第3話 笑わない姫君



「スバル、いい動きになってきてるよね~」

 風呂上りのシャーリーやアルトやルキノ、ヴィヴィオにルーテシアにキャロがスバルの話をしている。
 スバルがグランカイザーで出撃してから1週間が経つ。スバルはグランカイザーに本格的に乗るための訓練を初め、スバルの動きは最初に乗った時よりも動きが格段によくなっていた。

「もしかしたら、本当になのはさん越えもありえたりしてね~~」
「なのはママは強いから、簡単に越えられないよ~~」

 ヴィヴィオは孤児であり、数ヶ月前に聖王教会に拾われ、最初は誰にも懐こうとしなかったがなのはにだけは何故かよく懐くようになり、1週間くらいでフェイト、
 それからは今のように他の人間にも懐いている。特になのはとフェイトに懐き、なのはを「なのはママ」、フェイトを「フェイトママ」と呼ぶ事がある。

「まあ、なのはさんは確かに強いよ…」
「スバルがなのはさんを越えるのはまだまだかもね…」
「うん?」

 シャーリーやアルトがヴィヴィオをフォローしていると、ルーテシアは何かを見つけたような顔をする。

「どうしたの? ルーちゃん」

 キャロがルーテシアの顔を見て、ルーテシアに尋ねる。

「今、あっちに何か通った気がしたの…」

 ルーテシアが指を指す方向は、電気がついていない薄暗い廊下であり、ルーテシアが指差した方向を皆で見ていると突然その廊下を何かの影が通り過ぎるのを全員で目撃する。
 その廊下を通り過ぎる影を見て、皆は恐怖して叫び声を上げる。

「「「「「「きゃああああああああああ!!」」」」」」


「北館の方に幽霊がいる~?」

 キャロはさっきまでの事をスバルとティアナに話す。

「そうなんです。それは突然その廊下に現れて横を通り過ぎたら突然消えたんです」
「あんた達、その影の後を追った?」

 ティアナがキャロに質問をする。

「いえ、怖くて…」
「そっか……」
「それじゃあ、おやすみなさい…」

 キャロは話すことを話して自分の部屋に戻る。

「ねえ、ティア…」
「何よ、まさかあんたも幽霊がいるって言うんじゃないでしょうね……」

 ティアナがスバルに聞くが、スバルは真剣な表情をして言う。

「その影ってひょっとしてギン姉かも……」
「……まあ、その可能性はないとは言えないわね」
「だからさ…、あたし達も行ってみようよ。その北館。今からさ……」
「い、今からーーーー!?」


