Lyrical Magical Stylish
Mission 13 Arc Enemy


「―――これだから人間はやめられない、そうだろう?」

 残す敵は後一体、次が最後の闘いになる。ダンテは弾倉を交換し、剣に付いた血糊を拭きながら隣で昏々と眠り続けるなのはを見て、軽く吹き出した。

「ったく、大したモンだよ。イヤマジで」

 眠るなのはの頭を軽く撫でる。

「……でも、サンキューな。助かったぜ」




 何か、静かになった。
 そして、ひんやりと感じる下となぜか暖かい上。そういえば何故自分が寝ているのかも思い出せず―――

「!!」
「お早う、寝ぼすけ」

 なのはが突然ガバッと跳ね起き、焦点の定まっていない目でダンテを見て、頭をブンブンと振って眠気をすっ飛ばした後、もう一度ダンテを見る。それがバージルでないことに安堵の溜息一つ。

「…………」
「何だよ、惚れたか?」
「……まさか」

 銃をクルクルと玩んでいるダンテの冗談は、なのはにとって思考がはっきりとしない寝起きにはキツかった。

「……どのぐらい寝てました?」
「んー……二時間ぐらいか?」
「Exactly, one hour, fourty-five minutes, twenty-eight seconds.(正確には、1時間45分28秒です)」
「……そんな寝てたんだ」

 そのおかげか、驚くほど体が軽くなっていた。周囲に満ちる濃密な魔力が回復を促進したのか、家で二時間寝たときより遥かに回復している。

「ところで、バージルさんは?」
「消えたけど、何でだ?」
「普通こういう場合って、改心して手伝ってくれるじゃないですか」
「……漫画の読みすぎだな」
「ダンテさんに言われた……」

 たった数日滞在しただけで高町家の漫画を全部読破したダンテに言われるのは、なのはにとって甚だ心外だったようだ。相手にするのを諦め、なのははダンテにつられて上を見上げる。

「……行きましょうか」
「だな」

 二人が睨むのは天に開いた穴。バージルが言うには、そこが今回の終着点だ。なのははフィンを駆り、ダンテは周囲に浮かぶ彫像を蹴って上に飛ぶ。
 穴から感じるのは、今まで周囲にあったものとは比べられないほどの圧力と瘴気。
 ファントムとグリフォンを退けた後に僅かだが邂逅した魔帝のもので間違いないだろう。

「「Let's get crazy yeah!!」」

 凄まじい魔力と重圧にも全く恐れを見せず、二人は獰猛な笑顔を見せてそこに飛び込んだ。





「来たか……ここで積年の因縁、断ち切ってくれる!」
「ああ、そーだな。いい加減テメーの顔も見飽きたぜ!」

 空間に開いた穴を突き抜けて、二人がたどり着いたのは一瞬宇宙と錯覚するほどの深い闇に覆われた深淵の世界。魔帝ムンドゥスが生み出した戦闘空間である。

「さあ行くぜ? Are you ready!?」

 そして、爆音と共にダンテの姿が変化する。闇の波動を纏ったその姿は悪魔そのもの、思わず隣にいたなのはがビビッてしまうのも無理はないだろう。

「……ダンテさん?」
「It's Alright.(問題ない)俺は俺だ、信じろ」

 人間の姿をしていた頃に比べ、彼の念話同様酷くノイズ掛かって聞き取りにくくなったダンテの声。それでも、そこに秘められたダンテらしさだけは全く失われておらずに。

「ちょっと驚いただけですよ、そんな大げさな」

 なのははすぐさま頭を切り替え、最終決戦を前に失態だったと少しだけ悔いる。それでも、次の瞬間そんなものをダンテと共に笑い飛ばすことは忘れない。
 短い時間の中で築いてきた二人の絆は今さらどんな理由があったところで崩れるものではなかった。

「ならいい。派手にぶちかまそうぜ!」
「Yeaaaaaaaaaaaaaah!!」

 上下左右の感覚がどうなっているかすら定かではない空間に何の恐れも見せずに舞い上がる。闇の中において輝く白と、闇の中においてその闇より更に深い黒は、大きさこそ魔帝の足元にも及ばない。
それでも、両者から発する絡み合った力の波動は魔帝に十分匹敵するレベルで周囲に吹き荒れていた。

