Devil never Strikers
Mission : 10
Let's rock!! baby?
炎上する機動六課に救いのヒーローが現れた。
そのヒーローは同時に襲い掛かった数体のガジェットを大剣の一振りで一閃。
「何なんだ?アイツは?」
その一部始終を見ていたのはナンバーズの一人、ディエチ。
遠く離れたビルの上からでもスコープを兼ねた目にハッキリと映るその男が、作戦前のミーティングで要注意と言われていた事を思い出した。
周囲の状況を確認してから、男までの距離を計算する。
(周りには何も無い広い空間。敵も味方もいない。かといってチャージに時間をかけるのは危険。なら……)
ディエチが選んだのは命中した後に爆発する炸裂弾タイプの物。
設定を終え、スコープの中心に赤い男を捕らえて、引き金を引いた。
狙い通りに飛んで行った炸裂弾はダンテの足元に命中し、爆発。
「やったか!?」
数秒後に煙が薄れ、十秒しないうちに完全に煙が消えて、たった今できたクレーターがはっきりと見える。
だがそこにターゲットの姿は無い。
いくら爆発するとはいえ、原型を留めないなんて事は無い。
つまり、避けられたのだ。
「ヒュウ、派手な爆発だな」
急に声をかけられた。
真後ろから聞こえてきた声は、今しがた自分が狙った標的の物。
「でも位置が惜しいな、もっと後ろだ」
「何で…ここに」
「大体、こんな感じだ」
ディエチの言葉を無視しダンテは狙撃砲を掴んだ。
自身の武器を取られまいと得物を抱えた両腕に力を込めるが、易々と取り上げられてしまう。
そのまま真上に放り投げ、リベリオンを大きく振るい、放られたイノーメスカノンを頂点で二つに分ける。
それが落ちるまでの間にゆっくりとした動作で納刀し、ホルスターから引き抜いた銃をくるくると回し始めたダンテ。
最後にダンテの後ろに落ちたイノーメスカノンが爆発するのに合わせて銃をディエチに突きつける。
「分かったな?」
ディエチはこのまま撃たれるのかと身構えたが、ダンテは何もせずそのまま戦場を翔る一陣の風となって去って行った。
「……何なんだ?アイツ?」
すでにこの場を去ったダンテがその呟きに答えるはずも無く、唯一の武器を失ったディエチは仕方なく撤退した。
機動六課隊舎前に戻ったダンテを出迎えたのは二体の上級悪魔だった。
ホテルアグスタで再会し、たった今隊舎が燃えている原因でもある、炎の魔神イフリート。
深淵の地より解き放たれた後はダンテの力となった事もある、混乱や狂乱の名を持つ魔女ネヴァン。
「珍しい組み合わせだな?お前らがそんなに仲良しだったとは知らなかったぜ」
口から出るのはいつもの軽口。
イフリートは黙していたが、ネヴァンは軽口で返してきた。
「そっちこそ、子守まで引き受けるようになったの?」
ネヴァンの言葉と同時にダンテの横に鋭い風が降り立った。
その正体はエリオ。
少し遅れてかかった影はフリードの物だろう。
これでこちらの戦力は四人と二匹、と言いたいが生憎ザフィーラとシャマルはダメージが大きく、戦力としては期待できない。
よって三人と一匹でこの悪魔二体と何人かいるはずのナンバーズ、そして多数のガジェットの相手をしなければならない。
(それに建物の中にいる人間も何とかしねーと)
少し厳しい状況だがそれでもダンテの笑みは消えない。
ハッタリでもなんでもなくこの状況を楽しむように口の端を吊り上げ、考える。
「さーて、どーする?」
エリオだけでなく上にいるキャロにも聞こえる声なので、当然敵にも聞こえている。
が、それを気にしないで作戦会議を始めた。
「まずは六課の人を助けないと!」
「私もそう思います!」
「キュクルー!」
この時点で六課救出優先の意見が過半数。
もっとも最初から『三人でさっさと倒してから救出』か『戦力を分けて同時進行』の二択しかない。
この場合は後者。となれば後は誰が救出に向かうか、だった。
となるとキャロは論外だ。フリードが大きすぎて建物に入れない。
