Lyrical Magical Stylish
Mission 10 Double team


「GAHAHAHAHA―――!!! 待ってたぜ坊や!!!」
「ここが貴様等の墓だ……」

 扉を開けた先は昔ダンテがグリフォンと決着を付けたコロシアム、そこまでは予想通り。でも、ダンテとなのはの予想を覆して、いたのはグリフォンと。

「ファントム……」
「お嬢ちゃん、まだ帰ってなかったのか? GAHAHAHAHA!!!」

 灼熱の魔獣ファントム。




 時間を戻そう。ダンテとなのはが辛くもグリフォンを退けた、あの後。

「派手にやられたな、グリフォン」
「ファントムか……」

 なのはに吹き飛ばされた足を治しているグリフォンの前に、ダンテに破壊された外殻の治療が完了したファントムが現れた。

「……あの魔導師、中々に強力な魔法を放つ」
「ハハハ、やっぱあの程度が嬢ちゃんの全力じゃなかったか」

 ファントムは自身の外殻に殆どダメージを与えられなかったなのはの全力を知らなかった。それ故、グリフォンの足を吹き飛ばしたということを素直に褒める。

「それで、どうするつもりだ」
「あんなのは小手調べよ。次は間違いなくあの坊やを捻り潰して、あの嬢ちゃんを八つ裂きにするまでさ」
「……そうか」
「いくらグリフォンでもワシの邪魔は許さない、と言いたいところなんだが―――」
「……ムンドゥス様の命ではな」
「納得いかねーが、しょうがない。どっちかは譲ってやるぜ」

 共に二人に対して敗走を許した己の腹心にムンドゥスが下した命令。

『二人同時に出向き、我に楯突く愚か者をその肉の一片までも絶滅させろ』

 ファントムにしてもグリフォンにしても納得のいかない命令だが、従わないわけにはいかなかった。魔帝の力はそれほどまでに強力なのだ。

「コロシアム、次はあそこだな」
「ああ。あの場で今度こそ因縁を断つ」




 大地を力強く踏みつけて迫るファントムと、天空を雄々しく羽ばたきプレッシャーを与えるグリフォン。
だが、ダンテとなのはもまた数々の死線を潜り抜けてきた。その程度で気圧されるような柔な二人ではない。

「やれやれ、大したパーティになりそうだ。なぁ、なのは?」
「ホント。踊る相手に幻滅することは無さそうです」

 全身を押しつぶすような圧力も何のその、踏み出す一歩はファントムに負けないぐらい力強く、羽ばたく翼はグリフォンを凌ぐほどに輝いて。

「ククク、嬉しいぜ坊や。捻り潰してやんよ―――!!」
「はっ、やれるもんならやってみな。何度生き返っても無駄だってこと、教えてやるぜ!!」

 ダンテはファントムと真っ向から睨み合い。

「……やはり貴様か、魔導師」
「高町、なのは。貴方を、塵芥へ変える存在です」
「……悪魔相手に名乗りを上げるか。いいだろう高町なのは、ならば私は貴様を塵一つ残さず消滅させてくれる!!」
「……やれるもんなら、やってみろ!!」

 なのははグリフォンと壮絶な火花を散らす。
 渦巻くプレッシャーが竜巻を象ろうとするほどに高まった瞬間、四人のうち真っ先に行動を起こしたのはやはりダンテだった。

「―――Let's get creazy yeah!!!」

 ファントムの間合いギリギリ外から神速の踏み込みで一気に己の間合いへ飛び込むと、抜き放った相棒リベリオンが悪魔の血を求めて凶悪に暴れまわる。

「ウオオオオオオッ!!」
「ヌアアアアアアアッ!!!」

 今まで何度も死闘を繰り広げた相手に遠慮なぞする必要がない。ファントムもまた、最初から全力でのぶつかり合いは望むところとばかりに、ダンテの攻撃をもろともせずに反撃を打ち込んでいく。
 何人たりとも踏み込めない剣戟の嵐のなか、ファントムの外殻は徐々に削れ、ダンテもまた赤い血を流していく。