「俺様からのプレゼントだ。遠慮しないで受け取りな!!」
「GYAAAAAAAAAAAAAA!!」

 開幕の合図はダンテが呼び出した火龍。空間を揺るがすほどの咆哮を上げながら遥か彼方に見えるムンドゥス目掛けて突き進んでいく。

「ディバインバスター・ダブル!!」

 その火龍に沿うように目を焼く二重の白光が螺旋を描いて唸りを上げる。ドッペルゲンガーとの同時行使によって全く同時に放たれた二筋の閃光がムンドゥスを護るように展開される岩石や魔力弾を容赦なく塵に変えていく。

「グオオオオオオオッ!!」

 姿は随分遠いのに、その絶叫ははっきりと聞こえてくる。二乗のディバインバスターによって守りを無力化され、そこに直撃した膨大な魔力によって生み出された火龍。
いくら魔を統べるものといったところで、あの直撃を受けてダメージがないわけない。

「シャアアアッ!!」

 ド派手な開幕の合図、その結果を見届ける前にダンテは両の手から火炎弾を滅茶苦茶に飛ばしながら、ムンドゥス目掛けて空間を疾走する。

「Fire!!」

 なのはもまた、ダンテを守護するように、そしてムンドゥスの守りを邪魔するようにディバインシューターを操りつつ、ダンテのやや後ろをムンドゥスの巨体目掛けて駆ける。
自分より遥かに巨大で、力強い相手に挑む。だというのに、その目には微塵の恐れも感じられない。

「ヌアアアアッ!!」

 初っ端の大ダメージから立ち直ったムンドゥスが、二人の接近を許すまいとレーザーを放ち、岩石を投げつけ、雷を落とし、そして流星を降らせてくる。

「ガアアア!!」
「どーこ狙ってるの!」
「Flash move」

 それでも、二人は止まらない。なのははバリア、ダンテは漆黒の翼でレーザーを弾き、岩石はダンテの火炎弾となのはのディバインシューターが打ち砕き、雷撃はドッペルゲンガーの操るライトニング・プロテクションが無効化。
そして流星はどちらが流星か分からないほどの加速で掠らせることすら許さない。

「ウオオオオオー!」

 ダンテの火炎弾の連射は留まることを知らず。ムンドゥスもまた、ダンテの放つ火炎弾をレーザーで迎撃しようと試みるが、なのはの駆るディバインシューターがそれを阻止する。

「Blast!!」

 正確無比に誘導された光弾が、無数のレーザーを放つビットのような黒球を発生の瞬間に悉く爆砕する。遮るものがなくなった火炎弾は巨大すぎて回避運動の取れないムンドゥスに片っ端から直撃していく。

「させぬわぁ!!」

 雨霰と降り注ぐ攻撃にも、全く怯みを見せない二人に業を煮やしたムンドゥスが怒号を放つ。それと同時に周辺を覆いつくしていたムンドゥスの攻撃が一旦止まる。

「!? 諦めた?」
「違う! 大技来るぜ、避けろよ!」
「塵と―――」

 一瞬の停滞。だが、ダンテは次に何が来るか知っていた。そしてなのはもまた、脊髄に氷柱を差し込まれたような悪寒を背筋に感じ、急加速で無理矢理に軌道を変える。

「―――化すがいい!!」

 ディバインバスターを遥かに超える極太の熱線が、空間そのものを断ち切らんと迸る。魔帝ビーム、なんの捻りもない名前だが、この戦場でムンドゥスが放つ攻撃の中では単発の威力が最も高い。
 さすがのダンテもこれの直撃を受けたらタダでは済まないし、なのはなど掠っただけで半身が吹き飛ぶほどの威力を内包している。

「……とんでもない、ね。でも、当たらなきゃ意味がない!」

 凄まじいエネルギー量を肌で感じつつ、なのはは眼前のムンドゥスを睨む。敵の切り札は知れた、発射のモーションやタイミングも覚えた。このまま勝負が進むなら、負ける要素はない。