 スバルとティアナはキャロ達が幽霊を見かけたという、北館付近の廊下にやって来る。

「ねえ、ティア」
「な、何?」
「ティア、ひょっとしてこういうの苦手?」
「馬鹿いわないでよ。別に問題ないわよ」

 二人がそうこう話していると、薄暗い廊下に何かが通り過ぎるの見る。
 二人はその何かが小さいものであることに気付く。

「ねえ、ティア…」
「わかってる…」

 二人が用心しながら暗い廊下の方に向かい、そしてその影が通った方を見る。
 するとそこには一匹のフェレットがいた。

「何だ、フェレットか…」
「でも何でフェレットがこんなところに……」
「ごめんなさい」
「「え?」」

 突然の声にスバルとティアナは驚く。

「ど、どこ!?」
「どこから声が……」
「ここです。君達の下です」

 スバルとティアナが言われるがままに下を向くとそこにはフェレットがいる。

「「まさか………」」
「僕です」

 二人はフェレットが喋っている事に気付いて思わず悲鳴を上げる。

「「きゃあああああああああ!!」」
「お、落ち着いて…。今、元に戻るから……」

 するとフェレットの体が光だし、フェレットから一人の男性にと姿を変える。スバルとティアナはさらに驚きの声を上げる。

「「えええーーーーーーーーーー!? フェレットが人になった……」」
「こっちが本当の姿だよ……」

 フェレットだった男の人はスバルとティアナを落ち着かせようとする。
 それから数分後、スバルとティアナはようやく落ち着く。

「僕はユーノ・スクライア。無限書庫の司書長をやってるんだ」
「え~と、ユーノさんでいいのかな?」
「無限書庫の司書長が何でこんなところにいるんですか?」

 ティアナがユーノに尋ねる。

「ヴェロッサに頼まれてこの教会にいるんだ」
「そうですか…。でも何で?」
「それは……」

 ユーノがもう少し事情を説明しようとすると、ユーノはスバルとティアナの後ろに誰かいることに気付く。

「あ、ごめん。ちょっと待ってね」

 ユーノはそう言うとまたフェレットの姿になる。ユーノはフェレットのままスバルとティアナの下を通り過ぎてスバルとティアナの後ろの方に走る。
 スバルとティアナはユーノの後を追いかけると、目の前には小さな女の子が立っていてユーノはその女の子の肩の上にいた。
 その少女の髪は銀色で長くて綺麗なものである。服はシスター服ではなく、どちらかと言うとバリアジャケットのような服だった。少女はスバルとティアナを見ても無表情であった。

「あの、ユーノさん。その子は…?」
「それは後で説明するよ。けどここじゃまずいからとりあえずこの子の部屋に行こう」

 ユーノは少女の肩から降りて、壁の方に向かって手を置くと、壁が開いてそこには上へと上がる階段があった。

「すご~い」
「さあ、行くよ」

 ユーノは再び少女の肩に乗って、少女は階段を上る。スバルとティアナは少女の後について行く。


 スバルとティアナは少女の部屋に着く。少女は窓の外を眺めていて、ユーノは先ほどの人間の姿になっていた。

「ユーノさん……」
「わかってる。さっきの続きとこの子の事だね」

 ユーノは少し間をおいて説明を始める。

「まずはこの子の事を話すよ。この子の名前はリイン。Gシャドウのパイロットなんだ」
「この子が……」

 リインと言う少女がGシャドウのパイロットであった事を知ったティアナは驚きを隠せない。まだキャロやルーテシアとそんなに変わらないくらいの少女がグランディーヴァに乗っているのだ。

「この子は記憶喪失みたいなんだ。リインって名前以外は何も覚えていない。それで僕はこの子をサポートをして欲しいとヴェロッサに頼まれたんだ」
「そうだったんですか……」

 スバルとティアナがユーノの話を聞いていると、突然部屋のドアからノック音が聞こえる。

「リイン、いいかい?」
「あ、ヴェロッサさん……」
「とりあえず、二人とも隠れて。まだリインの事は秘密にするつもりみたいだから……」

 ユーノは急いでスバルとティアナを部屋のクローゼットの中に入れて隠し、自身はフェレットの姿になる。
 そしてヴェロッサが部屋にと入ってくる。

「リイン、体調はどうだい?」
「大丈夫です」

 スバルとティアナは初めてリインの声を聞く。リインの声には感情がないように冷めた声であった。

「ユーノ先生、さっきここに君以外に人がいたような気がするけど……」
「気のせいですよ…」

 ユーノは表面には出してないが、内心焦っている。
 ヴェロッサはその事を見抜き、部屋を探索し、クローゼットのドアを開けるとドアが開くのと同時にスバルとティアナがクローゼットから出てくる。

「ヴェロッサさん……」
「ごめんなさい……」

 スバルとティアナはヴェロッサに向かって頭を下げて謝る。

「いいよ、別に怒ってないよ。それにGシャドウのパイロットのリインの事を隠してた僕も悪いしね。君達にばれたから明日の朝、皆にもリインの事を紹介するよ。だから今日は部屋に帰って休んでるといいよ」

 ヴェロッサのその言葉に二人は安堵して、各自の部屋に戻り眠りにつく。
 そして翌朝、機動六課の面々が広間に集められて、ヴェロッサがリインを紹介する。

「今まで黙ってたけど、彼女がGシャドウのパイロット」
「リインです」

 リインは頭を下げて自分の名前だけを紹介する。

「私、高町なのは。よろしくね、リイン」
「フェイト・テスタロッサだよ」
「ドゥーエよ」
「改めましてスバル・ナカジマだよ。リイン」
「ティアナ・ランスター。よろしく、リイン」

 グランナイツの五人はリインに向かって自己紹介をするが、リインは何の反応も示さない。
 リインはそのまま広間を後にしようとすると、スバルがリインの肩を軽く叩いてリインを止める。

「ねえ、リイン。このままあの部屋に戻るのもどうかと思うんだ」
「何がいいたいのですか?」
「だからさ、グランナイツのメンバーでバーベキューでもして、親交を深めようと思うんだけど一緒にやる?」