「オオオオオオオオッ!!」
「ガアアッ!!」

 まず第一ラウンドを制したのはダンテ。荒れ狂う嵐の中振りぬいた渾身のフルスイングがファントムの頭部を直撃し、そのままホームランになりそうな勢いでファントムを壁まで吹き飛ばす。

「ったく、野球にしちゃ随分重いボールだぜ」

 衝撃に痺れる手をプラプラさせながらダンテはぼやく。ファントムの爪が掠めた腕や背中からは血が流れているが、この程度の掠り傷ではダンテは止まらない。
 ファントムもまた、より強固に治療した外殻にあっという間にヒビを入れたダンテに対し、嬉しそうに咆哮を上げて第二ラウンドの開始を宣言する。

「ガハハハハハ―――!! 次はワシから行くぜ―――!!!」

 ファントムがその巨体に似合わず俊敏に移動したかと思うと、ダンテにすら追随するほどの跳躍を見せる。

「Shit!!」

 それを見たダンテは慌ててその場から飛び退る。いくらなんでもあの巨体で押しつぶされたら一撃で出来損ないのハンバーグになってしまう。

「どうした? 逃げるだけか坊や―――!!」
「調子に……乗るんじゃねぇぞ!!」

 逃げ惑うダンテと、それを押し潰さんとするファントム。二人の攻防は加速度的に勢いを増していく―――



「ディバインシューター!!」
「無駄だ!!」

 その頃、遥か上空ではなのはとグリフォンが灼熱のドッグファイトを見せていた。
本来ならどっしりと構えて強力な一撃で相手を粉砕するなのはなのだが、今回はどちらかというとフェイトのように限界スレスレの速度でフィンを駆り、常に死角に回り込もうと立ち回る。
逆に、普段と同じく堂々と構え、向かってくるなのはを叩き落そうと待つのはグリフォン。
 そんな中何度目になるか分からないほど放たれたなのはの一撃、叩き落そうとする雷撃を気合の操作でかわし、グリフォンの翼に当たって弾け、数枚の羽根が虚空に散る。
何度繰り返したかも分からない攻防、直撃してもダメージがロクに通っていない。だが、なのはは諦めない。

(ディバインバスターなら本体を打ち抜けるのは確認済み。でも、詠唱時間が取れないのもさっきと一緒)

 違うのは状況。ダンテが下でファントムと戦っている。よって、ダンテの援護は期待できない。

(でも、二人が下にいることによって、グリフォンの一番厄介な全方位雷撃が使えない)

 ファントムとダンテを巻き込む形になる。ファントムならば死ぬことはないだろうが、ダンテがどう動くかは分からない。万が一のことを考えたらあれは使えないはずだ。

「逃げ回るだけか!!」
「まさか!」

 ここに来て、オートガードに設定されたライトニング・プロテクションでグリフォンの雷撃を悉く無効化するなのはに痺れを切らしたグリフォンが遂に動きを見せる。
 巨体が残像を生む程の加速をみせ、逃げるなのはを追従する。なのはは今は逃げるしかない。グリフォンが雷撃による撃墜を諦めるまでは。

「速い……」
「堕ちろ!!」

 ミサイルのように放たれる雷撃。間一髪でかわすが、ライトニング・プロテクションの一部が消し飛ぶ。

「Shit!」

 そこを狙って放たれる無数の雷撃。誘導性も付加された一撃はバリアの穴を正確に狙ってくる。

「Blast!!!」

 抗うのは小さな魔弾。紫電がバリアを抜ける瞬間触れた魔弾が、掛け声と共に爆発。周囲の雷撃を巻き込んで四散する。
次の一撃が来る前にシールドを直すのは容易い、雷撃だけは絶対に貰うわけにはいかないというなのはの意志が現れている。

