「グラディーヴァ、グランカイザーとコネクト、いや合神する。これらのビークルに使用されている駆動系や制御系に用いられているテクノロジーの解析は現在レベル4まで進んでいる」

 地上本部のグラヴィオン研究所ではスカリエッティがグランカイザーとグランディーヴァを小さくした立体映像を使いながら、
 グラヴィオンについてわかった事をレジアスに見せて説明していた。

「ご覧のように、グランディーヴァにはデバイスの素材やフレームとはまったく違った構造の複数のジェネレーターと駆動系が使用されている。
だがこれは普通の航空機や車などには必要ない。合神の為の補助動力と駆動系しかない。そこにグラヴィオンの高出力を生み出すテクノロジーは存在しない。
装甲の材質は別として、構造上はグランディーヴァはグラヴィオンの手足に過ぎないのだよ。ふふふ、ただのユニットとはね……」

 スカリエッティは不気味な笑いをしながら説明を続ける。

「つまり、我々がグランディーヴァと完全に同じマシンを製造したところでゼラバイアにまったく勝てない。どうだい、よく出来ているだろう?
手に入れたデータを元に原寸の38分の1で作ったこの立体映像は……。やはり全ての鍵はこのグランカイザーにあるのだろうね」
「で、その機体については何かわかったのか?」

 レジアスがいらつくように質問をするとスカリエッティはまた笑いながら答える。

「ふふふ、この私をもってしてもまだ何もわからないのだよ。ただ、面白い計測データがこの前届いてね、グラヴィオンが戦闘を行った地域全てに通常じゃありえない重力異常値が観測されたようなのだよ」
「重力だと?」
「その通り。くっくっくっくっ……」

 スカリエッティの笑いに思わずレジアスは身振るいをする。本当は何かわかっていて隠しているのではないのかと考える。
 しかしスカリエッティは本当にまだ何もわかってないのだ。だったら何故笑うのか?
 それはスカリエッティが生粋の科学者であるからだ。と言ってもスカリエッティはまともな科学者ではない。
 スカリエッティの笑いには色々含まれているがそれは置いておこう。


 あたしは夢を見ました。それは変わった夢です。いなくなったギン姉があたしを膝枕で寝かせている夢。
 しかもそれは昔のあたしじゃなくて、今のあたしです。ギン姉は眠くなりそうなあたしの顔に自分の顔を近づけてこう言いました。

「スバル、グラヴィオンに乗っていれば。必ず会えるわ。だから頑張ってね……。それとノーヴェとは仲良くね……」

 ギン姉が言い終わると、あたしは目を覚ましました。

「夢か………」

 あたしにはあれが夢だとは思えません。だってギン姉のぬくもりが自分の体に残っている気がするのだから…。
 あたしはベッドから起き上がって、カーテンを開けて強い日差しを浴びました。

(ギン姉、会えるよ。ううん、絶対に会う!)



 第5話 ひび割れるもの



「グランファントムシステムは順調ですか?」

 ヴェロッサとクロノが格納庫でグランカイザーやグランディーヴァの整備士代表のマリエル・アテンザ(通称マリー)に聞く。
 「グランファントムシステム(略称ファントムシステム)」とはグランナイツのメンバーを乗せなくてもグランディーヴァを動かせるようにしてグランカイザーと合神できるようにするシステムである。
 簡単に説明するとアームドデバイスに使われているAIコンピューターをコックピットに接続して、グランナイツ不在時でも合神することである。
 ちなみにファントムシステムはグランカイザーには適用できない。それはグランカイザーは完全に操縦者の意志が必要な機体だからである。
 何故ヴェロッサがファントムシステムを今まで採用していなかったのかと言うといくつか訳がある。
 一つはグランカイザーに適応できないため。また一つはヴェロッサが無人機を好まない人間だったため。そしてもう一つは……。

「はい、順調に出来てます。ただ…」
「ただ?」

 マリーは思わず顔を伏せてしまう。

「ファントムシステムグラヴィオンのパワーが10%ダウンしてしまいます」
「10%…。上出来じゃないか」

 ヴェロッサがマリーの仕事のよさを褒める。
 ヴェロッサがファントムシステムを今まで採用していなかった最大の理由、それはグラヴィオンのパワーが下がることだったのだ。
 しかしこの前のティアナの故郷近くが襲われたときはたまたまグランナイツ全員が近くにいたからよかったが、もしティアナが近くにいなかったら合神できないままゼラバイアと戦っていた。
 その事を懸念したヴェロッサはファントムシステム採用に踏み切ったのだ。そしてマリーのおかげで悩んでいたグラヴィオンのパワーダウンは自分の予想よりもいいほうに持っていった。