「ウオオオー!!」
「はあああっ!!」

 そして、開幕直後は無限に思われた両者の距離、それをあっという間に詰めきった二人がここぞとばかりに大技を放つ。

「ディバインバスター・ダブル!!」

 まずはなのは。二条の閃光は螺旋を描いた後融合し、蒼白い輝きを放ちながらムンドゥスが体の防御に回していた天使のような翼、両翼の重なる一点を槍の如く貫通する。

「オオオーッ!! ヴォルテックスッ!!」

 その先に見えた、ムンドゥスのコア。ディバインバスターに追随する形で滑空していたダンテが、雷撃を纏った渾身の回転体当たりをムンドゥス最大の弱点に叩き込む。
 身を護るビットを全て破壊され、最後の砦であった翼に大穴が開いた状況で、スパーダと化したダンテを止める術をムンドゥスは持っていなかった。

「グガアアアアッ!!」
「オオオーーッ!!」

 コアに直撃してなおその回転を止めないダンテと、その破壊の力に抗うコアが凄まじい発光現象を起こし、闇に染まった空間全体に世界が太陽を取り戻したかのような閃光が走る。

「やった!?」
「いや、まだだ!!」

 なのはの耳に、ピシリ、とコアに亀裂が走る音が届いた。だが、その結末を見届けるより早くダンテが翼を広げ、なのはに覆いかぶさってくる。

「ダンテさん!?」
「歯ぁ食いしばれよ!!」
「ガァァァァァァァーーー!!」

 体内を蹂躙する想像を絶する激痛がそうさせたのか、周囲には無数の流星群。大技を放った直後の二人に回避する手段はない。

「グアアアッ!」
「きゃああっ!」

 二人は成す術もなく流星に叩き落され―――





「効いたぜ……」
「痛たた……」

 叩き落された先は最終決戦の場、溶岩の上に突き出した足場が無数にある、火山の中と勘違いするような灼熱の戦場だった。撃墜された二人は、自身もまた傷つき、溶岩の中に堕とされたムンドゥスと対峙する。
姿こそ先ほど変わらず、禍々しい殺気を放っている。だが、先ほどと違うのは覇気だ。押し潰されそうになるほどのプレッシャーを生んでいた覇気が随分と衰えている。
 ドッグファイトで二人が与えたダメージは、形こそ見えないけれど確かにムンドゥスを追い詰めている。

(……チッ、こっから先はテメーでやれってか、クソ親父。上等じゃねーか、やってやんぜ!)

 急激にエネルギーが失われていくスパーダに内心舌打ち一つ、だが、それを面に出すことはしない。今はいい流れ、この流れを維持して攻勢をかけたいところだ。
ダンテは内心の葛藤を全く感じさせないそぶりで両手を広げ、ムンドゥスを挑発する。

「ハハハ、つまんねー見世物だったな?」
「あんなのはただの遊びよ、貴様等を纏めて叩き潰すにはこの場のほうがふさわしい」
「強がりはたいがいにしときな。さあムンドゥス、年貢の納め時だ。ぶっ飛ばしてやるぜ!!」

 ダンテがリベリオンを抜き放ち、中指を立てる。なのはもまた、想像していたより遥かにあっさりムンドゥスを撃墜できたことに士気がレッドゾーンを振り切っていた。
レイジングハートを肩に担ぎ、投げつけるのは嘲りの言葉。見せ付けるのは不敵な笑顔と馬鹿にした行動だ。

「ホント、その三つの目は飾り? でかいだけじゃ、私たちはどうにも出来ないよ」

 ダンテが中指を立てるなら、なのはは親指を落とす。二人の態度にあっさりプッツンしたムンドゥスが怒りの咆哮を上げた。

「―――前と同じになると思うな、小物が!」

 第二ラウンドの先制はムンドゥス。繰り出された魔帝の拳が、二人の立っていた大地を爆砕する。
 それが合図となり、二人は最後の決戦に挑むべく各々行動を開始した。

「おおおおおっ!!」

 ダンテは前へ。

「行くよ、レイジングハート!」
「Let's get crazy yeah」
「……分かってるじゃない! ディバインバスター!!」

 なのはは後ろへ。
 魔界に来てからあまりなかった、二人のコンビネーションが炸裂する。

「鬱陶しい……」

 ダンテの頭上を飛び越えて突き進んだディバインバスターは魔力を込めたムンドゥスの左手に弾かれる。
先ほどは効いた一撃があっさり無効化されたことになのはは驚愕するが、そんなのお構い無しとばかりに飛び込んだダンテのリベリオンがムンドゥスに直撃する。