「小賢しい真似を……!!」

 ならば、この爪と嘴で存分に引き裂いてくれるとばかりにグリフォンがさらに加速する。それを見たなのはは急反転すると、グリフォンに向かって最大速度で直進する。
 待ち望んでいたこの瞬間、グリフォンが自身の体で攻撃してくるときは、雷撃を行わないというのはこの二回の戦いで熟知している。

「Got it!!」
「面白い、打ち砕いてくれるわ!!!」

 掛け声と共に右手が光る。あろうことか、この幼い魔導師は巨鳥グリフォンに接近戦を挑もうというのか。予想を超えた展開にグリフォンは小さき挑戦者を粉微塵に粉砕せんと突進する。
 なのはも右手のタメは十分。真正面からグリフォンをぶん殴ろうと速度を限界まで上げ、空を駆ける一筋の矢と化す。

「はあああああっ!!」
「ヌオオオオオッ!!」

 グリフォンが狙うのは嘴による粉砕。なのはが狙うのは―――
 突き出された嘴と拳が衝突する寸前、なのはは僅かに体を左にずらした。ベオウルフの外側と嘴がこすれ、凄まじい発光を起こす。

「グアッ!?」

 それを予想していたなのはと、していなかったグリフォン。この差は、グリフォンが右目を一瞬だが焼かれ、視界からなのはが消えたという結果になって表れる。
 次の瞬間、なのははグリフォンの毛を皮ごと鷲掴み、スピードが生み出す暴風に右肩を砕かれそうになるが、なんとかこらえ、自身の体をグリフォンの頭頂部へとバインドの魔法まで使って無理矢理固定。
 さあ、これで準備は整った。グリフォンの体が纏う紫電がライトニング・プロテクションを激しく侵食し、足に絡みつきそうになるのを完全に無視して、なのはは右腕を振り上げ万感の思いを込めて叫ぶ。

「Go to the hell!! ヴォルケイノッ!!!」
「ガアアアアアアアアアッ!?」

 魔界に太陽が具現化したかのような強烈な光が空を灼く。

 なのはにはなっから衝突なんかする気はなかった。ウェイト差を考えればなのはが真っ向からぶつかって勝てる道理はないのだから。
なのはが狙っていたのは、勝手に真っ向勝負だとグリフォンが思い込んだその隙だ。能力の勝る相手には知略で勝つ、クロノから学んだ教訓が生きた瞬間だった。

「小娘がぁぁぁぁぁ!!」
「きゃっ!?」

 もう一発打ち込んでやろうとしたところで、グリフォンの放つ雷撃にとうとうプロテクションが打ち破られ、弾き飛ばされる。
 やや距離を取って対峙するなのはとグリフォン。ヴォルケイノの直撃を受けたグリフォンは拳が突き刺さった頭頂部から血が噴き出ており、また、迸った光に焼かれた特に首から上のダメージが酷い。
 なのはもまた、プロテクションに護られてたとはいえ、グリフォンの体に直接触っていたのだ。プロテクションが消し飛んだ際、グリフォンに最も近かった両足に電撃を食らっている。

「許さんぞ!!」
「上等!!」

 頭部から血を流しつつ、全く衰えぬどころかより濃度を増した殺気を撒き散らしながら恫喝するグリフォンに、負けじとなのはは中指を一本おっ立て、レイジングハートに魔力を注ぎ込む。
 矜持をかけた空中戦はさらに加速、お互い一歩も譲らぬまま中盤戦へと突入していく。




「おあああああああっ!!」
「ヌオオオオオオオッ!!」

 お互い全力を込めた一撃がぶつかり合い、衝撃に弾き飛ばされるダンテとファントム。中盤戦に突入した捨て身の殺し合いは凄まじい様相を呈していた。

「はぁっ……はぁっ……」

 一撃貰ったのか、頭から血を流し、頭以外にも決して浅くない傷を負ってリベリオンを杖代わりに膝をつくダンテと。

「カカカカカカ……相変わらずやりおるわ」

 前肢を一本斬り飛ばされ、頭部を覆っていた外殻も半分ほどが砕かれているファントム。
 ダンテが本来の戦い方をしていたなら、お互いまだ傷は浅かったはずだ。ここまで戦闘が加速しているのは、ひとえにダンテがなのはのことを気にしていたからに他ならなかった。

