魔術士オーフェンStrikers 第二話
「何だ…あいつ」
我知らず、ヴィータは呟いていた。
どこからか現れた男。
魔導師だったのだろう―――その男が放った魔法がガジェット6体を巻き込んで爆発した。
その事自体は別に大した事じゃない。ていうかそっち系(砲撃系)の魔法なら
ずっとエゲツナイ使い手が同僚にいる。・・・そう、驚くべきは「ソコ」じゃない。
今、あの男は間違いなく「素」で魔法を使った。つまりデバイスなしで。
そしてなにより―――

「……AMFを無視しやがった」
そう、魔導師の天敵ともいえるAMFがあの男の魔法にはまるで作用していない。
(ロストロギアでも隠し持ってやがるのか?それともレアスキル…ダメだ、つまんねぇ仮定しか浮かばねぇ。そもそもグダグダ考えんのはアタシの性分じゃない。)

思考を切り替えよう。
ガジェットに攻撃したって事はとりあえず敵じゃない。―――少なくとも、今は。
……ならここを一掃してから本人に話を聞いてみればいい。
二手に分かれて少し離れた場所で戦ってるなのはへの報告も後でいい。
伝えられる事があまりに少ない。
とにかく今は―――

そこで思考を切ると、とりあえずヴィータは手近なガジェットに向かってアイゼンを振り下ろした。

「我は放つ光の白刃!」
呪文とともに放たれた光熱破が、ガジェット数体を貫き爆発させた。
間を置かずオーフェンは斜め後ろに跳躍する。と、数瞬前に自分がいた場所を光線が貫いていく。オーフェンは「フンッ」と一つ鼻を鳴らし、
「一つ覚えは馬鹿の芸だぞ!!」
その声を呪文に再び魔術を放った。

結論から言ってガジェットはオーフェンの敵ではなかった。
動きはワンパターン、速さも並、攻撃手段もどうやらあの光線のみ。
数は多いが囲まれさえしなければどうって事はない。

(―――しかし、何なんだ?こいつら…。)
余裕が出てきたせいか、思わず一人ごちる。―――ただし油断だけはせずに。
機械が自立的に動き、空を飛び、しかも熱源兵器まで内蔵している。キエサルヒマ大陸にこんな機械を作り出す技術は存在しなかった。ドラゴン種族が遺した遺物という線も考えたがそれも残骸を確認した時に消えた。奴らの道具に近代の機械が組み込まれているのはおかしい。
「我は砕く原始の静寂!!」
空間爆砕の魔術で十数体のガジェットが塵に帰った。

いや、待てよ・・?
(――――ぉぃ)
ひょっとして俺は前程を間違えてるんじゃないか?
(――――――ぇねぇのか!?)
ズレてるのがこの状況じゃなく、俺の認識だとしたら・・・―――
「―――――――――――――――おい!!!」

突然の声に意識が思考の海から引き上げられる。
見ると正面には若干不機嫌そうな例の少女。―――てことは、
周囲を見回す。案の定、ガジェットの群れは全滅していた。
どうやら今のが「最後」だったらしい。

視線を少女に戻す。彼女は獲物であるハンマーを肩に担ぎ、 ムスッとした顔でこっちを睨んでいる。何でだ・・。
とりあえず問いかけてみる。
「その、何だ。怪我はないか?」
その言葉に少女は一瞬「へ!?」という感じに表情を呆けさせたがすぐに引き締め
「舐めんな。こいつらくらいアタシ一人でもラクショーだったんだよ。」
ぶっきらぼうに言い返される。
「んな事よりどういうつもりだよ。人が話しかけてんのに無視しやがって。」
ああ、なるほど。機嫌が悪そうなのはそのせいか…。オーフェンは苦笑しながら返すと、
「あ~…悪い。少し考え事をしててな。聞こえてなかった」
「考え事?戦闘の最中にかよ。ずいぶんのん気だな、アンタ」
呆れたようなその言葉に「まったくだ・・」と胸中で同意しながら続く。
「だな…。次からは精々気をつけるさ。ところで…」
「君は何者だ?」と続けようとした所を彼女の手に遮られる。

「時空管理局・機動六課スターズ分隊副隊長、八神ヴィータ三等空尉だ。アンタに聞きたい事がある。」
姿勢を正し、真っ直ぐこちらの目を見て言ってくる。しかしオーフェンはその言葉に聞き慣れない物を感じ―――
「い、いや、ちょっと待ってくれ…。じくうかんりきょく?」
焦る。背中を嫌な汗が伝う。先ほどの疑念が再び頭を巡る。
今の少女――ヴィータだったか?――の言葉を喉の奥で繰り返す。時空管理局、三等空尉、この言葉から少女が武装警察、あるいは軍人か何かである事は予想できる。問題なのは…キエサルヒマ大陸にはそんな組織も、三等空尉なんて階級も「存在しない」という事だ。
やはり、これは―――

しばしの逡巡の後、オーフェンは口を開く事を決めた。目の前では少女が律儀に待っていてくれている。
「ああ、何でも聞いてくれていい。だが、その前に一つだけ、正直に俺の質問にも答えてくれないか?」
「…何だよ?」
「キエサルヒマ大陸。この言葉に聞き覚えはないか?」
「知らねぇな」
首を振りながらあっさり、しかし決定的な言葉を返してきた。
疑念はもはや確信だった。

ここは大陸の外の世界だ。
しかし期せずして目的を叶えてしまった嬉しさよりも今は疑問が先に立った。
なぜ、と。だが冷静に考えればすぐに推論は出せた。

―――――魔術文字(ウイルドグラフ)―――――

自分が休息を取っていたあの遺跡にまだ手付かずの、仮に転移装置のような物が残されていたとしたら、そしてその発動条件を知らぬ間に自分が実行していたとしたら…。
(在り得ない仮説じゃない、か?少なくとも筋は通るな…)

「んじゃあ、こっちからも質問を…お?あっちも終わったみてぇだな」
少女が呟くのと、自分が頭を抱えるのと、白い服を着た少女が自分達の所に降りてくるのとは奇しくも、ほぼ同時だった。


魔術士オーフェンStrikers 第2話 終

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最終更新:2009年03月24日 04:44