「そう言ってもらえると嬉しいですけど私は科学者です。可能な限りグラヴィオンのパワーを下げないようにしたいと思ってます」

 マリーの誠意にヴェロッサは感服の念を見せる。

「そうか、でも無理はしないようにね」
「はい」
「ところで、なのは達は?」

 クロノがなのは達がいないことにヴェロッサに尋ねる。

「ああ、彼女達なら買出し班と一緒に外に出てるよ」
「どうりで静かなわけだ……」


 聖王教会から少し離れた街では教会のシスター達が食料などの買出しをしていて、なのは達もお手伝いと言うかついでと言う形で外に出ていた。
 この前のバカンスは別として、なのはは10年ぶりに外に出て街には色々あるのに感心して遊び回っていた。なのはと共に行動していたティアナはなのはの無邪気っぷりに疲れそうになっていた。
 一方スバルはフェイト、リイン、ヴィヴィオと共に食料の買出しをしていたが、じゃんけんで負けてしまったために荷物のほとんどがスバルの手にあった。

「はあはあ、もう疲れたよ」
「私も持ってあげるよ」

 フェイトがスバルの手にある買い物袋を一つ持ってあげようとする。

「いいですよ。これ結構重いんですから……」
「いいって、いいって…。あ…」

 フェイトがスバルの手の荷物を取ろうとすると思わず手を滑らせてしまい、荷物の中身のじゃがいもが外に出てしまう。

「ああ、拾わなきゃ」
「ごめんね、ごめんね」

 フェイトはスバルに謝りながら一生懸命、スバル、リイン、ヴィヴィオと共に中身を集めてようやく回収し終える。疲れたので皆でベンチに座る。

「ふう、疲れた~」

 スバルが根を上げたように声を洩らして、ベンチでくつろぐ。

「あ」

 ヴィヴィオが何かあるのに気付いて、それを取りに行く。それは先ほど落ちたじゃがいもの一つだった。
 ヴィヴィオはそれをフェイトに手渡す。

「はい、フェイトママ」
「ありがとう、ヴィヴィオ」

 フェイトがヴィヴィオの頭を撫でて、ヴィヴィオは照れる。
 そんなフェイトの様子を見て、スバルが質問をしてみる。

「そう言えば、なのはさんとフェイトさんって、10年前からの付き合いですよね」
「そうだよ」
「フェイトさんはなのはさんの事をどう思ってるんですか?」

 フェイトは少し考えるがすぐに答えが出る。

「大切な友達かな。私となのはは固い友情で結ばれた大切な友達」
「なのはママもフェイトママもヴィヴィオの大切なママだよ」

 フェイトが笑顔で答え、ヴィヴィオも笑顔で言う。
 それにつられるようにスバルも笑顔になる。

「そうだね」

 皆でのんびりしていると突然空の色が変わる。
 そのよどんだ空の渦からはゼラバイアが現れ、地面に着地する。

『ゼラバイア!』

 ゼラバイアの出現で市民は皆急いで避難し始める。ゼラバイアは触手で自分の周辺にある建物を片っ端から自分の周りに引き寄せる。
 ゼラバイアから比較的近い位置にいたスバル達は急いでその場を離れる。その途中ヴィヴィオは一匹の子猫がいることに気付いてそっちの方に行き、子猫を助けようと抱きかかえる。
 するとヴィヴィオの立っている地面が割れて、ヴィヴィオは下に落ちてしまう。

「ヴィヴィオ!」
「フェイトさん、危険です!」

 スバルがヴィヴィオを助けに行こうと飛び込もうとするフェイトを懸命に止める。
 ヴィヴィオは自分の腕に抱えている子猫をフェイト達に向かって投げて、子猫はリインが受け取る。
 ヴィヴィオはそのまま穴へと落ちていく。

