「A班とD班は!?」
「まもなくC班と合流できます。あと2分です」
「負傷者は!?」
「今の所、軽傷者だけです。戦闘の続行には問題ありません」
「分かった。とりあえず、B班の回収が最優先だ。彼らを守りながら戦うのはさすがに不利だからな」
「了解。アースラの転送ポート使用可能地点まで後22分!」

ここは次元航行艦アースラの艦橋。
そこでは、つい先日、艦長に就任したばかりのクロノ・ハラオウンが、指揮をとっていた。


(初陣でまさかこんな事になるなんてな・・・)

クロノが心のうちで舌打ちする。
彼から見れば、現在、武装隊を襲撃しているアンノウンは質量兵器に該当するものだった。
あの遺跡に関するデータは、事前に無限書庫から取り寄せている。
それによれば、あの遺跡は遥か昔に滅んだ魔法文明が有していた美術館に該当する施設だ。
間違っても、あんな質量兵器を搭載した傀儡兵がいる筈はない。

(後であのフェレットもどきに調査依頼だな。文句は言わせないぞ・・・!)

数年来の友人を頭の中で思い浮かべながら、―――もっともその友人は嫌そうな顔をしていたが―――遺跡の中にいる筈のもう二人の友人の様子を尋ねるべく、クロノが口を開こうとした時だった。

「クロノ君!」
「よー、新人艦長!」

タイミングよく、当の本人達から通信が飛び込んできた。

「なのは、ヴィータ!良かった、無事か!?」
「うん、こっちは大丈夫だよ!ヴィータちゃんもいるしね!」
「分かった。いきなりで悪いんだが、そこからC班に合流するのにどれくらいかかりそうだ!?」
「何の妨害もなけりゃ、10分ありゃ着く」
「そうか、急いでくれ。今、A班D班も向かっているが、数は多いに越したことはない」
「了解だよ」
「りょーかい!後、こいつらはどうする?」

と、画面の中のヴィータが、隣の少年と黒竜を指差した。
クロノも画面に映った彼らを確認する。
報告にあった、B班を襲った犯人だろう。
大人しく投降したらしいが、現在の状況を考えれば、もっとも警戒しなければならない人物だ。
拳銃を所持していたというなら尚更の事だ。
そう考えながらもクロノは、どこか違和感を感じていた。
その違和感の原因は・・・

「何で彼を拘束しないんだ?」

そう、レイヴンはバインドを解かれていたのだ。
しかも、その事を画面上の二人は全く気にしている様子はない。

「あ、うん。詳しい事情はあとで話すけどね。レイヴン君は・・・」
「次元漂流者だ。たぶんな。それに外の奴らを襲ってる奴らとも、無関係だと思うぜ。こっちもさっき、奇襲されかけた」
「シャドーちゃんが、助けてくれたんだよ」
「・・・そうか」

二人の言葉に渋面を作るクロノ。
正直、彼はレイヴンの事を信用しきれずにいた。
なのはとヴィータを助けたのも、こちらを信用させる為の罠かもしれないとさえ思えてくる。

しかし、
(何を馬鹿な事考えているんだ僕は)
そんな可能性は、すぐに頭の中から消し去った。
もし彼の目的がこちらへの襲撃なら、わざわざB班の隊員を介抱する必要もないし、なのは達を奇襲から守ったりしないだろう。

(初任務でアクシデントに遭ったからって動揺しすぎだ。落ち着け、落ち着くんだ、クロノ・ハラオウン)

深呼吸したクロノは、自分が冷静な判断能力を取り戻しているのを確認すると、再びなのは達に声を掛けた。

「分かった。でも彼とそこの飛竜は、できれば合流しだいB班のやつらと一緒にこっちへ転送してくれ。銃はとりあげているな?」
「それはさすがにね・・・」

なのはが苦笑しながら答える。
「よし、じゃあ急いでくれ」
そう言って、クロノは通信画面を閉じた。

「つーわけで、調査は後回しだ」
「ごめんね、レイヴン君。無関係なのに巻き込んじゃって」
「単に運が悪かっただけだ。気にするな」

クロノとの通信から数分後、見えざる敵の奇襲を警戒しながらも、なのは、ヴィータ、レイヴン、シャドーの3人と一匹は、合流まで後2分弱という所まで来ていた。

「それにしても、さっきは本当に助かったよ。ありがとね、シャドーちゃん」
「・・・」

なのはが、あらためて傍らのシャドーに感謝を述べ、それを聞いていたレイヴンは何ともいえない顔をした。
しかし、感謝の念は伝わっている筈なのだが肝心のシャドーは何の反応もしなかった。