(あんまり時間かけらんねぇってのに、相変わらずタフなヤローだぜ……)

 ちらりと上空に目をやり、なのはがまだ健在なのを確認する。だが、いつまでもつかなど分かったものではない以上、ダンテとしてはとっととファントムを蹴散らしてグリフォンを撃墜したいところだ。

「戦いの最中に余所見か? 舐めたまねをしてくれるわ―――!!」
「Shit!!」

 安堵の溜息をつく暇もない。ファントムが放った炎の弾丸を横っ飛びでかわし、離れていても狙い打たれるだけとばかりに、笑う膝に喝を入れてダッシュで距離を詰める。

「ハアアッ!!」
「ヌオオッ!!」

 散々重ねてきた剣戟。振るわれる肢を払い、巨体に何度目になるか分からない斬撃を叩き込む。それでも揺らがないファントムが繰り出す反撃を皮一枚で避け、返す刃を頭部へと撃ち込む。

(ラチがあかねぇぜ……)

 剥き出しになった頭部にリベリオンが直撃しているにも関わらず、ファントムは一向に倒れる気配を見せない。このまま身を削った攻撃を続けていては、いずれダンテの方がダウンしてしまう。
 折れそうになる心は、上空から聞こえる爆音によって奮い立たせられる。ここで折れて持久戦に持ち込む、ダンテ一人なら悪くない選択肢だろう。だが、そうも言っていられない。

「行くぜ蜘蛛野郎!!」

 二対一に持ち込めばなのはが撃墜される心配もグッと減る。ダンテは意を決し、ファントムの背中に飛び乗ることにした。

「グハハハハ―――!! 捻り潰してやるぜ―――!!!」

 本来なら二本同時だっただろう前肢の一撃は、一本だけゆえに容易くかわせる。距離が近すぎるために溶岩を打たれる心配もない。ダンテは振るわれた肢を足場にファントムの背へと飛び込む。

「お見通しだぜ―――!!」

 そして飛んでくる背を護る尻尾。これさえ斬ってしまえば、ファントムの背は溶岩の発射にさえ気をつければ安全圏だ。

「ソイツはこっちの台詞だ!!」

 だが、不安定な足場では紙一重でかわすなんて芸当は出来るわけもなく。貫通こそしなかったものの、鋭い尻尾の先端がダンテの脇腹を深く抉り、ダンテの笑みが深くなる。

「おおおおおっ!!」

 気合の掛け声と共にファントムの尻尾を脇に抱きかかえ、リベリオンを全力で叩き付けた。

「グアアアアアアッ!!」

 ダンテ渾身の一撃に尻尾を斬り飛ばされたファントムが絶叫を上げ、身を捩る。揺れる足場の上でダンテは斬り捨てた尻尾を投げ捨て、空いてる手でファントムに中指をおっ立てた。

「さあ、お楽しみの時間だぜ!!」

 両手で突き出した全力の一撃がファントムの頭部に深く突き刺さる。ファントムがさらに絶叫を上げ、背中に溶岩を溜めてダンテ目掛けて撃ち出そうと構える。
 死闘は終盤戦へ。共に重傷を負ったダンテとファントム、最後の瞬間はもうすぐ―――






 高速で吹き飛んだ何かが闘技場の壁に衝突し、崩れ落ちる。

「けほっ……痛い……」

 立ち込める粉塵を掻き分け出てきたのはなのは。グリフォンに吹き飛ばされ、姿勢制御もままならないまま壁に激突したようだ。
直接ダメージを打ち消すことに精一杯で衝撃までは殺しきれなかったらしい、その衝撃で内臓に傷を負ったか、咳と同時に出てきた血はどす黒く、口を押さえた手を伝ってバリアジャケットを血の色で染める。