「効かぬ!」
「ちぃ!」

 完全に直撃した一撃すら全く歯牙に掛けず、ムンドゥスは再度ダンテを拳で潰そうとする。愛剣の一撃が殆どダメージになっていないことに歯噛みする暇もなく、ダンテはその一撃をかわす。

「消し去ってくれる!」

 ムンドゥスの左手と背中から大量のレーザーが迸る。無差別に放たれたそれは、回避行動の結果足場の端に追い詰められ回避行動の取れないダンテと、やはり魔法の発射直後で大きな魔法を使えないなのはへと襲い掛かる。

「うおおおっ!!」

 そんな大量のレーザーをダンテは神速の剣捌きで全て薙ぎ払い。

「フラッシュムーブッ!」

 なのははシールドを解除、その分の魔力をフィンに叩き込んで一発の被弾もなくかわしてみせた。

「もう一発行くよ、ディバインバスター・ケルベロス!!」

 ディバインバスターは弾かれた。なら、弾かれるのを承知で放つ。ダメージが与えられなくても、弾いた腕を凍結させることが出来ればダンテが攻撃に集中できる。
 突き進む青白い一撃がレーザーを放った左手へと着弾する。だが――

「小賢しいわぁ!!」
「くっ……」

 凍りついた左腕はすぐさま真下の溶岩へと叩きつけられ、あっという間に元に戻ってしまった。さらに、ムンドゥスが溶岩の中から生み出した炎の龍が咆哮を上げてダンテへと突き進む。

「Shit!!」

 全身が溶岩で出来ている相手に突撃されてはたまらない。ダンテは慌ててムンドゥスへの攻撃を中断すると、龍を横から斬り飛ばして大きく距離を取る。
切った際に飛び散った溶岩が服につき、煙を上げて周囲が溶けるが一々気にしている場合ではない。

「Satellite!!」
「サンキュー!」

 下がったダンテと入れ替わるようにしてなのはが前に出る。狙いをダンテからなのはへと変えた龍が顎を大きく開いてなのはへと突撃し、その直前放たれたサテライトが龍を吹き飛ばす。
効果は抜群だったが、なのはもまた飛び散った溶岩を受け、バリアジャケットが焦げ落ちる。

「ハァッ!!」

 吹き飛んだところになのはの横を疾走してきたダンテの一撃。頭部を切り離された龍は咆哮を上げながら元の溶岩へと還っていく。
だが、不意打ち気味の新たな相手を打ち倒したことを喜ぶ暇もなく、ムンドゥスからの攻撃が襲い掛かる。

「いつの間に……」
「めんどくせぇなぁ、おい!」

 ムンドゥスを護るように浮く太陽の如き輝きを放つ白い球。そこから発射される無数のレーザーが襲い掛かる。これもまた、先ほどと同じようにダンテは弾き、なのはは避けるが、ムンドゥスの連撃に反撃の暇を見出せない。
 その際にダンテは弾ききれなかったレーザーを受け、受けた場所から血を吹き出し、なのはもまたかわしきれなかったレーザーが掠めた場所から出血する。

「ヌンッ!」

 防御に手一杯の二人を尻目に、ムンドゥスの左手から放たれた赤い刃が衝撃波を伴い、大地ごとダンテを真っ二つにせんと迫る。

「しつけぇ!」

 一瞬避けよう、と思ったが、それ以上にどこかで攻撃のターンを掴まないとジリ貧だと確信したダンテがムンドゥスの放った赤い刃へと自ら飛び込む。
なのはは目を疑ったが、すぐさま思考を切り替えてダンテを助け、更に攻撃へと導くために、レイジングハートを全力で大地へと叩き付けた。

「Crystal!!」
「ナイスだ!」
「当然っ!」

 ダンテが真っ二つになる寸前、なのはの生み出したクリスタルが地中を突き破ってダンテの足場となる。
本来なら真上にいるものを易々と貫く鋭い攻撃なのだが、ちょっと操作してやれば、先がある程度の広さを持った氷柱を生み出すことなどなのはにとっては容易いことだ。
ムンドゥスの刃が氷柱を破壊するが、それより早くダンテは更に前に飛び跳ねて、渾身の力でリベリオンを振るう。

