海岸沿いに建つ真新しい建物――機動六課隊舎へと続く、舗装されたばかりの道を、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエは並んで歩いていた。
 卸したての制服は二人とも袖が余り、十歳という年齢相応の幼い顔立ちとも相まって、服を着ているというよりも服に着られているような印象を周囲に与える。

「スターズ隊の前衛って、どんな人達なのかな……?」
「上手くやっていけると良いね」

 不安そうに俯くキャロに、エリオはそう言って笑いかけた。
 右手でキャロの左手を取り、元気付けるようにぎゅっと握り締める。
 初めての職場のまだ見ぬ同僚に、不安や緊張を抱くのは仕方がない……それはエリオも同じである。
 しかし、自分達ならば上手くやっていけるという自信もエリオにはあった。
 初めて会ってから数日しか経っていない自分とキャロはもう友達になれた、他の六課の仲間ともきっと一緒に頑張っていける。

「一緒に頑張ろう」

 屈託なく笑うエリオにキャロも顔を上げ、「うん」と笑顔で頷いた。
 握った右手がキャロからも握り返され、掌を通じて体温が伝わってくる。
 いつの間にか足は止まり、互いにじっと見つめ合う少年少女……。
 完全に二人だけの世界に入ってしまったエリオとキャロに、キャロの傍らを飛ぶ白い小さな龍――フリードは呆れたように火を吐いた。
 往来の真ん中で人様に迷惑だとかお前ら初日から遅刻するつもりかとか、言いたいことは山程あるが、しかし今の二人の間に割って入るだけの度胸はフリードには無い。
 どうしたものかと天を仰ぐフリードは、その時、蒼天の彼方でキラリと光る何かを見た。
 流星だろうか……徐々にその大きさと輝きを増すその「光」に、フリードは現実逃避でもするようにぼんやりと思考を巡らせる。
 段々と近づいてくる光を眺めながら、フリードはふと気付いた……あれ、これってもしかして直撃コースじゃね?
 青ざめるフリードが警告の鳴き声を上げようとした、その瞬間、一枚の巨大な光の「壁」がギロチンのように二人と一匹の眼前に突き刺さった。

「うわっ!?」
「きゃあ!!」

 地を揺るがす衝撃と舞い上がる土煙に、エリオ達は思わず悲鳴を上げる。
 二人の目の前にそそり立つ巨大な「壁」――否、空を切り裂き、雲を貫き、轟音と共に地面に垂直に突き立ったそれは、巨大な、余りにも巨大な……「道」だった。
 不測の事態はまだまだ続く。
 空へと続く光の「道」――その向こう側から、何かが来る、何か巨大なものが駆け下りてくる。

「赤い、ロボット……?」
「顔のお化けだ……」

 呆然と呟くエリオとキャロ、二人の言葉が全てを語っていた。
 二人の頭上を飛び越え、地響きと共に着地した「道」の主、それは赤を基調とした鋼の巨人だった。
 鬼を思わせる額の一本角、爬虫類のような尻尾、そして胴体部分を占領している第二の「顔」……。
 その全てが、禍々しい。

 混乱した思考は徐々に落ち着きを取り戻し、二人は接近する異形の巨人の正体を冷静に推測する。
 凶悪な外見に、機動六課の正式稼動直前の隙を狙ったかのようなこのタイミング。
 この「道」にしてもよくよく考えてみれば、自分達を狙った奇襲攻撃と思えなくもない。
 敵であることは最早明白、ならば自分達のするべきことは一つ……

「起きろ、ストラーダ」

 エリオの呼びかけを受け、右手首に巻かれた腕時計――ストラーダの液晶が明滅する。
 キャロの左手首を飾る二つの腕環――ケリュケイオンも、主の闘争の意思を感じ取ったように淡い輝きを発している。
 エリオがキャロを見る、キャロもエリオを見ている。
 軽く頷き合うだけで互いの意思を把握し、二人は固く握っていた手を離す。

「ストラーダ!」

 エリオが右手で拳を握り、

「ケリュケイオン!」

 キャロが左手を高く掲げる。

「「――セットアップ!!」」

 凛とした主の声に応えるように、二つのデバイスは光と共にその真の姿を現す。
 フリードも臨戦状態に入ったのか、可愛らしくも雄々しい咆哮を上げた。
 機動六課は自分達が守る……熱い誓いを胸に抱き、少年少女とその他一匹の戦いが始まろうとしていた。



