ロリコンとは何か?
辞書的な意味ではロリコンとは、幼女や少女に対して抱く男性の性的嗜好、もしくはそういった性癖を持つ人物の事を意味する。
おそらくこの少女の求める答えはこういった明確な意味の回答なのだろうが、果たしてこの事を告げるのはなんとも憚られた。
というより………、
(なぜそのような事を聞いてくる? 一体何があったんだ?)
思考の海にいくら沈もうと答えは出ないし、もちろん状況を打破する事もできない。
窓の外に見える夕日は、そんな彼の姿を嘲笑うかのように悠々と沈んでいった。
リリカルなのはARC THE LAD
『第二話:ミッドチルダの車窓から(前編)』
「なかなか見つからねぇな………」
情報端末を操作しながらエルクはつぶやいた。
場所は自分のアパートの一室。
窓からは朝日が差し込み手元には自分で淹れたコーヒー。
一見清々しい朝の風景のようだが、当の本人は大分疲れた様子である。
普段は勢いよく立ち上がっている髪も、心なしか幾分萎びている様であった。
その原因は昨日受けた依頼にあった。
今エルクは二つの依頼を受けている。
その内の一つであるお届け物、その届け先のティアナ・ランスターの情報を得ようとしているのだがなかなかうまくいかない。
「もっと詳しく言ってくれよな………」
生憎会話する時間が少なすぎて分かるのは唯一名前のみ。
一応依頼者であるティーダと呼ばれていた男から、取り上げたまま持ち帰ってしまったデバイスが有るには有るが、知性型ではなかったため専門の機材がないと情報を得られない。
そのため悪いと思ったが依頼品の手帳の内容を見て、おそらくティーダと兄妹の関係にあるであろうと判断し今検索しているのだが、普段使い慣れていないエルクには大変な重労働であった。
というのも、複数の次元世界の情報の集積地であるミッドチルダの電子の海は途方もなく広大であり、まるで砂漠に落ちた針を探すような徒労感ばかり募ってゆくからだ。
こういった類のものは専門の情報屋に頼るのが一番であるが、荒事専門であったエルクにそんな知り合いは殆どいない。
(シュウならこういうのに詳しいんだが、今はもう一つ依頼があるからなぁ………)
どうしたものかと悩ませていると、不意に部屋のドアの開く音がした。
「あの………、おはようございます」
「キュクルー」
現れたのはエルクの受けているそのもう一つの依頼の依頼主である桃色の髪の少女と銀の幼竜。
依頼内容は彼女達の保護である。
「ああ、おはよう。えっと………キャロだったっけ? 起きてすぐに悪いんだが詳しい話を聞かせてくれないか?」
昨夜空港で軽く話を聞いた際にエルクが知った事は、彼女達の名前と管理局に無理やり連れ去られたという事。
この時点で先程の黒服達の話を思い出したエルクは、彼女の依頼を受けてとりあえず自宅に保護したわけだが、事の詳細を聞く前に気が抜けたのか彼女らは寝入ってしまったのだった。
「詳しい話ですか? 何を言えばいいんでしょう?」
「どうしてさらわれたのか、その経緯を教えてくれないか?」
「経緯、ですか………」
エルクの言葉を受けると、少し顔を俯かせながらキャロはポツリポツリと言葉を紡いでいった。
まるで思考を過去へと遡らせるように、世界が変わった、そのときの事を。
◆
第6管理世界、その一地域であるアルザス、ここでは古くから竜が神として祭られてきた地だ。
その信仰の恩恵なのか力があるから信仰していたのかは定かではないが、この地では竜を呼び出し使役する「竜使役」という力を持つ者が少なからず存在している。
少数民族「ル・ルシエ」、その中に生まれたキャロもまた、特殊な力が使えるという事を除いては他と全く変わらない普通の子供であった。
ただし、その力は自身が持て余すほどに強大で、あまりにも暴力的であった。
他とは一線を画す力を周囲の人間は、黒き竜の力、災いを呼ぶ力として恐れ拒絶した。
