしていく。
「イィィヤァァア!!」
裂帛の気合とともに振りぬかれるリベリオンはどれもこれもが必殺の威力を内包し、されどファントムの強固な外殻に阻まれ深いダメージを与えるには至らない。
「ゲハハハハハ―――!!」
ファントムの振るう肢もまた、一度でもクリーンヒットすればダンテの腕一本程度なら楽に吹き飛ばす破壊力でありながら、ダンテのスピードに付いていけず虚しく空を切る。
膠着する戦況、互いに決定打を出せず、ただただ剣と肢がぶつかる音だけが響き渡る。
「……いつまでもボーっとしてないで、ダンテさんを援護しないと!」
初めて見るダンテの本気と、それと互角に渡り合うファントムの激闘。壮絶な殺し合いに飲まれていたなのはだが、頬を叩いて気合を入れると、その激闘の中に踏み込む決意をする。
「行くよ、レイジングハート」
「Stand by ready」
愛杖に囁きかけ、最後の一押しを得る。一人では戦えなくとも、自分にはこんなにも頼りになる相棒がいる。なのはは空に舞い、今なおダンテと激しいぶつかり合いをするファントム、その眼に向けて魔法を放つ。
「ディバインシューター!!」
放たれた光弾は二発、ダンテの邪魔をしないよう誘導されたそれは、動きそのものは遅いファントムの眼に吸い込まれ、ダメージを与えるどころか、ファントムに触れることすら出来ずに消し飛ぶ。
ファントムが意図せずとも纏う、凶悪なまでの炎の加護が魔法をかき消してしまったのだ。
「嘘……」
「ガハハハハハ―――!! お嬢ちゃん、そんなんじゃワシに傷一つ付けられんぜ―――!!!!」
前肢を重ね、ダンテの攻撃を受ける瞬間バネのように弾く。だが、弾き飛ばされたダンテに眼もくれず、ファントムは顎の中に凄まじいまでのマグマを溜め込んで―――
「―――!!」
「吹き飛んじまいな――!!」
なのはの体を突き抜ける死への予感。散々ダンテに鍛えられたその直感が、数瞬後に迫った死の運命を避けるべく、なのはに行動を取らせる。
放たれるマグマ、一瞬掠っただけでも溶解しそうな熱量を秘めた弾丸を、フライヤーフィンの高機動モード、フラッシュムーブで辛くも避ける。
放たれた炎の一撃はなのはの横を通り過ぎ、直撃した闘技場の壁を一瞬にして溶かす。
「じょ、冗談じゃないよ!」
あんなもの食らおうものならバリアなんてものの役にも立たない。骨すら残さずに焼き尽くされてしまう。
「オラ、余所見してていいのか!?」
だが、そんな威力を知ってか知らずか、ダンテはマグマを放った直後のファントムへと突進していく。十分な加速を乗せたスティンガーが肢の防御をすり抜けてファントムの頭部に直撃する。
「効かんぜ、坊や――!!」
「その強がりがいつまで持つかな!!」
荒れ狂う刃の嵐が、振るわれる肢を片っ端から弾き飛ばし、ファントム唯一の弱点ともいえる頭部に斬撃をこれでもかと言うほどに叩き込む。
なのはもまた、そんなダンテを援護するべくあの弾丸を放たれても回避できるだけの距離を取って魔法を撃ち込んでいく。
「ディバインシューター!」
ファントムの外殻にダメージが与えられなくとも、肢を弾き、ダンテが防御に回すターンを攻撃に向けられればと。ダンテの周囲を護るように飛び交う光弾は、小さいながらもファントムの圧倒的な一撃に抗おうとする。
「だから言ってるだろ? 無駄だってな――!!」
「く……」
それでもファントムの攻撃は止まらない。肢を止めようと動く光弾をいとも簡単に消し飛ばし、それでもなお勢いを緩めぬ一撃が防御に回ったダンテを吹き飛ばす。
「チィ、相変わらずの馬鹿力だぜ」
「どうした坊や、お前の力はその程度か――!!」
何度吹き飛ばされても突進を止めなかったダンテだが、自身の足元が赤く発光するのを確認するや否やなりふり構わず横へ飛ぶ。勢い余って壁に激突するのも構わない。