「うーん。私、嫌われてるのかなぁ?」
「気にすんなよ、なのは。って、レイヴン、おめー何て顔してやがる」
「いや、何でもない。それこそ気にするな。それより、そろそろじゃないのか?」

レイヴンの言う通り、通路の先から鈍い音が響いてきた。
また、周りの壁にも大小含めて、多くの傷跡が奔っている。
戦闘の現場に近づいている、何よりもの証だった。

「言われなくても分かってんよ。んな事より、問題はおめーの方だ、レイヴン」
「たぶん、外に出たらすぐに戦闘になると思うの。敵はAMFっていう特殊なフィールドを展開してるから、もしかしたら突破するのに時間をとられちゃうかもしれない」
「その間、おめーを守るのに私らのどっちかが一人ついていたら、突破できるのも突破できねー。だから・・・」
「だから、自分の身は自分で守れってことか?別に構わないけど、銃を取り上げておいて酷い事を言うんだな」

皮肉気にレイヴンが返す。
だが、本気でそう思っていないことは一目瞭然だった。
なぜなら彼の表情には、怯えという感情が全くなかったからだ。

「な、ならいいんだけどよ。気をつけろよ。間違っても油断なんかすんじゃねーぞ」
「言われなくてもそうするさ。第一、その言葉を掛ける相手は俺じゃないだろ」
「何?」
「高町だったか?今一番気をつけなきゃいけないのは、お前だ」
「「え?」」

予想外の言葉に思わず立ち止まり、レイヴンに振り返るなのはとヴィータ。
それはそうだろう。
高町なのはは、管理局でエース・オブ・エースと言われるほどの実力者である。
油断などといった言葉は、彼女と最も縁遠い言葉だ。
そんな彼女が、この中で最も気をつけなくてはいけない?
質の悪い冗談ととられても仕方がなかった。
しかし、レイヴンからは冗談をいっている気配は全く感じられなかった。
      • そう、彼は本気で高町なのはの事を心配していたのだ。

「や、やだなぁ、レイヴン君。私なら大丈夫だよ」
「そーだ。いきなり変な事言ってんじゃねえ」
「・・・ならいい。間違っても無茶はするなよ」
「うん、ありがとう」

そして3人と1匹は、とうとう遺跡の出入り口にたどり着いた。
もはやはっきりと轟音が聞こえ、激しい振動も伝わってくる。
それが、戦闘の激しさを物語っていた。

「じゃあ、俺はこの入り口付近で待機する」
「うん。終わったらすぐに来るから!」
「ヘマすんじゃねーぞ!」

そう言い残すと、なのはとヴィータは戦場に向かって飛び立っていった。


Another View (Raven)

飛び立っていく二人を見送りおえると、シャドーに周辺の警戒を任せ、万が一の時の為に確認作業にとりかかった。
腰部のポーチを取り外し、中身の薬草を検分する。
とりあえず、外傷に効くものは全体の4割しかなかった。
後は全て、現状役に立たない内服薬だ。

(まあ、ないよりましか。しかし、この知識が役に立つ時が来るとは思わなかったな・・・。その点だけは、プロイツェンに感謝しないでもないか)

あの傲慢極まりない男に仕込まれたのは、何も戦闘技術だけではない。
本物の薬屋をしても生きていける様に帝国の施設で徹底して叩き込まれた。
当時は、全く無駄な知識としてしか感じていなかったが、世の中何が起こるか分からないものだ。

(それを言うなら今の俺もそうか・・・)

自嘲する。今の自分を見れば、昔の自分はどうするだろう。
恐らく呆れ果てるに違いない。
いや、見下すだろうか?

(だが、放っておけない)

彼女、高町なのは―――自分とシャドーを君付け、ちゃん付けで呼んだ初めての人物―――は無理をしている。
それも致命的な。
あれは恐らく、周囲に黙って長い間無茶をし続けて体に爆弾を抱えこんでいる。
相棒のヴィータも気づいた様子はない。
恐らく、今は本来の力を発揮できないでいるだろう。
そしてそんな事に気づけるのには理由がある。

かつてシャドーがそうであったからだ。
シャドーが赤熱化し、活動を停止した時の光景はよく覚えている。
そしてその時に抱いた、悲しみ、喪失感も。
それらのおかげで、相当な無茶をしでかしている人を見ると、何故かある予感ともいえるものを感じられる様になった。

(今の俺があるのは、良くも悪くもあの時のおかげなんだろうな・・・!)