(となると坊主か?素早いし、建物の構造も…)
「ダンテさん。六課の人たちの方、お願いします」
隣から聞こえてきた幼くも強い声。
それはたった今建物内を頼もうと考えていたエリオの物だった。
「フリードは入れないし、僕じゃ小回りが利かないから」
実はこれは嘘だ。
本当の理由はそうじゃない。小さな騎士が命を賭ける理由はそうじゃない。
「しっかりやれよ?エリオ」
それを承知の上で建物内に駆け出すダンテ。
いつだったかの悪ガキと違って今度はダンテが見送られる側だが、花を持たせてやったのは一緒だった。
その時にイフリートとネヴァンの側を通ったが互いに無視。
遠くでディードとかオットーが小さな声で何か言ってるが、戦意の無い者とわざわざ戦うほど上級悪魔は安くない。
くす、と微笑んだネヴァンは雷を帯びたコウモリを無数に呼び出し、稲妻と共に撃ち出した。
ディストーションと言う名のこれは単発での威力ならネヴァンの攻撃中最大の威力を持っている。
だが所詮はただ放たれただけの攻撃、回避は容易い―――筈だった。
「Sonic Move」
回避を妨げたのはエリオのスピード。
この場において最速のエリオは、そのスピードをもってコウモリの群れを『後ろから』貫いた。
そしてそのままフリードの上に着地し、ストラーダの穂先を眼下の悪魔に突きつけた。
「キャロは僕が守る!」
どんな顔でこれを言っているのかダンテには見えはしなかったが想像はできた。
きっと一端の騎士の顔をしているのだろう。
(そんな顔されちゃ、譲らない訳にはいかないよな)
最初の戦いの時から決めていた小さな騎士の大きな決意。
それを蔑ろにするなんて出来ない相談だった。
さて、一番派手な戦いこそエリオに譲ったがダンテだって地味にやるつもりは無い。
隊舎内に入ったダンテは中にいたガジェットに敵と認識されるが、動かれる前に切り伏せた。
「まずは、入り込んだ燃えないゴミの掃除か」
取り残されたロングアーチ含む非戦闘員の事も放っては置けないがこっちが優先だ。
ガジェットを一体でも多く、一秒でも早く倒してAMFを弱めなければ外のエリオたちが倒される。
幸い今のダンテはトリックスターのスタイルを使っている。
これから先建物の床が抜けていようが瓦礫が道を塞いでいようがダンテの移動に支障は無い。
「上に行くか」
目指すは最上階。
特に理由は無く、勘である。
が、この勘は大当たりだった。
階段を昇ったダンテの目の前にガジェットが待ち構えていた。
ガジェットのアームが機械ならではの精密な動きで襲い掛かる。
しかも前後左右に伸びているアームは、ダンテの逃げ場を塞ぐ動きまで加わっている。
数に任せた回避不可の攻撃、だがそれすらダンテには通じない。
「ウォール、ハイク」
ウォールハイク。
壁を走るだけの能力だがここのような廊下では絶大な力を発揮する。
何せ床が二つ増えるのだ、この能力で壁を伝えばアームを避ける事など容易い。
本来ありえない道に逃げ込まれた事でガジェットの動きが一瞬だけ止まる。
機械と言うものはいつもこうだ。決められた事は素早くこなすくせに少しでも違うことがあればそれでエラーが起こる。
そして止まっているガジェットなど彼にとってはただのオブジェクトに等しい。
機械の計算や予測の外の動きをすることでガジェットを翻弄しながらダンテは隊舎内のガジェットを片付けていく。
これが本能だけで動く悪魔だったら『見つけたから攻撃する』だけなので硬直など起こりようも無いが、それではコンビネーションでガジェットに劣る。
結局悪魔にも機械にも弱点はあるのだ。大事なのはそこを付けるかどうか。
それを間違えなかったダンテはかなりのペースで掃除を進める。
だが掃除に邪魔は付き物だ。
急な来客や用事、片付けるはずの物でつい遊んでしまったりなど掃除の妨げになる物は多い。
だが一番掃除の邪魔になるものと言えば―――
「猫だな」
そう、猫だ。
掃除機や箒を向けた先にいるのはもちろん、