「全く……冗談、キツイよ……」

 痛みで霞んでいく視界で空を睨む。そこには、二体に分裂したグリフォンの姿。
グリフォンが電気分身を使っただけなのだが、そんなこと出来るとは知らないなのはにとっては悪夢以外の何物でもない。一体でも大変な相手が増えたのだから。

「レイジングハート、分かる?」
「Perhaps, it seems that it is an one's double. (おそらく、分身だと思われます)」

 悠々と状況を見ているグリフォンを今すぐぶっ飛ばしたい衝動に駆られながら、なのはは冷静に今を分析する。負ったダメージは結構深刻で、失った魔力を考えると泣きたくなるレベルだが、まだ倒れるには早い。
 レイジングハートによると、もう一体のグリフォンは分身。だということは、魔力で作り出した実体を持つ幻影ということだろう。ならば、壊す手段はある。

「やっぱ、出し惜しみは良くないって、ね」

 あんなのが二体も飛び回っている場所へ飛び込むのは愚の骨頂。とりあえず、邪魔な分身だけでも消さないといけない。壁に叩きつけられた以外でも負わされた無数の傷が痛むが、泣き言なんて言ってられない。

「でも、どっちがどっちかなんて分からない」

 ならば、二体纏めてダメージを与えるまで。

「レイジングハート・ケルベロス、起動」
「Mode Ceruberus, get ready」

 レイジングハートが青白く光り、三つの首を持つ番犬のように形体を変える。つい先ほど手に入れた力、氷を操るケルベロスの力がなのはに満ちる。それを見たグリフォンが驚愕するが、今さら焦っても遅い。

「どっちか分かんないから、纏めて行くよ! アイス・コフィン!!」
「Ice Coffin」

 ”氷の煉獄”の名を冠した超超広範囲を標的にしたブリザードが、二体のグリフォンを巻き込んで激しく吹き荒れる。
氷弾一発一発のダメージはディバインシューターより劣るが、圧倒的な数の暴力が天空を蹂躙する。

「ヌアアアアッ!!?」

 飛ぶグリフォンにとって、弾丸の如く吹き荒れる雹は翼に甚大なダメージを与える天敵といえる。
全身を打ち抜く雹に分身はたちまち霧散し、それでもなお勢いを緩めぬ猛吹雪がグリフォンの体温を奪い取っていく。

「いっけぇぇぇぇぇ!!」
「小癪な!!」

 こんな慣れぬ魔法を飛んだ状態で使ってなおかつ飛行するのは不可能。地に足がついてる今しか出来ない攻撃。
 そんななのはを床ごと、壁ごと押し潰さんとグリフォンが迫る。

「足りない、か!」
「死ねええええええええ!!」

 願うことならこれで終わって欲しかった。慣れないケルベロスの力はなのはの減った魔力を怒涛の如く消費していく。だが、グリフォンを撃墜するには少し足りない。

「終わりだ!!」

 逃げられぬよう放たれる雷撃。プロテクションが吹き飛ばされ、もう眼前にはグリフォンが迫っている。

「……Got it!!」

 アイス・コフィンで撃墜できなかったことは後で反省しよう。今は、次の瞬間へつなげる一歩が欲しい。
 なのはは魔法を中断し、ベオウルフを装着する。今から回避は間に合わない。ならば、せめてインパクトの場所をずらさないと即死してしまう。

「Go to the hell! ヴォルケイノッ!!」

 吹き上がった凄まじい白光がなのはの姿を覆い隠し、なのはを粉砕しようと迫るグリフォンへ襲い掛かる。

「チィ!」

 その威力を身を以って知っているグリフォンは舌打ち一つ、頭から突っ込み嘴での攻撃を、急遽足での一撃へと変更する。僅かに持ち上がるグリフォンの体、それを白光の中、瞬間的に感じ取ったなのはが直撃コースからギリギリ身をかわす。
 共に遠距離を基本とする両者の二度目の激突。爆音と粉塵と白光が全てを吹き飛ばそうとするなかで、両者の絶叫が爆音よりもなお高く響き渡る。