 同時刻、機動六課隊舎部隊長室。
 来客を告げるブザーの音に、はやてとリインフォースⅡは顔を上げた。

「はい、どうぞ」

 はやての了承の声と共に自動扉が開き、機動六課の制服に着替えたなのはとフェイトが姿を現す。

「お、二人ともキまっとるやん」
「お似合いですー」

 口々に褒めるはやてとリインフォースⅡに、なのはとフェイトは照れたように笑みを浮かべる。

「この部屋も、やっと隊長室らしくなったね」

 そう言って部屋の中を見回すなのはに、はやても笑顔で頷く。
 最初は何も無い、ただ広いだけの部屋だった。
 そこにまず机が運び込まれ、続いて書類や他の備品、その他様々な物資が部屋中に無秩序に置かれていった。
 山のように積み上げられた段ボール箱を一つ一つ開き、必要なものを必要な場所に整理していく――そうして漸くオフィスらしい体裁を整えきったのが、昨日の夜遅く。
 この部屋がこの部屋らしくなるまでの一連の流れは、はやてが機動六課設立のために奔走したこの四年の月日そのものだった。

「……やっとや。やっとこれから、始まるんや」

 感慨深そうに呟くはやてに、なのはとフェイトが同意するように首肯する。

「高町なのは一等空尉」

 背筋を伸ばし、管理局員としての名を名乗るなのは。

「フェイト・T・ハラオウン執務官」

 表情を引き締め、魔導師としての名を告げるフェイト。

「本日只今より、両名共機動六課へ出向となります」
「どうぞ宜しくお願いします」

 そう言って敬礼するなのはとフェイトに、はやても敬礼と共にこう応える。

「こちらこそ、よろしくお願いします。なのは隊長、フェイト隊長」

 形式通りの就任挨拶を終え、久々に同じ制服で揃った幼馴染三人は、懐かしさと気恥ずかしさに笑い合う。
 中学校卒業と共に正式に管理局に入局した三人は、それぞれ別の道を歩き始めた。
 なのはは教導官、フェイトは執務官、そしてはやては捜査官。
 違う色の明日を目指して別たれた三つの道は、しかし再び一つに繋がった。
 それが一瞬の交錯に過ぎなくても、目指す明日は違うままでも、もう一度三人で「今」を生きられる。
 たったそれだけのことが、三人には堪らなく嬉しかった。

「頑張っていこーか!」

 気合いを入れるはやてになのは達も力強く頷こうとしたその時、非常事態を告げるサイレンの音が隊舎中に響き渡った。

『緊急事態です。八神部隊長』

 動揺する三人の前にウィンドウが開き、眼鏡をかけ落ち着いた物腰の青年――グリフィス・ロウランの顔が映し出される。

「グリフィス君! これは一体何事や!?」

 絶妙なタイミングで現れた副官に、はやてが詰め寄る。
 その剣幕に気圧されながらも、グリフィスは己の仕事を全うするべく口を開いた。

『報告します。機動六課敷地内で中規模の戦闘発生、現在隊舎前でライトニング隊前衛二人とスターズ隊前衛二人が戦っています』

 グリフィスからの報告に、はやて達の間に緊張が走る。
 正式稼動前とはいえ敷地内、それもこの隊舎前まで敵の侵入を許した上、迎撃に出ているのは経験の浅い新人四人……分が悪いにも程がある。

「これは、ちょっとマズいかもね……」

 ぽつりと呟かれたなのはの言葉に、はやても青ざめた顔で頷く。

「グリフィス君、敵の種類や数は? エリオ達は何と戦っているの?」

 はやての横からウィンドウを覗き込み、フェイトがグリフィスに問い質す。
 エリオもキャロもまだ十歳、その上戦闘の経験も皆無である。
 そして何より、フェイトにとって二人は部下である前に大切な家族なのである。
 泣きそうな表情でウィンドウを見つめるフェイトに、グリフィスは何故か複雑そうな顔で目を逸らした。