「ヴィヴィオーーーーーーー!!」

 フェイトはヴィヴィオを助けれなかった事を泣く。

「あたしが行きます! あたし災害救助部隊にいたのでこういったのは得意です」

 スバルはバリアジャケットを展開させて、ヴィヴィオの落ちていった地面にと飛び降りる。
 スバルが行ってすぐになのはとティアナが駆けつける。

「フェイトちゃん、どうしたの?」
「ヴィヴィオが……」

 フェイトが泣きながら説明しようとすると、グランフォートレスに乗ってきたドゥーエがやって来る。

「皆、早く乗って!」


 聖王教会の司令室ではシャーリー達がゼラバイアの行動を捕捉していた。

「ゼラバイア、周りの建物で自分の身を覆っていきます」
「守りを固める作戦か……」

 クロノが推測をしている、マリーが司令室に入ってくる。

「大丈夫。私が整備したグラヴィオンならあれくらいの装甲…」
「ゼラバイア内部より、シータ線を感知」

 シャーリーがゼラバイアが内部で溜めているものを調べる。

「体内に素粒子崩壊システムを持ってるようです」
「シータ線が照射されれば、半径100キロ以内の生き物は全て死滅します!」

 シャーリーとルキノの報告で司令室に緊張が走る。

「時間は?」
「およそ、1800秒」

 アルトが指を使いながら計算する。

「え~と、残り時間30分しかない」

 それからしばらくしてスバルから報告が入る。

「すみません! ヴィヴィオがゼラバイアに捕まってるんです」
『え!?』

 スバルがは急いでヴィヴィオを探し出し、ヴィヴィオが居る方を見るとヴィヴィオは瓦礫にゼラバイアの触手で縛られた状態でゼラバイアの近くにいた。

『ヴィヴィオ!』

 司令室はさらに険しくなる。ヴェロッサはシャーリーに残り時間を聞く。

「シータ線照射までの残り時間は?」
「後、987秒です」
「ゼラバイアが完全に真っ白になったら照射されるみたいです」

 ヴェロッサが次にマリーに聞く。

「マリーさん、ファントムシステムは既に搭載されていますか?」
「はい、バッチリです。完璧に動きますよ」

 その報告を聞いて、ヴェロッサは決める。

「なのは、今回は君がグランカイザーに乗って、エルゴフォーム。そして合神をしてくれ。スバルは後で合流させる」

 なのは達は急いでグランカイザーや他のグランディーヴァに乗り込む。

「スバル抜きで合神……」
「例のファントムシステムね」

 ティアナは少し驚き、ドゥーエは前から聞いていたので事情がすぐに飲み込めた。

「グランナイツの諸君、合神せよ!」
「エルゴフォーーーーーーム!!」

 ヴェロッサの承認、なのはの叫びによりグランカイザーに重力子フィールドが発生。

「超重合神!!」

 なのははパネルを強く押し、グランディーヴァがグランカイザーの新たな手足となり、ゴッドグラヴィオンは完成した。
 その様子を外で見ていたスバルは驚く。

「合神した…。あたし抜きで……」

 司令室ではマリーがファントムシステムでの合神の成功に喜んでいた。

「やった、やった。ちゃんと動いてるよ~~」

 外にいるスバルにクロノが通信を入れる。

「スバル、急いで安全圏に離脱しろ」
「でもヴィヴィオが……」

 スバルはクロノの命令に戸惑う。その間になのはがゼラバイアに向かって近づく。
 グラヴィオンがゼラバイアによって張り巡らされている触手に触れたために、ゼラバイアの内部から無数の触手がグラヴィオンに襲い掛かろうとする。

「グラヴィティライフル」

 ドゥーエが武器の名前を言うと、Gストライカーのところから細長い拳銃のようなものが展開され、グラヴィオンはその銃のグリップを握り引き金を引く。
 ライフルから発射される魔力弾で現れた触手を撃ち落すが、ゼラバイアは新しい触手を無数出して、グラヴィオンを攻撃。グラヴィオンは両手をクロスさせて前に出して防ぐ。