「イィィィヤァァァア!!」

 一番近い部分、左手の肘付近に振り下ろされた一撃は、食い込んだ後ムンドゥスの左手をバッサリと切断した。

「ハッハァ!」
「小癪な!」

 それでも、切られた左腕を気にすることすらなく、着地の瞬間を狙った右拳がダンテに迫る。

「捻り潰してくれるわ!」
「させない! ディバインバスター!!」

 それを阻止せんと、なのはの魔法が突き進む。ダンテに直撃する寸前、その右腕を貫通し、吹き飛ばす。両手を失ったムンドゥス、ダンテはその隙を逃すまいと更に魔剣を駆る速度を上げる。

「小賢しいわ!」

 だが、ダンテの一撃を咆哮による衝撃波だけで弾き返したムンドゥスは、失った両手をすぐさま復活させると、マグマに拳を叩きつけて二人の足元から火柱を発生させる。

「アイス・エイジ!」

 ファントムに似た攻撃ゆえ、大地が赤く染まった瞬間次の展開を見越したなのはがディバインバスターの詠唱を中断し、周囲に極寒のバリアを生み出した。ダンテとなのはを包み込むように生じた氷の加護が間一髪で火柱を無効化する。

「助かった」
「どういたしまして」

 連鎖的に吹き上がる溶岩がおさまるまではこの中から出るに出れない。だが、ムンドゥスもまた火柱を発生させているために他の攻撃ができない。
ダンテとなのはは好機とばかりに作戦を練る。両者とも受けたダメージは比較的浅く、その目は未だ戦意でギラついている。

「どうします?」
「小技でチマチマいくか、大技でぶっ飛ばすか。どっちがいい」
「……大技はまだ取っておきたいですね。あるにはありますけど、使ったらもう何も出来なくなりますから」
「わかった。なら、今まで通りだ。気をつけろよ」
「ダンテさんこそ」

 灼熱の溶岩がおさまり、ムンドゥスが周囲に深遠の闇の如き黒い球を生み出す。ダンテはその瞬間駆け出しており、黒球を生み出した隙を逃さない。
 なのはもまたアイス・エイジを解除し、ムンドゥスにダメージを与えるというよりはダンテの援護を主体に魔法を組み上げていく。

「なのは! あれを破壊しろ!」
「Alright!!」

 ダンテが攻撃を緩めぬままなのはに指示を飛ばす。ムンドゥスの周囲に浮かぶ黒球、これを吸収されるとやっかいだというのは以前の戦いでイヤというほど思い知らされていた。
 それでも、そちらに気を取られるとムンドゥスからの攻撃を食らう可能性が出てくる、その状況に随分苦しめられたが、今はなのはという頼りになるガンナーがいる。自分は攻撃に専念すればいい。

「Rock it!!」

 放たれる光弾が、ムンドゥスの生み出した黒球を貫き爆砕する。ディバインバスターの効き方から鑑みて、ディバインシューターではムンドゥス本体には殆どダメージは与えられないだろう。
 それでも、使い道はいくらでもあると言わんばかりに、持てる技全てを使って立ち向かう。

「おおおおっ!!」

 ダンテもまた、周囲を飛び交う光弾のダンスには目もくれずにムンドゥスへ狂ったように剣を繰り出す。一撃一撃が小さくても、積み重ねれば必ず届くと確信して。

「チョロチョロと鬱陶しいわ!」
「ぐああっ!」
「きゃああっ!」

 だが、どんなに攻撃を積み重ねたところで、水滴が石を穿つにはかなりの時間がかかる。石のように無抵抗ならいざ知らず、相手もまたこちらを殺そうとあらゆる手を駆使してくるのだ。
 我慢比べでは、体力的になのはは相手にすらならず、ダンテもまた激戦の連続で磨り減った精神ではいつまで持つか分かったものではない。今もまた、背中から噴出した超広範囲にわたるレーザーの爆撃をかわしきれず、ダメージを負ったところだった。

「大丈夫か?」
「余裕」
「いい返事だ」

 ダンテが再び駆け出す。迫り来るレーザーを弾き、衝撃波を避け、溶岩の上に突き出した足場を文字通り飛ぶように移動していく。

「ヌアアッ!」
「オラァッ!」

 そして繰り返される闘い。ダンテの剣は悉くがムンドゥスの巨体に直撃している。そのくせ傍から見ていれば全く効いてるように見えないのだが、そんなことはなのはには関係ない。