遊んでくれると勘違いしたのかまとわり付いてきたり、掃除用具で勝手に遊び始めて邪魔な事この上ない。
やれやれ、といった風に目の前の猫二匹を見る。
赤い光を帯びた双剣を持った戦闘機人ディード。
武器は持っていないが、その代わりなのか上着とズボンを着用している戦闘機人オットー。
同じ顔と同じ髪の色をした双子の機人が掃除の邪魔をしに姿を現した。
「まったく、出てくるなよお前ら」
猫が掃除の邪魔になる理由は『単に邪魔をするから』だけではない。
「無視できねーんだからよ!」
猫という生き物は視界に入れてしまうと何となく構いたくなるのだ。
だが無視できないけれど長い時間もかけられない、さっきも言ったようにさっさとガジェットを倒さなければならない。
一気に決着を付けるべくリベリオンを構えて駆け出すダンテ。
ダンテの疾走に反応したのはディードだった。
横薙ぎに振るわれたリベリオンをツインブレイズで受けるが、ダンテとディードではパワーがまるで違う。
衝撃をツインブレイズだけでは抑えきれず剣の進行方向に飛ばされるディード。
「……バインド!」
攻撃後の隙を突き、オットーは控えめに叫びながらバインドを仕掛ける。
緑の光の輪がダンテの手足だけでなく首、肩、胴などを覆い、最終的には緑のミイラが出来上がった。
そこにダンテの姿は全く見えない。
「……失礼」
今の間に立ち直ったディードがダンテの頭上まで瞬間加速し、両の手の剣を振り下ろした。
振り下ろされた双剣は狙い違わずダンテを一刀両断、……いや二刀三断にした。
魚のように三枚におろされたバインドミイラの中身は……
「空っぽ!?」
「失礼」
珍しく驚いた声を上げるディードにたった今自分の発した物と同じ声が返ってくる。
その声の主をその目で見る前に、頭に走った衝撃によって気絶した。
その様子を後ろから見ていたオットーは考えた。
ディードはリベリオンの腹で殴られた。それもディード自身がダンテを切ったときと同じフォームで。
だが問題はそこではない、どうやってバインドから逃れたか、それが分からなかった。
(どうやって逃れた?掴んだはずの体が……まるで手品のように……)
しかし今は戦闘中、ゆっくり思考する時間なんてあるはずも無く、戦闘状態の体は無意識に攻撃を繰り出していた。
だがその攻撃が命取り、ただ繰り出されただけの攻撃に絶対の攻撃力も百発百中の命中率もあるはずが無く、
「重ね重ね、失礼!」
ディードと同じ、エアトリックからヘルムブレイカーへのコンボがオットーを襲った。
頭のてっぺんからつま先まで、平たい金属の衝撃が伝わるのを感じながらオットーは意識を手放す。
戦闘機人二体を、いや最初のディエチを合わせて三体を無傷で倒したダンテ。
ふと窓から見えた外の様子に心底面白そうに笑う。
「ソロライブとは、中々やるな」
しっかりやってるようで何よりだ、と呟いてから再び救出作業に戻る。
外は心配ないだろう。
そして時間を少し戻してエリオの誓いにまで戻る。
「キャロは僕が守る!」
この言葉の反応は様々だった。
知っているからこそこの場を託したダンテ。
ただ驚くだけのキャロ。
目的を同じくする同志の声に戦意を高めるフリード。
その言葉にエリオの強さを垣間見たイフリート。
そして……
「How's this?」
ディストーションの時の微笑みのままコウモリ弾を連射するネヴァン。
フリードが旋回飛行でかわすも、その先には落雷が。
「キュクルー!」
気合を入れて加速するフリード。
そのおかげで落雷は回避できたがこれも読まれていた。
「乗り心地は悪くないわね」
ネヴァンがいつの間にかフリードの上に乗っていた。
右手は既にエリオに向けられており、下手に動けば電撃を食らうことは想像に難くない。
いくら強い精神を持った所で、上級悪魔との実力差を埋めるには足りなかった。せめてもう一つ何かあれば埋められるかも知れないのに。
「く……」
「動いたら丸焼きよ?」
攻撃も防御も間に合わない距離。