「これじゃあ近づけない。だったら…、ウイングローーーーード!!」

 スバルは自分の拳を地面に叩きつけ、ヴィヴィオのところまでウイングロードを作り、ウイングロードに乗ってその道をローラーで走る。

「ちょっと、スバル。どうする気?」
「ヴィヴィオを助けます。それまでお願いします」

 スバルはそのまま走ってヴィヴィオの下に向かう。

「グラヴィオン、重力子臨界まであと4799ポイント」
「シータ線照射まで597秒」

 シャーリー達は冷静に残り時間などを計算する。
 残り時間を聞いたクロノがヴェロッサをせかす。

「ロッサ、あまり時間が……」
「………」

 ヴェロッサは黙りながらモニターに映るヴィヴィオを見る。
 グラヴィオンはライフルで触手を落とすも、あまりの数と繁殖力にきりがない。なのはは決断を下す。

「レフトドリラーコックピット、グラヴィトントルネードパンチスタンバイ」
「え?」

 その言葉にティアナは驚く。
 通信で聞いていたスバルも驚いてなのはに聞く。

「なのはさん! 何を考えてるんですか!? ヴィヴィオごと撃つつもりですか!? あたしが助けるまで待ってください!」

 なのははそんなスバルの叫びを無視するかのように続ける。

「スタンバイ完了次第発射。続いてグラヴィティクレッセントを使用します」
「そんな……」

 リインも唖然とする。

「確かに被害は最小限に食い止めるべきね…」

 ドゥーエが冷静になのはの判断を考える。

「でもそんな…」
「なのは……」

 ティアナもフェイトも戸惑う。

「撃たないで下さい! なのはさん! 聞いてますか!? 返事してください!」

 なのははスバルに返事を返さない。

「早くしないと!」

 スバルはウイングロードをさらに急いで進む。

「なのはさん、本当にヴィヴィオを撃つ気なの…」
「シータ線照射まで398秒」
「臨界まで2895ポイント」

 指令室に更なる緊張が走り、ヴェロッサは真剣な顔をしながら状況を見る。

「ティアナ、リイン。何してるの? 早くして」
「で、でもなのはさん…」
「なのはさん待って! スバルさんもいるんですよ」

 ティアナとリインが懸命になのはに制止を呼びかけるも、なのはは聞かない。

「命令です」

 ティアナはその言葉を聞いて覚悟を決めたかのように発射準備に入る。

「シータ線照射まで290秒」
「5分切りました」

 司令室にキャロとルーテシアが入ってくる。

「なのはさん、撃たないで」
「ヴィヴィオを助けて! ヴィヴィオはなのはさんを本当のお母さんだと思ってるんですよ!」

 しかしなのはは完全にグラヴィトントルネードパンチの照準を合わせて、完全に発射体勢に入る。

「やめてください! なのはさん! 撃たないで下さい!」

 スバルは何とかヴィヴィオのところにたどり着き、ヴィヴィオを縛る触手を自身のアームドデバイスのリボルバーナックルの力でおもっいきりぶっちぎる。

「ヴィヴィオ……」
「う、うう」

 ヴィヴィオはわずかだが意識があった。スバルはヴィヴィオを抱えながら、ウイングロードを走る。
 そしてリボルバーナックルをグラヴィオンに向ける。

「なのはさーーーーーん!!」

 そうこうしている間にグラヴィオンの前に触手の一つが地面から姿を現してグラヴィオンに襲いかかる。

「グラヴィトン、アーーーーーーーーーク!!」

 グラヴィオンの額からエネルギーが発射され、触手を消し去り、ゼラバイアの本体に命中する。
 スバルはまだ避難が完了しきれてない自分達がいるのにも関わらず攻撃したなのはに怒りを覚える。

「なのはさーーーーーーーーーーん!!」

 スバルは思わずリボルバーナックルから自身の技「リボルバーシュート」をグラヴィオンに向かって放つ。
 リボルバーナックルは飛距離があまりないために、グラヴィオンに当たってもダメージはない。
 スバルはなのはが自分やヴィヴィオに対しても冷酷な顔をしているような気がして、憎しみのような顔をする。
 そしてようやくスバルとヴィヴィオが安全圏に離脱する。

『ああああ』

 キャロとルーテシアは喜ぶ。

「シータ線照射まで59秒」

 もう時間はない。グラヴィオンは発射準備が完了したグラヴィトントルネードパンチを放つ。

「グラヴィトン、トルネーーーード」
「パーーーーーーーーンチ!!」

 発射されたトルネードパンチはゼラバイアが覆っていた建物とゼラバイアの硬い装甲ごと打ち破り、急いでグラヴィティクレッセントを投げる。

「グラヴィティクレッセント」
「シュート」

 グラヴィティクレッセントがゼラバイアの本体に命中。ゼラバイアは爆発するもシータ線は照射されず、少しの爆発だけで被害が済んだ。
 教会に戻った後、ヴィヴィオはすぐに医療室に運ばれる。
 ヴィヴィオが運ばれるのを見届けてすぐに、スバルは怒りながらなのはの服の胸元を掴んで、なのはを責めかかる。

「どういうつもりですか!?」
「ど、どうって…。仕方がなかったの。ゼラバイアを倒すのが私の役目だから…」

 その言葉はスバルの怒りの炎に油を注ぐ行為であった。

「だからって何をやってもいいんですか!? ヴィヴィオを殺してもですか…。ヴィヴィオはなのはさんをお母さんだと思ってるんですよ。そんな子を犠牲にしようだなんて、あなたそれでも人間ですか!?」
「!」

 なのはは心の中でショックを受ける。

「ゼラバイアより、なのはさんの方がよっぽど悪魔です!!」

 スバルはなのはの顔をグーで殴る。
 リインが殴られたなのはの元に駆け寄ってなのはの顔をさする。

「落ち着けスバル。なのははなのはなりに最善の行動を取っただけだ」

 クロノがスバルを落ち着かせようとするが、スバルは止まらない。

「ふざけないで下さい! 仲間を死なせるのが最善ですか!」
「スバル、落ち着いて…」

 ティアナもスバルをなだめるがスバルは無視する。

「あたし、降ります。こんな人とやっていけません!」

 スバルはそのまま教会を飛び出してしまう。

『スバル!』

 ティアナが追いかけるも、スバルの姿はもうなかった。

「スバル……」

 なのはとスバルの間に亀裂ができてしまったのだった。


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最終更新:2008年05月13日 22:47