伝統や慣習に縛られ、柔軟な発想のできない彼らには、キャロを受け入れるだけの心のゆとりなど存在しなかったのである。
しかし、唯一祖父だけは神に近い巫女たる力だと庇ってくれていた。
そのおかげもありキャロは祖父ヨーゼフの庇護の下、他者の思惑に触れることなく健やかに育っていった。
だが永遠のものなどなく、祖父により守られてきた平穏はやがて、ある日突然終わりを告げる。
その日はいつに無い快晴であり、吹き付ける涼やかな風に、キャロは今日もきっといつもと同じ穏やかな一日が過ごせると思っていた。
肩には自分で孵した竜フリードリヒを乗せ、祖父の洗濯の手伝いをしていた時、不意に空が陰ってきた。
不思議に思い見上げた空、そこには天を覆うようにして浮かぶ鋭利な形状をした巨大な無機物。
キャロは今までこのような存在を見たことは無かったが、何か良くないものが来たような気がしてならなかった。
「キャロ、中に入ろう、何か嫌な予感がする」
祖父もキャロと同じ気持ちだったのだろうか、キャロに呼びかけると隠れるように家の中へと入っていった。
そして、それからしばらくしてのことである。
「お邪魔するよ」
声のした方を向くと、そこに居たのは入り口に立つ長老と、見慣れぬ幾人かの黒服の男達。
「長老、いったいどうしたのじゃ?」
「………この娘です」
祖父の問い掛けには答えず、長老は黒服達をキャロの方へと促した。
男達は無言で家に入ってくるとキャロの周りに機材を並べ始める。
「なんじゃ、お前達は、何を………?」
詰め寄ろうとする祖父を長老は手で制した。
「二人だ。この数が何を意味するか分かるか?」
「何の話を?」
「ヨーゼフよ、彼ら異郷の者達は竜使役の力を求めている。もう二人連れて行かれた、これ以上長老として我が民の犠牲は出せん」
「長老、まさか………」
「一番力の強いキャロを差し出せば、もう我らに構うことも無いだろう」
「まさかそんな理由でキャロを売ったのか? あれだけ虐げておきながら犠牲になれと!?」
瞬く間に次々と積み上げられていく機材に、やがてキャロの姿が見えないほどになった。
「おおー! こ、これはすごい。ここを見てください。この少女の能力は未開発ながら、こんなに高い数値を示しています。全く素晴らしい………、使えますよこいつは」
「待て、この子に何をするつもりだ!?」
「じじい、邪魔するな!」
祖父は長老の制止を振り切り歩み寄るが、それは黒服に突き飛ばされ叶わなかった。
「おじいちゃん!」
キャロは悲痛な声を上げ近寄ろうとするも、黒服に抑えられて動けない。
黒服の一人は祖父に近寄ると、上から見下すように冷酷に告げた。
「何をするかだと? ふん、貴様には分らないだろうが言ってやろう。こいつは管理局の兵士として新しき人類となるのだ。このガキも恒久の平和の礎となれば本望だろうよ」
「おじいちゃん! おじいちゃん!」
「グルルルル!」
キャロはなおも祖父に駆け寄ろうとし、そんな彼女の不安な心を反映してかフリードは黒服の一人に飛び掛る。
しかし………、
「勝手に動くな」
黒服がつぶやくと同時、突然現れた光の輪のようなものに共に拘束されると、一切の身動きが取れなくなった。
そしてそのまま追い立てられるように、キャロ達は家の外に連れ出される。
非難の声を上げようとした時、キャロはふと横に居並ぶ人達に気付きそちらを見た、見てしまった。
道の脇に佇みじっとこちらを見てる大人たち、彼らのキャロを見る目は連れ去られる事に対する同情でも哀れみでもなく、――安堵である。
やっと余所者が消えてくれる、そんな様子で皆止めようともせず、連れ去られようとするキャロをただ眺めていた。
まるで他人事、連れ去られようとするキャロには何の関心も払いはしない。
その光景を見たくなくてキャロは目を閉じた。
だが、代わりに耳に入ってくる大人たちの囁きは、自分の想像を確信させるものでしかない。