何をするにも相手のほうが早い状況でなお、エリオは諦めなかった。
『明らかにレベルが上の相手を如何にして倒すか?』
その手段を必死に考える。
スピードで翻弄する? いや、それではキャロとフリードが置き去りになってしまう。
一撃で仕留める? いや、ネヴァンの方が早いし、そんな攻撃力も持っていない。
フリードに頼る? いや、フリードは自分の背中を攻撃できるほど器用な生き物ではない。
数秒に渡る自問自答の末、行き着いたのは攻撃を受けながらストラーダを突き刺してそのままネヴァンごと飛ぶ、といった物だった。
もしなのはにでも知られたのなら頭を冷やされること間違い無しの捨て身の攻撃。
(あれとこれ、どっちの方が痛いのかな)
そんな事を考え、この状況とのギャップに苦笑する。
苦笑と同時に体をネヴァンとキャロの間に運び、ストラーダを突きつける。
エリオが動いたので丸焼きにしようとネヴァンが左手も持ち上げた。
攻撃のタイミングを相手が攻撃した瞬間に定める。被弾前提なのだから命中率は高いほうが良い。
「中々男前ね」
思わずえ?っとなるエリオの表情。
研ぎ澄ました集中力を乱すほどにその言葉は予想外で急展開すぎた。
「たまにはこういうのも良いかもね」
「ど、どういうのですか?」
つい聞き返してしまったエリオ。
この時点でネヴァンのペースに飲まれているのだが、心理戦なんて全く習っていないエリオにどうにかする術は無かった。
攻撃のタイミングが分からなくなったエリオのストラーダはいつの間にやらネヴァンの手に握られていた。
両手で包み込むように握った手を上下に動かし始めたネヴァン。
その動きはエリオには分からなかったがどう見てもアレである。
段々と激しくなる上下運動。そこからは紫の雷がパチパチと発していた。
その雷は段々と強くなり、一際強くなったと同時に光が出た。
つい目を瞑ってしまったエリオ。その目を再び開いた時、そこにネヴァンの姿は無く、代わりに形を変えたストラーダがあった。
刃部分の根元から鎌の刃が上向きに生えた鎌槍の形となっていた。
そして機関部分から下に向けて弦が張られており、ギターのようになっている。
カラーリングは全体的に紫がかった物に変更されている。
『力を貸すわ、坊や?』
ストラーダから出てきたストラーダとは違う声。
それはたった今まで対峙していたネヴァンの物で間違いなかった。
何の気まぐれか力を貸してくれるらしい。
「キャロはこの距離から援護して!」
少し考えた後にエリオはフリードから飛び降りる。
別にネヴァンを信用した訳じゃない。
それでもこうすればキャロとネヴァンの距離を引き離せる。
一度は捨て身の攻撃を考えた彼にとっては悪い話じゃなかった。
「裏切りか……だが、我に咎める資格など無し!」
空戦の術を持たないイフリートが構える。
エリオも空に逃げる事はできない。このストラーダは危険だから。
しかしだからこそこのストラーダは実力差を埋めるためのもう一つになりえる。
(この体格差と魔力差、一発受けたら終わりだ……)
(おそらくはスピード型、ネヴァンの助けもある。如何に攻撃を当てるかが鍵……)
どこまで埋まったかはまだ分からない実力差。
だがエリオには作戦があった。
ある程度の実力差をはね返すだけの作戦が。
(キャロ、頼みがあるんだ)
(何、エリオ君?)
(隙を見てアイツの動きを止めて欲しいんだ。その後は任せて)
念話でキャロと打ち合わせる。
それが終われば後は実行あるのみ、パワーアップしたストラーダを構え、突進した。
「ヌウゥゥゥ!」
エリオの突撃に合わせてイフリートは左拳を引き、力を込めた。
その動きから左ストレートだと考えたエリオは軌道をズラす。その甲斐あって繰り出された炎の拳は空を切ってくれた。
「くっ!」
だがその風圧でエリオの体は大きくぶれ、エリオの攻撃も外れる。
かすりすらしなかった攻撃でこの影響だが、それでもエリオには自信があった。
『僕たちなら勝てる』と言う自信が。
その自信と誓いを原動力に再び突進。