「ディバインバスター!!」

 そしてまた、聖なる一撃がムンドゥスの目を貫通する。人間ならば確実に急所であろう箇所を貫かれても、仰け反りすらせずにダンテと攻防を繰り広げている。

「セカンドッ(第二射)!!」

 それでも、相手の体力は無限ではないのだろう。今は、そう信じて力の限り魔法を撃ち続けるしかない。寸暇を置かず放たれた二発目が今度はダンテを打ち抜こうとしたムンドゥスの右手を爆砕する。

「サードッッ(第三射)!!!」

 今まさにダンテを叩き潰そうと迫っていた右手が爆砕され、それでも叫び声一つ上げないムンドゥスに更にもう一発叩き込まれる白き制裁。最後に狙うのは、ヒビが入っているくせに無防備に晒されているコアだ。

「いっけぇぇぇぇぇ!!」
「邪魔だぁ!!」

 その一撃が直撃する寸前、コアを防御しようとする左腕をダンテが薙ぎ払う。なのはの操る魔法の威力は折り紙付きだ、たとえ倒せなくとも、コアに直撃すれば甚大なダメージを与えることができる。

「グガアアアッ!!」

 ビシリ、とヒビは更に大きく広がる。それでも、ムンドゥスは倒れない。仕返しとばかりにはためく翼から、避けきれない量のレーザーが降り注ぐ。
 ダンテは咄嗟に急所を庇いつつ後退、なのははギリギリ掠る程度でかわしつつ、ダンテの前に出てシールドを展開する。二人がムンドゥスの攻撃に耐える間に、コアを除いて与えた傷が全て修復されていく。

「クソッタレ、このままじゃ埒があかねーぞ」

 腕を切っても、目を潰しても、すぐさま再生してしまう。もちろんダメージは蓄積しているのだろうが、無尽蔵に思える敵の体力や魔力はいささかの衰えも感じられない。このままでは、体より先に心が折れてしまう。

「ですね……でも」

 それでも、特になのははこのままの戦法をもう少し続けるべきだと言う。
ダンテ自身も、なのはの最大魔法がなのはにどの程度の反動をもたらすか分からない以上、万が一失敗したときになのはを護りつつ戦わなければいけなくなってしまう、
そう考えると、やはり博打に出るには早いと判断せざるを得ない。

「さっきの力、使えないんですか?」
「ああ、打ち止めだ。それに、こんな不安定な場所であんな力使ったら足場が滅茶苦茶になる」
「そうですか。なら、しょうがないですね」
「何とかするさ」
「二人で、ね」
「ああ、勿論だ」

 先ほど、ムンドゥスを撃墜した際、ダンテは伝説の魔剣士スパーダの力をほぼ完璧に再現していた。だが、今はスパーダから力の波動を感じない。
よって先ほどのようにスパーダの姿になることは不可能だった。それ故、剣としてのスパーダを使ったところでリベリオンと大差ないだろう、という結論がダンテの中で出ている。

「折れるなよ?」
「大丈夫、まだまだいけます」
「オーケイ。派手にいくぜ!」

 ダンテが飛び出す。なのはの魔法が吹き荒れる。だが、そんな二人の決死の攻撃をまるで意に介さないムンドゥスが、戦いに幕を下ろすべく死の宣告を行った。

「虫けらが―――絶望の果てに死ねぃ!!」

 ムンドゥスが両手をマグマに叩きつけ、上空に跳ね飛ばす。そこから放たれる死の流星群―――メテオスウォームが、ムンドゥスに楯突く全てのものを塵一つ残さず消滅せんと降り注ぐ。
こう狭い足場では、全方位に降り注ぐ流星を回避することは不可能、何とかして撃ち落すしかない。

「レイジングハート、ドッペルゲンガー!」
「Mode Doppel ganger ignition」
「アイス・エイジ・ダブル!!」

 圧倒的な流星群を前に、二人のなのはが生み出す絶対零度の鎧が立ち向かう。ダンテとなのはを護るように吹き荒れる二重のバリアが、触れる流星群を灼熱の溶岩からただの石へと変えていく。