その瞬間吹き上がった火柱が、インフェルノを越える勢いで天に向かって凶悪な産声を上げる。逃がしはしないとばかりに連続で放たれる火柱が、必死に逃げ惑うダンテを追って大地を灼き尽くしていく。
「ダンテさん!」
ダンテは壁際に追い込まれていく。このままでは、いずれ灼熱の炎がダンテを丸焼きにするだろう。なのはは火柱を止めるべく、ファントムに極大の魔法を叩き込もうとして―――
「くっ……」
邪魔だとばかりに放たれた火柱を回避する。なのはが魔法をチャージしようとするたびに放たれる火柱、これを避け続けていたのではとてもではないがディバインバスターを放つことは出来ない。
「だったら……!」
火柱が届かないぐらいまで高く。幸い、ここの天井は高く、ファントムの火柱も天井まで届かないことは今までに確認済みだ。フィンを駆り、天井スレスレまで飛び上がる。
「これで!」
「だから言ってるだろう。無駄だってな―――!!」
そこでなのはは見た。先ほど放たれたマグマの一撃が、ファントムの背中から飛び出そうとしている。
「やば……」
射線から逃れるように今度は全速で急降下。掠めるように飛んでいった魔弾が天井を打ち砕き、瓦礫が雨となってなのはとダンテを襲う。
「これじゃあ……」
援護など出来ない。ディバインシューターですら援護にならないのであれば、なのはに残された魔法はディバインバスターかスターライトブレイカー。
だが、後者を撃ってしまったらこの先何も出来なくなるし、詠唱時間の問題でディバインバスターよりも撃てたものではない。
だが、ファントムにはディバインバスターを溜める時間すら与えてもらえない。ダンテと斬り合いながらも確実にこっちの動きを把握してくる。
「ゲハハハハ―――!!!」
「ダンテさん!!」
遂に逃げ場のなくなったダンテに無慈悲な死の炎が炸裂する。ファントムの哄笑と、なのはの絶叫、炎が轟々と燃え盛る音だけが周囲に響き―――
「どこ狙ってやがる、俺はこっちだぜ――!!」
いつの間に移動したのか、壁を走って飛び上がりファントムの真上を取ったダンテが全体重を乗せた渾身の一撃を見舞う。
いずれかの眼でダンテの姿を捉えたファントムが邪魔しようと振るった尻尾ごと切り裂き、遂にファントム外殻を突き破って切っ先が潜り込む。
「グオオオオオオ―――!!」
「ディバインシューター!」
思わず絶叫を上げるファントムの口内に、その瞬間を逃さなかったなのは魔弾が進入、そして。
「Blast!!」
大爆発。硬い外殻で覆っているものほど、中は柔らかい。ファントムもまたその例に漏れず、体内で生じた爆発に身を捩る。
「年貢の納め時、だぜ!」
リベリオンを引き抜いたダンテがファントムの頭部から飛び降り、なのはの起こした爆発によって周囲の外殻が吹き飛んだファントムの口膣に狙いを定める。
「Are you ready? イィィィィヤァァァァァアア!!!」
神速の連続突き。銃弾もとやかくとばかりに打ち込まれる切っ先がファントムの体内を蹂躙し、止めとばかりに放たれた全力のスティンガーがファントムの頭部外殻を貫通して飛び出す。
だが、それでもなおファントムは死んでいなかった。あまりの痛みから滅茶苦茶に放たれる火柱、自分を巻き込むことを厭わないそれに、ダンテも攻撃の手を緩めて下がるしかない。
「ガハハハハハ―――!!」
「相変わらず大したガッツだぜ。だが、いい加減諦めな」
ダンテがリベリオン片手に挑発するも、ファントムは取り合わない。それどころか、ダンテの知るファントムからはありえないはずの言葉が飛び出す。
「ククク、ワシも貴様と最後まで殺しあいたいところだがな。今回はここまでだ」
「あん?」
「近いうちに、今度こそ捻り潰してやるぜ。GAHAHAHAHAHAHAHA―――――!!!!」
そう残すと、ファントムの姿は霞のように消えていってしまった。殺気も気配も消えたことから、どうやら本当に退却したのだということが分かる。