「ハァ!」
次に来たのは右の拳。
今度は急停止し、やり過ごしてから再び顔面狙いの突進。
「読めているわ!」
右の拳撃から流れるような動きとで見舞われた左ハイキック。
先読みされて出された蹴りはエリオに直撃した。
「ぐぁ…が……!」
直撃を食らったエリオの体が勢いのままにイフリートに激突し、足元に落ちる。
本気の蹴りならエリオは遠くへ飛ばされていただろう。だがイフリートはあえてそれをしなかった。
この蹴りで足元に落ちたエリオに、確実に止めを刺すために。
イフリートは左足を下ろし、今度は右足を高く上げる。
左拳、右拳、左蹴りと続くイフリートコンボの最終攻撃、踵落としだ。
「ヌウウウゥゥン!」
高く上がったイフリートの右足に炎が集まる。
最初の右ストレートと同じ力を溜めてからの攻撃、これを食らえば骨も残らないだろう。
そしてついに炎が溜まりきり、最大威力の踵落としが完成した。
全力を込めた踵を、エリオに落とそうとした瞬間、その踵に鎖が絡みつく。
「ヌゥ!?」
それはもちろんキャロの錬鉄召喚、アルケミックチェーン。
当初の予定通りイフリートの動きを封じたのだ。
これで後はエリオの作戦を実行に移すだけ、痛む体に鞭打ってエリオは立ち上がる。
「ギターは、アコースティックギターとエレキギターの二種類がある……」
ちょっと前に何となく興味を持って調べてみたギターの知識を諳んじる。
この作戦の考えの元でもあるこの知識を。
「アコースティックはそのままでも弾けるけど……エレキギターはいくつか道具が必要……」
「ヌゥウゥゥウゥゥ!」
ガチャガチャもがくイフリートの咆哮を気にせず、エリオは続ける。
これなら大丈夫。と自分に言い聞かせるように。
「必要なのは本体と、名前は忘れたけど本体に繋ぐコード……後は……」
ストラーダから生えたネヴァンの鎌を突き刺す。
これではまだ浅く、ダメージにもならない。だが―――
「アンプと呼ばれるスピーカーだ!」
ネヴァンの弦を掻き鳴らす。
生じた音は電撃と化し、イフリートの体内で直接暴れ狂う。
「ヌガアァァアァァアァァア!!」
コードやら何やらの基本なんて知らないエリオが無茶苦茶にいじった弦から生じる不協和音。
それはそのままスピーカーの中に入り込み、ある意味正しく発せられる。
「ヌォゴァァァ!」
一心不乱に弦を弾くエリオ。このままスピーカーをぶっ壊すつもりだった。
電撃の不協和音が拘束されたイフリートの神経や筋肉を直接痛めつける。
音撃と電撃の拷問に耐えられず、暴れだすイフリート。
その力を押さえつけるアルケミックチェーン。
力で引き千切るのが難しいと悟ったイフリートは即座に体から炎を出し、鎖を焼き切ろうとする。
「ヌオォォオォォオ!」
「うあぁぁあぁあぁぁぁ!」
ありったけの電撃を流し込むエリオと、鎖を引き千切ろうとするイフリート。
踵落としの状態で止まった体は、鎖が切れさえすれば容易にエリオの体を砕くだろう。
だがその前にイフリートの体力を削りきれればそれは不発に終わり、勝利だ。
ギリギリのせめぎ合いの中、エリオは再び思った。
自分がここにいる理由を。顔を上げてそれを確認する。
大きなフリードが普段のニワトリサイズに見えるくらい離れた距離。上に乗っている彼女は豆粒くらいになっている。
その距離でもどんな表情をしているかは分かった。
「あんなに不安そうな顔…させちゃってる……」
はたしてそんな顔をさせておいて自分はしっかりやれていると言えるだろうか。
いや、言えない。
ならどうすれば良いのか、その答えは握り締めているネヴァンから流れてきた。
流れてきた言葉を反芻しながら弦を弾く手を一度止め、ゆっくりと持ち上げる。
そして自分に『しっかりやれ』といった男がそうするように唇の端を吊り上げたニヒルな笑みを作る。
キャロを不安にさせないように、心配なんてさせないですむように。
そのためには―――
「Let's rock!!」
派手にやるしかないだろう?