「……グリフィス君?」

 副官の不自然な行動にはやてが怪訝そうに眉を寄せる。

『いえ、ですから……「ライトニング分隊前衛二人とスターズ隊前衛二人が」戦っているんです』

 言い辛そうに、本当に言い辛そうに繰り返されるグリフィスの報告――先程と同じ、しかし決定的に何かが違うその言葉に、なのは達は先程とは別の意味で息を呑んだ。

 まさか……。

 唖然とした顔で顔を見合わせる三人の前に、新たなウィンドウが表示された。
 外の様子を映し出したそのウィンドウの中では、……確かに「ライトニング分隊前衛二人とスターズ隊前衛二人が」戦っていた。



「皆は僕達が守るんだああああっ!!」

 槍型のデバイス――ストラーダのブースターを噴かし、怒号と共にラゼンガンに突撃をかけるエリオ。
 砲弾のようにラゼンガンに体当たりし、そして吹き飛ばす。
 全長20mの巨体が宙を舞い、土煙を上げて地面に叩きつけられる。

『ぁ痛たた……こらー! 話を聞きなさいよ、この馬鹿ガキ共!!』
『そうそう! あたし達を誰だと思ってるの!?』

 憤慨したようにティアナとスバルの声で抗議するラゼンガンに、エリオは問答無用とばかりにデバイスを構え直した。
 その足元に展開される魔方陣――加速と防御の呪の込められたキャロの補助魔法が、エリオに力を与える。
 エリオの目つきが刃のように鋭くなり、瞳の奥では覚悟の炎が燃えている……再度突貫する気満々である。

『ティ、ティア! やっぱりウィングロードで人身事故起こしかけたのを怒ってるのかなぁ!?』
『アンタ馬鹿ぁ!? そんな悠長なこと言ってる余裕なんて無いでしょ!!』

 狼狽える上の顔を一喝する下の顔、その一瞬の隙をエリオは見逃さなかった。
 ストラーダのブースターを全開で噴かし、そして自身も全力で地を蹴る。
 一瞬でトップスピード――キャロの魔法の加護でそれ以上の速度域まで加速したエリオが、弾丸のようにラゼンガンに迫る。

『この馬鹿ガキ……いい加減にしなさいよ!!』

 怒髪天を衝く――寧ろ怒リル天を突く。
 ティアナの怒声と共にラゼンガンの全身からドリルが突き出し、触手のようにうねりながらエリオに襲いかかった。

「うわっ!?」

 咄嗟に防御陣を展開するエリオだが、迫り来る無数のドリルの触手の猛攻に抗しきれずに墜落、限界を超えた突進速度そのままで地面に叩きつけられた。

「エリオ君!?」

 撃墜されたエリオにキャロが悲鳴を上げながら駆け寄る。

「だ、大丈夫……!」

 そう言ってデバイスを杖代わりに立ち上るエリオだが、墜落のダメージで膝は震え、強がるような言葉とは裏腹に全然大丈夫そうには見えなかった。

 ラゼンガンからの思わぬ反撃、その事実に一番動揺していたのは、他ならぬラゼンガン自身だった。

『ちょっと、ティア!? 何反撃してるの!?』
「黙れ馬鹿スバル! アンタこの状況が解ってないの!?
 所長もはやて部隊長も言ってたでしょ? やらなきゃ殺られる、戦わなければ生き残れない……そう、これは戦争なのよ!!」
『その相手が根本的に間違ってるよーな気がするのはあたしの気のせいかなぁっ!?』

 絶叫するスバルを無視して、ティアナはラゼンのモニター越しにエリオ達を睨みつけた。
 この生意気なガキ共に灸を据えてやる……頭に血が上った今のティアナの思考は、その衝動一色に染まっていた。

「スバル、躾ってさ……ついハードになっちゃうものよね?」

 静かな、まるで凍てついたように静かなティアナの声に、スバルは思わず身を震わせた。
 ヤバい、このままじゃ洒落にならない……通信ウィンドウに映るティアナの顔から危険な何かを感じ取り、スバルはラゼンガンの制御を奪い取った。

「えーと、あのね……」

 暴力はいけないと思うから話し合いで解決しよーと続く筈だったスバルの思いは、しかし言葉になる前に喉の奥で消滅していた。
 キャロが――白い小さな龍を従え、傷ついたエリオを守るように立つ桃色の髪の少女が、ラゼンガンを――否、そのコクピットシートに座るスバルを、睨みつけている。
 幼い瞳に浮かぶのは、大切な人を傷つけられた怒り、傷つけ合うことしか出来ない哀しさ、そして傷つき傷つけてでも大切なものを守る決意。
 覚悟の炎が、燃えていた。