「ガアッ!!?」
「ぐっ……」

 粉塵の中から飛び出てきた両者は弾け飛ぶようにして距離を取る。なのはは何とか体勢を整え、そして砕け散った左肩を庇うように半身になってグリフォンにレイジングハートを突きつける。
対するグリフォンは白光に焼かれた足を気にした様子もなく、なのはを視線だけで射殺せそうなほどに睨みつける。
 あの瞬間、ヴォルケイノは確かにグリフォンの足にダメージを与え、その結果なのははギリギリながら生還することに成功したのだ。
もっとも左肩が粉砕されている以上、余り激しい動きは出来なくなったし、なにより患部から生じる灼熱の痛みが脳髄をひっきりなしにかき回し、真っ直ぐ立つのもしんどい状況だ。
まあ、かわしたと言ったところで左手が吹き飛ばなかったことに感謝したほうがいいレベルの衝撃だったのだが。

「ダメージ勝ち、とは言えないよね……」

 すぐにでも治したいところだが、戦闘中にそんなことをしている暇はない。なのはは次の戦略を練るべく、高速で頭を回転させる。

「ダンテさん……!?」

 極限のにらみ合いの中、なのはは下の様子を見る。と、ダンテがファントムの尻尾を切り飛ばし、その背に飛び乗ったところであった。その瞬間、なのはの脳裏に閃光が走る。

「……やれる? いや、やるしかない!」

 残された体力も魔力も精神力もあとわずか、それなのにあの灼熱地獄に飛び込むなんて正気の沙汰とは思えない。でも、やるしかない。このままではジリ貧だ。
グリフォンとてダメージを負っているだろうが、もともとの体力が違いすぎる。いつまでも相打ち覚悟でダメージを取っていくわけにもいかない。戦況を動かすなら今しかない。

「余所見か、余裕だな!!」
「!!」

 雷光が迸る。咄嗟に突き出したレイジングハートが生み出したライトニング・プロテクションが辛くも一撃を相殺するが、痛みで集中力を欠いたためか、一撃でシールドが破壊される。

「堕ちるがいい!」

 その隙に放たれる第二撃。モード・ケルベロスを発動したことによる氷の加護がなのはを護るが、それでもグリフォンの一撃を無傷で耐えるには程遠く。

「きゃああああっ!!」

 遂に直撃。そのまま意識がなくなったかのようになのはの体が重力に身を任せ、落ちていく。

「手こずったが、所詮はただの人間……」

 以前の戦いから、同じ愚はおかさないとグリフォンが止めの一撃を放つ。だが、最後の一撃が当たる寸前、レイジングハートが輝き、なのはが加速した。

「バカな!?」
「Flash move」

 下に。ダンテとファントムが激闘を繰り広げる闘技場へと向かって。

「ダンテさん!!!」
「!! しまった、ファントム!!」

 グリフォンが大声でファントムに呼びかけるが、そのときなのはは既に杖を振りかざしていた。
 終幕の時は近い―――



「オラァ!!」
「ガアアアッ!?」

 リベリオンが縦横無尽に駆け回る。抉られた脇腹から噴き出る血もなんのその、今叩き伏せなくていつこの悪魔を葬り去ると言うのだ。
ダンテは吐き出されるマグマをイフリートを装備した左手で殴り飛ばし、ダンテを背の上から弾き飛ばそうと横薙ぎに振るわれる短くなった尻尾を邪魔だと言わんばかりの蹴りで逆に弾き飛ばし、その間にも右手のリベリオンは止まらない。
 そして、ファントムの頭部を覆っていた外殻が全て消し飛び、尻尾が元の十分の一ぐらいの長さになったとき、その声はダンテの耳にはっきりと聞こえた。