「ヘイヘイ、どーなってんだ?」
あの好戦的なファントムからは考えられない言動にダンテは頭の上にはてなを浮かべる。
「……終わった、んですよね?」
「ああ……今回はな。ヤツも言ってたし、どーせそのうち出て来るんだろうけどよ」
「そうですか……」
強敵に対してとりあえず勝ったということで、ダンテは調子が良さそうだったが、反対になのはは沈んでいた。
「なのは?」
それもそのはず、今回なのははファントムに対してダメージらしいダメージは殆ど与えられなかったのだ。
最後の口内に叩き込んだディバインシューターもダンテの攻撃があってこそ成り立つものであったし、それ以前に何もさせてもらえなかったという印象が強く残っていた。
「……ごめんなさい」
そして呟かれた謝罪の言葉。何に対して謝ってるのか全く見当のつかなかったダンテは思わず聞き返してしまう。
「は?」
「だって、私ファントムに対して殆ど何も出来なかった」
「あー……」
外殻に覆われていない眼を狙った一撃はファントムの纏う無意識のバリアに消し飛ばされ、ダンテを護ろうと放った光弾は何の役にも立たなかった。
火柱を避けるダンテを助けようとしたが、何も出来ないままただ自分が逃げるのに精一杯だった。
今までが調子よかった分、今回のことはひどくショックだった。この先、ダンテに付いて行っても何の役にも立たないのでは、そんな思いがなのはの頭を占めていく。
「……やれやれ」
「……え?」
どんどん暗くなっていくなのはの表情に、ダンテはポリポリと頭を掻くとそっと手のひらをなのはの頭に乗せた。
「相性ってヤツだろ。それに、お前はまだ持てる技を全部出してない」
「……でも」
「なに、そのうちお前に頼らなきゃならねーようなのも出てくるさ。だからそう、気を落とすな」
「…………」
「安心しろよ相棒、お前の力は十分上の連中にも通用する、俺は信じてるぜ」
「ダンテさん……」
「次出てきたときは目にもの見せてやりな。大丈夫、お前なら出来るさ」
「……はい」
それだけ言うと、ダンテは手を離して照れくさそうな表情でなのはを見ていた。なのはもまた、ダンテの言葉を噛み締めるように杖を握りなおし、そして上げた顔は自信に満ちた笑みが溢れていた。
「よし、それでいい」
「ごめんなさい、ガラにもなく落ち込んじゃって」
「全くだ。ったく、心配する身にもなれよ?」
「もう、大丈夫です」
そうだ、自分は自分で決めてここにいるんだ。だったら、落ち込んでいる暇などない。
そんな暇があるなら、どうすればファントムにダメージを与えられるかを考えるべきだ。なのはは先行するダンテの横に並ぶ。
「行きましょう」
「ああ」
そして二人は闘技場を横切り、出てきた扉と正反対の場所にある扉に手を掛ける。
「行くぜ」
「はい」
今後、どんな窮地でもなのはは迷わないだろう。ダンテもまた、そんななのはに背中を任せ、存分に悪魔を切り捨てるだろう。二人は、扉を開けた。
(…………)
ファントムを退けた二人を、ファントムが天井に空けた穴から見つめる存在があった。彼もまた、かつてダンテと戦い、そして敗れた経験を持つ悪魔である。
名を、グリフォン。魔界の空を統べる天空の覇者であり、魔帝ムンドゥスに心よりの忠誠を誓う騎士でもある。
そんなグリフォンは、己を破った魔剣士ダンテと、ダンテとともに戦う幼き魔導師なのはの存在を強く心に焼き付けていた。
(……あの魔導師、やっかいな敵になるかも知れぬな)
小さな外見からは想像も出来ないほど強力な魔力、それを形にする魔法。そして何より、あのファントムを前にして恐れず立ち向かっていった強靭な心。
確かに、ファントムにダメージらしいダメージは与えられなかった。だが、あの程度が全力だとはとても思えない。切り札を隠し持っているに違いない。