 リインは黙りながらも首を縦に振る。

「それじゃあ、決まりだね」
「でもスバル、バーベキューするにしても場所決めてる?」
「あ………」

 スバルは突貫で思いついたことなので、場所なんて当然決めてない。

「それなら大丈夫ですよ」

 話を聞いていたヴェロッサが反応する。

「聖王教会の敷地は広いんですよ。敷地内でバーベキューはいいんじゃないですか? そうですね、場所はここから歩いて5分くらいの場所の山がいいと思うよ。あそこには近くに湖もあるしね…」
「ありがとうございます!」

 そしてスバル達はバーベキューの準備をし、リインと共にヴェロッサの勧める場所へと向かう。
 その様子をヴェロッサやクロノ、シスター達が見送る中、クロノがヴェロッサに尋ねる。

「ロッサ、本当にいいのか?」
「彼女もグランナイツのメンバー。ああやって親交を深めるのはいいことだと思いますよ。それに…、ユーノ先生もついてるしね。心配はないと思うよ」


 ヴェロッサに勧められた場所に着いたスバル達は早速バーベキューの道具の組み立て準備をする前に、リインの肩に乗るフェレットのユーノについて皆と話す。

「え? じゃあ、なのはさんとフェイトさんはユーノさんの事は知ってたんですか?」
「うん。私とフェイトちゃんとユーノ君は10年前からの幼馴染なんだよ」
「でも驚いたな。ユーノもこっちにいたなんて……」
「ごめんね。二人に連絡も入れないで……」

 ユーノがなのはとフェイトに向かって頭を下げる。

「別にいいよ」
「そうそう。またユーノ君と一緒っての楽しいしね」
「え? またって?」
「昔、ある事情でね。ユーノ君、私の家に棲んでた事があったの。その時もフェレットの姿だったんだよね。人間になった時は驚いたよ……」
「な、なのは…。その話は今は置いといて、準備をしようよ」

 ユーノはなのはの話を中断させてバーベキューの準備に戻らせようとする。

「ごめんごめん。それじゃあ、スバルはこっちを持って……」

 そしてグランナイツのメンバーでバーベキューの道具を組み立てて、組み立てが完了して、具を網に置くところまで用意が出来る。

「それじゃあ、火をつけるわ」
「……、あ、待って!」

 ユーノが制止を呼びかけるも、ドゥーエはコンロに火をつける。すると突然リインが怯えだす。

「あ、ああああああああ!!」
「しまった! リイン!」
「いやあああああああああ!!」

 リインは叫び声を上げて、森の奥へと走り出してしまう。
 皆突然の事で唖然するが、ドゥーエが冷静に考えて答えを出す。

「あの子、火が苦手なのね…」
「そうなんだ。でも赤い火は大丈夫なんだ。何故かは僕もわからないけど、あの子は蒼い火を見ると怯えるんだ」
「迂闊だったわ」
「それは僕もだよ。その事を言うのが遅すぎた…」
「と、とにかく、皆でリインを捜しましょう」

 スバル達はリインを探しに、全員で手分けして森の奥へと入る。数分後ようやくティアナがリインを見つける。

「リイン、よかった……。さあ、戻ろうか…」

 ティアナがリインの手を掴んで戻ろうとするが、リインは動こうとしない。

「嫌です」
「え?」
「あんな怖いのは嫌です」

 リインは涙目になりながらティアナに訴える。

「とりあえず、話を聞くわ。何があったの?」

 ティアナとリインは座れる場所を探すと、小さな小屋を見つけてそこに座ってティアナはリインから話を聞く事にする。


「リインは見つかった?」

 なのは達がひとまず合流してリインが見つからないと悩みこむ。
 するとスバルはティアナがいないことに気付く。

「ティアがいない…。もしかしてリインを見つけたのかも…」
「とりあえず、リインを捜しながらティアナも捜そう」

 なのは達はリインとティアナの捜索に行き、全員ようやく小屋にいるティアナとリインを見つけるが二人が何か話をしているようなので、こっそりと茂みから聞くことにする。

「リインは記憶がないんです」
「ユーノさんから聞いてるわ」
「でもこれだけは覚えてるんです。蒼い炎がリインの大事なものを奪ったんです。多分、その時にお父さんにお母さんも……。だからリインは怖いんです…」