「フリード」

 傍らを飛ぶフリード――卵の頃からずっと傍にいてくれている小さな「家族」に、キャロは優しい声色で語り掛ける。

「ごめんね、窮屈な思いをさせて……」

 フリードのこの小さな身体は、本来の姿ではない。
 大き過ぎるが故に恐れられ、偽りの器に押し込めた本当の力と姿――白銀の飛龍。

「私は自分の力が嫌いだった。フリードのことも、もしかしたら嫌いだったのかもしれない……」

 それは偽らざるキャロの本心だった。
 制御不能な力はキャロから居場所を奪い、孤独と恐怖を押しつけ続けた。
 破壊しか生まず、奪うだけで何も与えてくれない己の力――そしてその象徴、フリードリヒ。
 嫌わぬ筈が無い、憎まぬ道理が無い。

「でも……」

 しかし今、嫌っている筈のフリードの力を、憎んでいる筈の自分自身の力を、キャロは何よりも欲していた。
 奪われないために。
 守り抜くために。

「私はもう逃げない! フリードからも、自分自身からも!!」

 それは決意だった――自分自身と真っ直ぐに向き合う、そんな覚悟。
 それは覚悟だった――どんなに大きな力でも背負ってみせる、そんな覚悟。
 そしてそれは誓いだった――自分のこの力で優しい人を、自分に笑いかけてくれる人達を守り通す、そんな誓い。
 故に少女は力を求める、傍らの半身に力を請う。

「だからお願い、力を貸して……フリードリヒ!!」

 その言葉と共にキャロの足元に巨大な魔方陣が展開され、フリードが歓喜するように咆哮を上げる。
 名前は力を持つ――地球やキャロの出身世界〝アルザス〟など、次元世界各地に残る伝承である。
 魔法理論の発達した現代では迷信として廃れた思想だが、嘘の筈は無いとフリードは思う。
 現に名前を、自分の本当の名前を呼ばれただけで、自分はこんなにも力が湧いているのだから……。
 フリードの小さな身体が光と共に弾け、代わりに地上の魔方陣から巨大な影が浮上する。

「これが、フリードの本当の姿……?」

 呆然と呟くエリオを一瞥し、キャロは最後の仕上げに入る。
 名前は力を持つ――故郷アルザスに伝わる言い伝えを、キャロもまた信じている。
 ここ一番の大舞台に名乗りは不可欠、名前を飾る口上も欲しい。
 故にキャロは告げる、この名前を。
 自分の力を、自分達の存在を、世界に宣言する。

「白き閃光蒼穹を奔り、銀の翼が天を翔ける! 龍魂召喚フリードリヒ、私達を誰だと思っているの!!」

 凛としたキャロの名乗りに呼応して、白銀の飛龍――フリードリヒの咆哮が轟く。
 宝石のような瞳に輝く、闘争の炎と理性の光――かつて幾度となく暴走し、その度に何もかもを壊し続けてきたフリードリヒの力を、キャロは完全に制御していた。

 初めての龍召喚成功。
 それはキャロにとっても、機動六課にとっても、本来喜ぶべき結果であろう。
 惜しむらくはその矛先が、龍使いの少女とその半身が敵意の牙を向けるその先が、他ならぬ機動六課の仲間であるということである。
 誤解という名の運命の皮肉に気付くことなく、指し手のいない盤上の駒達は最悪の結末へと進もうとしていた。

「ちょっとちょっとちょっとちょっとぉっ!?」
「何よアレ? 何よアレ!? あんなのアリ!?」

 巨大化したフリード――フリードリヒの姿に、スバルとティアナはラゼンガンのコクピットで、狼狽えたように声を上げる。
 フリードリヒの大きさはラゼンガンの半分程度、しかしその存在感は圧倒的である。
 白銀の飛龍の口元に光と炎が集い、激烈な輝きが周囲を眩く照らす。