(……楽しみだ)
久しく喜びというものから遠ざかっていたグリフォンは、近い将来立ち塞がるであろう二人のことを考え、身を貫く闘争の喜びに打ち震えていた―――
「えーっと、これはどうするべきなんでしょう」
「前は二箇所でよかったんだがなぁ……」
「全部行かないとダメってことですか?」
「そう書いてあったな。やれやれ、知の試練とか訳わかんなくて諦めたんだが……」
闘技場の扉を開けた二人がたどり着いたのは、沈黙せし女神像の間とその奥にある三つの試練の間。知の試練、技の試練、闘の試練、この三つを乗り越えた者が先に進める、テメンニグルにあった部屋である。
また、知の試練に全く歯が立たなかったダンテにとってはあんまり嬉しくない場所でもある。
「技も闘も楽勝なんだが、知だけがな……」
「まあ、ダンテさんバカですからね」
「オイコラ」
テメンニグルと全く同じであったならクリアする試練は二つで良かったのだが、どうやら今回は三つすべてクリアしなければならないらしい。
「じゃあ、ダンテさん技と闘をお願いします」
「お前に知がクリアできんのか?」
「さあ……でも、ダンテさんは出来ないんでしょう?」
「まあ、な」
「じゃあ、出来ないようなら外で待ってますんで、二人でやりましょう」
「オーライ、行ってくるぜクソッタレ」
どの道、自分一人で行っても出来ないことが分かっているならなのはに任せるのもあながち悪い手段ではないか。なのはが唸っている間に残りの二つをクリアしてしまえばいいのだから。
なんてことを考えながらダンテは口笛を吹きながら技の試練へと進んでいく。技の試練へと消えていくダンテを見送り、なのはは知の試練へ挑むべく説明を読む。
「えーっと……
『この先は「知」の試練の間。人が生まれし時、若き時、そして老いたる時。その足跡が正しき道へと汝を導く』
かぁ……」
何を言っているのかわからないが、どうやらこれが問題のようだ。なのはは考えながら試練へ続く入り口に入る。
「えーっと……進む道が四つ、それぞれ数字が一から四か……なんだろう。人が生まれし時……人、人かぁ……」
おそらく、ダンテはここで適当に入ってエライ目に遭ったんだろうな、何て考えつつ、そんな愚は犯さない。答えが分かるまでは動かないほうが賢明だ。
「うーん……答えが人……あ、何だ、そーいうことか」
発想の逆転がなのはに閃きをもたらした。スフィンクスの謎かけ、その逆バージョンということか。確信はないが、おそらく間違っていないはずだ。
あの謎かけは確か、朝は四本昼は二本、夜は三本で歩く生き物を答えろとかそんな内容だった。というわけでなのははとりあえず四の道へ進む。
「……これさ、どれが正解でどれが間違ってるってどうやって判断するんだろう」
何も起きず、また同じような場所に出る。が、それが正しいと判断していいのかどうか。ダンテの口振りから、一度しか挑戦できないわけでも無さそうだということで、なのはは二の道へ入る。
実際本来ならば、間違えると悪魔がわんさかいる部屋へとご招待なのだが、幸か不幸か一発で正解を導いたなのははそんなこと知る由もない。
「……やっぱり何もないね」
続いて三の道へ。そして、ダンテがどれほど苦労したのかわからない知の試練を、あっさりと解いてしまった。
「何これ、知の神髄? これでいいのかな?」
なのは、知の神髄ゲット。ダンテより頭がいいことが証明された。
「……ダンテさん、やっぱりバカなんだなぁ」
呟きながら知の試練の間から出てきたなのはは、とりあえずダンテが技でも闘でも出てくるのを待たなければならないということで、階段に腰掛けてダンテを待つことにした。
そのダンテは今、技の試練をあっさりとクリアして出てきたところだ。
「お、なのは。どーした、やっぱわかんねーんだろ?」
「まさか。一発でクリアしましたよ。ホラ」