このときになってようやくキャロは自分が嫌われた存在であり、部族の一員として認められていなかったのだと判った。
そしてそのまま、深い悲しみの中で住み慣れた村から連れ出されたのだった。
◆
「そうやって連れ出された後、いろんな研究所に移されて何度も検査を受けました。そして昨日、また別の施設に移されるために次元を超える船に乗せられて、空港に着いたら急に建物が揺れて………」
「その隙に逃げ出して俺と出会ったってわけか」
「はい。………村の外で優しくされたの初めてだったから、すごくうれしかったです」
痛々しい表情のキャロを見て、エルクは何とかしてやりたいと思う。
「じいさんの所へ帰りたいか?」
だが、その言葉にキャロはさらに表情を曇らせてしまった。
「………いえ。おじいちゃんに迷惑を掛けてしまいそうですから………」
「そうか………」
強大な力を持つというだけでキャロを忌避していた村である、その排斥は当然祖父にも向かっていただろう。
戻れば必ず迫害される、それ以前にそもそも村に再び受け入れるかも疑わしい。
それに逃げたとなれば、元の村に当然さらった連中の手は伸びる。
強引にさらうような奴等だ、庇えば何をしてもおかしくはない。
加えて、別世界の移動には必ず管理局の厳しい目が入るのが通例だ。
にもかかわらず奴等が検査を素通りしたという事は、管理局の名を騙る犯罪組織などではなく、管理局の裏の顔であると考えられる。
管理局に関する黒い噂は今まで幾つか聞いたことがあるが、所詮噂の粋を出ないものに過ぎないと思っていた。
しかしこうして本人から聞くと、それらの噂も事実ではないかと勘繰ってしまう。
表向きの正義と大義を盾にした、この非人道的な事がどれほど管理局の深くに組み込まれているかは判らない。
もちろん理念ある局員が殆どだとは思うが、やはり管理局との接触は出来る限り避けたい。
そのため管理局に頼み込むという、まっとうな方法では別次元には移動できなくなった。
となるとキャロを元の世界に帰す選択肢が選び難い今、これから彼女を安全に保護する方法はミッドチルダ内、それも管理局の影響の薄いところに行くしかないだろう。
だが、そういった場所は大抵治安が悪い廃棄都市か、そもそも住めないような極地である。
当然そんな所でキャロのような少女が暮らしていく事は極めて難しい。
「だったらキャロが安心して暮らすには、ギルドが幅を利かせている所に行くのがいいな」
「そんな所あるんですか?」
「ああ、俺の知り合いが居るインディゴスって所でな、少なくとも管理局にまた捕まる事はないと思うぜ」
エルクが知る限りで条件を満たす場所は、知人の住む町しかなかった。
そこも特別治安の良い所ではなかったが、ギルドが取り締まっている分いくらか安全である。
おまけに情報を得るのにも都合が良い、問題を一挙に解決できる方法だ。
「そんな所があるなら行ってみたいです」
「そうと決まればさっさと行こうぜ、早ければ早いほど追手は来難いだろうし」
そこで話を打ち切ると二人と一匹は支度を始める。
ただ目的地へと向かうだけ、簡単な旅となるはずだ。
◆
夜とは対照的に昼の大通りは活気に溢れている。
その通りの発端、行きかう人波の中心、それがレールウェイの駅である。
そこには凄まじい人だかりが出来ており、その中にはエルク達の姿もあった。
「凄い人数ですね。お祭りでもあるんですか?」
「休日ってのもあるが、昨日空港が焼けたせいだな」
エルクは切符を注文しつつキャロの質問に答える。
休日を利用して遊びに来ていた者は意外と多かったらしく、人の群れの中には旅行鞄を抱えた者が多数見られた。
「そういえばエルクさんの荷物はどこに行ったんですか? 色々用意してたみたいですけど」
エルクは服の上から暑苦しそうな外套を纏っているだけで、先刻まとめていた手荷物の類は見当たらなかった。
