Another View(Raven)

「それは困るな」
そう言いながら銃を向けるが、正直、全く撃つ気はなかった。
それはそうだろう。
何せ相手は、幼くなってしまった自分と同じ、いや、もしかするとさらに年下かもしれない少女達なのだ。
昔の自分ならいざ知らず、今の自分に彼女達を撃つことはできない。
とはいえ、状況は好転したかというとそうではなく、むしろ悪化したといってもいいだろう。
先程の彼女達の会話から察するに、今、床に転がっている奴らとは別の部隊がいるようだ。
離脱し、追跡を振り切ることはできるだろうが、面倒なことには変わりない。
おまけに、何故このような場所にいるのかさえ分からないままときている。
下手に騒ぎを大きくするより、目の前の少女達から情報を入手するほうが良い。
そう判断して、口を開こうとした時だった。
「お前がやったのか・・・?」
真っ赤なドレスに身を包んだ方の少女が戦鎚をこちらに向けて問いかけてきた。
だが、放っている気配は幼い子供のそれではなく、一人の戦士―――しかも数多の戦場を駆け抜けてきた――――の纏うものだ。
間違っても唯の子供であるはずがない。
もうひとりの白服の少女に目を向ける。
相方と違い、こちらはそこまで闘志を感じられないが・・・
(位置取りが上手いな)
心の内で嘆息する。
彼女の立っている位置、それは恐らく前衛であろう相方をうまくフォローできる位置である。
それをなんの打ち合わせもなく、ごく自然に行っているのを見るだけで分かる。

彼女達は強い。

先程、面倒を見てやった連中とは比べ物にはなるまい。
さらに敵の攻撃手段を自分はよく分かっていない以上、間違っても油断できる相手ではない。

(さて、どうするかな・・・)


Another View End(Raven)

「それは困るな」
その言葉と共に銃を向けてくる少年とその傍らで唸り声をあげる飛竜を見据えながら、なのはとヴィータは念話で作戦会議中だった。

(とりあえず、あの銃をどうにかしなくちゃだね)
(そーだな。それにB班の連中がどうしてああなったのかもちゃんと聞き出さねえと)
(それにあと10分もしたら、C班の人達とも合流できるし・・・。今は時間を稼ぐ事を優先しよう)
(お、おう。んじゃ、フォローは任せたぜ)
(まっかせといて!!)
(・・・?やっぱり変だな)
ヴィータは、先程からずっと感じていた違和感の正体を、おぼろげながらにも把握してきていた。


なのはが消極的なのだ。弱気といってもいい。


先程のことにしてもそうだ。
仲間のピンチには誰よりも早く行動するなのはが、自分にかなり遅れるようにして、この部屋に飛び込んでいった。
いまの念話にしてもそうだ。
時間稼ぎという作戦は確かに理に適っている。現状ではベストと言ってもいいだろう。
しかし、なのはにしては、時間稼ぎという考えに辿り着くのが早すぎる。
(いつものなのは・・・だよな?)
ヴィータは思わず横目で確認してしまったが、そこには“全力全開”をモットーとする高町なのはがレイジングハートを構えているだけだった。


(ま、誰にだって調子の悪い日はあらーな。今はそれよりも・・・)
目の前の少年に注意しなくては、と、ヴィータは起動させていたグラーフアイゼンを構え直し、
「お前がやったのか・・・?」
地面に横たわっている隊員を示して問い質した。
最後の通信から想像するに、彼らはそこの黒い飛竜にやられたのだろう。
そしてその飛竜は目の前の少年の使い魔と見て間違いあるまい。
しかし、分からないのは何故使い魔に襲わせた隊員達を介抱したかという事だ。
ヴィータは、彼の意図している所が全く掴めなかった。

そのヴィータの質問に対し、少年は
「ん?ああ。あのまま放っておいても無事だったろうが、こっちにも非はあるからな。一応、介抱しておいた」
とあっさり認めてしまった。