チェックを終える。
確認できたのは、応急処置が出来る程度の装備しかもっていないという事だけだ。

(何も起こらなければいいんだが・・・)

自分に分かるのは爆弾を抱えているかどうかだけだ。
いつ爆発するか、どれほど重症なのかは、残念ながら分からない。

(今日爆発してくれるなよ)


Another View End(Raven)


戦場に飛び出したなのはとヴィータが目にしたのは、B班を守る様に扇状に展開したA、C、D班の姿だった。
まだ、アースラが転送可能地点に到着していないのか、B班が転送される様子はない。
そして、仲間を襲う様に展開する、機械兵器の群れ。
遺跡内部でシャドーが破壊した多足型もいるが、見慣れない形状の方が数多く確認できた。
しかも、質の悪いことにAMF装備ときている。
いくら微弱なAMFでもあれだけの数がいれば、効果範囲も相当広がっているだろう。
一般隊員には厳しい状況の筈だ。

「よし、行こう!ヴィータちゃん!」
「任せな!アイゼン!」
「ja!」


なのはが声を掛けると同時にヴィータがシュワルベフリーゲンを放ちながら、敵の真っ只中に切り込んだ。
先行して撃ちだされた鉄球が機械兵器を打ち砕き、続いてグラーフアイゼンが取り囲もうとした敵を纏めて薙ぎ払う。
さらに、

「スターダストフォール!」

なのはの魔法によって加速させられた多くの岩塊が、ヴィータを援護するべく降り注いだ。

そう、いかなAMFといえど、近接戦闘を主としアームドデバイスを装備する古代ベルカ騎士にとっては何の障害にもならず、また、その効果範囲外で魔法によって加速した物質まで防ぐことはできない。

その点を見事に突いた二人の立派な連携により、機械兵器はみるみるうちに数を減らしていく。
また、数が減ったことにより効果範囲が狭まったのか、防衛に徹していた隊員たちも、なのは達を真似て攻撃を始めた。
おまけにB班の隊員の何人かが目を覚まし始めている。
もはや機械兵器が駆逐されるのは、時間の問題だと思われた。

しかし、突然の事だった。
機械兵器が単純でバラバラな動きを止め、全体で連携する様な動きを始めたのだ。
合流していたなのはとヴィータは、上空でその動きを確認し、首をかしげた。

「どーいうこった?何でいきなりこんな動きを?」
「まるで誰かが指揮を執ってるみたい。・・・っ!ヴィータちゃん、あれ!!」
「あれは!!」

彼女らの目に飛び込んできたのは、武装隊から退却する様に遺跡の方へ移動していく多足型の機械兵器であった。
しかしながら、先程まで相手にしていたものよりも2回り程大きく、また目を凝らせば細部が違っているのが確認できた。
なによりもの特徴が背面に取り付けられたアンテナのような部品である。
おまけに周囲にはそれを守ろうとするかのように数十体もの機械兵器が併走している。
それだけでも、他の機械兵器達とは訳が違うことが窺えた。

「もしかして・・・あれが指揮官なのかな?」
「たぶんそうだろうな」
「じゃあ、あれさえ叩けば!」
「何とかなるかもしれねー!」
「こちら高町なのはです!敵の隊長と思しきタイプを捕捉!これより・・・って、あれ!?通信が・・・!」
「妨害されてる!?くっそ、小賢しい真似しやがって!」
「クロノ君、聞こえる!?クロノ君!?・・・駄目だ。アースラとも繋がらない!」
「・・・っ!まずいぞ、なのは!!あのままだとレイヴンの野郎、連中と鉢合わせだ!」
「本当だ!急ごう、ヴィータちゃん!」
「おーよ!」

その掛け声と共に二人は、敵に向かって急降下していく。
そして例の如くヴィータが先陣を切った。

「ギガントハンマァ!」

グラーフアイゼンから空薬莢が舞うと同時に、ヴィータが巨大化したそれを振り抜きながら、敵のど真ん中に着地する。
その時には既に護衛の機械兵器の6割が行動不能になっていた。
さらに上空からのなのはの援護も加わり、あっという間にそれらは数を減らし、残すところ10機となっていた。



(楽勝だなこりゃ。ま、機械如きに後れを取るようじゃ、ベルカの騎士の名折れもいいとこなんだけどよ)
(でも、油断大敵だよヴィータちゃん。指揮官タイプを倒したといっても、さっきまでのとは動きが段違いだったんだし)
(わーってるよ、そんくらい。んじゃ、さくっと片付けるから援護よろし・・・っ!なのは、下だ!!)
(大丈夫!!)