「服にいくつか収納スペースがあるんでそこに入れてるんだ」
動きやすいしな、と付け加えてエルクは改めて人波を見つめる。
異常な人数に、大変な時期に重なったものだと苦笑すると、キャロが迷わぬように注意しつつ駅へと進んでいった。
「………なんですか………コレ」
「キュゥ………」
エルク達が今居る駅のホーム、ソレは彼らの目の前に確固として鎮座していた。
大型輸送リニア『グラウノルン』。
古代の巨大列車と同じ名を冠すこのリニアは、その名に恥じぬ巨体に威厳を纏い、まるで見るもの全てを威圧しているようであった。
路線に対して不釣合いのサイズではあるが、そんな見た目の鈍重さとは裏腹に、最新の魔法技術とAI制御により、そこらのレールウェイ等より遥かに速い。
「こんな馬鹿でかいリニアは他に無いだろうから、驚くのもまあ無理ないな。とりあえず中に入っちまおうぜ」
おっかなびっくりなキャロの手を引きエルクは車内へと進む。
内部は当然のごとく広く、通路は二人並んでもまだ人とすれ違えるほどであり、両脇に並んだ個室と壁に施された質素な装飾は、照明と相成って柔らかで落ち着いた印象を受けた。
そんなホテルの様な車両の中ほど、そこにエルク達の座席があった。
部屋の前後には大きくゆったりとしたソファーが備え付けられており、中央に置かれたテーブルには鮮やかな装飾が成されている。
高級な席であることは一目で判るほどに明らかだった。
「あの………、エルクさん」
「なんだ? 腹でも減ったか?」
「いえ、そうじゃなくて………、まあ、確かにお腹は空きましたけど」
「じゃあなんか頼むか」
車内通信で食事の注文を始めてしまうエルクに対し、キャロは急いで訂正する。
「そうじゃなくて、こんな高そうな所でいいんですか?」
「ああ、その事か。今日は人が多かっただろ、そのせいでこういう席しか空いてなかったんだ。くつろげなかったらゴメンな」
「い、いえ! そんなことないですよ」
キャロが急いで否定するとほぼ同時、大きな音でベルが鳴り響く。
出発の合図だ。
◆
坦々と流れてゆく都市区画のビル群を横目に、エルクは先程運ばれてきた料理に手をつける。
だが正面に座るキャロは、何かを考え込む様にじっと皿を見つめていた。
横でフリードが物欲しそうにして肉料理を眺めているのだが、それも全く目に入っていないようである。
やがておずおずと顔を上げると、エルクの方を申し訳なさそうな顔で見上げた。
「どうして………ここまで良くしてくれるんですか? わたしは何のお返しも出来ないのに………」
「もしかして、さっきからずっと黙ってたのはその事を考えてたからか?」
エルクが手を止めてキャロの方を見ると、キャロはその通りだと言わんばかりにコクコクと頷いていた。
「んー、なんていうか俺も似たような境遇だったからかな」
「似たような境遇?」
「俺も六年前にシュウ―――これから行く所にいる人なんだが、そいつに拾われたんだ」
「エルクさんが………ですか」
「ああ。傷だらけで、昔の記憶全部無くしてて、シュウに出会ってなかったらのたれ死んでただろうな。だからもし自分と同じように行き場を失くした奴が居たら助けてやろうと思ってたんだ」
「そうですか………」
キャロは少し気兼ねしたようにしてエルクを見る。
「記憶無いんですか?」
「まあ、無くても生活に困らないからな。とりあえず冷めないうちに食事を終わらせようぜ!」
その場の気まずさを払拭すべく努めて明るく言うとエルクは食事を再開し、キャロもそれに習いようやく手をつける。
始終おとなしかったフリードはいつの間にか一皿勝手に平らげており、コロコロした玉のようになって満足そうに横になっていた。
しばらく黙々と食べ進め一段落したとき、思い出したかのようにキャロはエルクを見上げた。
「聞いてなかったんですけど、シュウさんって人もハンターなんですか?」
「ん? そうだぜ、俺にハンターの技術を教えてくれた人だ」