 ティアナは哀れむような目でリインを見ながら、そっと自分の手をリインの肩にやる。そしてティアナは自分の事を話す。

「リイン。あんたもあたしと同じで家族がいないのね」
「え?」
「あたしの両親はあたしが小さいうちに死んでね。兄さんが一人であたしを育ててくれた。でもその兄さんも2年ほど前に死んだの。ゼラバイアに殺されて…」
「え?」

 スバルは茂みに隠れながら驚く。ティアナの兄はちょっとした犯人の追跡任務で殉職したと聞いていたが、その聞いていた話とは少し違う事に気付く。

「ティーダ兄さんは逃走犯の追跡任務中に殉職したって世間では言われたけど、本当は違うの。殉職は本当だけど、殉職した理由が違うの。
兄さんもG因子があったみたいで、ヴェロッサさんに頼まれて表向きは航空隊だけど、本当は機動六課所属だったの。それで半年ほど前に次元航行空間でゼラバイアと遭遇。
ゼラバイアの事をいち早くヴェロッサさんに報告して、自分はゼラバイアと戦ったの。兄さんの最後の言葉は「ゼラバイアと遭遇。迎撃します」って……」

 その事実を聞いたスバルは頭の中を整理してある答えを導き出す。

(だからヴェロッサさん、ゼラバイアが来る事を知ってたんだ……)

 ティアナは立ち上がる。

「あたしもゼラバイアが怖い。兄さんを殺したゼラバイアが…。でもあたしは守りたいの。兄さんが守ろうとしたこの世界を…。だから一緒に戦おう」

 ティアナがそっと自分の手をリインの前に伸ばす。リインはその手を掴もうとすると突然通信が入る。

「ゼラバイア出現! 今度はグラナガンから南へ約10キロの地点です」
「ティア!」

 スバル達もゼラバイア出現を聞いて、茂みから姿を現す。

「スバル…。なのはさんにフェイトさんにドゥーエさん…。それにユーノさんも……」
「行こうよ。皆で…。皆でゼラバイアを倒そう!」
「わかってるわよ! リインも行くわよね!?」
「……、はいです!」
「それじゃあ、僕が転送魔法で一気に格納庫に飛ぶよ」

 ユーノは自分の周りに魔法陣を展開させて、それはスバル達の足元まで広がっていき、ユーノは皆を転送させて、スバル達は各自の機体に乗り込んで発進する。


 ゼラバイアは街で暴れる。例のごとく地上部隊などが迎撃に回るが返り討ち。
 そこにようやくスバル達が到着、ヴェロッサの承認と共に合神し、ゴッドグラヴィオンになる。

「何か、今度の敵はトンカチみたいですね」

 スバルが敵のゼラバイアの姿を見てそう口に洩らす。でもスバルの言うとおり敵はトンカチを巨大化させたもののような姿であった。

「敵がトンカチでも油断しない。相手はゼラバイアなんだから…」
「わかってますよ、なのはさん! グラヴィトンソーーーーーード!!」

 スバルは胸のグラヴィトンソードを取り出す。

「はあああああああああ!! エルゴ、エーーーーーンド!!」

 グラヴィオンはゼラバイアに向かって思いっきり剣を振り下ろすが、剣はゼラバイアには通じない。
 相手の耐久力に負けたグラヴィオンの手からはグラヴィトンソードが離れ、それはその土地にあったタンクに突っ込む。

「あれは……」
「ここは硫酸ガスが溜められている工場です」
「いけない!」

 ヴェロッサが思わず声を上げる。しかし時既に遅し。グラヴィトンソードが刺さった事により火花が発生し、ガスに引火。
 連鎖爆発を起こし、辺りは蒼い火の海と化した。

「あ、ああああああ」

 リインは蒼い火の海を見て怯える。

「ああああああああああ」
「リイン、しっかりして!」

 ティアナがリインを落ち着かせようと通信を入れるがリインにはティアナの言葉が聞こえていない。

「あああああああ」
「こうなったら……」

 ティアナはGドリラーのコックピットのハッチを開けて外に出る。

「熱いわね……」
「ティア、どうする気!?」

 スバルが外に出るティアナに向かって通信する。

「リインが怯えてる。このままじゃ負ける。だからあたしがリインを落ち着かせるわ。リインのGシャドウに一番近いのはあたしだし……。きゃあ!」

 グラヴィオンが揺れたためにグラヴィオンにしがみつくティアナは思わず振り降ろされそうになる。

「ティア!」
「こうなったらティアナに頼むわ」
「気をつけてね…」

 ドゥーエやフェイトもティアナに託す。
 ティアナは何とかGシャドウのコックピットを外部から開けて、Gシャドウのコックピットに入る。
 Gシャドウではリインが青い火の海をを見て、頭を抱えて怯えていた。
 ティアナはそっとリインのそばに近づき、リインをなだめる。