「分からねーな。一度は襲わせといて、何で助けるような真似をするんだ?」
「いや、俺は足止めするように命令しただけだ。なにも殺そうとしたわけじゃない。情報元がなくなってしまうからな。・・・まあ、シャドーがここまでするとは俺も思ってもみなかったが」

(・・・シャドー?それがあの飛竜の名前か)
(そうみたいだね。それにあの子のお話を信じるなら、そんなに悪い人じゃなさそうだよ、ヴィータちゃん)
(でも油断はできねえぞ。嘘の可能性もあるし、なにより銃を持ってるってだけで信用でき・・・、何!?)
(!?)

なのはとヴィータは驚愕した。
なんと目の前の少年が銃を足元に落とし、両手を挙げたのだ。
シャドーという竜も羽をたたみこみ、唸り声をあげるのをやめている。
一連の行動の意味が分からない程、二人は馬鹿ではない。

「降伏するってのか?」
「ああ。俺は、現状が全く把握できてないんだ。とりあえず、ここはどこなのか。後、君達が何者なのか説明して欲しい。こいつらに聞くつもりだったんだが、シャドーがのしてしまったからな」
「「・・・?」」

思わず顔を見合わせる二人。
彼の言葉を信じるなら、この遺跡の事、また、自分たち時空管理局のことを何も知らないということになる。

(どーゆーこった)
(わ、私に聞かれても困るよ。でもやっぱり、悪い人じゃなさそうだね)
(なのは、おめーは相手の言うことを信じすぎだ。罠かもしれねーんだぞ)
(ヴィータちゃんは疑いすぎだと思うけどなぁ)
と念話で会話しつつ、なのはは両手で構えていたレイジングハートを左手に持ち替え、右手を自分の胸にあてながら少年に微笑みかけた。

「と、とりあえず、初めましてだね。私は高町なのはっていうんだ。こっちはヴィータちゃん」
「ヴィータだ」
にこやかななのはとは対照的に、ぶすっとしながらも、自己紹介をするヴィータ。

「俺はレイヴンだ。こいつはシャドー」
そう言ってなのは達の自己紹介に答える少年―――レイヴン――――は、苦笑していた。

「てめー、何がおかしい?」
「ん?いや、悪いな。おまえの性格が分かりやすいもんだからつい・・・」
「んだとぉ!」
「ちょ、ちょっとヴィータちゃん!落ち着いて」

それを聞いてレイヴンに向かって一歩踏み出そうとするヴィータを後ろから羽交い絞めにするなのは。
レイヴンはといえば、相変わらず苦笑しながら彼女達の様子を眺めている。
それを目にしたヴィータは、さらに頭に血が上ったようで、なのはから逃れようと体をよじらせた。
どうやらこの二人、相性はよくなさそうである。

「ヴィータちゃん、落ち着いてったら!!もう!!レイヴン君もからかう様な事言わないの!!」
「・・・!」

すると、なのはのその言葉の何処に驚くところがあったのか、レイヴンは表情から苦笑を消し、半歩ほど後ずさった。
その予想外の反応に思わずなのははヴィータへの拘束を緩めてしまった。
しかし、解放されたヴィータもレイヴンを訝しげに見据えるだけで、突っ込んでいくようなことはしない。

「あ、あのっ。わ、私、何か変な事言ったかな?」
「・・・いや。別にそういう訳じゃない」

レイヴンはそう言いながら、自身のとった態度に気が付いたのか、再び苦笑を滲ませた。
しかし、その笑みは先程のからかう様なものではなく、どこか自嘲を含んだものだった。