手のひらサイズの神髄をぽんぽん玩びながらダンテは聞くが、返って来たのはまさかの返答。自分があんなに苦労して結局解けなかった知の試練をまさか九歳の子供に一発でクリアされてしまうとは。
「……ジーザス、ダン……なんてこったい。お前、意外と頭いいんだな」
「意外とは余計です。というより、何でダンテさん知らないんですか、あんな有名な謎かけ」
「あーん?」
「スフィンクスの謎かけですよ」
「知らねーな」
ダンテを見るなのはの目は、前に一度見せた可哀想な人を見る目になった。
「…………」
「ヘイヘイ、その目はやめようぜ。何だか知らんがもの凄く悲しい気分になる」
そんなどうでもいいところでも抜群のコンビネーションを発揮しつつ、二人は当然のように連れ立って最後の試練、闘の間へと入っていく。
「ここはどうすればいいんですか?」
「大暴れすればいい、簡単さ」
「成る程、そりゃ簡単ですね」
部屋の中央で背中合わせ。その瞬間退路が断たれ、周囲には濃密な殺気が満ち溢れた。間違いない、哀れな生贄が出てくる合図だ。
そんな次の瞬間にはもう宴が始まろうという緊張感の中、ダンテはそんなそぶりを微塵も見せずにジョークを飛ばす。
「競争すっか?」
「賞品は?」
「勝つ気満々だな……俺からの熱いキスってのはどうだ?」
「却下します」
レイジングハートに魔力を込め、前を見てダンテの言を一刀の元に斬り捨てた。ダンテもまた、大して残念そうな感じを見せず、愛剣を握りなおす。
溢れ出した瘴気が限界点を超えたか、部屋中に悪魔が出現する。それを見るなのはとダンテは、心底楽しそうにパーティの開始を宣言した。
「「―――Let's Rock!!」」
ダンテが駆け出し、なのはが舞う。
「ディバインシューター!」
「Are you ready?」
凄まじいスピードで駆け巡る魔弾は、悪魔がなのはに接近するのすら許さない。頭を、胴を貫かれ、元の土塊へと還っていく。その後ろで振るわれる剣が、反撃を全くさせないまま数体の悪魔を一刀の元に滅していく。
「ハッ、手応えのねぇこった!」
「こんなの、魔力がもったいないね」
そして、同時に飽きた二人は自身の得物を仕舞ってしまう。ダンテはネヴァンを、そしてなのはは―――
「Come on! ベオウルフ!」
地に下り、両手足にベオウルフを装着、そのまま眼前のヘル・プライドへ一直線に突き進む。
「Yeah!」
加速のついた拳が鎌を振り上げることすら許さずに直撃し、頭部を一撃の下に爆砕する。それでも、敵の数は未だ天井知らず、殲滅速度の落ちたなのははあっという間に囲まれる。
「Come and get me(捕まえてみな)!!」
悪魔の群、その中から聞こえてくる楽しそうな叫び声。光る手足が縦横無尽に踊り、触れる悪魔を片っ端から弾き飛ばしていく。
「やっぱパーティは楽しまなきゃ、な!」
そんな様子を傍目に見つつ、ダンテは自身に襲い掛かってくる悪魔に禍々しい紫電を放つネヴァンを見せ付けるように振り回す。空間に放電される雷が、空間を埋め尽くすほどに出現してくる悪魔を手当たり次第に焼き払う。
「Disturb! Drive me Fxxk!!!」
時に弾き、時に振り回し、滅茶苦茶なパフォーマンスから繰り出される破壊の迅雷が、狂ったように演奏を続けるダンテの周囲を薙ぎ払う。
「チケット代はお前等の命、安いもんだろう? Drive me violent! Jam Session!!」
そして、演奏が最高潮に達したその瞬間、ダンテを中心とした雷のドームが辺り一体を蹂躙する。演奏者に近付きすぎるのは、ライブ会場ではご法度。その罪は死を以って償ってもらわなくてはならない。
「You scared(お前等、ビビッてんのか)? ハッハァ!!」
荒れ狂う死の雷撃に恐れをなしたか、ダンテの周囲をうろつくだけで襲い掛かることをやめた悪魔にダンテはどっちが悪魔か分からないような笑みで挑発。