ヴィータが念話で声を荒げる。
突如、ヴィータをロックしていた機械兵器が目標を変更、なのはに向けて攻撃を始めたからだ。
もちろん上空に待機していたなのはは、回避行動をとろうとした。


しかし突然の事だった。
なのはの足に展開されていたアクセルフィンが輝きを失ったのだ。
そして空中で満足に動けなくなったなのはに、大量の攻撃が襲い掛かった。
かわせないと悟ったなのはは、シールドを展開する。
ところが先程まで楽々と防げていた筈の攻撃をなのはは、防ぐことは出来なかった。
敵の砲弾が次々になのはのシールドを貫通し、直撃していった。

「なのはぁぁぁぁ!!くそ!こいつらぁぁぁぁ!!」

この光景を目にしたヴィータは逆上し、残る10体の機械兵器を言葉通り一瞬でスクラップへと変えた。
そして大急ぎでなのはのもとへ向かった。
辿り着いたヴィータが目にしたのは、バリアジャケットに血を滲ませ地面に横たわるなのはの姿だった。
ヴィータには、一目見ただけで命に関わる重傷だと分かった。

「おい!おい!なのは、しっかりしろ!」
「・・だぃ・・・・から」

恐らく、“大丈夫だから”だと言いたいのだろうが上手く言葉にできていない。
こんな時でもなのはは、ヴィータを心配させまいとしていた。

「くっそ!クロノ!聞こえるか!」
「・・ヴィ・・タ・・?。ど・・・・。よく・・き・・・・なぃ」
「大変なんだ!なのはが・・・!なのはが・・・!早く医療班を!」

すぐにヴィータは通信画面を呼び出した。
途切れ途切れながらも通信が繋がってくれた事に感謝しながら、通信画面に向かって救援を要請しようとする。
しかし、再び激しいノイズがかかり始め、ヴィータは狼狽した。

「何でなんだよ!何でこんな時に!頼む!繋がってくれ!」
「意外だな。回復用の魔法はないのか」
「・・・!?」

思わず振り返るヴィータ。
そこにはシャドーを従えたレイヴンが立っていた。

「おめー、何でここに!」
「入り口から全部見えていた」

そう答えながらレイヴンはなのはのもとに辿り着くと、腰のポーチから水の入った容器、薬草、包帯を取り出した。

「手当てする。応急処置くらいしかできないが、何もしないよりはましだ」
「な!?た、頼む!なのはを助けてくれ!」
「じゃあ手伝え。まず服を脱がさないといけない」
「・・・っ、待て!」
「緊急事態なんだ、仕方がないだろ」
「違う!レイジングハート!生きてるか!?」
“はい、まだいけます”
「すぐにバリアジャケットをパージしてくれ!!」

ヴィータの要請を受け、レイジングハートがバリアジャケットを解除する。
次の瞬間、なのはの惨状が二人の目に飛び込んできた。

「うっ・・・!」
「ひどくやられたな」

顔を歪めるヴィータとは対照的にレイヴンは落ち着いていた。
その落ち着き払った態度に何か言いかけたヴィータだったが、レイヴンの目を見ると喉元まで出掛かった言葉は、自然と消えていった。
なぜなら、彼の目からなのはの事を真に心配していることが分かったからだ。

ヴィータが見守る中、レイヴンは水でなのはの傷の周りを洗い流し始めた。
ヴィータはその手つきに手馴れたものを感じ、思わずレイヴンに話しかけていた。
或いは、話をすることで自分自身の不安を紛らわせたかったのかもしれない。

「おめー、医者なのか?」
「違う」

ヴィータの問いかけにレイヴンは作業の手を緩めることなく即答した。

「軍人だった」
「そうか・・・。シャドーも軍に?」
「まあそんなところだ。驚かないのか?」
「そんな気はしてたからな」
「そうか」

空になったボトルを脇にどけながら注射器を取り出し、中身を確認するレイヴン。

「それは?」
「麻酔だ。安心しろ、副作用はない。・・・押さえてろ」

レイヴンの指示に大人しく従うヴィータ。
しばらく、このような光景が続いていた。


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最終更新:2008年11月12日 23:06