「そんな呼び方をされるのは初めてだったからな。少し驚いただけだ」
「・・・?」
「・・・(こいつまさか)」

その発言と表情に何か感づいたヴィータと、全く意味が分からないなのはが、同時に声をかけようとしたその時だった。

「高町隊長!ヴィータ副隊長!ご無事で!?」

大声を上げながらC班の隊員達が雪崩れ込んできた。
位置的には、レイヴンを挟んでなのは達の反対側。
つまり、図らずして挟み撃ちできる位置に到着したのだ。
既に全員がデバイスを起動しており、戦闘準備は万端といった様子だ。
しかし、彼らがまずのは目にしたのは、床に倒れ伏したB班の隊員である。
勿論彼らは、なのは達からの連絡を受けていないのでB班全員が無事である事を知らず、また、レイヴンとシャドーが彼らの視線を遮る様な位置にいた為に、隊員の状態を確認することは困難だった。
その為、なのは達と向かい合う様に話していたレイヴンとシャドーに敵意の篭った視線を向けた。

「何!?」
「子供!?」
「そんな馬鹿な!」
「飛竜にやられたんじゃなかったのか!?」

皆が様々な事を口走るなか、リーダー格の男が一歩前に踏み出してレイヴンを睨み据えた。

「なあ、坊や?パパやママにやって良い事と悪いことがあるって教わらなかったのかな?それと、足元の銃を拾う様な事はするんじゃないぞ。拾ったら最後、次に目を覚ますのは病院のベッドの上だ」

と悪意たっぷりに言い放つ。
しかし、レイヴンは返事の代わりにこれ見よがしに溜め息を吐くだけだった。

「貴様・・・!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」

声を荒げる隊員から険悪なものを感じてなのはが声を掛けた。

「彼は、レイヴン君っていうんですけど、反撃の意思はないそうです。それにB班の皆さんは無事です」
「そーいうこった。こいつも悪いけど、子供相手にいつまでも目くじらたててんじゃねー。それよりも、おめーらはさっさとB班の奴らを運んでやれよ。A班とD班の奴らには私が連絡しとく」

なのはに続いてヴィータも声を掛ける。
さすがに隊長の言葉を疑う訳にもいかなかったのか、C班の隊員達はレイヴンの横を警戒しつつも通り過ぎ、B班のもとにたどり着くと、気絶している隊員達に浮遊魔法をかけ、遺跡外へと運び出すべく動き出した。
その間、なのはとヴィータは、銃を回収するべくレイヴンへ歩み寄った。

「悪いんだけど、銃は預かるね。分かってると思うけど、ミッドチルダでは所有するのも禁止されているから、もしかしたら返せないかもしれないよ」
「後、バインドもかけさせて貰うぞ。アースラ―――私らの母船の次元航行艦に戻るまで我慢してくれ」

そう言いながら、声を掛ける二人。
しかし、レイヴンは返事をしない。
怪訝に思ったなのはがレイヴンを見ると、彼は何か驚愕したような表情で、運び出されていくB班の様子を見ていた。

「レイヴン君?」
「あれは、一体何だ?どうやって人を浮かばせている?」
「え?いや、唯の浮遊魔法だけど・・・」
「魔法?」

レイヴンは信じられないという様に頭を降った。

「そんな物が現実に存在するなんてな」
「ひょっとして・・・」

なのはがある予感を感じながら、レイヴンに問い返した。

「魔法の事、何も知らない・・・?」
「ああ」

即答だった。
それだけでなのはとヴィータは、ある程度レイヴンのおかれた状況が分かり始めてしまった。

(魔法の事を何も知らないって事は、もしかしたら、レイヴン君はここの世界の人じゃないのかな?)
(もしかしなくてもそーだろ。つーか、こんな無人の筈の遺跡の奥深くに子供と使い魔一匹いるってだけで充分おかしい。たぶんだけど、何かのロストロギアでいきなり転送されたんじゃねーのか?)
(じゃあ、捜査対象の魔力反応は・・・)
(そのロストロギアが発生させたもんだろーよ)
(でもおかしいなあ。ここの遺跡を調査したのってユーノ君だよ。ユーノ君が、ロストロギアを見落とすことなんてあるかな?)
(私が知るかよ。でも、もしかしたらそのロストロギアはレイヴンの世界だけにあって、各世界へ勝手に飛ばす物かもしんねーだろ。それだったら、この遺跡からは何も出てこねーじゃねーか)
(あ、そーか。ヴィータちゃん、あったまい~)