「リイン、怖がらないで。あんたの力が必要なのよ。ゼラバイアを倒すためにも…。そしてこれ以上あたし達のような人を作らないためにも……」

 ティアナは手をリインの肩にやる。

「皆が守ってくれる。あんたが怖がる事なんて何もないのよ…」

 リインはティアナの優しい言葉を受けて、自身の心にあった恐怖がなくなっていくのを感じる。

「リイン、やります!」

 リインはグラヴィティクレッセントの発射体勢に入る。
 グラヴィティクレッセントとは、Gシャドウの翼をブーメランのようにして投げる技。Gシャドウの搭乗者のリインはゴッドグラヴィオンの背後の方にいるため、有人のブーメランではない。
 リインはグラヴィティクレッセントの標準を敵ゼラバイアの真ん中にセットする。

「グラヴィティクレッセント」
「「シュート!」」

 リインはティアナと共にシュートの掛け声をし、掛け声と共にグラヴィティクレッセントは投げられ、ゼラバイアを切り裂き、ゼラバイアは爆散する。

「ゼラバイア、爆散を確認」
「やったわね。リイン」
「はいです!」

 リインは今までのような暗い雰囲気とは反対の元気よく返事をした。
 グランナイツは戦闘後再びピクニックに戻り、皆で楽しくバーベキューをする。
 バーベキュー中、誰も知らないがリインは楽しいと感じて笑ったそうだ。


「これが先日の戦闘で回収されたゼラバイアの破片の一部の解析映像だよ」

 地上本部ではレジアスが科学者のジェイル・スカリエッティに調べていたゼラバイアの事を尋ねていて、スカリエッティはゼラバイアの破片の一部の映像を見せながら説明する。

「これは至って複雑な分子式で作られた重金属加工物の集合体で、硬度はダイヤモンドと呼ばれる宝石以上だよ」

 スカリエッティは淡々と説明を続ける。

「驚くべきことに、ナノレベルに組み込まれたフィードバックプログラムを備えていてね、自己保存、修復、そして解体機能も持っているのだよ」
「簡単に言え。どう言う事なんだ?」

 レジアスが説明のみをするスカリエッティに簡潔に述べるように求めると、スカリエッティは興奮しだそうように言う。

「つまり、これは金属でありながら生命体の特性を持っているのだよ。これを見たまえ! これは今見せた物質の7日目の映像だよ。時間と共に化学変化を起こして、無害な有機物になってるのだよ」
「面白い、さしずめ世界に優しい次元怪物と言ったところかね?」

 レジアスは笑い出すが、その答えは正解だった。

「その通りだよ。ゼラバイアは活動が停止すると生態系システムに取り込まれるようになっているんだよ。そう誰かにケミカルプログラムされたかのようにね!」

 スカリエッティの答えを聞いて、レジアスがある答えを導き出す。

「ではゼラバイアは何者かが送っているというのか?」
「そうですね。現段階ではそう見るのが妥当でしょうね」

 レジアスはゼラバイアだけでなく、ゴッドグラヴィオンの事もスカリエッティに調べさせており、グラヴィオンの事も尋ねる。

「あれもすばらしいものだ。ミッドチルダの技術、いや、この私の技術さえも遥かに凌駕している」
「……、それは何故だ?」
「さあね、それはまた今度と言ったところだね。だがあれは質量兵器ではなく魔導機械なのだけは確かだ。今回はここまでにしておこうか」

 スカリエッティの話を終えて、レジアスは自室に戻る中グラヴィオンの事でなく、ヴェロッサの事を考えていた。

(聖王教会はまだいい。だがヴェロッサ・アコース、奴は何者なのだ……?)

 レジアスの疑念は積もるばかりであった。


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最終更新:2008年04月29日 09:23