「ファントム!!」
「ダンテさん!!!」

 反射的に上を見ると、レイジングハートを構えたなのはが真っ逆さまにダンテとファントム目掛けて急降下、そしてその後ろをグリフォンの雷が、そしてさらにその上からグリフォンが追撃してきている。
 だが、ダンテの目に一番焼きついたのはなのはの姿ではなく、かつて自身が薙ぎ倒した地獄の番犬によく似たフォームを取っているなのはの愛杖、レイジングハートだった。その姿を見た瞬間、ダンテはなのはの真意を悟る。

「よっしゃあ! 派手にぶちかませ!!」
「Alright!!!」

 ダンテはファントムの頭部に蹴りをいれ、その反動で飛び上がる。

「させぬわ!!」
「アイス・エイジッ!」
「なんだとっ!?」

 ファントムはダンテもろともなのはを焼き尽くそうと溶岩を放つが、溜めのない溶岩では霧氷の加護を纏ったなのはにダメージを与えることすらできやしない。
絶対零度の冷気を身に纏い、溶岩を避けることすらせずに突き抜けた先はファントムの無防備な背中。
 入れ替わるようになのはがファントムの背中へと着地し、渾身の力を込めてファントムの背中へとレイジングハートを叩きつけ、全力で叫ぶ。

「貫け! Crystal!!!」
「グガアアアアアアッ!!!」

 巨大な氷柱が、ファントムの体をぶち抜いて何本も屹立する。全身を内部から抉り取られる激痛にファントムが絶叫を上げ、のた打ち回る。

「ちぃ、ファントム!!」
「おっと、お前の相手はこの俺だ。食らいな、Tempest!!!」
「グオオオオオッ!?」

 ファントムの上に立つなのはを押し潰さんと迫るグリフォンの前に立ち塞がったのは、たった一言の会話で相手を入れ替えてみせたダンテ。
リベリオンは既に定位置に、取り出したアグニ&ルドラを連結させて発言させた炎の竜巻は、グリフォンの放っていた雷撃を消し飛ばし、それでも勢いを緩めずグリフォン本体に牙を剥く。

「これでは……!!」

 ダンテが発する竜巻は凄まじい威力でグリフォンに襲い掛かる。この中に飛び込もうものならさすがのグリフォンも無傷で済むとは思えない。
ここは、ファントムの強靭な体力に賭けるしかない、グリフォンはそう判断し、竜巻を食らわないように大きく距離を取る。

「これで、最後っ!! It's cool! Million Carats!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 クリスタルの一撃でもなお倒れぬファントムに叩き込まれたのは死の鉄槌。クリスタルよりも多く、太い氷柱が全身を突き破る。
自身の血である溶岩の奔流を凍結させる氷の力にさすがのファントムも崩れ落ちる。

「なのは!!」
「Yeaaaah!!」

 そんななのはに頭上から声を浴びせるのは、テンペストでグリフォンを追い払ったダンテだ。なのははダンテ同様にその一声でダンテの考えを見抜き、ファントムの頭上から再度入れ替わる。

「Sweet Dream(おネンネしてな)!! Million Slash!!!」

 超高速で振るわれる二刀が、外殻を突き破った氷柱ごとファントムの頭部に炸裂する。

「オオオオオオオッ!!」

 ファントムの絶叫は荒れ狂う二刀の奏でる爆音にかき消され、遂に頭部そのものに走った亀裂によって声を上げることすらままならず。
 一方なのはもまた、助走を取るべく距離を離したグリフォンに向けてレイジングハートを構え、特大の一撃をぶち込まんと魔力を込め、発動のためのキーワードを叫んだところでダンテと声が重なった。

「リリカル・マジカル!!」
「Stylish!!!」

 止めとばかりに振るわれた二刀を併せ持った極太の一撃が、宿敵ファントムに死をもたらした。そして、ダンテの叫びを聞いたなのはが思わずバランスを崩し、そして何か思いついたような笑みを浮かべる。