徹底的に派手にやって、実力の差を分かりやすく見せ付けて、心配なんて吹き飛ばしてやらないと。
言葉と共に再開した電撃は先ほどより強く、キャロの拘束すら必要ない。
ただただ強くイフリートに電撃を流し込む。
踵から脳まで全部を更に強く。
少しでも動こうものならもっと強く。
そして、ふとストラーダが軽くなった。
手ごたえはストラーダが抜けたことを伝えてくる。
だが感覚はそれは違うと言っている。
どちらが正しいのかは分かっていた。
確かめるため振り返り、イフリートのいた場所を見る。
そこにイフリートの姿は無く、一対の篭手がぽつんと置かれていた。
「……やっ……た……」
エリオの勝利だった。
だが余韻に浸る暇も無く、次の敵が現れる。
エリオは知らないがホテルアグスタの時と同じく、ガリューが。
ガリューはエリオを蹴り飛ばし、イフリートに近づいた。
腰を曲げてイフリートを拾ったガリュー、その遥か後方にはルーテシアの姿。その隣には色々と見えた。
気絶したオットーとディード。その二人を運んできたらしいセイン。
「ルーお嬢様、転送をお願いします……」
「疲れてる?」
「疲れてますとも!地上本部からここまで来て三人も運んだんですから!頑張りましたよセインさん!」
自分で自分をねぎらうセイン。
地上本部からここまで来て三人を救出したのなら結構前に移動を始めたことになる。
だがそれよりもエリオが気にしたのは三人と言いつつ二人しかそこにいない事だった。
「じゃあ転送お願いします……」
そして息も絶え絶えにセインはオットーとディードの影から三人目を取り出した。
流れから負傷したナンバーズの一人かと思っていたが、違う。
あれは自分達が良く知った人間だ。
「ヴィヴィオ!」
疲労は激しく、魔力は空っぽ。
それでも動きたくないと言う体に鞭打って走り出す。
だが射程距離に捉える前に再びガリューの足に背中を蹴られ、前に倒れこむエリオ。
倒れたまま顔だけ上げてヴィヴィオを見る。
見失わないように。動けるようになったらすぐに助けに行けるように。
だがそんな想いを嘲笑うかのようにルーテシアはヴィヴィオとナンバーズを連れ、転送魔法を起動する。
魔法陣に吸い込まれていく五つの体を眺めるしかできなかった。
完全に消えたヴィヴィオ達、もはやエリオにできることは何もない。
それを知ってしまったエリオは、激しい疲労もあって気を失った。
「エリオ君!」
キャロがエリオに近づき、治療を始める。
だがその背後から忍び寄るガジェットがいた。治療に集中しているキャロは気づかない。
そしてそのアームがキャロを捉えようとした瞬間―――
『ごきげんよう!!』
聞きなれない声が響いた。
びっくりして振り向いたキャロが見たのは写真でしか見たことの無い、スカリエッティの顔だった。
ガジェットがプロジェクターのように空中に流している映像。その中に諸悪の根源がいた。
『いや~危ないところでしたねぇ、地上本部の皆様、無事でしたか?』
その言葉からこれは本来地上本部の方で流されるべき映像だと分かる。
実際に地上本部のほうでもこの映像は流れていた。
ガジェットだけでなくモニターというモニター全てを乗っ取り映し出すオマケがついているが。
『私の作品達が間に合ったようで何よりです。悪魔達はだいぶいなくなったようなのでこれからは救助の方をお手伝いしましょう』
悪魔をけしかけたのはお前だろうが、そう言って罵りたい気持ちを、地上本部内ではやては必死に抑える。
そう言った所で聞こえないだろうし、決定的な証拠は残していないだろう。
『お望みならこの作品たちを譲っても構いません。流石にただで、とは言えませんが、格別の条件でお譲りしますよ?』
それでも犯人はコイツだとみんな分かっている。
分かっている。
だからこそ、むかつく。
『必要ならいつでも誰でも、私宛に依頼してください、では、失礼』
恭しく頭を下げるスカリエッティの姿、それを最後に通信は終わった。
地上本部に悪魔の姿は無く、ガジェットが救助活動に当たっている。
傷付けるのも、助けるのも奴の仕業。スカリエッティの手の上で踊らされているも同然。
スカリエッティを信用する奴はおそらくいない。でも、むかつく。
「そうやって、高い所からうちらを見下しとるつもりか?こんな派手な真似までして」
はやての呟きは周囲の喧騒に吸い込まれ、誰にも聞こえなかった。
隣にいたカリムだけが気づき、耳を澄ませる。
「でもそれも今のうちやで、絶対そこまで飛んでって、これ以上派手に叩き落としたる!」
機動六課の次の方針が、決まった。
そしてその機動六課の隊舎内で、機動六課に属さない男もこの映像を見ていた。
映像を映し終えたガジェットに銃弾をブチ込み、ガラクタに変える。
「俺もそろそろ、決めなきゃな……」
自分の方針を。
はっきりさせてなかった自分の立場を。
誰のため、何のために戦うのかを。
「ま、もう決まってんだけどな」
後は言うだけ。この機動六課の連中に『お前らに付く』と。
まあどうせ皮肉交じりで本音は最後に言うのだろう。本当に最後の、最後に。
Mission Clear and continues to the next mission
最終更新:2008年06月10日 19:20