そう、念話でなのはとヴィータが話し合っている間、レイヴンも現状の把握に努めているようだったが、如何せん情報が全くと言っていいほど少ないため、結局なのは達に尋ねることにしたようだ。
「とりあえず、魔法があることは分かった。君達やあいつらも魔法を使う組織に属してるんだろう。じゃあ、何で関係のない俺がこんな所にいるんだ?」
もっともな疑問である。


「あ、うん。それはね、私たちがロストロギアって呼んでる、古代遺産のせいだと思うの。たぶんだけど、レイヴン君がこの世界に転送された時に発生した魔力の調査の為に私達は、この遺跡にやって来たんだ」
「・・・?つまり、古代遺産の転送装置のせいで俺はここにいる、ってことか」
「現状ではそれくらいしか理由が思いつかないよ。レイヴン君がもといた世界に、何か変わった物はなかった?」
「いや、特にそれらしきものはなかった」
「それじゃあ、この遺跡に転送されてきた時、側には何もなかった?」
「その筈だ。少なくとも、俺が通ってきた道には何もなかった。シャドー、お前は何か見たか?」

しかし、傍らの黒竜は首を横に振るばかり。

「・・・だそうだ」
「もしかしたら、見落としてるかもしれねーしな。調査の続きもしなくちゃいけねーから、レイヴンの出てきた場所まで行ってみるか。道順は覚えてるか?」
「問題ない」
「じゃあ、さっきも言ったけど銃は預からせてもらうね」
「あとバインドもな。両腕を前に出してくれ」

そう言うと、なのはは足元に落ちていた銃を拾い上げ、BJのポケットに仕舞い込んだ。
続いて、ヴィータがレイヴンの両手首にバインドをかける。

「なるほど、これも魔法か。便利なもんだな」
「ごめんね。しばらくこのままになっちゃうけど」
「構わないさ。そうされても仕方がないことをやったんだからな」

苦笑しながら返すレイヴン。

「ほー、意外と聞き分けがいいじゃねーか。さっきまでの態度はどーしたよ?」
「ふん。やっぱり分かりやすい性格だなお前」
「っんだと!」
「もーう、だから喧嘩は駄目だってば!」

しかし、喧嘩は続くことはなかった。
なぜなら・・・・

「こちら、C班!遺跡入り口周辺にて、アンノウンと交戦中!至急救援を!繰り返す!現在、アンノウンと交戦中!至急救援を!なお、敵は、微弱ながらもAMFを纏っています!」
「「「!?」」」

突如として飛び込んできた、通信になのはとヴィータは顔を見合わせ、レイヴンに向き直った。
その表情から何を聞きたがっているかを察したレイヴンは、二人が口を開くより先に

「悪いが俺は何も知らない」

と言い放った。
なのはと違い、事の真偽を質したそうなヴィータだったが、すぐにそれが本当のことである事に気づかされることになった。
突然、シャドーが通路のある方向へ向き直り、唸り声をあげ始めたのだ。

「どうしたシャドー?」
「「?」」

何が起こっているか分からないままに、警戒態勢をとる3人。
そして次の瞬間だった。
シャドーが羽を広げるやいなや、何も見えない空間に向かって突撃していく。
そして80m先で金属のひしゃげる様な嫌なおとが響いてきたと同時に、なにもなかった筈の空間に突如として小型の機械が転がり出た。

それはまるで蜘蛛の様な機械だった。
鋭角的な胴体にカメラアイ、そして3対の足を持っている。
否、持っていたのだ。つい先程まで。
もはやそこにあるのは、ただの鉄屑だった。
カメラアイは粉々になり、5本の足がひしゃげて地面に転がっている。

そしてそれを行った張本人は、通路の先を警戒するように睨み据えていた。

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最終更新:2008年04月27日 21:09