「ハンターってどういう仕事なんですか?」
「色々あるが俺がするのは大体荒事だな。指名手配犯の捕獲や依頼人の護衛、あとは最近急に増えてきた危険なモンスターの対処ってのもある」
エルクの答えにキャロは少し不思議そうな顔をする。
「モンスターって何ですか? 動物とは違うんですか?」
「モンスターってのは他時空からの外来生物、それも人間を襲う奴のことだ。魔法を使ってくる奴もいるから魔導師である俺達が処理するしかないんだ」
「処理って事は、やっぱり殺しちゃうんですか?」
少し悲しい顔をしてキャロが見つめる先には、幸せそうに寝転がるフリードの姿があった。
「………モンスターは次元移動なんて出来ないから、ミッドに居るのはペットや実験体として人間に連れてこられた奴らばかりさ。本来は被害者だが人間に危害を加える以上駆除するしかない」
すっかり暗くなった雰囲気にエルクは、話題を間違えたと今更ながらに思い顔をしかめた。
キャロは閉鎖された村に住んでいたというだけあり、何にでも関心を示し質問してくる。
話題に困らないのは良いが、どう答えてもキャロが喜んでいるようには思えなかった。
そもそもエルクはまだ一度もキャロが笑うのを見たことが無い。
感情の豊かなはずの年頃にもかかわらず、キャロの表情は老成しているかのように変化に乏しい。
ここまで感情を押し込めてしまうほどにキャロを傷つけてきた周囲への怒りで、エルクはなんとかしたいという思考は全て空回りしている様に感じるのだ。
楽しそうな話題を探してふと窓の外を見ると、車外の風景は画一的だった都市から無秩序に繁茂した緑の山々へと変わっていた。
「そうだ、ミッドの風景でも見てみないか? このリニアには確か展望台があったと思うし」
キャロがコクリと頷きフリードを抱きあげるのを見て、エルクも立ち上がり先導するように通路へと出た。
少しはこの雰囲気が払拭される事を望んで。
◆
エルク達がしばらく歩いて行き着いた先、行き止まりとなる扉には貨物室と表示されていた。
「道を間違えたか?」
「反対側じゃないんですか?」
ろくに案内も見ず進んだせいである。
引き返そうと思ったとき、エルクは何か違和感の様なものを覚えた。
「妙だな」
「どうしたんですか?」
「防犯用レーザーセンサーが切られてる。これじゃ盗んでくれって言ってる様なもんだ」
いぶかしみ扉に軽く触れると僅かに開いた。
それと同時に何かを漁る音、くぐもったうめき声が漏れ聞こえてくる。
明らかに変だという思いから、エルクは隙間から内部を覗き込んだ。
荷物の積まれた棚の並んだ先、そこに数人の人影が見える。
中央には警備員と思われる数人が縛られて転がされており、その周りで四人ほどの男達が荷物を漁っていた。
(どう見ても強盗だよな………)
ならば止めるべきとデバイスに手を伸ばしたが、急に強盗らしき男達の一人がこちらに向かって歩いてきたので、急いでキャロを連れて脇に隠れることにした。
入れ替わるようにのこのこと扉から出てきた男、エルクの中では既に強盗確定だが、その理由ぐらいは知っておくべきだと思う。
なぜなら、このリニアはかなり強力なセキュリティーを搭載している。
それを打ち破るにはそれなりの人員と機材が必要だった。
ただの物取りが狙うには割りに合わないのである。
エルクは極力気配と足音を消し、素早く滑るように男の面前へと飛び出す。
相手は驚いたような顔をしたが、もちろん声を出させるような隙など与えず、強烈なボディーブローを叩き込んだ。
抵抗するだけの気力を失った相手を暗がりに連れ込むと、後は極めて簡単である。
少しデバイスをちらつかせるだけで易々と口を割り、聞いてもいないのに全てを話す男。
そして………。
エルク達の今回の旅は簡単な物から一転して、厄介な事へと変わってしまった。
最終更新:2008年06月02日 20:14