「……Master?」
「やりなおし。行くよ、レイジングハート、Lyrical Magical Stylish!!!」

 より凶暴性を増した光がレイジングハートに収束する。左肩から感じる失神しそうな激痛も、痛めた内臓が発する悲鳴も、出血によってふら付く足も、何もかもを無視してグリフォンを睨みつける。
 ちょうどそのとき、ダンテとファントムの死闘はダンテの勝利で終わろうとしていた。

「ガハハハ……楽しかったぜ、坊や」
「あの世でオヤジと遊んでな」

 薄れゆくファントムに最後の言葉を投げつけて、ダンテは意識をグリフォンへと移す。そこで目にしたのは驚くべき光景。

「肉片も残さん!!」
「ディバイン・バスター・Ceruberus!!!」

 ファントムが死んだ今、巻き込む心配は要らないとばかりに全力で急降下体当たりをぶちかまそうとしているグリフォンと、なのはの今まで見せた最大魔法が激突している。

「あああああああっ!!」
「ヌオオオオオオッ!!」

 全身に雷光を纏ったグリフォンと、それを打ち抜こうとする極大の魔法。だが、両者の拮抗は一瞬で、グリフォンが次第に押し始める。このままではなのはが潰される。

「オオオオオッ!!」

 そう思った瞬間、ダンテはなのはの側へ駆け寄り、イフリートの力を溜めだした。

「ダンテさん!?」
「一人が無理なら二人でな。そら、もうちょい頑張れ!」
「! はいっ!!」

 凝縮されていくファントムの火炎弾を超える地獄のマグマ。インフェルノと並ぶイフリート最強技の一つ、メテオ。
ロクに溜めない一撃ですら並の悪魔なら一発で消し飛ばすほどの破壊力を備えたそれを限界まで溜めるのだ。その威力、触れるすべてのものを灰燼と帰す。

「Shit……これ以上は……」

 折れた左手がここにきて最大の障害となっている。片手でレイジングハートを操るものだから、安定性がカケラもないのだ。杖はブレ、駆る右手には凄まじい反動が返ってきている。

「終わりだ!!!」

 そして遂に、ディバインバスターを突破してグリフォンが二人を射程におさめる。直撃した右半身がほぼ吹っ飛んでいて、ケルベロスの力を上乗せした魔法を突っ切った代償に体のいたるところが凍り付いている。
だが、それでも、二人を押し潰そうとする執念でスピードを全く落とさずに突撃して来て。そしてグリフォンが到達するより早くダンテが終幕を下ろす。

「ヘイ、ローストチキンは好きか?」
「き、貴様ああああああ!!」
「遠慮すんな、俺からのプレゼントだ。Meteor!!!」

 放たれる地獄の業火。翼を失い、それでも二人を潰そうと突進してきたグリフォンにそれを避けることなど出来るはずはなく。

「グアアアアアアアアアアッ!!!!」

 メテオの直撃を受け、壁まで吹っ飛び、爆音を上げてメテオが爆ぜ割れ、飲み込まれる。

「Too easy! チョロいもんですね」
「I'm abusolutely crazy about it!! 楽しすぎて狂っちまいそうだぜ、なあ?」
「それはダンテさんだけ」

 重傷を負っていることなどおくびにも出さず、勝利した二人は不敵に笑い飛ばした。
 燃え盛る炎が消えた後には、消し炭となったグリフォンが残る。だが、それも長くは残らない。ファントム同様、溶けるように消えていった。

「はぁ……終わりましたね」
「まあな。腕は大丈夫か?」
「見事に折れました。ダンテさんもついでに治療しちゃうんで、この中に入ってください」

 レイジングハートの生み出す柔らかな光のドームが二人を包む。難敵を退けたダンテとなのはの間にもつかの間安らいだ空気が流れ―――

「!!」
「……こいつは」

 突如、今まで感じたことのない巨大な”何か”の気配を感じた。





「……つくづく使えぬ連中だ。役立たずどもめ」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年03月15日 15:57