「おおおおおっ!!」

 その中で、背中になのはを庇いながらダンテが神速でリベリオンを振り回す。剣の壁が氷の鎧を突き破る溶岩の成れの果て、岩石の弾丸を片っ端から弾き飛ばしていく。

「があっ!?」

 だが、ダンテの神速の剣を以ってしても視界を埋め尽くす弾丸を全て叩き落すなど不可能だった。撃ち漏らした小さな礫がコートを突き抜けダンテの体を穿つ。
銃弾で打ち抜かれるのと大差ない痛みにダンテの剣は鈍り、一度でも鈍ってしまえば後はただの的になるだけだ。

「クソッ!」

 それでもダンテはリベリオンを盾に、急所だけは護ると銃弾の嵐を耐える。今自分が倒れれば、後ろにいるなのはがあっという間に蜂の巣にされる、それだけは何としても阻止しなければならない。

「Shit!」
「やば……!」

 そんな二人に襲い掛かる更なる絶望。二人を押し潰して余りある巨大な隕石が凄まじい勢いで迫る。アイス・エイジで防げるのは炎だけ、あの質量そのものを止めることは出来ない。
 残る隕石がその一つだけならば、今すぐにアイス・エイジを解除してディバインバスターで撃ち抜くことも出来よう。
だが、今もまだ雨霰と降り注ぐ小さなメテオとそのために灼熱地獄になった周囲の超高温がそれを許さない。
 ダンテもまた、自身を削る隕石を無視して叩き割ろうと防御を解こうものなら、すぐさま蜂の巣になることを理解しているがゆえに、巨大なメテオに対して取れる手段がない。

「諦めない……絶対に!!」
「あったりめーだ!」

 されど、絶体絶命の状況において二人の目はまだ輝きを失ってはいない。なのはは自身が操るアイス・エイジを解除、周囲の業炎と降り注ぐ隕石へのバリアをドッペルゲンガーに任せる。
 解いた瞬間凄まじい高熱がアイス・エイジのバリアを突き破って二人を襲う。服が燃え出しそうな温度の中、なのはは今まさに二人を押し潰さんとする巨大な一発に向けて砲撃を放つ。

「ディバインバスター・ケルベロス!!」

 放たれた凶暴な閃光が隕石に直撃、宿る溶岩を消し飛ばし、破壊する。

「イィィィィヤァァァァァアア!!!」

 その中、轟音に負けないダンテの咆哮が響き渡り、盾にしていたリベリオンを先ほどを上回る、最早視認すら出来ない速度で駆る。縦横無尽に駆け抜ける剣閃が降り注ぐ砕かれた隕石の欠片を叩き割り、粉塵へと変えていく。

「はぁっ……はぁっ……」
「ゼェ……ゼェ……」

 ドッペルゲンガーが消え、アイス・エイジが霧散する。その跡に残ったのは、無茶な魔法行使の反動に膝をつくなのはと、全身に岩石の弾丸を食らって血塗れのダンテ。
 ムンドゥス最強の攻撃は辛くも耐え凌いだが、その代償にあまりに力を使いすぎた。

「塵一つ残さぬ!!」

 そんな二人に、次いで放たれた極大のレーザーをどうにかすることなど出来るわけがなかった。

「ぐわああああっ!!」

 まず、なのはを護るように立っていたダンテの全身がぶち抜かれ、吹き飛ばされる。凄まじい勢いで吹き飛んだダンテが大地をその体で砕くのを見る暇もなく、次弾がなのはに直撃する。

「きゃああああっ!!」
「Reacter purge」

 バリアジャケットが爆発を起こして消し飛ぶ。
グリフォンの時と同様、ハジケ飛ぶジャケットがダメージを相殺したおかげでギリギリ致命傷を免れ、それでも止まらないレーザーに全身を切り裂かれながら、なのははダンテ同様吹き飛ばされる。

「フフフ……ハハハハハハ!! これで我が障害は全て消えた!!」

 大地に横たわるなのはと岩石に埋め込まれたダンテはピクリとも動かない。
流れ出る血が大地を赤く染め、周囲の熱がそれを蒸発させていくなか、ムンドゥスは動かなくなった二人には目もくれず勝利の哄笑を上げていた。





「フハハハハハハハハハ!! ハーッハッハッハッハッハ!!!」

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最終更新:2008年03月23日 17:07