それに怒り、我を忘れて飛び掛ってくる頭の足りない連中を消し飛ばすのはライブの余韻だけで十分だ。
「さて、雷にも飽きただろ? 次は灼熱のおもてなしだ、ちゃんと受け取ってくれよ?」
ネヴァンを仕舞ったダンテがシャドーボクシング。イフリートの炎が、その軌跡を赤く染める。
「Com'n winp(来な、ノロマ野郎)!!」
自分たちを脅かす死の雷、その奔流が収まったと見るや否や、悪魔たちは我先にと剣を持たないダンテへ襲い掛かる。その光景を見たダンテは嬉しそうに舌なめずりすると、そのうちの一体目掛けて駆け出した。
「やれやれ、ダンテさん楽しそうだなぁ、っと!」
好き放題歌っていたダンテの歌声は当然ながらなのはにも聞こえていた。じっくり聞くことは出来なかったが、激しいロックでテンションが一気にレッドゾーンまで突入したのには感謝している。
今もまた、普段の調子なら防御で安定の場面をちょっと無理して避けてみたところだ。勿論反撃もしっかりと叩き込んでいる。
「Have a good nightmare(いい悪夢を)!!」
そしてまた、なのはの繰り出した蹴りが一体吹き飛ばし、倒れたところに着弾した魔弾が爆発、悲鳴を上げさせる暇さえ与えず死をもたらす。
悪魔にとっては、まさに今が悪夢そのものだ。たった二人、しかも片方は子供、その二人に傷一つつけることが出来ないままに殲滅させられていくのだから。
「あれ? もう打ち止め?」
「相変わらず情けない連中だぜ。子供一人満足させられないのかよ?」
「ま、私は特別ですからね」
そしてついに、狂乱の宴は終幕を迎える。ダンテとなのはは話したわけでもないのに、開幕と同様の位置へ戻る。
「楽しんだか?」
「それなりに」
「ソイツは良かった。んじゃま、最後ぐらいは派手に行こうぜ?」
「当然!」
悪魔も泣き出すコンビは、同時に拳を真上に振り上げた。
「「Go to the hell!!」」
叫びの意味を理解できないのか、二人が固まった今が好機とばかりに押し寄せる愚昧の衆。その兇刃が二人に到達する直前、部屋全体が地獄と化した。
「インフェルノォォ!!」
「ヴォルケイノォッ!!」
爆炎と白光、全く同時に放たれた二つの圧倒的なエネルギーは相乗効果をもたらし、暴力的な力で以って部屋にいる二人以外のもの全てに等しく死を与えた。
「―――……」
無数の悪魔の悲鳴が、炎と光の収まった部屋に反響する。その悲鳴がどう聞こえたのか、二人は楽しそうに腕を掲げると最高の笑顔で言い放った。
「「Crazy? Ha!(イカれてるって? ハッ!)」」
そして顔を見合わせ、拳をつき合わせてもう一度。
「「It knows!!(知ってんよ!!)」」
女神像に三つの神髄をはめ込む。すると、女神像の頭部が発光し、正面にあった扉を塞いでいる封印を破壊した。
「これで進めるんですよね」
「ああ」
二人は階段を登り、扉を開く。そこはまたしても随分と広々とした広場であった。
空が見え、また周囲には申し訳程度に草木が繁っている。古城の中にあるには明らかにおかしい場所だが、この繋がりの滅茶苦茶も魔界の特性の一部なのだろうか。
「……随分広い場所ですね」
「ったく、マレットだったりテメンニグルだったり忙しいなオイ」
「ちなみに今回は?」
「マレットだ」
暢気な会話をしつつ広場を進んでいた二人だが、突如なのははレイジングハートを空にかざし、ダンテもまたネヴァンを全力で掻き鳴らす。
「ライトニング・プロテクション!」
「ジャムセッション!!」
二人の叫びと同時に生じた光り輝く防護壁とそれを覆うように展開された紫電のフィールドが、二人に落ちようとしていた赤い落雷をすんでのところで対消滅させる。
「待っていたぞ、魔剣士の息子よ、そして幼き魔導師よ」
最終更新:2008年03月12日 18:49