「……やるしか、ないっていうの!?」

 血を吐くようなスバルの叫びと共に、ラゼンガンの全身から突き出したドリルが右腕に絡みつき、一本の巨大なドリルとして融合成長していく。

『ちょっとスバル、それはっ……!!』

 通信ウィンドウに映るティアナが血相を変えて叫ぶが、スバルは止まらない、止まれない。
 コンソール中央の渦巻き状のゲージ――スバルの螺旋力を示すそれは一向に上昇の気配を見せない。
 それはある意味、当然である。
 攻撃に迷いのある今のスバルに、自分を信じていない今のスバルに、螺旋力の発動など出来る筈が無いのだから。
 にも関わらず、右腕のギガドリルは巨大化を続けている、膨張を続けている。
 まるで風船のように外側だけが膨らみ続ける、中身の無い空っぽのドリル――それは今のスバルの心そのものだった。
 しかしそれでも、砲撃を貫き飛龍の大きくも小さな身体を貫く程度のことは、この空っぽのドリルでも可能なのだ。

 極限まで膨れ上がる二つの敵意と殺意が、次の瞬間、爆発した。

「ブラストレイ!!」

 キャロの号令と共にフリードリヒが火球を放つ。

「ギガドリルブレイク!!」

 スバルの絶叫と共にラゼンガンのギガドリルが咆哮を上げる。

 駆け引きも何も無い、純粋な力と力――想いと思いの正面衝突。

 そして次の瞬間……、

「え……?」

 その気の抜けたような呟きは、果たして誰の発したものであったのだろう。

 どちらかを必ず滅ぼす筈の二つの必殺の一撃は、しかしどちらを滅ぼすことも、それも互いに届くことすらなく、両者の中間で止まっていた。

 ……否、止められていた。

 背中合わせにラゼンガンとフリードリヒの間に立つ、二人の乱入者によって。

『なのはさん……?』

 桜色の防御陣でギガドリルを受け止める、亜麻色の髪の魔法少女がいた。

「フェイトさん……?」

 金色の防御陣で火球を押し止める、金の髪の魔導師がいた。

「皆……少し、頭冷やそうか」

 能面のように無表情な顔で、氷のように凍てついた声で、なのはがラゼンガンー―スバルを見下ろし、そう口にする。

「やんちゃが過ぎる子には、おしおきが必要だよね……?」

 額にうっすらと青筋を浮かべ、フェイトがエリオとキャロ、そしてフリードリヒを順番に眺め遣り、そう告げる。

 それは実質的な死刑宣告だった。

「「フルドライブモード」」

 二人の号令と共に、レイジングハートが槍型に、バルディッシュが大剣型に変形する。
 そして間髪入れずに魔力の充填を始める二人のオーバーS級魔導師に、四人の顔から血の気が引いた。
 慌てた四人が言い訳する余裕も、逃げ出す隙も与えることなく、二つの必殺を超えた超必殺魔法が、解き放たれる。

「エクセリオンバスター!!」
「トライデントスマッシャー!!」

 その瞬間、桜色の光の奔流と金色の雷が、二人と一匹と一体を呑み込んだ。



「……まさか運用初日から、しかも味方相手に限定解除使う羽目になるとは、流石に思わへんかったよ……」

 ウィンドウに映し出される、焼け焦げ、大きく穿たれた地面。
 その中心で目を回すライトニング隊前衛の二人と一匹と、ガラクタ同然まで破壊されたスターズ隊所属の巨大ロボの姿に、はやては万感の思いを込めて嘆息した。
 ウィンドウに映るグリフィスも呆れたような表情を浮かべている。
 四年越しで実現したはやての夢――機動六課。
 しかし待ちに待ったその船出は、早速悪天候どころか嵐に見舞われることとなった。
 新人四人への説教やら本部への始末書やらを思い遣り、はやてはもう一度大きく息を吐いた。

「……色々と波乱万丈やね、うん」

 現実逃避するようにそう零しながら、はやては手元のメモ用紙にペンを走らせる。

 ――第一回機動六課分隊対抗ガチンコバトル。
 ――結果:両分隊隊長の独り勝ち。

「負けんでぇ……ウチはこの程度では折れへんでぇーっ!!」

 自棄になったようなはやての空虚な雄叫びが、部隊長室に響き渡った。



天元突破リリカルなのはSpiral
 第6話「色々と波乱万丈やね、うん」(了)

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最終更新:2008年09月05日 17:36